2016年6月22日水曜日

ピークを過ぎた中国経済の行方(4):L字型をたどる中国経済、 中国経済の減速が明瞭に、「国進民退」

_

サーチナニュース 2016-06-22 09:50
http://biz.searchina.net/id/1612568?page=1

住宅販売がピークアウトし、
中国経済の減速が明瞭に=大和総研が経済分析

 中国経済の減速は、当面は続きそうだ――。
 大和総研経済調査部の主席研究員 齋藤尚登氏は6月21日にレポート
 「L字型をたどる中国経済、縦棒はまだ続く」(全8ページ)
を発表した。
 「L字の縦棒」とは「下向き」、「横棒」は「水平」を表し、
 ダウントレンドが続いた後、横ばいで落ち着くという見通し。
 「絶好調だった住宅販売にピークアウトの兆しがあり、明確な牽引役が不足している」
と分析している。
 レポートの要旨は以下のとおり。

◆中国共産党・政府は、今後の中国経済はL字型をたどるとしている。
 L字とは縦棒(下向き)と横棒(水平)の組み合わせであるが、少なくとも中期的に縦棒がまだ続くと認識されている。

◆当然、長期的なダウントレンドのなかにも短期循環的な景気底打ちや成長率の加速はあり得る。
 住宅販売好調が牽引した不動産開発投資の底打ち・反転、さらには、高水準の伸びを維持してきたインフラ投資の一段の加速などで、その期待が高まった。

◆しかし、その一方で、大都市を中心とした住宅価格高騰や、固定資産投資における「国進民退」(政策の恩恵が国有部門に集中し、民間部門は蚊帳の外に置かれる)の鮮明化などの問題が生じている。
 なかでも「国進民退」を資金面で支えたのが銀行貸出と、2014年~2015年は抑制されていたシャドーバンキングの急増であった。
 緩和に振れすぎてしまった金融政策を本来の「中立」に戻す動きが始まり、既に金融統計にそれが表れている。

◆絶好調だった住宅販売には、ピークアウトの兆しが見え始めている。
 住宅販売⇒住宅価格⇒不動産開発投資への波及の時間差を勘案すると、当面は不動産開発投資の増加が期待されるが、その天井は低いと認識しておくべきであろう。

◆消費はやや減速している。
 豚肉を中心に食品価格の上昇ピッチが速まったことが、実質小売売上減速の大きな要因の一つである。
 今後、豚肉価格上昇率がピークアウトしていくと想定されるのはプラス材料であるが、原油価格等の上昇によって輸入物価が上昇に転じるのはマイナス材料である。
 総じていえば、消費は底堅い推移は期待できるが、景気を底入れ・反転させていくには力不足であろう。

◆投資にせよ、消費にせよ、明確な牽引役が不足しており、当面、中国の景気は緩やかな減速が続くことになろう。



ダイヤモンドオンライン 2016年6月23日 陳言 [在北京ジャーナリスト]
http://diamond.jp/articles/-/93550

中国で民間投資が急減速した4つの理由

 最近、民間投資の下落が加速し、中国政府の上層部はこれを非常に重視している。
 5月4日、国務院常務会議はめずらしく決議を採択し、民間投資促進政策の実行状況についての監督・調査を行い、できるだけ早く中国の民間投資の活力を呼び起こすことを求めた。

 5月9日付の『人民日報』に掲載された
 「出だしの第1四半期の大勢を問う――権威筋が現在の中国経済を語る」
という文章では、
 「民営企業投資が大幅に下落したことは、今まさに無視できないリスクポイントとなっている」
と指摘されている。
 それに続いて、国家発展改革委員会は民間投資を安定させる7項目の措置を提出し、中国銀行業監督管理委員会もまた、銀行が自ら民間投資の促進業務について調査するように求めた。

 民間投資を安定させる政策シグナルがたびたび点滅したのは、今年に入ってから民間投資の成長速度が急落したことに始まる。
 今年1~4月、中国固定資産投資総額は昨年末の10%増をわずかに上回る10.5%となり、投資が凍りついていた中国経済にわずかながら期待感を持たせた。
 しかし投資総額の安定の背後には、民間投資と政府投資の「氷(民間)と火(政府)の二重世界」がある。

 今年1~4月、政府系投資が昨年末の9.5%増から20.6%に急増したのに対して、民間投資は10.1%増から5.2%増へと、ほぼ腰折れしている。
 民間投資の中国の固定資産投資における割合は60%を超えていて、投資成長の中心となっており、今回の民間投資の危機は、当然、政策決定層が非常に重くみるところとなった。

ではなぜ、民間投資は急降下したのか。

■原因1:実体経済の投資収益率の低迷

 財新ネット傘下にある投資研究と商業カウンセリング機関、莫尼塔(モニター)投資公司の研究員である鐘正生・張?両氏が、5月31日の『フィナンシャル・タイムズ』中国語版サイト上で発表した文章によれば、今年に入ってから民間投資の下落加速を招いた要因は3つある。
 まず、
★.実体経済の投資収益率が低迷を続けていること、
★.次に2015年以降、民間資金が実業を離れて金融市場に回り、民間投資の低迷をいっそう激化させていること、
★.さらに、政府系投資が民間投資に対し、明らかな「押しのけ効果」を生んでいること
である。

 一つ目の要素について言えば、12年第1四半期~14年第3四半期まで、金融機関の一般貸付の平均利率は8%から7.3%に下がり、
 さらに非金融上場企業の平均投資収益率は6.9%から6%に下がった。
★.実体経済に新たに投資しても、投資収益は融資コストをカバーできず
 民間固定資産投資の成長速度はしだいに下がっていった。

 しかし、実体経済の投資収益率が低迷を続けるのは、近年の民間投資の成長率の減速という大きな背景によるものというだけでは、15年以降、民間投資が18.1%から5.2%へと突然下落した事実を説明するには足りない。
 15年以降、実体投資収益率は低いところで安定しており、一方、金融機関の一般貸付利率は6.8%から5.7%と急速に下がっている。
 投資(借入)コストと収益の対比からみる限りは、民間投資の成長速度は回復して然るべきである。
 しかし意外なことに、15年上半期と今年に入ってから、民間投資は2度の大幅な下落を経験している。

 どうしてそうなったのか。
 鐘正生・張?両氏は「金融市場の『分流効果』と政府投資の『「押しのけ効果』が民間投資の急落に致命的な影響を与えた」と考えている。

■原因2:金融市場の「分流効果」

2015年以降、民間資金が実業を離れ、金融市場に向かう傾向が加速している。

 まず、不平等な競争が民間資金の実体経済進出の意欲をそいでいる。
 長期にわたって、中国の銀行の貸付先は国有企業や地方政府の融資プラットフォームへ大きく傾いており、民間への貸借にはひどく冷淡であるのが普通であった。
 このため、銀行の貸付利率は多くは政府の融資コストを反映しており、民間投資の多くは民間貸借利率を参考にしていた。

 14年第4四半期以降、中央銀行は6回にわたる金利引き下げを行い、銀行の一般貸付率を10.1%から5.7%へと大幅に引き下げる誘導を行ったが、同時期の民間貸借利率はずっと19%前後という高水準を保っていた。
 これは民間投資と政府投資のコストの不対等という状況をさらに激化させた。
 15年以降、民間投資の下落加速はこれと無関係なものではない。

 次に、株式と先物市場が一時高騰し、民間資金は顕著にこれらの金融市場に分流した。
 民間の融資が難しく、融資コストが高い背景のもと、15年上半期の強気相場、16年3月以降の株式市場の反発と先物市場高騰は、どれも民間の資金に明らかな分流作用を及ぼし、この2つの時期の民間投資はどちらも下落を加速させている。
 強気相場の始まりと共に、株式市場の1ヵ月の取引量は、14年10月の6600億株から昨年の株式暴落前には2兆400億株まで膨らみ、3倍以上もの増加となった。

 株式暴落後に株式市場から撤退した資金はいまだ実体にもどらず、銀行の財テクや基金などの助けを借りて債券市場に流入し、債券市場の「レバレッジ・ブル」を助長した。
 今年3月以降、信用違約事件の衝撃を受け、中国債券市場は調整期に入った。

 しかしこれ以降も、資金が実体経済に戻って来ることはなく、大型商品価格の高騰により大量に先物市場に流入し始めた。
 3月の先物市場取引量は昨年12月の3兆3700億枚から5兆4400億枚に急増し、史上最高レベルを記録した。
 民間投資資金は「実体からバーチャルへ」向い続け、各種の資産が順番に強気となり、その動きを相互に増幅させている。

■原因3:政府投資の「押しのけ効果」

 政府投資は民間投資に対し、明らかな「押しのけ効果」を生み出している。

 公共サービス部門は良好な投資収益率を提供できるが、これらの業界における民間投資は巨大な参入障壁に直面している。
 上場企業の純資本収益率から見ると、15年に高収益だった業界は、
1].医療衛生・社会活動、
2].水利・環境・公共施設管理、
3].文化・スポーツと娯楽業、
4].建築業
の順である。
 中でも前の二つの業界は非常に強い公共サービス属性を持ち、人口の高齢化と住民の生活レベル向上という背景のもとで、大きな需要不足があり、リスクが比較的小さいうえに高い利益が見込めるが、民間資本はしばしばここに参入する入り口がない。

 今年1~4月、医療衛生・社会活動と水利・環境・公共施設管理の2つの業界における民間投資の割合は、それぞれ38%と22.9%しかなく、政府投資の割合が大きい。
 同時に政府投資のこの2つの業界における増加速度は、それぞれ民間投資よりも8.1と27.5ポイント高く、政府が長期的に市場を占拠するばかりか、これらの独占的性質をもつ高収益分野への参入をさらに加速していることが分かる。

 高収益率をもつ非公共サービス部門でも、政府投資が大挙して参入する現象がみられる。
 政府はこれらの強みを背景に、民間と利益を競っている。
 上に挙げたその他2つの高収益率業界である文化・スポーツと娯楽業、建築業は産業自体に独占的体質はなく、民間部門が参入しやすい分野である。

 しかし、今年の1~4月、この2つの業界においても、政府投資総額の成長速度は民間投資よりもそれぞれ24.2、48.1ポイントも高かった。
 中でも文化・スポーツと娯楽業は近年成長が著しい新興消費部門であり、その比較的高い投資収益率に引き寄せられ、15年上半期の民間投資は、一度は猛烈な成長が見られたが、今年に入って民間投資の割合は急落している。
 その原因は政府投資が大幅に増えた結果、民間企業が融資コストと地位の非対等という状況におかれ、退出を余儀なくされた可能性が高い。

■原因4:個人資本への制度的差別

 5月30日までの段階で、国務院が派遣した9つの民間投資監督調査グループは、中国18省(自治区・直轄市)で10日間にわたる大規模調査を行った。
 『21世紀経済報道』によると、各地で調査したグループからのフィードバック情報によれば、「個人資本への差別が民間投資不振のまたひとつの重要な原因になっている」という。

 各地の私営企業家たちが言うには、「PPPプロジェクト(Public-Private Partnership 公民が連携してサービスを提供するプロジェクト)は名目上、政府と社会資本との協力であるが、実際の運営においては、民間企業は往々にして参入が難しく、国有企業にすべてのチャンスが行ってしまう」とのことである。
 例えば、国務院が国有企業改革・改編への民営企業の参画を奨励・誘導する過程で、地方政府が「ゾンビ企業」解体を行うとき、国有企業へしか売却しようとしないという。

 取材を受けた企業の多くが、
 「政府を背景にもつ国有企業がプロジェクトに参画しているときは、リスクをコントロールしやすいとみられるが、民間企業はこの方面の保障に欠けるために、門外に締め出される」
と語っている。
 例えば、中央政府がプロジェクト入札において不必要な参入条件をつけてはならないと、何度も強調しているのにもかかわらず、一部の地方政府はいまだ「測量製図甲級の資格」など必要とされない高い資格を参入条件とし、高い資格をもたない多くの民営企業を排除している。

 そのほか、一部の政府のプロジェクト入札募集や入札では、一つ100万元強のプロジェクト入札に対し、入札参加企業の登記資本金が5000万元以上という要求がつけられ、多くの中小民間企業を直接締め出している。

 さらに検証に値することとして、民間企業からの報告によると、一部の地方では、企業誘致、投資誘致の際には、企業は上座にたてまつられるが、プロジェクトが始まると、地方政府が約束した条件は実現されないとか、一部の省では関係する許可証をとる手続きが複雑で、行政効率が低く、このために企業のプロジェクト実施に支障をきたすなどの状況もみられるという。

2020年までGDPの平均した成長率を6.5%以上に保つことは、L字型経済成長の目標であるが、
 民営企業が活発な投資をしなければ、効率の悪い国営企業だけでは本当にその目標に達成できるか大きな疑問が残る。
 しかし、今のところ、民間の力を生かしていく兆しはほとんど見えてこない。



サーチナニュース 2016-06-24 07:11
http://news.searchina.net/id/1612759?page=1

中国で債務危機が起きる?
「中国は独特だ、
短期的には起きない」=香港

 国際通貨基金(IMF)の関係者はこのほど、
 中国企業の債務問題について「早急に対処しなければ大きな危機を招く」
と指摘、世界的に大きな注目を集めた。
 香港メディアの鳳凰網はこのほど、
 「中国で短期的に債務危機が生じる可能性は非常に低い」
と反論した。

 記事は、中国の債務総額が国内総生産(GDP)の250%ほどまで増加していることを指摘し、
 「増加速度も速いため、他国の経験からすれば速やかに債務を削減しなければ債務危機が生じる水準」
と主張。
 だが、この見方は中国独特の制度を考慮していないものである
と主張し、
 「中国で短期的に債務危機が生じる可能性は非常に低い」
と反論した。

 続けて、中国で債務危機が生じる可能性が低い理由について、
★.「債務の大半は中国国内における内債」であり、
 外貨建ての外債は債務総額の5%に満たない水準であること
を挙げた。
★.さらに、中国には潤沢な外貨準備があるうえ、貿易黒字も巨額である
とし、
 「これまでに債務危機が生じた国とは本質的に違いがある」
と主張した。

 また、中国の債務債務のうち、政府と家計の債務規模は大きくないとし、
★.債務を抱える企業の多くは国有企業である
と主張。
 その債権者も国の金融機関であり、完全なる市場経済のもとにおける債務問題に比べ、
★.中国の債務は「国有企業が国有金融機関から借金をしているものであり、国が介在して解決できる余地は大きい」
と論じた。

 一方で、中国で債務危機が生じる可能性は小さいが、「債務問題を案じる必要がない」わけではないと指摘し、なぜなら債務問題は中国経済の構造問題を示すものだからだと主張。
 また、海外の投資家たちは債務問題を中国経済の最大の懸案と認識していると伝え、速やかに解決すべき問題であることは間違いないと主張した。



ダイヤモンドオンライン 2016年6月27日 吉田陽介[日中関係研究所研究員]
http://diamond.jp/articles/-/93706

中国の過剰生産、
政府の意図に反して生産量が拡大する理由

 中国では目下、過剰生産能力の解消が政策として進められている。

 この方針は、新常態下の中国が進めている
 「五つの任務(過剰生産能力の解消、
 過剰債務の縮減、
 過剰在庫の消化、
 コストの引き下げ、
  脆弱部分の補強)」
の一つであり、
 中国の製造業の高度化、
 高次元での競争
を促すうえでも重要である。
 また、今年2月の国務院6号文件では、5年間で1億~1億5000万トンの過剰生産能力を削減する目標が明記された。

 今年3月に開かれた全人代で、李克強首相は「政府活動報告」の中で、
 「この3年で、製鋼・製鉄9000万トン以上、セメント製造2億3000万トン」
などの旧式生産能力を廃棄したと、これまでの成果を強調し、
 「生産能力の新規拡大を厳しく抑え、
 旧式生産能力を断固廃棄し、
 過剰生産能力を秩序立てて解消する」
という意気込みを語った。

 だが、過剰生産能力解消「元年」となるべき今年は、必ずしも政府の方針のように生産能力減少に向かっているとは言い難い。

 新華社の報道によると、中国の5月の粗鋼生産量は、前年同月比1.4%増、前月比1.5%増の7050万トンとなった。
 3~4月の粗鋼生産量は増加傾向にあり、3月は7065万トン、4月は「清明節」の連休もあって前月よりも3日間営業日が少なかったことも影響してか6942万トンとやや減少したが、同月の1日当たり粗鋼生産量は231万4000トンに上り、2014年6月の記録した過去最高の生産高を上回った。
 5月の1日当たり生産量は227万4000トンで先月よりもやや減少したが、依然として高い水準にあり、「供給側改革」の難しさを物語っている。

 「過剰生産能力の解消」が強力に推し進められているにもかかわらず、
 なぜ生産量が増えるのだろうか。

■生産能力は減少しているのに
生産量は増えるという奇妙な現象

 中国の現在の経済成長率は7%を割り込んでいるが、2000年代前半は二ケタの成長率を保っていた。
 その当時、国内需要の拡大を背景にして生産能力が拡大し、生産能力過剰の原因となった。
 2008年にリーマンショックが起こった後、中国は4兆元にも上る景気刺激策を打ち出して投資を増やし、労働力を比較的吸収しやすい鉄鋼工場が多く設立された。
 鉄鋼や石炭などの生産能力の拡大は生産能力の過剰問題だけでなく、環境にも影響を及ぼす。
 それゆえ、政府は過剰生産能力の解消に真剣に取り組もうとしている。

 ここでは過剰生産能力を抱える鉄鋼、製鉄産業が多く存在し、政府の規制の対象になっている河北省のケースを見てみる。
 蘭格鉄鋼研究センターのデータによると、2015年に河北省では製鉄、製鋼分野の旧式生産能力がそれぞれ831万5000トン、1313万トン廃棄されたが、それは全国で廃棄された旧式生産能力の58.9%、76.6%を占めており、昨年全国で圧縮・削減された鉄鋼分野の過剰生産能力の半分以上が、河北省で廃棄されたことになる。
 それに反して、生産量は増加傾向にある。
 2015年の河北省の粗鋼、鋼材、銑鉄生産量はそれぞれ1億8800万トン、2億5200万トン、1億7400万トンに達し、それぞれ1.3%、5.5%、2.6%の伸びを見せた。

  「生産能力が減少しているのに生産量が増えている」という現象は、実は以前から存在する。
 5月28日付の「経済観察報」の報道によると、河北省は毎年過剰生産能力の解消に大いに力を入れているが、鉄鋼の実質生産量はほぼ毎年増えているという。
 同報道は、河北冶金工業協会と関連企業の関係者の話を引用するかたちで次の事実を伝えている。
 第12次五ヵ年計画(2011~2015年)期間中、河北省は一貫して新たな鉄鋼関係のプロジェクトを申請しなかった。
 高炉の撤去が続き、新たなプロジェクトもないという状況の下では、生産能力は年々減少していき、その減少幅も大きくなるのが普通だが、実際にはそうはならなかった。

 だが、前出の関係者は、
 「生産能力は減少し続けているが、それは生産量の継続的増加の妨げにはならない。
 政府は過剰生産能力の解消に取り組んでいるが、
 生産量の拡大は市場行為による結果だ。
 つまり、この二者の間には必然的関係がない」
と述べている。
 これは「生産能力」は「生産量」をコントロールできず、「生産量」は市場が決めるため、政府の規制が効果をもたないことを意味している。

 実は、「生産能力が減少しているのに生産量が増えている」という現象は河北省だけで起こっているものではない。
 5月26日付の「21世紀経済報道」によると、多くの省が鉄鋼分野の生産能力の圧縮・削減目標を掲げているが、実際の生産量は増え続けており、広西省、山東省などでも同様の現象が見られるという。

 さらにいえば、このような奇妙な現象が起こっているのは鉄鋼産業だけではない。
 公表されたデータによると、今年前半の4ヵ月は、石炭産業が4月に一日当たり生産量がやや減少したほかは、セメント産業、非鉄金属産業の1日当たり生産量は月を追って増加している。
 さらにいえば、一部の省で今後さらに生産量が増える可能性がある。

■削減目標の数字はほぼ「一律」
「まるで計画経済に戻ったよう」

 政府が過剰生産能力の廃棄を呼びかけているにもかかわらず、鉄鋼企業の生産量が増加し続ける最たる原因は、4月に先物市場での大口商品価格の大幅な値上がりがもたらした「ニセの需要」である。

 上海先物商品取引所のデータによると、4月下旬、スクリュー・スチールの先物の主力契約価格が昨年末に比べ72%上昇し、最高で1トン当たり2787元に達した。
 先物市場の価格上昇は現物市場に直接影響を与え、多くの鋼材の生産者価格は一度に1トン当たり3000元以上に上昇した。
 この影響を受けて、鉄鋼企業は生産を加速するようになり、生産を停止した企業も再び生産を始めた。
 6月14日付の「中国産経新聞」によると、鉄鋼企業は過剰生産能力を解消するつもりはなく、市場価格の上昇はさらに過剰生産能力の解消への決意を揺るがしていると伝えており、これらの企業は政府の思惑とは裏腹に短期的利益の獲得に向かっていることを示している。

  「21世紀経済報道」は、各レベルの省政府部門が出した過剰生産能力の減少の数字は「ニセモノ」であるという、ある鉄鋼産業関係者の話を紹介している。
 それによると、これまで毎年取り組んできた過剰生産能力減少の任務の多くは、すでに生産を停止している生産能力を再度廃棄の対象として申請するというもので、さらに、ある生産能力はすでに生産をストップしているが、状況によっては再び生産を始める可能性もあるという。

 また、6月1日付の「経済参考報」は別の角度から鉄鋼産業の生産量拡大に歯止めをかけるのが容易でない理由を説明している。
 同報道は、生産量拡大が続いてるのは資金獲得の理由からで、正常に生産していることが銀行から融資を受けるうえでの条件となっているので生産を減らすことがなかなかできず、とりわけ国有企業は資金面での「強み」があって資金調達も難しくないため、生産増加に歯止めをかけるのは容易ではないと指摘している。

 そういう理由もあって、大部分の企業が自発的に生産能力を減少させる気はなく、過剰生産能力の圧縮・削減の任務達成は、生産能力が旧式か先進的かどうかにかかわらず、地域の鉄鋼企業への「割り当て」に頼るほかに方法がない(4月12日付「財新網」)。
 つまりこれは、各省は少なくとも生産能力を13.3%減らすようにするというもので、削減目標の数字はほぼ「一律」である。
 これは、業界関係者に「まるで計画経済に戻ったよう」な印象を抱かせた。

 また、「財新網」は4月末、中国人民銀行貨幣政策委員会委員も務める黄益平・北京大学国家発展研究院副院長の
 「現在公表されている全国の過剰生産能力解消計画は市場の予想とかなりの開きがあり、現在の構造的問題の解決に役立つことはないだろう」
との見方を紹介し、過剰生産能力解消は当面のところ厳しい状況にあると見ている。

 これまで見てきたように、中国の過剰生産能力解消は政府の意気込みに反して、かなり困難な取り組みである。

■政府の改革の意気込みほどには
企業の意識転換は進んでいない

 5月9日付の「人民日報」に現在の中国経済について“権威人士(権威ある人)”なる匿名の人物へのインタビュー記事が掲載されたが、そこで“権威人士”は過剰生産能力によって支えられた短期的な経済成長は持続可能ではなく、受ける苦しみがさらに増し、苦しむ時期もさらに増すことになると指摘した。
 それゆえに、中国政府はこの現象を放置することができなくなっており、かなり厳しい戦いになることは間違いないだろう。

 習近平総書記は今年1月18日に行われた省・部レベル指導幹部を対象にした第18期五中全会の精神に関する学習会での講話(「人民日報」には5月10日に全文掲載)で、中国が進めている「供給側改革」は「供給側の構造改革」と述べ、この改革の重点は「社会の生産力を解放・発展させることであり、改革の手法で構造調整を推し進め、効果を生まない、ローエンドの供給を減らす」ことにあるとしている。
 つまり、現在の中国にとって必要なのは、需要を増やすのではなく「有効供給」を増やすことであり、そのためには過去の政権から積み残された「負の遺産」を処理する必要があるということである。

 本稿で見てきた「過剰生産能力の削減の一方で生産量が増加している」という現象は一時的な値上がりの要素もあろうが、改革がまだ途上にあるため、企業の意識転換が進んでおらず、政府が意図する方向に進んでいないこともある。

 中国は改革開放路線がとられて以降、市場経済の発展を重視して経済を活性化させてきたが、「市場経済化」は一方で人々に「もうかれば何でもいい」という考えを抱かせがちだ。
 これは一部製造業のユーザーからの視点を欠いた製品の生産や、一部サービス業の誠実さを欠いたサービスの提供にも見られる。
 本稿で取り上げた鉄鋼業の現象をみると、鉄鋼製品の値上がりを受けて、生産を停止している企業までもが生産を再開しており、短期的な利益を得ようという意図がうかがえる。

 筆者は3月28日に発表した「管理を強める『習近平経済学』への転換で中国は浮上できるか」と題した記事で、現在の習政権の経済政策は、市場の重要性を認めつつも管理を強化しようとしていると指摘した。
 現在の中国は上述の要因もあり、まだ「秩序ある市場競争」の条件が整っていない。
 ゆえに管理を強化しようとしている。
 先に述べた河北省のケースでいうと、同省政府は全省の鉄鋼産業が生産能力を新たに増やすことと、すでに生産停止となっている設備で再び生産することを禁じ、違反した者は厳重に処罰するという措置を講じた。

  “権威人士”は、2013年11月に開かれた第18期三中全会で提起された「市場が資源配分において重要な役割を果たす」という考えのように、すべてが市場による調整がなされることが理想だとしてうえで、市場メカニズムがうまく機能している消費財分野については市場による調整が可能だが、生産能力の解消はまだ行政介入が必要なことを示唆している。
 行政介入によって管理を厳格化しても、それが「貫徹・実施」されなければ意味をもたない。
 それゆえ、第18期三中全会以降、習政権は「貫徹・実施」という言葉をよく使って関連機関に呼びかけている。
 また、”権威人士”も指摘するように、ひとつの政策が「貫徹・実施」されるには政府自体のさらなる改革も必要である。

 中国は国土が広く発展レベルもアンバランスであるため、政府の政策は各地の具体的状況に基づいて実施すればよいとしているが、各地の政府の管理レベルもまちまちであり、全面的に履行されるようになるには時間がかかる。
 さらに、国有企業の改革も進んでいるとはいえず、これら企業の意識転換もなかなか進まないだろう。
 強力な措置で生産量のみを抑えるのは限界があり、政府や国有企業、市場秩序などが「ワンセット」で改革されなければ過剰生産能力の解消の一方で生産量拡大という現象はなくならないだろう。
 その過渡期として、習政権は管理を強める措置をとっている。

 過剰生産能力の解消についてもそうだが、中国は「構造的」問題が解決していないため、習政権はその他の取り組みついても「殲滅戦」ではなく、「持久戦」で臨もうとしている。
 習政権の「供給側の構造改革」の成否は政策が「貫徹・実施」されることにかかっている。



サーチナニュース 2016-06-30 10:43
http://news.searchina.net/id/1613232?page=1

中国経済の本質的な問題
「過剰生産能力ではなく、産業の空洞化」

 中国では近年、経済成長率の鈍化に伴い、「過剰生産能力」が問題となっている。
 日本で開催されたG7においても、中国の同問題が議論されたことから、その深刻さが見て取れる。

 鉄鋼業界では、中国が鉄鋼を大量に生産し、輸出を増やしていることから世界の鉄鋼価格が下落、各国の鉄鋼メーカーも苦境に追い込まれている。
 中国メディアの千人智庫はこのほど、中国では現在、
 「過剰生産能力」が問題となっていない産業は見当たらないほどだ
 と伝える一方、中国経済の本質的な問題は「過剰生産能力ではなく、産業の空洞化にある」
と主張した。

 記事は、自動車や造船など、中国にも工業製品は存在すると指摘し、特に自動車においては中国は世界最大の市場であると指摘。
 だが、造船は主要な部品を輸入して組み立てているだけに過ぎず、自動車市場において「売れているのは合弁メーカーの自動車ばかり」と指摘した。
 また、中国で生産される電子機器などについても、生産ラインは日本やドイツから輸入しているのが現実だと論じた。

 また、パソコンやスマホにおいても中国はCPUを内製化できず、同じように輸入に頼っていると指摘。
 CPUは端末の大脳にあたる重要な部品であり、非常に多くの部品から構成されていることを紹介する一方、CPUには中国製の部品はほとんど使用されていないと論じた。

 このように中国には
 基幹部品を生産できるような基幹技術がないにもかかわらず、
 すでにメーカーは中国から撤退し、向上を東南アジアに移転させている。
 鉄鋼などの分野で過剰生産能力が大きな問題となっているが、記事は
 中国経済が抱える問題の本質は技術に競争力がなく、
 産業がますます空洞化している点にある
と論じている。