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WEDGE Infinity 日本をもっと、考える 2016年06月21日(Tue) BBC News
http://wedge.ismedia.jp/articles/-/7111
ソロス氏 EU離脱は英通貨や雇用に「深刻な影響」と警告
英国が今週23日に実施する欧州連合(EU)からの離脱か残留かを問う国民投票をめぐり、著名投資家のジョージ・ソロス氏は20日、英国のEU離脱は同国の雇用や金融に「深刻な影響を及ぼす」と警告した。
ソロス氏は英紙ガーディアンへの寄稿で、国民投票で離脱が選択されれば通貨ポンドは「急落する」と述べた。
ソロス氏は、1992年のポンド危機、いわゆる「ブラック・ウェンズデー」で英国が当時の欧州為替相場メカニズム(ERM)からの脱退を余儀なくされた際に、ポンドを売り浴びせて巨額の利益を上げている。
同氏は、今回のEU離脱は1992年よりも大きな混乱を招くと語った。
一方、英国のEU離脱を訴える陣営は、EUの外に出ることで英国はより繁栄すると主張している。
離脱派を率いるマシュー・エリオット氏は、
「EUは費用がかかり、官僚主義で、人々の賃金や大幅上昇するエネルギーコストに影響を及ぼしているのが分かっていない」
と述べた。
エリオット氏はソロス氏がEUの権限拡大を望んでいると非難している。
ソロス氏は寄稿で、EU離脱の場合には、ポンドが対ドルで少なくとも15%下落する可能性があるとし、あるいは20%以上下落して、現在の1ポンド=1.46ドルから1.15ドル以下の水準まで下がるかもしれないと指摘した。
ソロス氏は、「ポンドの為替レートは急落する」とし、「それが金融市場や投資、物価、雇用に即時、大幅な影響を及ぼす」と指摘。
同氏は、
「今回の通貨急落は、私のヘッジファンド顧客がかなりの利益を出す幸運を得た1992年9月の15%下落よりも大きく破壊的なものになるだろう」
と述べた。
ソロス氏はさらに、
「英国の有権者はブレグジット(Brexit=英国のEU離脱)の本当のコストを大幅に過小評価している。
あまりに多くの人がEU離脱に投票しても自らの財務状況に影響がないと信じている。
これは甘い考えだ」
と述べた。
■「かなり貧しく」
ソロス氏はさらに、中央銀行のイングランド銀行が景気後退もしくは住宅価格の下落に対応できる能力は限られているとし、2008年に本格化した世界金融危機からの脱却を図るためにすでに多くの金融政策上の手段を使ってしまっていると指摘した。
ソロス氏は、60年に及ぶ投資経験から言えるのは、投機家のみが勝者になるということだと述べた。
ソロス氏は寄稿で、
「現在の金融市場で投機筋はずっと巨大で強くなっている。
彼らは英政府または英国の有権者の計算違いに付け込もうと張り切っている」
とし、
「EU離脱は一部の人間をとてもお金持ちにする。
しかし、大方の有権者はかなり貧しくなる」
と述べた。
ポンドの為替レートはすでに、投資家が国民投票の結果を予想するなかで乱高下している。
先週は、離脱支持が広がっていることを示す世論調査を受けて、ポンドは大幅に下落した。
20日には、最新の調査で残留支持が勢いを取り戻した結果が出てポンドは急上昇し、1日の上昇幅が2009年以来最大となった。
1992年にソロス氏は、当時のポンドの為替レートがドイツのマルクに対して過大に評価されているとの考えに基づいて自身のクォンタム・ファンドを使って、ポンド売りを仕掛け、ジョン・メジャー首相がポンドのERM脱退を決断することにつながった。
■「当時間違っていたし、今度も間違っている」
国民投票が行われる23日には、夕刻から夜にかけ、世界の大手金融機関で経験豊富なトレーダーらが「ブラック・ウェンズデー」以来のポンドの大相場になると一部で指摘される取引に参加すると予想されている。
しかし、EU離脱派はソロス氏はデマで人々を恐怖に陥れようとしているとし、ソロス氏が間違ったことが過去に多々あると非難した。
エリオット氏は、
「ソロス氏はポンド廃止やEUの権限拡大を長年主張している」
とし、
「英国がユーロに参加しなければ破滅的な結果になると予想したが、彼は当時間違っていたし、今度も間違っている」
と語った。
エリオット氏はさらに、
「EUと自由に貿易するのにEUに政治的に加盟する必要はないのだから、離脱が決まってすぐ、自由貿易協定をEUと締結する」
と話した。
エリオット氏は、
「ポンドは国民投票が正式発表された直後の水準よりも高くなっている
。離脱が決まったら大幅な下落が起きると示すものは何もない」
と語った。
エリオット氏は、EU離脱によって物価が上昇するとの主張を否定し、
「中立的な専門家は、EU加盟とそれに伴う介入が物価を押し上げ、経済成長を損なってきたと明確に言っている」
と述べた。
「もし離脱が決まれば、EUに毎週支払っている3億5000万ポンド(約530億円)を取り戻し、我々にとって重要なことに使える」。
投票が近づくに伴い、経済界でも議論が激しくなっている。
20日にはヴァージン・グループを率いるサー・リチャード・ブランソンや自動車業界の幹部がEU残留支持を表明した。
今月に入って、英国で最も成功した製造業企業のひとつ、JCBのアンソニー・ブランフォード会長は、なぜEU離脱を支持するのか説明する書簡を従業員6500人に送った。
起業家のサー・ジェイムス・ダイソンは先週、英紙デイリー・テレグラフに対し、EU離脱は失うものより得るものが大きいと語った。
(英語記事 EU referendum: Soros warns of Brexit threat to pound and jobs)
提供元:http://www.bbc.com/japanese/36583496
』
『
週刊ダイヤモンド編集部 2016年6月22日
http://diamond.jp/articles/-/93510
5分でわかる英EU離脱の争点と世界経済への影響
英国でEU(欧州連合)残留の是非を問う国民投票が23日に行われる。
離脱派が勝った場合、何が起こるのか。
不確実な要素が多く、今後の展開を予想するのは難しい。
だが、その不確実性の高まりこそが、世界経済に混乱をもたらしかねない。
(「週刊ダイヤモンド」論説委員 原 英次郎)
英国でEU(欧州連合)残留の是非を問う国民投票が、目前に迫ってきた。
英国はEU加盟28ヵ国のうちGDP(国内総生産)では、ドイツに次ぐ第2位の大国である。
もし離脱派が勝利したら、何が起こるのか。簡単にまとめてみよう。
■いまでもEU内での特別の存在
まず、英国とEUの関係を確認しておこう。
英国はEU加盟国でありながら、一定の独自性を持つことを許されている特別な存在と言える。
周知のようにEU内ではヒト・モノ・カネが自由に移動できる。
EU内であれば、国境を超える時もパスポートコントロールはなく、貨物も自由に行き来できる。
1999年には欧州単一通貨ユーロが導入されたため、EU域内では通貨を交換する必要はなくなり、金融政策もECB(欧州中央銀行)に統合された。
これに対して、
★.英国は単一通貨ユーロには参加していない。
また人の移動の自由を保証した「シェンゲン協定」にも入っていないため、
★.パスポートによる出入国者のコントロールはできる。
もっとも、
★.EU加盟国の国民であれば、簡単に入国できる。
EU全体のGDPに占める英国のシェアは17%、当然ながら貿易関係も深い。
英国の輸出に占めるEUのシェアは2015年で5割弱に達する。
反対にEU諸国の輸出に占める英国のシェアは10%前後である(図表1)。
一見すると高くないように見えるが、1国向けとしてはドイツ向けと並んで高いシェアを占める。
ちなみにドイツの輸出では、米国向けと英国向けのシェアが高い。
★.もう一つの特徴はロンドンのシティが世界の、そしてEUの金融センターの役割を果たしていること。
中近東のオイルマネーのみならず、ロシア、中国からの資金もシティに集まり、世界そしてEUに再投資されていく。
日本を始め、EUの名だたる金融機関がシティに拠点を置いている。
国境を越える融資では約20%弱、外国為替取引では40%と、世界1のシェアを誇っている。
そもそもシティは世界の金融センターとしての長い歴史を持っている。
世界の共通言語である英語圏であることに加えて、金融業に従事する人材の厚みがある。
さらにEU加盟国であるため、英国で金融業の免許を取ると、他のEU諸国でも活動できる単一免許制度の恩恵が大きかった。
■焦点は移民、拠出金負担、国家主権
日本在住で現在、英国リーズ大学大学院で学ぶポール・クレイグ氏によれば、EU離脱派と残留派の対立点は、三つにまとめられる。
図版作成:日本総研
1].もっとも大きな争点が移民問題。
「英国の低所得層の人々は、英国人より低賃金でも喜んで働く東欧諸国からの移民が、自分たちの職を奪っていると感じている。
低所得層の居住地域には、さまざまな国からの移民が数多く住んでいる」(クレイグ氏)。実際、04年に東欧諸国がEUに加盟してから、EU域内からの移民が増加(図表2)し、政府は移民をコントロールできていないという批判にさらされている。
これに対して、残留派は少子高齢化進む中で、特に若くて、スキルのある移民は英国経済にとって、必要不可欠だと考えている。
2].二つ目がEUに支払う拠出金の問題。
EU加盟国は原則GDPの1%をEUに拠出金として支払う。
実は英国は特別扱いで還付金を差し引いた純負担率はドイツ、フランスより低いにもかかわらず、離脱派は英国は常に支払い超過であるため、EUから離脱すれば、英国のために拠出金が使えると主張している。
これに対して残留派は、EUから多額の農業補助金など還付金があるのに加え、貿易・金融面などで拠出金以上の恩恵を受けていると主張している。
3].三つ目が国家の主権にかかわる問題だ。
EUの歴史は統合を深化させる歴史だったが、もともと大陸のEU諸国より独立心の強い英国は、EUで決定した法やルールによって統治されることを嫌う傾向がある。
離脱派は自分たちの法律は自分たちで決めるべきだと主張するのに対して、残留派はEUにも英国のリーダーが参加して、法の策定に関わっているではないかと反論する。
総じて見れば、低所得層、低学歴層に離脱支持者が多く、富裕層あるいはリベラルな考えを持つ人たちに、残留支持者が多いとみられる。
2大政党である保守党、労働党の中でも、離脱派と残留派に意見が分かれており、特にキャメロン首相が率いる保守党は離脱派も多く、国民投票でどちらが勝つか、だれにも分からない。
確かなことは「英国が二分されてしまった」(クレイグ氏)ことだけだ。
■世界経済後退の引き金に
では、国民投票で離脱派が勝ったら、何が起こるのか。
「当初はポンド安、金利上昇、英国の株安が起こるだろう。
しかし、その後の離脱の過程で、どう物事が進むのか。
パターンが多くて手掛かりが得にくい」。
こう語るのは大和総研経済調査部の山崎加津子主席研究員。
つまり、不確実性が急速に高まるわけだ。
離脱派が勝った場合、英国が欧州理事会にEU離脱の意志表明をしてから離脱の最終合意に至る期間は2年とされている。
離脱手続きはリスボン条約第50条に基づいて行われるが、一度告知した後の撤回はできない。
まず問題は英国内にある。
残留を主張するキャメロン首相は、離脱派が勝っても辞任しないと表明しているが、果たして英国を代表して離脱交渉に当たれるのか。
その場合、どのような条件を優先するのか。
離脱に際しては、EUとの間で貿易協定を結び直さなくてはならないが、その場合は、既存の枠組みを使うケースと二国間協定を結び直すという二つの方法が考えられる。
例えば、前者ならノルウェーなどで構成されるEFTA(欧州自由貿易連合)に加盟する。
EFTAはEUとの間でEEA(欧州経済領域)という自由貿易協定を結んでいるため、二国間で協定を結ぶ必要はなくなる。
だが、EEAは人の自由移動を認めているため、移民の制限は難しい。
英国の意志を優先するとなると、二国間協定を結び直すことになるが、膨大な時間がかることが予想され、その間、英国とEU経済に何が起こるか見通せない。
そもそも離脱派が勝った場合、英国では総選挙実施の可能性も取りざたされている。
総選挙で残留派の労働党が勝った場合は、政権を決める総選挙と国民投票の結果が異なるという複雑な事態が起きないとも限らない。
日本総研調査部の藤山光雄副主任研究員は
「貿易を通じた直接的な影響は、懸念されているほど大きくはない。
むしろ金融市場の混乱による影響が大きい」
と見る。
要は、不確実性の高まりを受けて、資金がリスクの高い資産から引き上げられるリスクオフが起こる場合である。
その場合は、ポンド安・ユーロ安、株安が起こり、その結果、海外の投資家は損失が発生するのを避けるためシティへの資金流入が減り、マイナス金利で収益力の低下したEUの銀行セクターの経営不安が再燃するかもしれない。
リスクオフだから原油市場から資金が引きあげられ、ようやく安定した原油価格が再び下落することになるだろう。
そうなれば新興国経済もダメージを受ける。
安全資産としての円は買われて円高となり、日本経済にも悪影響が及ぶ。
こうなれば金融市場の一時的な動揺にとどまらず、世界経済の後退を招く。
それだけではない、国民投票直後の
6月26日にはスペインの総選挙、
来年4月から6月にかけてはフランスの大統領選挙、
秋にはドイツの総選挙
がある。
たとえ残留派が勝っても結果が僅差なら、こうした国々の反EUを掲げる極右、極左政党を勢いづかせる可能性がある。
そうなれば、EUの政治が不安定さを増す。
残留派のコックス議員が射殺され、自粛されていた両派のキャンペーンも再開されたが、「キャメロン首相の議論はあまり説得的でない」(クレイグ氏)という。
世紀の選挙は23日、結果は24日の午前4時ごろ(日本時間の正午ごろ)、判明する予定である。
』
Record china 配信日時:2016年6月23日(木) 6時50分
http://www.recordchina.co.jp/a142445.html
中国が英国のEU離脱を恐れる3つの理由―米誌
2016年6月19日、米誌ナショナル・インタレストは、中国が英国のEU(欧州連合)離脱を恐れる3つの理由を伝えた。
英国でEU離脱を問う国民投票が23日に行われるのを前に、ナショナル・インタレストは中国が英国のEU離脱に猛反対している理由について次の3点を挙げた。
1つは、中国は英国との緊密な関係を利用してEUの対中政策を好転させようとしていること。
アジアで日米の圧力を受ける中国は、経済的なチャンスをEUに求め始めている。
この転換は、中国の「一帯一路」戦略の主要な動力の一つとなっている。
仮に英国がEUを離脱すれば、中国のこの目論見は大きな打撃を受けることになる。
2つ目は、英国は中国が巨大かつ参入の難しい欧州市場の重要なルートになっていること。
多くの中国企業が比較的自由な英国経済への投資を行っており、これを足がかかりに5億の潜在的消費者を持つ欧州市場への参入を計画している。
近年、こうした戦略的な投資がさらに重要になっている。
ほかの経済体への投資が制限されている中で、英国がEUのルートがなくなることは中国にとって打撃となる。
3つ目は、英国が人民元の国際化戦略におけるキープレーやであること。
ロンドンは世界の主要な金融センターとして、アジア以外の国へ人民元を広める絶好の“踏み板”となっている。
人民元の国際化は中国の重要な目標の一つ。
人民元建ての国際の発行を可能にし、金融の推進力の増加を促し、外貨依存の脱却につながる。さらに言えば、それは中国が世界金融に影響を及ぼす真の大国になることだ。
英国がEUを離脱すれば、それらは未知数となる。
このほか、EUは中国にとって最大の貿易パートナーであり、英国が離脱すればEUのみならず世界経済の成長にも影響を及ぼす。
中国は輸出型の国であり、すでに経済が減速を始めている中で大きな挑戦に迫られることになる。
』
『
Yahoo!ニュース 2016年6月22日 20時31分配信 小林恭子 | 在英ジャーナリスト
http://bylines.news.yahoo.co.jp/kobayashiginko/20160622-00059132/
いよいよ、23日に英国でEU国民投票
ーなぜ今?など、疑問点を拾ってみました
23日、英国でEUの国民投票が行われる。
離脱か、残留かを問う投票だ。
これまでに離脱か、残留かでそれぞれの選挙運動が行われ、さまざまな議論が交わされてきた。
議論は出尽くした感があって、大騒ぎした後、「振り返ってみると大したことではなかった」ということになる可能性もある。
ただ一つ、英国内で十分に表に出てこなかったのが
「EU自体が将来どうあるべきなのか」という議論だ。
EUが将来的には分解あるいは大幅縮小となる可能性は離脱派の反EUの議論の枠組みでは出てきても、EU残留派あるいは中立的な文脈からはクローズアップされなかったことがやや残念だ。
―振り返ってみると・・・
EUはもともと、皆さんも十分にご存知のように、第2次大戦後、欧州内で2度と大きな戦争が起きないようにと言う思いから生まれた共同体だ。
当初は経済が主体だったが、欧州連合(EU)と言う形になってからは政治統合の道を進んでゆく。
単一市場に加入するという経済的目的を主としてEC(後にEUとして発展)に英国が加盟したのは1973年。
当時は加盟国は英国を含めて9カ国。
人口は約2億5000万人。
現在は28カ国、5億人だ。
当初は西欧の経済状態が似通った国が加盟国だったが、今は加盟国内での所得格差、失業率の差が大きい。
経済力の大きな国が全体のためにより大きな拠出金を出し、「域内の加盟国=大きなファミリー」としてやってきたが、だんだんそのモデルがうまく行かなくなってきた。
「破たんしている」と言う人もいる。
英国では2015年、純移民の数が33万人となった。
英国から出て行った人と入ってきた人の差だ。
そのうちの半分がEU市民だ。
英国は多くの人が使う国際語・英語が母語だし、失業率も低い。
EU他国から働き手がどんどん入ってくるのも無理はない。
人、モノ、サービスの自由化を原則とするEUにいるかぎり、市民がやってくることを止めることはできないのだ。
日本のメディアの方から、国民投票についていくつかの共通した質問を受けた。
その答えを書いておきたい。
―なぜわざわざ、国民投票?
残留の方がいいのに・・・
質問の前提として「残留=いいこと」という考えがあるだろうと思う。
しかし、EUの現状はどうなのかという問いがあるだろうし、かつ「現状維持=良いこと」とは限らない。
「不満があるから、現状を変える」という動きは1つの選択肢だ。
「なんだかよく分からないから、現状維持」というわけにはいかない。
―英国とEU
英国が離脱すると、EUがとんでもないことになる
・・・とよく言われるし、私もそういう記事を書いたりする。
しかし、現時点で、英国民にとっては少なくとも感情的には「EUがとんでもないこと」になってもどうでもいいというか、関係ないという思いがある。
英国民にとって、ヨーロッパとは「外国」である。
ヨーロッパ大陸やEUがどうにかなっても、英仏海峡を隔てた場所の話なのである。
―なぜ今、やるのか?
底流として長い間存在してきたのが、反欧州、あるいは欧州(=EU)への懐疑感情だ。
大英帝国としての過去があるし、「一人でもやっていける」という感覚がある。
社会の中の周辺部分、つまり、英国には階級社会の名残があるが、労働者階級の一部、および中・上流階級の一部に特にそんな感情が強い。
社会全体では、
「他人にあれこれ言われたくない」
「自分のことは自分で決めたい」
という感情が非常に強い。
だから常に、政府でも地方自治体でもいいが、いわゆる統治者・管理者が何かを上から押さえつけようとすると、「反対!」と叫ぶために抗議デモが起きる。
EUが拡大して、EU合衆国になる
・・・というのはまっぴらごめんと言う感覚がある。
英国の司法、ビジネス、生活に及ぼすEUのさまざまな細かい規定を「干渉」と見なす人も多い。
今回の国民投票の話以前に、もろもろのこうした底流が存在していた。
―政治的な動き
底流での流れが政治的な動きにつながってゆくきっかけは、2004年の旧東欧諸国のEU加盟と2007-8年からの世界金融危機。
04年、10か国の新規加盟に対し、各国は人やモノの受け入れのための準備・猶予期間を数年間、導入した。
しかし、英国は制限を付けなかった。
そこで、最初から自由に人が出入りできるようになった。
ポーランド人の大工、水道工やハンガリー人のウェイターが目につくようになり、東欧食品の専門店があちこちにできてゆく。
若く、仕事熱心な新・移民たちは評判も上々だった。
しかし、金融危機以降に成立した2010年の保守党・自由民主党新政権は厳しい財政緊縮策を敷いた。
公共費が大幅削減され、地方自治体が提供するサービスの一部もカットされた。
EU市民については制限を付けない移民策の結果、病院、役所、学校のサービスを受けにくくなった。
政府統計によれば、人口約6000万人の英国で、2014年時点、300万人のEU市民が在住。
その中の200万人が2004年以降にやってきた人である。
特に英国南部、そしてロンドンが最も多い。
「無制限にやってくるEU市民をどうにかしてほしい」
-生活上の不便さから、そんなことを言う人が英国各地で増えてきた。
しかし、人、モノ、サービスの自由な移動を原則とするEUに入っている限り、域内の市民の移動を阻止できない。
また、一種の人種差別的発言とも受け取られるから、政治的に絶対にといっていいほど、認められない。
だから、既存の政党はこんな市民の声をくみ上げられずに何年もが過ぎた。
ずばり、「EUを脱退するべきだ」と主張してきたのが英国独立党(UKIP)。
数年前までは「頭がおかしい人が支持する政党」だった。
―潮目が変わった
しかし、2014年、潮目が変わった。
この年の欧州議会選挙で、英国に割り当てられた73の議席の中で、UKIPが21議席を取って第1党に躍り出たのである。
市民の声が政治を動かした。
どんなに恰好の悪い本音でも、本音は本音である。
UKIPは与党・保守党を大きく揺り動かす。
もともと、EU懐疑派が多い保守党。
この懐疑派が40代半ばにして党首となったキャメロンの足を引っ張る。
保守党議員がUKIPに移動する事態が発生し、キャメロンは懐疑派=超右派を黙らせるため、また党の存続のため、EUについて何かをしなければならなくなった。
「制限がないEUからの移民流入が不都合をきたしている」
-そんな思いをくみ取れなかったのは最大野党の労働党も同じ。
「EUは大切だ」という姿勢を崩さなかった労働党に加え、2015年4月まで連立政権の一部だった自民党も大のEU推進派だ。
「今度こそ、単一政権を実現させたい」-2015年5月の総選挙で、そう思ったキャメロン首相は「保守党が単一政権になったら、EUの離脱・残留について国民投票を2017年までに行う」と約束して、選挙戦に臨んだ。
ふたを開けてみると、労働党惨敗で、保守党は単一政権を打ち立てることができた。
その後、UKIPを中心として国民投票実現へのプレッシャーが高まる。
キャメロン首相はとうとう、今年6月23日の実施を宣言せざるを得なくなった。
―キャメロン首相の父の関連会社が「パナマ文書」に出ていた。
これがキャメロン首相にとって大きなダメージになったのではないか?
現在のところ、この問題は解決済み。
キャメロン首相は自分の税金の支払い書を公表し、今回の投票には影響を直接は与えていない。
―誰が残留をあるいは離脱を支持しているのか?
★.残留は
キャメロン首相、大部分の内閣、下院議員、労働党、自民党。エコノミストたち。OECD、IMF、イングランド中央銀行。
カーン現ロンドン市長、オバマ大統領、ベッカム選手、ハリーポッターシリーズのJKローリングや俳優のベネディクト・カンバーバッチ、キーラ・ナイトレーなど。
中・上流階級(日本の中流よりは少し上の知識層)、国際的ビジネスに従事する人、若者層。
★.離脱は
ジョンソン元ロンドン市長、ゴーブ司法大臣、ダンカンスミス元年金・福祉大臣、ダイソン社社長、労働者・中低所得者の一部、英連邦出身者の一部、中・上流階級の一部・保守右派で「大英帝国」信奉者、高齢者の一部。
―世論調査は?
ずっと残留派が少し上だったが、最近になって、10ポイントの差で離脱派がリードしたことがある。
ポンドは下落。
その後、下院議員の殺害事件があり、残留派が勢いを取り戻している。
しかし、事前予測は不可能と言ってよいと思う。
総選挙でも世論調査が大外れだった。
―離脱すれば、どうなる?
オズボーン財務相によれば、GDPが5%下がる。
IMF、OECD,中銀などすべてが経済への打撃を予測。
ただし、中長期的にはどうなるかは分からないだろう。
―手続きはどうなる?
離脱の場合、下院でこの問題を議論する見込み。
離脱交渉を開始するために、リスボン協定の第50条を発動させると、2年以内に交渉を終了する必要があるという。
しかし、キャメロン首相がいつこの条項を発動させるのかは不明。
事前にEU他国との交渉をしてから、発動させるという見方もある。
―EUとの交渉はどうなる?
離脱の結果が出た後、EUと英国がほぼこれまで通りの規定でビジネスを続けるだろうという見方(離脱派)と英国は外に出ることになるため、一から交渉を行う(残留派)という見方がある。
どうなるかは不明だ。
―結局のところ
離脱になった場合、その後どうなるかは予測がつかない。
予測したとしても当たるかどうかわからない。
―EUへの影響は
離脱後の影響については、現状はすべてが憶測・推測と言ってよいだろう。
―スコットランドは?
残留派が多いと言われるスコットランド。2014年に住民投票をし、僅差で英国から離脱しないという結果が出たばかり。
EUから離脱の結果になれば、スコットランドでは再度住民投票が行われる可能性は否定できない。
ただし、これもEUがどう出るかで状況は変わってくるだろう。
―首相の座はどうなる?
今のところ、離脱になっても、キャメロン首相は続投と言うのが内閣の姿勢だ。
しかし、おそらく、メディアが徹底的に首相を攻撃し、退陣を迫るだろう。
―本当の問題は・・・
実は、EU自体の方向性が問題視されているのではないか?
EU域内の主要国なのに、シェンゲン協定に入らず、ユーロも導入せず、「鬼っ子」のような英国。
英仏海峡で隔てられていることもあって、大陸にあるEU国を「外国」と見なす英国。
欧州よりは米国や英連邦に親近感を持つ英国。
そんな英国をEUの外に出したら、ドイツの主導の下、EUはさらに統合を進めるだろう・・と思いきや、そうもいかないだろう。
アイルランド、ギリシャなど、ユーロ圏内で財政問題で苦しんだ国があった・ある。ドイツを中心としたEUのルールを厳格に進めれば、国家破たんの間際に押しやられる国が今後も出てくるかもしれない。
何せ、それぞれの国の規模、財政状況に大きな開きがある。
一律の規定ではカバーできない。
みんなが幸せにはなれない。
すでに、シリアなどを中心にした国からやってくる難民・移民の流入に対し、ドイツが人道的な見地から100万人を受け入れたのに対し、旧東欧諸国などから反対の声が強まっている。
社会のリベラル度を測る、同性愛者の市民に対する意識も地域によって異なる。
人権として受け止めるドイツ、フランス、オランダ、英国などと一部の東欧諸国では大きな差がある。
EUは今、方向性を問われる時期に来ているのかもしれない。
ドイツのショイブレ財務大臣の言葉が光る。
もし英国が残留を選んだとしても、これを一つのきっかけとして、これまでのような深化・拡大路線を見直す必要があるのではないか、と発言(21日)しているのである。
―ジョー・コックス下院議員殺害はどんな影響が?
残留を支持していたコックス下院議員が16日、英中部で殺害された。
裁判所で、実行容疑者は「英国優先」と答えた。
まだ解明が続いているが、自分とは異なる意見を持つ人物への憎悪が背後にあったと言われ、
「離脱すれば戦争がはじまる」(残留派)、
「欧州統合への動きはヒトラーもそうだった」(離脱派)
など、強い口調を使っていた選挙戦への反省が始まった。
選挙戦は2日間、停止された。
しかし、いったん選挙戦が再開されると、また熱っぽい発言の応酬となった。
殺害事件後、残留派が少し支持を増やしているようだが、まだ結果は分からない。
投票結果に影響を及ぼすのは、殺害事件よりもむしろ、当日の天気ではないかと言われている。
離脱派は投票への意識が強く、雨になれば、離脱派が強みを持つという。
―日本企業への影響は?
NHKによれば、
英国は日本への対外直接投資で米国に次いで2番目に大きな国だ。
中国よりも大きい。
特に、近年、急激に伸びている。
また、英政府によれば在英の日本企業は1000社を超え、約14万人の雇用を支えているという。
離脱となれば、まずはポンドが下がる可能性があり、円高と言うことになれば一般的に日本の輸出企業は打撃を受けるだろう。
これが長く続かどうかは分からない。
在英の日本企業が欧州他国とビジネス上の手続きをいちいちやり直す必要があるとすれば(あるとすれば、であるが)これも煩雑だ。
ただ、これで英国から日本企業が出ていくかどうかは疑問だ。
いずれにせよ、まずはあと24時間、あるいは36時間、どうなるかを待ってみるしかないだろう。
小林恭子 在英ジャーナリスト
英国、欧州のメディア状況、社会・経済・政治事情を各種媒体に寄稿中。新刊『フィナンシャル・タイムズの実力』(洋泉社)、『英国メディア史』(中央公論新社)、『日本人が知らないウィキリークス(新書)』(共著、洋泉社)。
』
『
ダイヤモンドオンライン ロイター 2016年6月23日
http://diamond.jp/articles/-/93670
ただいま投票中!
英国民投票、結果判明までの流れ
英国が欧州連合(EU)から離脱するか、それとも残留するかが決まる国民投票が6月23日に実施される。1日撮影(2016年 ロイター/Russell Boyce/Illustration/File Photo)
[22日 ロイター] -
英国が欧州連合(EU)から離脱するか、それとも残留するかが決まる国民投票が6月23日に実施される。
投票方法や、即日開票の進め方、誰に投票権があるか、は以下の通り。
◎質問
投票用紙には「英国は欧州連合のメンバーにとどまるべきですか、それとも欧州連合を離脱するべきですか」という質問が書かれている。
投票者は下記の答えのいずれかに印をつける。
「欧州連合のメンバーにとどまる」
「欧州連合を離脱する」
◎投票
投票所は23日0600GMT(日本時間午後3時)に開場し、同2100GMT(日本時間24日午前6時)に閉場。
◎出口調査
誤差が大きすぎるとみられるため、マスコミ各社は出口調査を計画していない。
ただ、一部のヘッジファンドが個別調査を依頼したと報道されており、市場に影響を与える可能性がある。
調査会社イプソスモリがイブニング・スタンダード紙の委託で投票前に実施した電話調査の詳細が投票日に公表される見通し。
調査会社ユーガブは投票日にオンラインで世論調査を実施し、調査結果は投票が締め切られる2100GMT(日本時間24日午前6時)直後にスカイニュースが公表する。
◎結果発表
投票締め切りの2100GMT(日本時間24日午前6時)直後から開票が始まる。
開票は手作業で行われる。
382の集計区がそれぞれ投票用紙を集計し、無効票や郵送投票を含めた投票総数を発表する。
当日2230GMT(日本時間24日午前7時半)から翌24日0130GMT(同午前10時半)に大半の集計区が発表し、0400GMT(同午後1時)ごろに終了する見通し。
次に「残留」票と「離脱」票を集計し、各集計区が結果を発表する。
24日0100GMT(日本時間24日午前10時)から0300GMT(同午後0時)ごろに大勢が判明し、0600GMT(同午後3時)ごろにはすべて判明する見通し。
各区の結果が12地区にまとめられ、さらに全国の結果が集計される。
最終結果は、開票責任者がマンチェスターで発表する。
◎集計区
各集計区は行政区ごとに設定され、有権者数はそれぞれ異なる。
有権者数が最大の集計区はバーミンガム、リーズ、北アイルランド。
バーミンガムの有権者数は約70万人に上るのに対し、ロンドン中心部のシティ・オブ・ロンドンはわずか7000人。
◎投票者
選挙管理委員会によると、登録有権者数は過去最高の4649万9537人。
英議会総選挙の投票資格がある有権者が投票できる。
英国に居住する18歳以上の英国人、アイルランド人、要件を満たす英連邦市民など。
英議会の投票者登録を過去15年間に行い、英国籍を持っている海外居住者。
北アイルランドで生まれ、過去15年間に北アイルランドで投票者登録を行ったアイルランド市民。
欧州議会選挙の投票資格がある英領ジブラルタル市民も投票資格がある。
◎投票者登録
英政府は国民投票の投票者登録期限を6月9日の深夜0時まで延長した。
当初の期限だった7日深夜0時の直前にオンライン登録申請が殺到したため。
◎注目点
1):投票率:
最も注目されるが、最初は部分的な数字しか出てこない見通し。
昨年の英総選挙での投票率は66%で、EU離脱・残留の両陣営とも、国民投票の投票率がこれを下回る場合、離脱派が有利になるとみている。
2):イングランド東部:
離脱派が優勢とみられるイングランド東部で接戦となる場合、全体としての残留派の優位を示している可能性がある。
3):労働党支持者票:
野党労働党の支持者の票が残留派の勝利に重要とみられている。
そのため、伝統的な労働党の地盤であるイングランド北部やウェールズ南部などの結果が注目される。
4):スコットランド:
残留支持が多いとみられているが、スコットランド内の集計区で早い時間に接戦が伝えられる場合、残留派陣営に不安を与える可能性がある。
◎開票結果への異議申し立て
選挙管理委員会の発表は以下の通り。
「国民投票のルールに従い、いかなる状況下でも全国的な票の再集計は行わない。
再集計の請求は集計区レベルとし、開票責任者が判断を下す。
単に開票結果が僅差だったという理由ではなく、当該集計区において手続きに特定の問題が見つかった場合に、再集計を承認するものと想定する。
国民投票の結果に異議を申し立てるには司法審査を経る必要がある。
司法審査の申請は、異議申し立てをしたという証明書を作成してから6週間以内に行わなければならない」
』
【2016 異態の国家:明日への展望】
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