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ロイター 2016年 05月 23日 12:27 JST
http://jp.reuters.com/article/trump-asia-analysis-idJPKCN0YE07G?sp=true
焦点:「トランプ大統領」に戦々恐々のアジア、中国台頭を懸念
[シンガポール 20日 ロイター] -
米国の「孤立主義」を掲げるドナルド・トランプ氏が米大統領に就任した場合、アジアにおける中国の勢力が拡大し、安全保障が脅かされるとの警戒感が一部アジア諸国で強まっている。
国によっては国家主義者や独裁主義者が勢いづく恐れもある。
米大統領選で共和党候補指名を確実にしたトランプ氏は、現行の米・アジア関係を覆す姿勢を示している。
同氏の発言を総合すると、オバマ大統領が5年前に表明した「アジア軸(ピボット)」戦略に終止符を打つ構えのようだ。
トランプ氏は'
★.日本や韓国のような同盟国に対し、軍事費負担の増加を求めるとともに、
両国の核兵器保有を容認する考えを示している。
最近ではロイターに対し、北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長と話し合う用意があると述べた。
中国の対米黒字を抑えるため、同国製品に高い関税を課す可能性もちらつかせる。
環太平洋連携協定(TPP)を破棄して再交渉するとも宣言している。
さらにはイスラム教徒の米入国禁止を提案しており、パキスタン、インドネシア、マレーシア、バングラデシュなど、イスラム国の穏健な指導者との関係も悪化しかねない。
キャノングローバル戦略研究所の宮家邦彦・研究主幹は
「彼が大統領になって持論通りの外交政策を採用すれば、米国は太平洋における強国ではなくなる」
と指摘。
「米国が去れば空白が生まれ、中国がその穴を埋めようとするだろう。
これは米国の同盟国すべてにとって存亡を左右する問題だ」
と述べた。
もちろん米大統領選の本選では、民主党候補になりそうなクリントン前国務長官にトランプ氏が敗れる可能性はある。
また、トランプ氏が就任後に豹変することも考えられるが、アジアの外交関係者や政策アドバイザーらは、重要なのは第一印象だと言う。
日韓が米国の安全保障の傘に「ただ乗り」するのを許さないというトランプ氏の姿勢は、両国を震撼させている。
アジアの外交官らは核保有についての発言を聞いて、世界が今以上に危険な場所になると身構えている。
インドの元駐米大使、ラリット・マンシン氏はロイターに対し、
「トランプ氏の発言で一番恐ろしいのはこの点だ」
とした上で、
「選挙向けの誇張に過ぎない」可能性もある
と付け加えた。
安倍晋三政権は既に軍事費を増やし、憲法解釈を変えて集団的自衛権の行使を容易にしている。
連立与党の古参議員は
「トランプ氏の姿勢に対し、特に東アジアでは不安が募っている。
(日本の)保守派は軍事プレゼンスおよび関与の強化を支持しているというのに、まったく理解に苦しむ」
と語った。
■<火種>
マンシン氏の予想では、誰が次期米大統領になろうとも中国は新政権の外交政策を試すことになる。
そこで最も火種になる可能性が高いのが南シナ海だ。
トランプ氏はロイターに対し、
「彼ら(中国)は南シナ海に巨大な要塞を建築している。
あってはならないことだ」
と述べたが、具体的な対策には言及しなかった。
マンシン氏によると、中国指導部とトランプ氏は少なくとも交渉をまとめ上げる手腕を持っているため、事態が収拾不可能に陥る前に外交面で落ち着きどころを見出せる可能性はある。
北京大学の国際関係学院長で、中国政府の外交政策アドバイザーを務めるJia Qingguo氏はトランプ氏について、「孤立主義者」であり、米国が国際舞台で積極的に行動し過ぎるのを望まないようだと見る。
「彼はそれほど攻撃的ではなさそうだ。
中国国民は、米国のいわゆる国際主義が行き過ぎるのは良くないと考える傾向がある」
とQingguo氏は説明した。
日本の政府高官は、米国が少しでも南シナ海問題などで態度を軟化させる姿勢を見せればアジアでの影響力を失いかねず、一度失えば「取り戻すのは非常に難しい」と警戒している。
これに対してマンシン氏は、太平洋およびインド洋へのアクセスを守ることは米国の国益なので、そうした懸念は行き過ぎとの見方だ。
「米国の撤退は何を意味するだろうか。
米国は世界の問題を中国に譲り渡したいのか。
それがだれかの利益になるのだろうか。
私はそうは思わない」(マンシン氏)
■<TPPは白紙か>
TPPが白紙に戻ったり、アジア諸国にとっての意味合いが薄れる可能性も懸念されている。
あるアジア主要国で通商政策トップを務める人物は
「トランプ政権が誕生した場合、TPPが維持されるとは考えにくい」
と話す。
高官は
「米国がトランプ氏の下で孤立主義を強め、粗野な通商政策に傾くことが世界に及ぼす甚大な損害に比べれば、『(通商政策への)介入を緩めること』の恩恵など取るに足らない」
と懸念を示した。
トランプ氏はまた、人権や民主主義的価値観を軽視する可能性がある。
折しもタイは軍事政権下にあり、フィリピンでは「強い男」が大統領に選出され、マレーシア首相は独立系メディアの言論を封じている。
一方、タイのプラウィット副首相兼国防相の顧問を務めるパニタン・ワッタナヤゴルン氏は、トランプ氏はタイのような国には圧力を掛けないとの自信を示す。
「全体的に見ると、トランプ氏が大統領になれば同盟国を求めるだろうから、(米国との)絆は強固になる可能性が高い」
とパニタン氏は語った。
(Simon Cameron-Moore記者)
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【2016 異態の国家:明日への展望】
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