『
JB Press 2016.6.13(月) 渡部 悦和
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/47056
中国を震え上がらせる秘密兵器、
レールガンの実力
飽和ミサイル攻撃に対処でき、南西諸島防衛にも最適
●レールガンの発射実験(ウィキペディアより)
WSJ(ウォール・ストリート・ジャーナル)は、5月31日、米海軍が開発中の電磁レールガン(以下、レールガンと表現する)について、「米国のスーパーガン」という表現でその能力と安全保障に及ぼす影響についてかなりセンセーショナルに報道*1した。
私は、以前からレールガンや指向性エネルギー兵器(DEW: Directed Energy Weapon、 後述のレーザー兵器や高出力マイクロ波兵器のこと)に注目してきた。
なぜならば、これらの兵器が完成し実戦配備されれば、中国やロシアのA2/AD(Anti-Access/Area Denial 接近阻止/領域拒否)の脅威、特に対艦弾道ミサイルや対地弾道ミサイルの脅威を大幅に削減することができるからである。
米軍にとっては、レールガンを装備することにより、アジアの作戦地域への接近が再び可能となる。
A2/ADに対抗する米軍の作戦構想であるASB(Air Sea Battle、現在ではJAM-GCに名称が変更された)で想定していた「空母などの大型艦艇の損害を避けるために、紛争直後に一時期、中国の対艦弾道ミサイルの射程外に後退させる」などの作戦が不必要になり、日米同盟の信頼性の向上にも寄与することが期待できる。
また、我が国の重要施設(空港や港湾など)の防衛や南西諸島の防衛において、諸外国による各種ミサイルの攻撃や航空攻撃に対して有効に対処できる可能性が増大する。
■1 レールガンの開発状況
●WSJの報道内容
図1を見てもらいたい。
(*配信先のサイトでこの記事をお読みの方はこちらで図をご覧いただけます。http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/47056)
レールガンは、発射薬(大量の高温ガスを発生させ,その圧力により弾丸、ロケットなどを発射させるのに用いる火薬)や炸薬(砲弾などに充填し、信管等の作動で爆発させる火薬)を必要としない。
固い発射体を電気伝導体のレールで加速し、目標を破壊する。
米海軍が開発中のレールガンでは、
時速7240キロ(マッハ6)まで加速でき、有効射程は200キロで、1分間に10発の射撃が可能
である。
レールガンは、航空機、ミサイル、戦車などほぼすべての目標に対して有効
である。
レールガンの発射体を誘導する技術の開発はほぼ完了していると記事は伝えている。
スーパーコンピューターを使って狙いを定め、スマートフォンの技術(GPSも使用)を使い軌道を修正する。
*1=“A First Look at America’s Supergun”, WSJ, May 31 2016
発射体の開発は、レールガン全体の開発よりも早く完成する予定である。
この発射体は、レールガンでのみ使われるのではなくて、既存の海軍艦艇の砲(5インチ砲、6インチ砲)や陸軍の榴弾砲からの発射も可能で、射程延伸(例えば、6インチ砲で24キロから60キロへの射程延伸)や威力の増大の効果があるという。
またWSJは、米国防省で先進技術の開発を担当し、レールガンの推進者の1人でもあるロバート・ワーク国防副長官の次の発言を伝えている。
「冷戦時代に欧州に配備した大規模な戦力を再現することは考えられないが、
高価ではなく非常に大きな抑止力としての価値を有するレールガンを想像することはできる」
ワーク国防副長官は、第3次相殺戦略を担当していて、その中にレールガン関連事業も入っている*2。
ワーク国防副長官の肝煎りであるということは、将来的に非常に有望な兵器であることを証明している。
一方、レールガンを運用するためには、25メガワット(1万8750世帯の電力を賄うことができる電力)の発電装置と大規模な蓄電設備が必要になる。
そのため、レールガンを搭載可能な艦艇は限定されるが、現在、レールガンを搭載する最有力な艦艇は、ズムウォルト級(Zumwalt-class )駆逐艦(図2参照)で、78メガワットの電力能力を持っている。
また、艦艇搭載が唯一の選択肢ではなくて、地上設置型のレールガンも有力である。
なお、レールガン全体の開発は、今後10年以内には完成し、実戦配備されることになると予想
されている。
図2 ズムウォルト級(Zumwalt-class )駆逐艦(ウィキペディアより)
●ONR(海軍研究オフィス)のホーム・ページの内容
ONR(海軍研究オフィス)によると、レールガンのプロジェクト(INP)は、2005年開始され、
第1段階の目標である32メガ・ジュールの砲口エネルギーを達成した。
このエネルギーだと発射体の射程は160キロとなる。
第2段階は、2012年に開始され、取得計画への移行を可能とする技術の開発を目指す。
その技術は1分間に10発の発射速度を達成することであり、発生する熱の管理技術の確立である。
レールガンの反応の迅速性、カバーする範囲の広さ、長射程、破壊力の大きさなどを理由として、ゲーム・チェンジャーであると宣伝されている*3。
軍事におけるゲーム・チェンジャーとは、戦いにおける優劣を根底から覆すような、新しい技術、兵器、戦法、戦略などである。
*2=筆者がJBpressに投稿した「新時代に突入した米国・ロシア・中国の軍事競争 米国防予算と第3次相殺戦略(オフセット戦略)」を参照
*3=Office of Naval Research, Science and Technologyのホーム・ページ
■2 レールガンと指向性エネルギー兵器(DEW: Directed Energy Weapon)
2015年3月にワシントンDC所在のシンクタンクCSBA*4(戦略・予算評価センター)を訪問し、将来の作戦構想について議論した時に、CSBAが提示したのが図3である。
非常に示唆に富む内容であるので紹介する。
なお、指向性エネルギー兵器は、指向性のエネルギーを目標であるミサイル、ロケット、砲弾などに直接照射し、これを破壊したり、機能低下させる兵器である。
CSBAの説明によると、敵の航空攻撃やミサイル攻撃に対処する有望な兵器で、
★.今後5~10年以内に実戦配備される可能性のある兵器は、☆.レールガンと
☆.指向性エネルギー兵器である固体レーザー(SSL:Solid State Laser)と
☆.高出力マイクロ波(HPM:High Power Microwave)兵器
である。
★.実戦配備の時期は
SSLとHPMが5年以内、
レールガンが5年から10年
と見積もっている。
1発あたりのコストの比較では、
★.レールガンが3万5000ドル(これはミサイルのコストの20~60分の1)、
★.ケミカル・レーザーが 1000ドル、
★.SSLとHPMが10ドル
であり、SSLとHPMが特に優れている。
しかし、
★.レールガンの長所は、100マイル以上の長射程を有する点
である。
図3は、固体レーザー(SSL)、高出力マイクロ波兵器(HPM)、レールガンが水上艦艇に搭載されイージスBMDの一部として運用された場合と航空基地に配置して使用された場合の用途について記述している。
●水上艦艇に搭載された場合
対艦巡航ミサイル(ASCM)に対しては主としてSSLが対処し、対艦弾道ミサイル(ASBM)に対してはレールガンとHPMで対処する。
●地上(例えば航空基地)に配備された場合
レールガンやHPMがカバーする範囲が大きく、中距離弾道ミサイル(IRBM)、準中距離弾道ミサイル(MRBM)、短距離弾道ミサイル(SRBM)、対地巡航ミサイル(LACM)のすべてに対処が可能となる。つ
まり、レールガンの地上配備により、基地防護や重要施設の防護が可能になる。
SSLは、対地巡航ミサイル(LACM)に対処可能である。
*4= CSBA: Center for Strategic and Budgetary Assessments
■3 レールガンやDEWが米軍に及ぼす影響
●中国やロシアのA2/AD能力を制約できる
レールガンが実際に配備されれば、中国、ロシアなどの各種ミサイルによる攻撃や航空攻撃を制約することが可能になる。
そもそもA2/ADのA2(Anti-Access)は接近阻止という意味であるが、相手の各種ミサイルによって作戦地域に接近できないことを意味していた。
図4を見てもらいたい。
中国の人民解放軍(PLA)は、空母キラーと言われている対艦弾道ミサイルDF-21Dを筆頭としていくつかの対艦ミサイルを幾重にも配備して、米海軍の接近を拒否している。
しかし、レールガンなどを導入することによって対艦ミサイルの攻撃を排除し、作戦地域への接近が可能となる。
また、A2/ADのADはArea Denial(領域拒否)で作戦地域における作戦を拒否するという意味であるが、レールガンなどの導入により、作戦地域におけるミサイルや航空攻撃の脅威が軽減され、日本周辺での作戦が継続できることになる。
これを別の表現で説明すると、
「中国のミサイルによる飽和攻撃(同時に多数のミサイルを使用する攻撃)に対処が可能になる」
ということである。
現在、米軍特に海軍の空母をはじめとする大型艦艇にとって中国のA2/AD能力は大きな脅威である。
特に、DF-21Dなどの対艦弾道ミサイルによる飽和攻撃に対して、現在の防衛システムでは対処困難であるが、1分間に10発の射撃が可能であるレールガンを主体としたミサイル防衛システムを構築すると、飽和攻撃への対応が可能になることが期待される。
●在日米軍基地の脆弱性が改善される
レールガンを地上に配置すると、地上部隊のみならず、重要な空港、港湾などの重要施設の防護が可能になる。
このことは、中国のミサイル攻撃や航空攻撃の脅威に対する在日米軍基地の脆弱性問題の解決が可能になることを意味する。
●米軍の前方展開戦略が可能になる
ASB(Air Sea Battle)作戦構想の弱点であった、
「紛争初期において中国のミサイル攻撃を避けて
その射程外に一度下がってから、
将来の攻撃を準備する」
という行動が不必要になることを意味する。
この米軍が一時下がるという行動は、日米同盟の信頼性に大きなマイナスであったが、それが改善されるということである。
●ASBで考えられていた長距離作戦が必ずしも必須でなくなる
前方展開が可能になると言うことは、米本土の周辺から、遠距離の作戦を強いられるという状況が緩和されるということである。
第3次相殺戦略で考えていた長距離爆撃機や無人機システムの活用などに対する再検討が必要になってくる。
■4 レールガンやDEWが日本の防衛に及ぼす影響
●自衛隊の南西防衛にとって大きなプラス
各種報道によると、奄美大島、宮古島、石垣島などの島々に陸上自衛隊が配備される可能性があるが、これらの島々の中でいくつかの島には、対艦ミサイル部隊と対空ミサイル部隊が配備されることになるであろう。
しかし、これらの部隊の最大の問題は、相手の各種ミサイルによる飽和攻撃と航空攻撃に脆弱だという点である。
まず制空権の確保は当然であるが、その他に掩体を構築して部隊を防護するという対処策はあるが、これはあくまでも防御オンリーの手段である。
相手のミサイルによる飽和攻撃と航空攻撃に対し、より積極的に対応しようと思えば、攻撃と防御の能力を兼ね備えたレールガンは理想的な兵器となり得る。
また、レールガンの地上配備が可能になれば、理論的にはレールガンの部隊のみで対艦任務と対空任務の2つの任務を遂行可能である点も指摘したい。
さらに、レールガンを南西諸島周辺のチョークポイントを支配する場所に配置すれば、陸上部隊でチョークポイントの支配が理論的には可能になる。
●MD(ミサイル防衛)能力が改善され首都圏等の防衛にプラスである
レールガンを中心にしたMD(ミサイル防衛)システムを構築し、我が国のSM-3やPAC3を中心としたBMD(弾道ミサイル防衛)システムと組み合わせると、より効果的なMDシステムになる可能性がある。
■結言
米国をはじめとする主要国の兵器の技術開発競争は激しく、技術の進歩は日進月歩であり、技術の進歩に遅れた国が将来の戦いにおいて敗者となる。
中国の人民解放軍のA2/AD能力の進歩には目覚ましいものがあり、米軍はこれに対処する方策としてレールガンや指向性エネルギー兵器を開発してきた。
本稿では、特にレールガンに焦点を当てて記述してきたが、レールガンよりも早く高出力レーザーや高出力マイクロ波兵器が実用化されるであろう。
複数の手段を開発できる米軍の底力を改めて認識する。
我が国の防衛を考えれば、自衛隊の南西諸島の防衛や首都防衛などにおいて、各種ミサイルの飽和攻撃に対する脆弱性は克服すべき喫緊の課題である。
レールガンは、わが国の防衛におけるゲームチェンジャーになる可能性がある。
防衛省でも、レールガンなどの開発を行っているが、是非とも早期に優秀な装備品を開発し装備化してもらいたいものである。
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『
●中国を震え上がらせる米海軍の秘密兵器「レールガン」の実力
2016/06/14 に公開
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『
wikipediaから
レールガン
●レールガンの模式図。
レールガン (Railgun) とは、物体を電磁誘導(ローレンツ力)により加速して撃ち出す装置である。
なお、電磁気を使う投射様式全般の呼称としては、電磁投射砲(でんじとうしゃほう)やEML (ElectroMagnetic Launcher) 、電磁加速砲[1]などがある。
原理的には古くから知られていることもあり、サイエンス・フィクション関連やゲームなどの作品に幅広く登場しているが、それらの作品では主に兵器として扱われていることが多い。
なお、レールという言葉が含まれているが、いわゆる鉄道や列車砲とは無関係である。
この装置は、電位差のある二本の電気伝導体製のレールの間に、電流を通す電気伝導体を弾体として挟み、この弾体上の電流とレールの電流に発生する磁場の相互作用によって、弾体を加速して発射するものである。
弾体を加速し発射する力は、アンペールの法則でわかるように、主にレールと移動をつづける弾体(電気伝導体)の接点付近に生じる。
また、直線導体による弱い磁場であるから、非常に大きな電流を流し続ける必要があり、さらに十分な発射速度を得るためには、加速に十分な距離を取る必要がある。
一方、弾体を含め電気回路を形成するためには、レールに弾体(ないしそれに取り付けられた電気伝導体)の一部が接触している必要があり、この箇所に摩擦および移動に際しての摩擦熱が発生する。
さらに摩擦が起きる電気接点において、わずかな電気抵抗でも生じれば、投入される大電流のために大きなジュール熱が発生し、この電気伝導体等の一部が蒸発・プラズマ化する問題もある。
弾体とレールの接点が蒸発して接点が取れなくなれば、電気回路としての装置に電流は流れず、弾体は発射装置内に取り残される。
なお、流体としての性質を持つプラズマにも電気伝導体としてローレンツ力が働くが、このプラズマが飛散してしまえば、やはり弾丸は取り残される。
このため、後述するように、電気伝導体としてのプラズマを逃がさないようにする工夫も見られ、プラズマを電気伝導体として扱うものでは、弾体自体は必ずしも電気伝導体である必要はなく、この弾体の進行方向から見て後方に薄い金属箔を貼り付ける様式もある[2]。
このように実用化には問題が多いと考えられ、これらの装置は2012年現在においては、概念的な架空のものとしてや、実験段階のものや試験段階のものなど、実用化は進んでいないが、後述するように様々な利用も想定されている。
実用化の一つとして、2016年に米軍が、電磁加速砲を洋上実験する計画が明らかになっている。
レールガンの原理的な基本構造は、2本のレールと電源からなる。
これに伝導体製の弾丸を挟み込んで直流の電力を入力し、還流させて電気回路を形成する。
この場合、弾体には電流が流れる必要性から砲身であるレール電極に物理的に接触している必要があるが、電流さえ流れれば伝導体はプラズマでも構わない。なお、プラズマが弾体を押すためには、流体としての性質を持つプラズマが弾体を追い越さないための密封性を必要とし、このため弾体の通り道を残してレール間の隙間を塞いである(砲身として筒状をしている)が、このレールの隙間を塞いだ構造物は非伝導体(絶縁体)である。
弾体を砲身であるレールの間のみで加速するためには相応の電流を必要とするが、この電力供給が必要に見合えば、その形式は問われない。ただし、化学電池程度では、レールガンを動作させるのに見合うだけの電力を短時間で供給することには見合わず、それらで発生させた電力をキャパシターなど起電力を持たない蓄電装置に蓄えるなど工夫を必要とする。
以上がレールガンの構造における基本形態だが、実際に開発・利用されているレールガンでは、プラズマ化に伴う膨張力(→圧力)や熱などに耐えられなければならず、またプラズマ化に伴う膨張圧も弾体の加速に利用する場合は、尾栓に相当する部品を必要とし、これは非伝導体である必要がある。
なお、単純にプラズマ膨張圧のみを弾体加速に用いる形式は、サーマルガンと呼ばれる別形態の装置である。
』
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