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WEDGE Infinity 日本をもっと、考える 2016年05月11日(Wed) 高田勝巳 (株式会社アクアビジネスコンサルティング代表)
http://wedge.ismedia.jp/articles/-/6731
上海の不動産が大変なことになってます!(その2)
売り手と買い手の認識のギャップ
本年3月5日にアップさせていただいた、「上海の不動産が大変なことになってます!」の後日談がまた面白いので紹介したい。
不動産価格の上昇も早かったが、今回当局の対応も早かった。
3月24日は上海市政府が、不動産の急上昇を抑える対策を発表した。
主な政策は、今回の不動産の急上昇の原動力になっていた主要な買い手である上海市以外の戸籍を持つ買い手に対する制限だ。
■上海市以外の人が上海の不動産を欲しがる理由
なぜ上海市以外の人が買いたがるかといえば、上海の不動産を買えば、上海戸籍は取れなくとも、上海の居住証と子息に上海の公立学校で教育を受けさせることができる権利を取得できるからだ。
中国には、上海に居住したい中国人が数億人単位でいると言っても差し支えないであろう。
そこで、元々は上海の不動産を購入する前の2年間に合法的な納税と社会保険納付の記録があれば、上海の不動産を購入できたものを、今回の政策で5年延長した。
これにより、多くの外地の人が上海の不動産を欲しくても、買えないことになり、上海の不動産は一気に落ち着きを取り戻した。
反対に言えば、5年以上合法的に収めてきた人が多くないということになるが。
と言っても値段が下がったわけではなく、
ほぼ上がったままの価格で落ち着いたということ。
ただ、上海の不動産仲介会社によると、その政策後は市場の雰囲気が売り手市場から買い手市場に一気に変わったとのこと。
今回の相場で大きく売買が動いたのは3月の政策発表前までで、高めの売り出し価格を付けて、売れ残った物件はなかなか買い手がつかないと。
ちなみに、中国の毎日経済新聞によるとこの政策が発表されて前日に駆け込み需要が集中し、上海の一日の新築物件の販売件数が、なんと1700件、総面積で20万平方メートルを超えたとのこと(こうした情報が事前に漏れるところが中国らしくて面白い)。
少なくとも、これまで在庫物件に苦しんでいた不動産デベロッパーを救い、さらなる土地の仕入れを促進したいという政府の目論見は見事に成功したといえる。
■賃貸物件も値上がりし、日本人にも影響
とはいえ、今回の上げ相場、中国房地産協会発表のデータで見ると、平均で前年同期比30%程度の上昇となっている。
ただ、人気のある上海中心部では50%超、上がったところもあるほどの過熱であったわけだが、これにより一時取得者のハードルはより上がり、また賃貸価格も急上昇している。
日本の駐在員も契約更新による値上げで更新できず、より条件の悪い物件に移るケースも出てきているようだ。
また、値上がりを見込んだ業者が一棟もののサービスアパートを買収し、リノベーションした上で高値で分譲したり、さらに高級なサービスアパートにしたりして、より高値で賃貸する動きも活発になっている。
日本人が多く住む虹橋地区でも同様の事例があり、
日本人の世帯が百数十単位で追い出されるケースも出ており、同地区の賃貸市場の高騰に拍車をかけている。
同じく中国房地産協会発表のデータで見ると、上海の賃貸料は平均で前年同期比20%近くの上昇となっており、日本人が多く住む虹橋地区の人気物件の賃料の上げ幅はそれを上回るケースも多いようだ。
■シンガポール、香港の投資家が売り逃げた?
さて、今回私は複数の不動産仲介業者や最近不動産を買った友人と話をしていて面白い点に気がついた。
どうも今回の相場で売り手に回っていたのは、香港、台湾、シンガポールなどの 華人投資家と、その他の外国人投資家が多かったということ。
私の友人である上海で工場を経営する奥様が中国人のフランス人ファミリーも5、6軒の不動産を所有していたが、昨年から今年にかけて全て売却し、今は豪華な賃貸マンションに住んでいる。
これには、最近世界で言われている中国経済のハードランディング懸念も影響されているようで、
ここが売り時と感じた投資家が一気に売りに出た模様だ。
その背景には、これまで多くの不動産投資をしてきた香港財閥の李嘉誠が中国不動産のポジションをほぼ売却し終わったという話や、ジョージ・ソロスが今年1月に語った中国経済のハードランディング懸念が根拠になっている模様である。
前者が売却した原因は、中国の先行きに対する懸念も確かにあるが、それよりもこれまでのようなおいしい思いを中国でさせてもらえなくなったからではないかと、私は想像している。
後者については世界的な影響力は強すぎる大物であるので、どこまでが本音でどこからがプロパガンダなのか疑ってみたくなる気持ちも正直ある。
これに対し、買いを入れたのは、上記の通り、上海以外の中国人と売りに出た優良物件を拾いに来た上海の富裕層のようだ。
5月の連休中にいつも情報交換している中国のエコノミストとゴルフに行った。
ゴルフをしながら不動産の話になったら、なんと彼も今回の相場で優良物件を手に入れたと。
自分が住んでいる高級マンションの1LDKを香港のオーナーが手放したので投資用に買ったとのこと。
上海の銀座通りと言われる南京西路まで歩いて10分くらいの一等地で、占有面積40平方メートル程度、30数階南向きの高級マンションの価格が約1億円。
いつも、中国経済に対して極めて厳しい見方をする彼に「今こんな高値で買って大丈夫なのか?」と聞いたら、以下の回答だった。
■上海の投資家はまだまだ強気
⒈] 現在中国経済が厳しい局面にあるのは確かだが、上海の不動産はこれからもまだまだ上がるとみている。
⒉] 今回の売り手の香港人は多分香港の李嘉誠を見て今が売り時と思ったのかもしれない。
⒊ ] しかしながら、政策が緩和されれば、まだまだ上海の不動産を買いたい外地の人が控えているし、中国経済が本当に厳しくなれば中国政府は、まだまだ経済を立ち直すカードを持っている。
⒋] それでもハードランディングはあるかもしれない、ただ、歴史的に見て、中国が危機に陥れば陥るほど中国人は上海に避難しようとして、上海の不動産はもっと上がる可能性だってある。
日中戦争の混乱時にだって多くの中国人が上海に逃げてきたのと同じこと。
また、連休中、金融業で大成功している若手事業家にも話を聞いた。
彼はバンドを見渡す浦東の金融センターに位置する3億円は下らない高級マンションに住んでるが、近くで5億円くらいの優良物件が売りに出ているので購入を検討していると。
彼も上海の不動産がまだまだ安いとみており、香港の最高級の物件の単価は10倍するそうなので、上海もいずれ同程度になると見ていると。
ただ、彼も中国経済はこれから波を繰り返すので、下振れたときは必ず買いを入れて優良物件を拾ってゆきたいとのことであった。
ここで私が言いたいのは、売り手と買い手の認識のどちらが正しいか? ということではない。
外から見る中国と中から見る中国、また同じく中国で生活している人でさえ実際これほどの認識のギャップがあるということである。
この認識の違いも一つのファクトとして認識しておくべきではないか。
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サーチナニュース 2016-04-22 06:32
http://biz.searchina.net/id/1608025?page=1
各地でゴーストタウンが生まれた中国、
在庫解消にかかる時間は・・・
中国で不動産バブルが生じしていると指摘されて久しい。
現時点ではまだ崩壊はしていないが、中国各地でゴーストタウンが生じるなど、不動産市場が健全でないことは事実といえる。
中国メディアの東方財富網は18日、国際通貨基金(IMF)副専務理事の朱民氏が17日の記者会見で明らかにした中国の不動産在庫問題に対する見解について紹介。
朱民氏は中国の不動産市場に現在2つの問題が存在しているとし、
★.1つは価格が高すぎることであり、
★.もう1つは在庫が多すぎること
だと指摘した。
さらに朱民氏は2015年に行われた調査を紹介、その調査によれば
中国には10億平方メートルの不動産在庫が存在し、
当時の中国がこの在庫を消化するには4年から5年かかる計算だったと説明。
短期間では到底さばききれないほどの在庫が積み上がっている現状を指摘した。
一部調査によれば北京、上海、広州、深センなどの1級都市の不動産在庫の消化期間の平均は約9カ月だが、
2級都市は約12カ月、
3級都市になると19カ月になる。
一般的に中国の住宅販売在庫の健全な消化期間は10カ月と言われる。
従って特に3級都市において不動産在庫は深刻な問題になっていることがわかる。
北京や上海などで生じている不動産価格の急騰は供給不足によるものであり、
一方で3級都市の不動産在庫は需要不足や購買力不足によるもので、
3級都市においては不動産在庫問題が大きな圧力になっている。
3級都市に存在する不動産在庫問題を解決するため、中国政府は農民工に向けて住宅を購入するよう奨励しているが、収入の低い農民工が不動産を購入などできようか。
不動産投資は中国の国内総生産(GDP)への貢献度が大きいうえに、
建設に関連する他産業への影響も大きいだけに、中国としては何としてもこの問題を解決したいところだが、道のりは決して平坦ではなさそうだ。
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現代ビジネス 2016年04月25日(月) 近藤 大介
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/48518
中国でキケンな「不動産バブル」が再燃中!
消費低迷でも「6.7%成長」のカラクリ
焚きつけているのは中国政府だ
■国家統計局長の「突然の失脚」
中国の国家統計局が発表する第1四半期(1月~3月)の各種主要統計が出揃った。
統計の解説の前に、まずは国家統計局の「顔」である王保安局長(大臣)が、1月26日に忽然と消え、2月26日から、国家発展改革委員会の寧吉喆副主任が、局長に天下った一件から述べよう。
王局長は1月19日に記者会見を開き、内外の記者団を前に、
「2015年の中国のGDPの成長率は6.9%だった」
と胸を張った。
その二日後の1月21日、世界経済フォーラム年次総会(ダボス会議)で、ブルームバーグのインタビューに応じたジョージ・ソロス氏が、こう言い放った。
「中国経済は、ハード・ランディングに向かっている。
グローバルなデフレ圧力を悪化させる急落だ。
それが株価を引き下げ、アメリカ国債を引き上げる。
この中国のハード・ランディングは、現実問題として、避けられないものだ」
この不気味な予言が世界を駆け巡ったことで、中国に対する不信が、一気に広がった。
そこで、このソロス発言を打ち消そうと、1月26日、王保安局長が再度、記者会見に臨んだのである。
王局長は、いつもの強気の口調で、こう述べた。
「中国経済のプライオリティと、V字回復の勢いはまったく変わっていない。
ソロスのうわごとのような中国経済の予測は、起こりようもない。
中国の株価が多少下がったからといって、それが中国経済全体に与える影響は微々たるものだ。
中国の株式市場は、これからも自信を持って進んでいく」
だが、王局長の防戦虚しく、この日の上海市場は6.4%、深圳市場は6.9%も暴落したのだった。
それはそうと、この会見の直後、思わぬ展開になった。
国家統計局の内部事情に詳しい中国の経済関係者が明かす。
********
「王保安局長の記者会見が始まったのが、午後3時だった。
4時頃に会見を終えた後、王局長は夜7時半から、国家統計局の幹部たち全員に招集をかけ、『国家統計局活動会議』を行うとしていた。
国務院を統括する李克強首相の新たな講話を学習するというのが、会議の目的とされた。
幹部たちは、『なぜ夜に会議なんか開くのか?』と訝りながらも、待機していた。
だがその実、王局長は局長専用車の運転手に、会見が終わったら、北京首都国際空港に向かうよう指示していた。
同日夜7時発のパリ行きエールフランスと、夜9時発のフランクフルト行きルフトハンザのファーストクラスを、それぞれ2枚ずつ予約していた。
身の危険を察した王局長は、何と愛人とヨーロッパに亡命するつもりでいたのだ。
会見が終わった後、王局長は隣の控え室に移り、そこに置いてあったカバンとコートを取って出ようとした。
その時、党中央紀律検査委員会副書記と助手、それに二人の特警(特殊警察)が控え室に踏み込み、王局長を引っ捕らえた。
王局長のカバンの中からは、『黄国安』『丁毅』という名義の2枚の偽造公用パスポートが見つかった。
愛人は、北京首都国際空港の貴賓室にいるところを引っ捕らえられた。
王局長には、古巣の財政部時代に、数億元を不正蓄財し、それらをアメリカとヨーロッパに隠匿していた容疑がかかっている」
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このような無様な大臣が、「中国のGDP成長は6.9%」と胸を張っていたのだ。
中国内外の多くの経済専門家が、「中国GDP虚偽論」を唱え始めている。
私も昨年、6回訪中したが、「肌感覚」として6.9%も成長しているようには、とても思えない。
■新局長となった寧吉喆という男
ともあれ、そんなわけで2月26日、国家発展改革委員会の寧吉喆副主任が、新たに国家統計局長に就任した。
寧局長は1956年、安徽省合肥市生まれで、合肥工業大学電気システム学科を卒業。
中国人民大学で経済学の修士号と博士号を取った。
1988年に、国家計画委員会(現在の国家発展改革委員会)に入省し、主に西部大開発を担当してきた。
西部大開発というのは、江沢民時代後期の2000年から現在まで続く、発展の遅れた西部地区を発展させていこうという国家プロジェクトだ。
その後、国務院研究室に移り、習近平政権が発足して間もない2013年8月に、国務院研究室主任に就任した。
昨年8月に、古巣の国家発展改革委員会に、副主任として戻ったが、1月末の「王保安事件」で国家統計局が大揺れとなったため、急遽、国務院を統括する李克強首相に送り込まれたのだ。
李克強首相と寧局長が話す時は、安徽省方言を使うほど、李首相から信任を得ている。
その寧局長になって初めての経済統計発表が、4月15日に行われ、4月19日に寧局長自身が、「中国政府ネット」で解説した。
まず、1月から3月までの第1四半期のGDPは、15兆8526億元(1元≓16.9円)で、6.7%の成長率だったという。
寧局長のコメントは、以下の通りだ。
「中国経済の総量はすでに巨大だが、その巨大な中にあってこれだけ成長しているのだから、これは他の主要国と較べてもベストの展開だ。
わが国の経済成長の速度は、アメリカ、日本、ドイツなどよりも、はるかに高速なのだ」
今回、発表された経済統計で、ひときわ目を引いたのが、不動産の動向だった。
3月の主要70都市の不動産調査で、新築商品住宅(マンション)価格が2月から上昇したのは、62都市に上った。
また、中古住宅(マンション)価格が上昇したのも、54都市に達した。
前年同月比で見ると、北京の新築マンションは116%、上海は125%、深圳に至っては161%にハネ上がった。
同様に中古マンション価格は、北京が135%、上海が127%、深圳が160%に上昇した。
第1四半期の全国不動産開発投資額は1兆7677億元で、名目で6.2%(物価要素を控除すると9.1%)伸びている。
昨年通年の伸びが1.0%だったことを鑑みれば、まさにV字回復しているのだ。
■あまりにも場当たり的な経済政策
このカラクリは、
中国政府が固定資産投資を増加させ、「政府主導型の不動産バブル」を演出
しているからに他ならない。
2013年に習近平政権になってから、「八項規定」(贅沢禁止令)と腐敗防止を徹底させ、都市部のマンション購入の規制も強めたため、不動産バブルは崩壊した。
習近平政権は、不動産バブルを崩壊させた代わりに、株式バブルを演出した。
新築不動産は日本円で1000万円超からしか買えないが、株なら5万円からでも買えるため、より広範な庶民の支持を得ようとしたのである。
それによって2014年後半から2015年前半にかけて、株式バブルが起こった。
だが昨年6月に、株式バブルも崩壊してしまった。
そこで再び、不動産バブルの「演出」を始めたのである。
そうしたら、北京、上海、深圳と、どんどん上がり出した。
「もはや危険水域に達した」と見た上海市は、3月25日に突然、新たな規制を発表した。
それは、上海市の都市戸籍を保有していない中国人は、社会保険料を5年以上払っていなければマンションを買ってはならない(それまでは2年だった)。
2戸目のマンション購入は、マンションの種類によって、最低頭金を5割もしくは7割に引き上げるというものだ。
あっちへ行ったりこっちへ行ったりと、ジグザグと場当たり的に進むのが、習近平政権の経済政策の一大特徴である。
よく言えば、中国人的な「走りながら進む」臨機応変の方法だが、あまりに朝令暮改で、政策が変わるたびに国民は振り回されている。
要は経済に対する理念・哲学といったものが欠如しているのである。
不動産に関しては、寧局長はこう語っている。
「第1四半期の商品型不動産の売り上げ面積は3割強伸び、売上高は5割強伸びた。
不動産価格も伸びている。
不動産というのは、あらゆる産業の支柱となる産業だ。
今後は不動産価格が過度に上がるのを防ぐことと、同時に多くの人がマイホームの夢を実現できるようにしてやることが大事だ」
あっちも取りたいし、こっちも欲しい。
まさに習近平政権の新たな国家統計局長らしい言い草である。
寧局長は、こうも述べている。
「野菜を買う消費者は、最近物価が上がって大変だという。
だが野菜を作る生産者は、最近物価が下がって大変だという。
政府はさらに努力して政策を磨き、いち早く問題点を改善していかねばならない」
何だか煙に巻いたような結語である。
日本の国会にも「官僚答弁」というものがあるが、中国式の「官僚答弁」なのかもしれない。
もっとも国家統計局は、決して権限の強い官庁ではないので、彼らにも悲哀があるのだろう。
■「消費の転換」は起こってるかもしれないが…
ところで、気になる統計データもあった。
第1四半期の固定資産投資の伸びが、10.7%に達したのだ。
こちらは、ありがたくないV字回復である。
中国は、リーマン・ショック後に4兆元(当時の邦貨で58兆円)もの緊急財政支出を宣言して、世界経済復活の牽引役となった。
この時に主導したのが、固定資産投資だった。
日本で言う公共投資である。
だが固定資産投資が過ぎたために、鉄鋼業や石炭業などが生産過剰に陥り、全国に「鬼城」(ゴーストタウン)が溢れた。かつて日本で、誰も通らない高速道路や誰も行かない公民館などを、どんどん作っていったようなものだ。
そこで習近平政権になってからは、このゾンビのような固定資産投資を減らしていき、国民の消費が主導する健全な経済発展を目指したのだった。
昨年の第1四半期で13.5%まで減らし、昨年通年では、ついに10.0%まで落とした。
さらに減らしていき、その分、消費が増えていけば、晴れて中国経済復活の暁光が見えてくる。
ところが、今年第1四半期の民間の固定資産投資は、5.7%まで落ちた。
そこで再び、政府による固定資産投資の増加という「悪癖」が始まったのだ。
国家統計局が3ヵ月ごとに発表する経済統計を見ていて、多くの専門家は、GDPの数値が虚偽ではないかと指摘する。
だが私が思うに、もっと信用できないのが、消費額が常に二ケタ成長していることである。
3月の小売消費額は10.5%も伸びている。
総額7兆8024億元も消費したという。
昨年4月から今年3月までの一年間の数値は月ごとに、
10.0%、10.1%、10.6%、10.5%、10.8%、10.9%、11.0%、11.2%、11.1%、10.2%、10.5%
である。
だがこの間に、
株式バブルは崩壊して、
1億8000万人の「股民」(個人投資家)が多大な損失を出し、
地方経済は崩壊し、
工場は閉鎖され、
デパートやレストランはバタバタ潰れ……。
繰り返しになるが、私は昨年6回、訪中し、大都市から地方の農村まで回ったが、消費が年に10%も伸びているとは、とても思えなかった。
それでも無理やり肯定しようと思えば、物価が上がった影響で、消費額が上がっているということだ。
私は中国へ行くたびに、セブンイレブンに入って、商品価格を定点観測しているが、
今年1月の時点で、おにぎり、弁当、缶コーヒー、カップラーメンなど、だいたい日本の8割から9割の間くらいの価格まで来ている。
しかも毎年1割分くらい、価格が上昇している。
つまり、消費額の上昇分と合致するのである。
消費動向について、寧局長は、次のように説明している。
「私はエンゲル係数に着目している。
過去には消費のうち5割は食品だったが、現在のエンゲル係数は3割程度まで下がってきている。
これは経済が好転している証左だ。
今年に入って、旅行の消費やSNS消費、ネット消費などが、3割近く増えている」
確かに、ネット通販が消費を牽引していることは認める。
ただ第1四半期のネット通販は、前年同期比27.8%増の1兆251億元に上り、消費全体の10.6%となったとはいえ、まだ消費全体の1割である。
かつ肌感覚では、ネット通販が増えた以上に、店舗販売額は減っている。
寧局長が言うように、「消費の転換」は起こっているかもしれないが、それによって全体の消費量は下がっている印象なのだ。
実際、消費に直結する輸入額は、昨年13.2%も減少している。
■65歳以上が総人口の1割を突破
さて、国家統計局は4月20日、もう一つ興味深い統計データを発表した。
それは、「2015年全国1%人口ピックアップ調査主要データ公報」である。
中国は10年に一度、西暦で末尾がゼロの年に、人口調査を実施している。
だが最近は中国社会の変化が激しいので、中間にあたる
西暦の末尾が5の年(2015年)にも、人口調査を行ったというのだ。
予算や人員の関係から、人口の1%をメドに行ったのだという。
実際には、総人口の1.55%にあたる2131万人を調査した。
この「公報」によれば、2015年11月1日午前0時現在の中国大陸の総人口は、13億7349万人で、5年前の13億3972万人よりも3377万人増加したという。
増加率は、2.52%で、年換算すると、0.50%だ。
また、家庭数は4億947万戸で、平均家族数は3.10人。
男性は7億356万人で51.22%、女性は6億6993万人で48.78%。
女性を100とすると、男性は105.02で、これは5年前の105.20に較べると、改善が見られる。
民族別に見ると、漢族が12億5614万人で、91.46%。
55の少数民族は、計1億1735万人で、8.54%である。
漢族はこの5年で3021万人増え、少数民族は356万人増えた。
注目すべきは、年齢別人口である。
65歳以上が1億4374万人と、日本の総人口を上回る数だ。
しかもその比率が10.47%と、5年前の8.77%から1.60%も上昇し、初めて総人口の1割を突破したのだ。
これは中国社会が、ものすごいスピードで老齢化社会に向かっていることを意味する。
このペースで進めば、20年後には深刻な社会問題と化すだろう。
だが大卒も、1億7093万人もいて、こちらも日本の総人口を5000万人も上回っている。
豊富な「人材」に、中国の将来を託すしかない。
ちなみに前回、2010年の人口調査の時には、私も北京に住んでいたので経験している。
その時、私が住んでいたアパートにも調査員のオバサンがやってきて、性別、生年月日、民族、学歴などを聞いてきた。
私は、
「自分は日本から来た駐在員であって、中国人ではない」
と説明した。
するとオバサンは逆ギレして言った。
「そんなの、私の知ったことではないわ。
一人あたり2元もらえるんだから、あなたを数えたっていいでしょう」
首都・北京でさえ、こんな調子だった。
それからしばらくして山西省の僻地の村へ行った時、地元の人にどうやって人口調査をやったのか聞いてみた。
すると、こう答えた。
「各村の村長や党書記に電話をかけ、だいたいの人数を聞いて終わりだよ。
だってそうした方が、調査費が浮くではないか」
こうした経験をしたため、なぜ大仰に全国で人口調査なんかやるのかと思った。
そもそも中国には、15ケタか18ケタからなる身分証が全国民に与えられているので、身分証発行元の公安部は、正確な人口を把握しているはずではないか。
当時、少なからぬ中国人にこの疑問を投げかけ、帰ってきた回答も多岐にわたったが、
その中で納得できたものが二つあった。
★.一つは、一人っ子政策などのため、身分証を持たない「無戸籍者」(こっそり産んだ二人目以上の子供)が数千万人単位でいるというのだ。
だからきちんと対面して調査を行う必要がある。
★.もう一つは、公安部が掴んでいる正確な人口は、すでに15億5000万人を超えている。
そんな数は国家が養えないから、人口調査をやって、わざと少ない統計が出るようにしているというのだ。
いずれにしても、中国で正確な統計データを取るのが難しいこと、及び
中国の統計データには多くの場合、「目的」がある
ということを、理解したのだった。
』
『
現代ビジネス 2016年04月26日(火) 高橋洋一
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/48521
中国「GDP世界二位」の大嘘を暴く!
~デタラメな数字を産む統計偽装のカラクリが分かった
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元財務官僚で、内閣府参事官(経済財政諮問会議特命室)などを歴任した高橋洋一氏の新著『中国GDPの大嘘』。
発売即重版となった話題の一冊を特別公開する。
******
■あまりに悲観的な中国の未来
2016年に入って世界経済が混沌としてきた。
そして、この混乱はしばらくおさまりそうにもない。
その震源地の一つに中国経済の崩壊がある。
中国の株式市場は2015年夏に始まり、
2016年春の段階で立ち直りの兆しは見えない。
株式市場の混乱は実体経済を脅かし、それがさらに株式市場を混乱させる「負のスパイラル」は今後も続く可能性大である。
さらにいえば中国経済の崩壊は、まだ序章に過ぎず、これから本格化すると私は見ている。
それはあたかも、ソビエト連邦崩壊を想起させる状況であり、これは偶然の一致ではない。
法政大学に日本統計研究所という研究機関がある。
ここが興味深い研究レポートをまとめてくれた。
ソ連の崩壊の原因にもつながった統計偽装について、その実態を生々しく伝えてくれているのだ。
ソビエトが崩壊したのは、その経済停滞が大きな要因だが、ソビエトを間違った方向に導いたのが統計偽装である。
統計偽装はソ連崩壊まで続けられ、その日まで公にならなかた。
白日のもとにさらされるようになったのは、ソ連が崩壊し、関係者がようやく自由に発言できるようになってからである。
中国は、ソ連をまねて中央集権的な統計組織を構築。現在では中国国家統計局として、各種統計を集中管理している。
当然、統計の算出方法もソ連から指導を受けていると推察される。
現在の中国は、情報公開の面で国際機関による調査団を受け入れないだろう。
ということは、しばらくの間、中国の統計は信用できない。
そこで私は、中国経済の実態に迫るとともに、中国統計の偽装についても調べてきた。
そこから導き出された答えは、あまりにも悲観的な中国の未来である。
今後、さらに混乱を招く中国情勢が、世界に波及する
――この事態にどう対処したらいいのか。
その解を求めるのはかなり困難かもしれない。
しかし看過しておけば、中国人民のみならず、日本を含めた諸外国まで災禍に巻き込むことになる。
最悪の事態だけはなんとか避けられないものか。
どこかに処方箋がないものか。いまからでも間に合うのではないか――。
そんな思いから、私は中国経済に関する新著を上梓した。
その一部を、二回に分けて公開したい。
■ソ連のデタラメ統計を受け継いだ中国
大きな船が航海に出たとしよう。
安全な航海には信頼できる海図と、航路を綿密に調べ上げたデータ、そして船の正確な状況認識が必要だ。
そういった情報なしに出航したとしたら、どうなるだろうか。
しかも自分のことしか考えない、チームワークの悪いクルーたちによって運航されているとしたら……
誰がこんな船に乗りたいと思うであろうか。
知らずに乗っている乗客は、不幸の極みというほかはない。
この船の航海は、国家の運営にもたとえられる。
国家の政治・経済の運営に必要な「海図」は、各種統計データということになる。
正確な統計データがあってこそ、国の進路を誤らない政策が打ち出せるというものだ。
ところが正確な統計データを出さない、作れない、データを捏造、改竄していたとしたら、どうなるであろうか。
航海でいえば、いいかげんでデタラメな海図を作り、それを頼りに海に出るようなものである。
遭難した船は沈没する。
では、遭難した国家はどうなるか……。
中国当局が発表する統計データや経済指標は、押しなべて信用できない。
その解説は後述するとして、
なぜ統計データがいいかげんに作成されるか、
その理由から説明しよう。
中国の統計システムは、社会主義国家の「先輩」である旧ソビエト社会主義共和国連邦(ソ連)に学んでいる。
1949年に誕生したばかりの中華人民共和国は、経済的な大改革を断行した。
が、その司令塔は、ソ連大使館だった。
ソ連から一万人もの顧問が北京にやって来て、四万人のロシア語を習得した中国人ともに中国の産業育成に当たった。
中国の経済は10年以内にイギリスを追い越し、15年以内にアメリカに追い付くという目標を打ち立てて――。
そのロシア人顧問団が持ち込んだなかに、旧ソ連の統計システムもあった。
アメリカに追い付くという壮大な目標は達せられなかったものの、それなりに産業は育っていった。
すると1960年、毛沢東はロシア人の顧問団を追い返し、ソ連式のシステムを中国独特のシステムに改めようとする。
そうして大躍進政策や文化大革命を経て、鄧小平の改革開放を迎える。
その間、このソ連式の統計システムだけは脈々と生き残っていたのである。
その手法はソ連国内で50年間も使用され続け、デタラメ統計を生み出してきた。
これをもとに国家運営するわけだから、国家が崩壊するのも無理はない。
問題は、そのデタラメ統計を世界が信じていたということ――。
■捏造は、半端なレベルではなかった
たとえばアメリカのノーベル経済学賞受賞者のポール・サミュエルソン。
彼はソ連が出すデタラメ数値を信じて、「ソ連は成長している」と言い切ってしまった。
サミュエルソンほどの偉人ですら騙されてしまう。
それだけ、統計データの虚偽を見抜くのは難しいことなのである。
しかも、ソ連がやっていた捏造は、半端なレベルではない。
ソ連が崩壊してみて初めてわかったことだが、実は、そのGDPは半分しかなかった。
1928年から1985年までの国民所得の伸びは、ソ連の公式統計によると90倍となっているが、実際には6.5倍しかなかった。
平均成長率に至っては、8.3%成長しているとしたのに、実際は3.3%しかなかった……。
この事実は、ソ連が崩壊して初めて明るみに出た。
ゴルバチョフ書記長は人がいいので「ペレストロイカ」(改革政策)や「グラスノスチ」(情報公開)をやってしまい、白日のもとにさらしてしまったのだ。
この統計システムをそのまま引き継いでいる中国が、果たして正確な統計の取り方をしているかどうか。
「お師匠」がデタラメだったから「生徒」は真面目にやります、ということが果たして起こりえるのか。
次にその検証を行いたい。
■偽造統計はこうして作る
まず、ソ連が長年にわたって虚偽の統計を取り続けてきた理由と手法を探ってみよう。
旧ソ連およびロシアの統計に関して、興味深い研究レポートがある。
一つは、法政大学日本統計研究所が発行した『ロシアにおける統計制度・政策の改革(Ⅱ)』(1994年)。
これは経済学博士でロシア科学アカデミー・ヨーロッパ比較社会・経済研究主任のヴァレンチン・ミハイロヴィッチ・クロードフ氏の論文「1991~1993ロシア経済状況の統計と判断」と題された論文などを集めたものだ。
もう一つは、同じく法政大学日本統計研究所がまとめた『統計研究参考資料 No.32 ペレストロイカとソ連統計』(1989年)。
これはソ連中央統計局長のエム・エス・コロリョフ氏の論文「統計のペレストロイカの諸課題」などを収録した論文集である。
いずれも旧ソ連の統計作成に責任者として直接関わった、
あるいは間近にいた人々の書き記した論文だけに、生々しい実態が明らかにされている。
結論からいうと、諸悪の根源は社会主義体制下における官僚主義だ。
計画経済における無理な経済政策も元凶だと断言していい。
これは社会主義国・ソ連の誕生とも関係している。
社会主義国の誕生直後は、アメリカを代表する資本主意国家陣営と張り合った。
そうした構図が世界地図上に描かれた。
「経済発展において、なんとしても資本主義国家には負けられない」
という意識と自負心がソ連首脳部に強かったことは、これらの論文からもうかがえる。
当時、統計システムとして有効な手法が現われると、時の書記長、スターリンは「数字の遊び」と批判し、封じている。
スターリンがなぜ、この有効な手法を封印したか正確な理由は記されていないが、想像はつく。
このスターリンの仕打ちを批判した経済学者で、ソ連中央統計局を指導したぺ・イ・ポポフが次のような言葉を書き遺している。
「統計は、それぞれの時点において希望される数字を与え得るものではない
……それは現実を表現する数字だけを与えるのだ」
わかりやすくいうと、国が計画し目標とした数値に統計を合わせるのではなく、現実や実態を表すのが統計だ、というのだ。
民主主義国家では当たり前のことが、統制経済下では、当たり前ではなかった。
■疑うヤツは人民の敵
このように正確な統計データを集計しようとした指導的職員は、統計機関から追放された。
多くの真っ当な統計家は、「人民の敵」というレッテルを貼られ、弾圧されていった。
わかりやすくいえば、国が立派な経済計画を立てたのだから、どんなことがあっても達成したことにしなければならない、統計はそれに合わせるべきだ、という国家の意志が強く作用している。
これは企業の粉飾事件にも似た構図がある、
2015年に発覚した東芝の粉飾事件も同様の構図。歴代の社長が、自分が社長でいる間は好業績でなければならない。
そこで、数字を操作して部下たちに好業績をでっち上げさせた。
東芝と社会主義国の統計システムは二重写しになる。
上場企業の場合、監査法人による監査を受けて決算手続を終える。
この監査は、企業の役員等とは利害関係のない、あくまで第三者でなければならない。
独立性が保たれていなければならないのだ。
つまり、監査に、情実による手心が加わってはならない。
同様に、統計データを作成する組織にも、独立性がなければならない。
ソ連の統計システムの欠点は、この自主独立の統計活動が保障されていなかった点にある。
官僚主義の問題と偽造統計システムの手法は、それをそっくり導入した社会主義国家としての「後輩」である中国にも引き継がれている。
そう、十分に想像がつくのだ。
後編では、いよいよ中国経済の大嘘を暴いていこう。
』
『
現代ビジネス 2016年04月27日(水) 高橋洋一
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/48522
中国経済、調べてみたらやっぱりウソだらけ!
~本当のGDPは、公式発表の3分の1!?
*****
発売即重版となった、高橋洋一氏の話題の書『中国GDPの大嘘』。前編ではソ連のデタラメな統計と、その手法を中国が継承してしまったことを指摘したが、後編ではいよいよ中国の「間違いだらけの数値」を暴いていく。
■中国の首相自身も信用していない経済統計
「中国の経済統計、指標などまったく信用できない」
こう公言したのは、のちに首相の座に就く李克強である。
オフレコではあったが、この発言が飛び出したのは2007年9月、大連で開催された「第一回ダボス会議」でのこと。
当時、李克強は遼寧省の共産党委員会書記、すなわちトップで、温家宝首相とともにダボス会議のホスト役を務めていた。
冒頭の衝撃的な発言が飛び出したのは、アメリカ経済界代表団との会食の席だった。
オフレコという前提で、
「中国の経済統計、指標は、まったく信用できない。
遼寧省のGDP成長率も信用できない。
私が信用してチェックしているのは、わずか三つの統計数値だけ。
その三つとは電力消費量、鉄道貨物輸送量、銀行融資額。
この三つの統計を見て、遼寧省の経済成長の本当のスピードを測ることが可能になる。
他の中国の経済統計、とりわけGDPなどは、ただの『参考用数値』に過ぎない」
と漏らしてしまったのだ。
同席していたアメリカの駐中国大使、クラーク・ラントは国務省に報告。
これは部外秘だったが、2010年、機密情報を漏洩させる
ウィキリークスによって暴露
されてしまった。
この後、李克強が信用していたとされる三つの指標は「克強指数」とまでいわれるようになり、一部のエコノミストやメディアが信頼する数値となっている。
克強指数についても後述するが、李克強自身が「参考用数値」と述べたGDPに関しては、参考にすらならないという事実を、説明しよう。
■中国の「実際の数値」を暴く方法
経済統計の数値の真贋を見抜くには、複数の統計を合わせてみるとわかる。
そうして矛盾点があるか整合性があるかを見極め、統計数値の信頼性を計るのだ。
たとえば前述したGDPと失業率の関係。
ところが中国は失業率を発表していない。
社会主義国の「建前」として失業はないということなのかもしれない。
そこで私が注目したのが貿易統計だ。
中国が発表する統計のうち、数少ない、というか、
唯一信用できるのが、この貿易統計。
貿易統計は外国との関係もあって捏造しにくい。
相手国の「正しい」対中国貿易量を集計すれば、正確な数値が求められるからだ。
この事実を踏まえて2015年の中国の貿易統計をチェックしてみると、
輸出額は前年比8.0%減。
輸入額たるや14.1%の減少
となっているが、
中国当局はその原因を資源価格の低下、としている。
しかし、同年の中国のGDPに対する貿易依存度は「40.25%」
……GDP成長率6.9%を達成したとしたら、内需が異常に上昇した、ということになる。
中国では、習近平が国家主席に就任すると、最低賃金を引き上げている。
場所によってまちまちだが、おしなべて3年で四割ほど最低賃金は上昇している。
それに合わせて物価も上昇。
コンビニを覗いてみるとわかるが、商品によっては日本の物価より高くなっているケースも珍しくない。
前に紹介したように、イギリスのBBCニュースが疑問を投げかけているように、「成長率6.9%」という数値にも、大いに疑問が付いて回る。
そこで、どうしてこの「偽装数値」が出てきたのか、私なりの推測を述べてみよう。
■「2020年にGDPと国民の平均収入レベルを、それぞれ二倍にする」
二倍の基準は2010年比だ。
これを達成させるには年平均七%成長が求められる。
習近平に限らず中国人のメンタリティでは、メンツを重んじる。
なにより景気が悪くなれば、政権基盤を揺るがしかねない。
それ以降、七%成長は政権の至上命題になったのだ。
「公式統計」によれば、2012年の固定資産投資総額はおよそ36兆人民元(610兆円)。
前年比20%という高い伸びだ。
投資の伸びで、この年の成長率も、かなり押し上げられている。
ちなみに、公式発表では2012年のGDP成長率は7.8%になっている。
「中国の夢」という大風呂敷を広げただけあって、その年はどんなことがあっても高い成長率を維持しなければならなかった、そういう事情が強くうかがえる。
ところが2013年には景気が息切れしてきた。
李克強は懸念を示し、
「経済成長を達成させるための経済刺激、政府の直接投資に頼ろうとしても、その余地は決して大きくはない。
市場メカニズムに任せなくてはならない」
と発言したのだ。
無理に成長を維持しようとするなら、もう一段の投資を行わなければならない。
李克強はそれには限界があるとし、低成長の痛みを受け入れるよう求めたのだ。
■4年間で約2000兆円の景気刺激策を行った結果…
さらに中国には、2008年の四兆元(約68兆円)投資と、空前の金融緩和による後遺症がある。
このとき、リーマンショックによる経済の落ち込みを防ぐための大型投資を行なったのだ。
これが奏功し世界経済は立ち直りのきっかけをつかんだが、中国はその後、過剰設備などに苦しむことになる。
しかも四兆人民元のはずだった景気刺激策はその後も続き、
2009年からの四年間で、
なんと110兆人民元(およそ1900兆円弱)の固定資産投資が行なわれた。
過剰な投資は、各地にゴーストタウンを生み出すなど、いまだに負の遺産を遺している。
そのような背景もあって、李克強は経済政策の転換を匂わせた。
しかし中国政府内でも、これに同調する容認派と慎重派に分かれた。
特に2014年には、全国人民代表大会(全人代=日本の国会に相当)の前に、習近平主席と李克強首相との間で衝突があったという。
その年のGDP成長率7%を提案した李克強に対し、習近平は7.5%を主張して譲らなかったというのだ。
習近平の「中国の夢」にこだわる一面だった。
さらに一年後の全人代では「7%前後」と、前年より目標値を下げている。
しかも「前後」としているところがミソだ。そ
れだけ自信がなかったかとも受け取れる。
そして2015年のGDPの伸び率は6.9%……かなりゲタを履かせた数字であることは容易に想像がつくが、実は発表前から「発表される数値は6.8とか6.9あたりではないか」という予想が、私の耳にも届いていた。
別に正確かつ実態を表した数字を予想してのことではない。
「政治的に装飾された数値」としての数字だ。
つまり、経済成長が続いている資本主義社会では、成長率7.0%や6.9%の違いは、さほどではない。
この程度なら統計誤差の範囲であり、ほぼ目標達成と胸を張れる数値だ。
しかし中国では、これは多分に政治的なメッセージなのである。
すなわち対外的には、「やや経済成長は鈍化しているけれど、心配しなくてもいい」という、やや願望を込めたメッセージ。
そして国内的には、「七%達成はなんとしてもやり遂げる」という強い意志の表明なのである。
が、その中国も、統計のゴマカシもそろそろ限界と見て、今後少しずつ数値を下げてくることは間違いない。
日本のメディア、特にNHKを代表とする大メディアは、中国当局の発表をそのまま受けて、「7%成長を割り込むのは実に25年ぶり」などと伝えているが、実態はもっとかけ離れたところにある。
■実際のGDPは発表数値の3分の1!?
ここでもう一度、2015年の「中国GDP成長率7%」について検証してみよう。
2015年通期の成長率は六・九%だったが、上半期に限っていえば7.0%を達成。
年初に立てた目標に達したわけで、決して低い成長率ではない。
その一方で、中国政府は、2014年11月から翌年8月までの間、五回もの金利の引き下げを行なっている。
さらに公共事業も追加で行うなど、景気刺激策に躍起になっていた。
7%もの経済成長を達成したとすれば、そこまで景気刺激策を施さなくてもいいはずなのだが……。
別の角度から見てみよう。
信用できない中国の経済統計のなかでも、
農業生産と工業生産に関しては、しっかりデータを取っている節がうかがえる。
小売や物流といった第三次産業に関する統計には弱点があるものの、計画経済を進めるために、1950年代からしっかり生産量のデータをとっていた。
この農業および工業の2015年のGDP成長率を産業別のデータのなかから見ると、農林業に畜産と漁業を加えたところで3.6%、工業が6.0%の成長となっている。
この業種別GDPのほかに、自動車、鉄鋼、電力といった主要二七の工業製品の生産量データも出される。
これらをチェックしてみると、2015年上半期に六%以上の成長を達成した製品は四製品のみ。
さらに、13の工業製品は、伸び率がマイナスを記録している。
工業製品の生産量の伸びは平均で1%程度。
工業製品のデータに関しては割と正確に採取される。
そうなると、産業別の成長率六%の伸びと、工業製品別の生産量の伸びとが、かなり乖離していることがわかる。
粉飾の匂いがプンプンするのは工業成長率6%だ。
こういった数値を積み重ね、重ね合わせていくと、どうしても中国経済GDP6.9%成長というのは、相当にゲタを履かせた数値だということが判明する。
私は、中国の実際のGDPは、公式発表されている数値の三分の一程度ではないかと見ている。
(続きは本書をご覧ください)
●中国経済の暗い未来を指摘する話題の書。世界、そして日本への影響は?
』
『
現代ビジネス 2016年05月15日(日) 週刊現代,高橋洋一
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/48627
中国の成長率は、やはり、とんでもないデタラメだった!!
株価が暴落し、失業者が街に溢れてもなお、経済成長をアピールし続ける中国政府。
このほど『中国GDPの大嘘』を上梓したばかりの気鋭のエコノミストが、そのデタラメを看破する。
■国ぐるみの「粉飾決算」
今年に入って、世界経済が混沌としてきた。
その大きな要因は、間違いなく中国経済の崩壊にある。
年明け早々に株価が暴落し、上海株式市場は取引中止に追い込まれた。
そして株式市場の混乱が、今度は実体経済を脅かしている。
4月15日、中国が1-3月期のGDP(国内総生産)成長率を発表した。
前年同期比、6・7%増—。中国政府は今年の成長率目標を「6・5~7%」と、昨年の「7%前後」から引き下げていたが、この範囲内にぴったりと収まる数値。
今回発表された成長率が、政府によってコントロールされたものであることは明らかだ。
■中国の成長率は、やはり、とんでもないデタラメだった!!
それどころか、日本はいまでもGDP世界2位の経済大国、
中国には「失われた100年」が待っている!?
過去2年間における8つの四半期の成長率の動きは次の通り。
7・3%→7・4%→7・1%→7・2%→7・0%→7・0%→6・9%→6・8%。
こうして中国の成長率は「規則正しく」低下しているが、実際には、経済統計がこんな規則的な動きを見せることはあり得ない。
例えば、直近5年間の先進各国のGDP成長率がどれだけ大きく変化したかを、
「変動係数」という指数で見てみよう。
値が大きいほど、変動が大きいということになる。
日本2・4、アメリカ0・3、イギリス0・3、カナダ0・4、フランス0・9、ドイツ0・9、イタリア2・3。
原油価格の変動を受けて、世界各国のGDPが大きく変動しているのがわかる。
そんななか、中国の変動係数はわずかに0・1。
世界各国の経済変動に比べ、この安定ぶりは異常だ。
現実にはあり得ないと言える数値なのだ。
このように、中国が発表する経済統計は、実態というより政府に都合の良い「公式見解」に近い。
今回に限らず、中国が作成したあらゆる統計データや経済指標は、おしなべて信用できない。
なぜなら、かつてのソ連がそうであったように、社会主義国で重視されるのは「真実」よりも「メンツ」だからだ。
国が立てた経済計画は、どんなことがあっても達成したことにしなければならず、統計の数字は、その目標に都合の良い様に作り出すものなのだ。
いわば、国ぐるみの「粉飾決算」といえる。
特に、中国には体面を何よりも重んじる国民性がある。
面白いエピソードをひとつ紹介しよう。
中国はいま高速鉄道の海外輸出に力を入れているのだが、その売り文句として「中国の高速鉄道は事故を起こしたことがなく安全」と世界中で触れ回っている。
大抵の人はおや、と思うはずだ。
'11年に浙江省で起きた脱線事故は死者40人以上(実際には100人を超えるとの情報もある)。
中国当局が事故後すぐに車両を埋めて隠蔽しようとしたエピソードも相まって、大きなニュースになった。
だが、中国は今になって「あれは高速鉄道ではなく、特別快速列車だった」というおかしな理屈を立て、死亡事故を無かったことにしようとしている。
事故を起こしたのは、あくまで「特別快速列車」だから、高速鉄道はいまだに「無事故」というわけだ。
■矛盾だらけの公式データ
これだけ無茶苦茶な理屈を強弁してまで体面を守ろうとするのだから、統計数字を取り繕うことなど朝飯前だ。
そして、情報をコントロールするためならば、手段は選ばない。
私自身、こんな体験をしたことがある。
まだ財務省に在籍していた'90年代初め頃のことだが、中国のある経済シンクタンクに招かれて訪中し、北京の釣魚台(国賓館)に宿泊した。
夜、外出先で宴席が催された。
そこで私の横に接待係として付いたのは、とびっきりの美女。
「これは、いわゆるハニートラップに違いない」
即座に危険を察知した私は、「ちょっと用事があるから」と、「二次会」の誘いを断り、そそくさと逃げ出したため、事なきを得た。
接待以外にも、女性工作員による籠絡の仕方は様々だ。
私が見聞きした例だけでも、通訳としてあてがわれる場合もあるし、宿泊するホテルにマッサージ嬢として現れることもある。
このマッサージ嬢は足の指をていねいに洗ってくれるのだが、男性の目には、足元にひざまずいた女性の胸元が嫌でも飛び込んでくる。
そうなると、どんな男でも理性を失ってしまうものだ。
女性工作員と「親密な関係」になったが最後、帰りの空港で証拠写真を渡されれば、ほとんどの人間が中国側の操り人形になってしまう。
冗談ではなく、こうして籠絡され、中国の「公式見解」をそのまま垂れ流す官僚や学者は世界中に少なからず存在する。
これだけのことを平然とやる国だからこそ、中国の「正しい統計」の実態を探りだすことは、極めて困難だ。
だが私は、中国経済の実態に独自に迫るとともに、その「偽造統計」についても調査を続けてきた。
今回は、そこから導き出した中国の「大ウソ」を明らかにしよう。
たとえば、国家統計局が発行する「中国統計年鑑」を見ると、経済成長率が8%と発表された同じ年の電力消費がなんと10%も落ち込んでいる。
順調に経済成長をしている国で電力需要が急激に落ち込むなどということがあり得るだろうか。
この様に、誰が見ても「起こり得ない」と分かる矛盾した統計データが、国が発行する公式資料に堂々と掲載されているのだ。
■習近平は経済オンチ
地方政府が算出した統計データの積算が、中央政府のものと一致しないということも多い。
中国では、各地方政府が個別にGDP統計を作成・発表しているが、地方政府すべてのGDPを合算すると、不思議なことに中国全体のGDPを遥かに上回る数値が出てしまう。
この状況は、中央と地方政府のGDPが分離して発表されるようになった'85年からずっと続いており、しかもその差は年々拡大している。
原因はもちろん、地方政府がGDP統計を「水増し」しているからだ。
これは、中国では「注水」と呼ばれており、なかには地方政府主導で、企業が提出した数値を改ざんさせるケースもある。
そもそも、成長率6・7%という「偽造数値」はなぜ生まれたのか。
'12年の共産党大会において、習近平が
「'20年にGDPと国民の平均収入レベルをそれぞれ'10年の2倍にする」
と発言したのが事の発端だ。
この数字を達成するために必要なのが、年平均7%の成長なのだ。
国家元首がそう宣言してしまった以上、国家のメンツを守るためには、なんとしても7%前後の成長率を保持しなければならない。
そもそも、メンツ云々の前に、
中国では貧困層の鬱憤が溜まりに溜まって、地方では暴動が毎日のように起きている。
いままで暴動が大きなうねりになるのを押さえ込めたのは、「経済成長している」という名分があったからだ。
メンツを守るためにも、庶民の暴動を抑えるためにも、経済成長をアピールできる数字をでっち上げることが、習近平政権の至上命題なのだ。
だが、いまの中国産業の状況をつぶさに見ると、ほころびが随所に顕在化している。
例えば、自動車産業。
改革開放以降、中国人民が豊かになるにつれて自動車は売れに売れた
。かつては自転車で埋め尽くされていた天安門広場前の通りは、今では自動車で溢れかえっている。
ところが、'15年春、順調に売り上げを伸ばしていた中国国内での新車販売が、前年同月比でマイナスに転じたのだ。
その後も減少には歯止めがかからず、危機感を抱いた中国政府が10月に減税と補填の措置を打ち出したことで、販売数は一時的に持ち直した。
だが、それは需要を先食いしただけで、販売数は再び落ち込んでしまった。
この傾向は、年が改まっても改善せず、'16年の各自動車メーカーの中国工場での稼働率は、前年の半分まで落ち込む見通しだ。
■ゾンビ化する国有企業
こうした停滞は、自動車メーカーに限ったことではなく、あらゆる分野に及んでいる。
鉄道貨物輸送量の最新実績は、前年同期比14・1%減と大幅に減少している(グラフ2)。
さらに国有企業の業績悪化は輪をかけて深刻だ。
グラフ3を見れば'13年以降、中国の国有企業の業績が悪化の一途をたどっていることが分かるだろう。
少なからぬ数の国有企業が倒産状態を銀行からの融資でごまかし「ゾンビ化」しているが、中国政府はいまだ有効な手を打てていない。
こうして、他の数値が軒並み下落を続けているなか、GDPだけが一定の成長率を維持しているというのは、あまりにも不可解だ。
あらゆる状況を勘案すると、私は、中国の実際のGDPは公表されている67兆6708億元(約1136兆8694億円、1人民元を16・8円として計算)の3分の1程度にすぎないのではないかと考えている。
そして成長率は、6・7%どころか、恐らくマイナス—。
中国はまさに手詰まり状態なのだ。
今は、政府が必死にひねり出す「偽造統計」によって、実態が国民にひた隠しにされている。
だが、デタラメな実態が表面化すれば暴動が発生し、かつてのソ連のように独裁が崩壊する可能性さえある。
近い将来、隣国で未曾有の大混乱が起きることを前提に、我々は備えを進めなければならない。
「週刊現代」2016年5月7日・14日合併号より
』
サーチナニュース 2016-04-22 06:32
http://biz.searchina.net/id/1608025?page=1
各地でゴーストタウンが生まれた中国、
在庫解消にかかる時間は・・・
中国で不動産バブルが生じしていると指摘されて久しい。
現時点ではまだ崩壊はしていないが、中国各地でゴーストタウンが生じるなど、不動産市場が健全でないことは事実といえる。
中国メディアの東方財富網は18日、国際通貨基金(IMF)副専務理事の朱民氏が17日の記者会見で明らかにした中国の不動産在庫問題に対する見解について紹介。
朱民氏は中国の不動産市場に現在2つの問題が存在しているとし、
★.1つは価格が高すぎることであり、
★.もう1つは在庫が多すぎること
だと指摘した。
さらに朱民氏は2015年に行われた調査を紹介、その調査によれば
中国には10億平方メートルの不動産在庫が存在し、
当時の中国がこの在庫を消化するには4年から5年かかる計算だったと説明。
短期間では到底さばききれないほどの在庫が積み上がっている現状を指摘した。
一部調査によれば北京、上海、広州、深センなどの1級都市の不動産在庫の消化期間の平均は約9カ月だが、
2級都市は約12カ月、
3級都市になると19カ月になる。
一般的に中国の住宅販売在庫の健全な消化期間は10カ月と言われる。
従って特に3級都市において不動産在庫は深刻な問題になっていることがわかる。
北京や上海などで生じている不動産価格の急騰は供給不足によるものであり、
一方で3級都市の不動産在庫は需要不足や購買力不足によるもので、
3級都市においては不動産在庫問題が大きな圧力になっている。
3級都市に存在する不動産在庫問題を解決するため、中国政府は農民工に向けて住宅を購入するよう奨励しているが、収入の低い農民工が不動産を購入などできようか。
不動産投資は中国の国内総生産(GDP)への貢献度が大きいうえに、
建設に関連する他産業への影響も大きいだけに、中国としては何としてもこの問題を解決したいところだが、道のりは決して平坦ではなさそうだ。
』
『
現代ビジネス 2016年04月25日(月) 近藤 大介
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/48518
中国でキケンな「不動産バブル」が再燃中!
消費低迷でも「6.7%成長」のカラクリ
焚きつけているのは中国政府だ
■国家統計局長の「突然の失脚」
中国の国家統計局が発表する第1四半期(1月~3月)の各種主要統計が出揃った。
統計の解説の前に、まずは国家統計局の「顔」である王保安局長(大臣)が、1月26日に忽然と消え、2月26日から、国家発展改革委員会の寧吉喆副主任が、局長に天下った一件から述べよう。
王局長は1月19日に記者会見を開き、内外の記者団を前に、
「2015年の中国のGDPの成長率は6.9%だった」
と胸を張った。
その二日後の1月21日、世界経済フォーラム年次総会(ダボス会議)で、ブルームバーグのインタビューに応じたジョージ・ソロス氏が、こう言い放った。
「中国経済は、ハード・ランディングに向かっている。
グローバルなデフレ圧力を悪化させる急落だ。
それが株価を引き下げ、アメリカ国債を引き上げる。
この中国のハード・ランディングは、現実問題として、避けられないものだ」
この不気味な予言が世界を駆け巡ったことで、中国に対する不信が、一気に広がった。
そこで、このソロス発言を打ち消そうと、1月26日、王保安局長が再度、記者会見に臨んだのである。
王局長は、いつもの強気の口調で、こう述べた。
「中国経済のプライオリティと、V字回復の勢いはまったく変わっていない。
ソロスのうわごとのような中国経済の予測は、起こりようもない。
中国の株価が多少下がったからといって、それが中国経済全体に与える影響は微々たるものだ。
中国の株式市場は、これからも自信を持って進んでいく」
だが、王局長の防戦虚しく、この日の上海市場は6.4%、深圳市場は6.9%も暴落したのだった。
それはそうと、この会見の直後、思わぬ展開になった。
国家統計局の内部事情に詳しい中国の経済関係者が明かす。
********
「王保安局長の記者会見が始まったのが、午後3時だった。
4時頃に会見を終えた後、王局長は夜7時半から、国家統計局の幹部たち全員に招集をかけ、『国家統計局活動会議』を行うとしていた。
国務院を統括する李克強首相の新たな講話を学習するというのが、会議の目的とされた。
幹部たちは、『なぜ夜に会議なんか開くのか?』と訝りながらも、待機していた。
だがその実、王局長は局長専用車の運転手に、会見が終わったら、北京首都国際空港に向かうよう指示していた。
同日夜7時発のパリ行きエールフランスと、夜9時発のフランクフルト行きルフトハンザのファーストクラスを、それぞれ2枚ずつ予約していた。
身の危険を察した王局長は、何と愛人とヨーロッパに亡命するつもりでいたのだ。
会見が終わった後、王局長は隣の控え室に移り、そこに置いてあったカバンとコートを取って出ようとした。
その時、党中央紀律検査委員会副書記と助手、それに二人の特警(特殊警察)が控え室に踏み込み、王局長を引っ捕らえた。
王局長のカバンの中からは、『黄国安』『丁毅』という名義の2枚の偽造公用パスポートが見つかった。
愛人は、北京首都国際空港の貴賓室にいるところを引っ捕らえられた。
王局長には、古巣の財政部時代に、数億元を不正蓄財し、それらをアメリカとヨーロッパに隠匿していた容疑がかかっている」
********
このような無様な大臣が、「中国のGDP成長は6.9%」と胸を張っていたのだ。
中国内外の多くの経済専門家が、「中国GDP虚偽論」を唱え始めている。
私も昨年、6回訪中したが、「肌感覚」として6.9%も成長しているようには、とても思えない。
■新局長となった寧吉喆という男
ともあれ、そんなわけで2月26日、国家発展改革委員会の寧吉喆副主任が、新たに国家統計局長に就任した。
寧局長は1956年、安徽省合肥市生まれで、合肥工業大学電気システム学科を卒業。
中国人民大学で経済学の修士号と博士号を取った。
1988年に、国家計画委員会(現在の国家発展改革委員会)に入省し、主に西部大開発を担当してきた。
西部大開発というのは、江沢民時代後期の2000年から現在まで続く、発展の遅れた西部地区を発展させていこうという国家プロジェクトだ。
その後、国務院研究室に移り、習近平政権が発足して間もない2013年8月に、国務院研究室主任に就任した。
昨年8月に、古巣の国家発展改革委員会に、副主任として戻ったが、1月末の「王保安事件」で国家統計局が大揺れとなったため、急遽、国務院を統括する李克強首相に送り込まれたのだ。
李克強首相と寧局長が話す時は、安徽省方言を使うほど、李首相から信任を得ている。
その寧局長になって初めての経済統計発表が、4月15日に行われ、4月19日に寧局長自身が、「中国政府ネット」で解説した。
まず、1月から3月までの第1四半期のGDPは、15兆8526億元(1元≓16.9円)で、6.7%の成長率だったという。
寧局長のコメントは、以下の通りだ。
「中国経済の総量はすでに巨大だが、その巨大な中にあってこれだけ成長しているのだから、これは他の主要国と較べてもベストの展開だ。
わが国の経済成長の速度は、アメリカ、日本、ドイツなどよりも、はるかに高速なのだ」
今回、発表された経済統計で、ひときわ目を引いたのが、不動産の動向だった。
3月の主要70都市の不動産調査で、新築商品住宅(マンション)価格が2月から上昇したのは、62都市に上った。
また、中古住宅(マンション)価格が上昇したのも、54都市に達した。
前年同月比で見ると、北京の新築マンションは116%、上海は125%、深圳に至っては161%にハネ上がった。
同様に中古マンション価格は、北京が135%、上海が127%、深圳が160%に上昇した。
第1四半期の全国不動産開発投資額は1兆7677億元で、名目で6.2%(物価要素を控除すると9.1%)伸びている。
昨年通年の伸びが1.0%だったことを鑑みれば、まさにV字回復しているのだ。
■あまりにも場当たり的な経済政策
このカラクリは、
中国政府が固定資産投資を増加させ、「政府主導型の不動産バブル」を演出
しているからに他ならない。
2013年に習近平政権になってから、「八項規定」(贅沢禁止令)と腐敗防止を徹底させ、都市部のマンション購入の規制も強めたため、不動産バブルは崩壊した。
習近平政権は、不動産バブルを崩壊させた代わりに、株式バブルを演出した。
新築不動産は日本円で1000万円超からしか買えないが、株なら5万円からでも買えるため、より広範な庶民の支持を得ようとしたのである。
それによって2014年後半から2015年前半にかけて、株式バブルが起こった。
だが昨年6月に、株式バブルも崩壊してしまった。
そこで再び、不動産バブルの「演出」を始めたのである。
そうしたら、北京、上海、深圳と、どんどん上がり出した。
「もはや危険水域に達した」と見た上海市は、3月25日に突然、新たな規制を発表した。
それは、上海市の都市戸籍を保有していない中国人は、社会保険料を5年以上払っていなければマンションを買ってはならない(それまでは2年だった)。
2戸目のマンション購入は、マンションの種類によって、最低頭金を5割もしくは7割に引き上げるというものだ。
あっちへ行ったりこっちへ行ったりと、ジグザグと場当たり的に進むのが、習近平政権の経済政策の一大特徴である。
よく言えば、中国人的な「走りながら進む」臨機応変の方法だが、あまりに朝令暮改で、政策が変わるたびに国民は振り回されている。
要は経済に対する理念・哲学といったものが欠如しているのである。
不動産に関しては、寧局長はこう語っている。
「第1四半期の商品型不動産の売り上げ面積は3割強伸び、売上高は5割強伸びた。
不動産価格も伸びている。
不動産というのは、あらゆる産業の支柱となる産業だ。
今後は不動産価格が過度に上がるのを防ぐことと、同時に多くの人がマイホームの夢を実現できるようにしてやることが大事だ」
あっちも取りたいし、こっちも欲しい。
まさに習近平政権の新たな国家統計局長らしい言い草である。
寧局長は、こうも述べている。
「野菜を買う消費者は、最近物価が上がって大変だという。
だが野菜を作る生産者は、最近物価が下がって大変だという。
政府はさらに努力して政策を磨き、いち早く問題点を改善していかねばならない」
何だか煙に巻いたような結語である。
日本の国会にも「官僚答弁」というものがあるが、中国式の「官僚答弁」なのかもしれない。
もっとも国家統計局は、決して権限の強い官庁ではないので、彼らにも悲哀があるのだろう。
■「消費の転換」は起こってるかもしれないが…
ところで、気になる統計データもあった。
第1四半期の固定資産投資の伸びが、10.7%に達したのだ。
こちらは、ありがたくないV字回復である。
中国は、リーマン・ショック後に4兆元(当時の邦貨で58兆円)もの緊急財政支出を宣言して、世界経済復活の牽引役となった。
この時に主導したのが、固定資産投資だった。
日本で言う公共投資である。
だが固定資産投資が過ぎたために、鉄鋼業や石炭業などが生産過剰に陥り、全国に「鬼城」(ゴーストタウン)が溢れた。かつて日本で、誰も通らない高速道路や誰も行かない公民館などを、どんどん作っていったようなものだ。
そこで習近平政権になってからは、このゾンビのような固定資産投資を減らしていき、国民の消費が主導する健全な経済発展を目指したのだった。
昨年の第1四半期で13.5%まで減らし、昨年通年では、ついに10.0%まで落とした。
さらに減らしていき、その分、消費が増えていけば、晴れて中国経済復活の暁光が見えてくる。
ところが、今年第1四半期の民間の固定資産投資は、5.7%まで落ちた。
そこで再び、政府による固定資産投資の増加という「悪癖」が始まったのだ。
国家統計局が3ヵ月ごとに発表する経済統計を見ていて、多くの専門家は、GDPの数値が虚偽ではないかと指摘する。
だが私が思うに、もっと信用できないのが、消費額が常に二ケタ成長していることである。
3月の小売消費額は10.5%も伸びている。
総額7兆8024億元も消費したという。
昨年4月から今年3月までの一年間の数値は月ごとに、
10.0%、10.1%、10.6%、10.5%、10.8%、10.9%、11.0%、11.2%、11.1%、10.2%、10.5%
である。
だがこの間に、
株式バブルは崩壊して、
1億8000万人の「股民」(個人投資家)が多大な損失を出し、
地方経済は崩壊し、
工場は閉鎖され、
デパートやレストランはバタバタ潰れ……。
繰り返しになるが、私は昨年6回、訪中し、大都市から地方の農村まで回ったが、消費が年に10%も伸びているとは、とても思えなかった。
それでも無理やり肯定しようと思えば、物価が上がった影響で、消費額が上がっているということだ。
私は中国へ行くたびに、セブンイレブンに入って、商品価格を定点観測しているが、
今年1月の時点で、おにぎり、弁当、缶コーヒー、カップラーメンなど、だいたい日本の8割から9割の間くらいの価格まで来ている。
しかも毎年1割分くらい、価格が上昇している。
つまり、消費額の上昇分と合致するのである。
消費動向について、寧局長は、次のように説明している。
「私はエンゲル係数に着目している。
過去には消費のうち5割は食品だったが、現在のエンゲル係数は3割程度まで下がってきている。
これは経済が好転している証左だ。
今年に入って、旅行の消費やSNS消費、ネット消費などが、3割近く増えている」
確かに、ネット通販が消費を牽引していることは認める。
ただ第1四半期のネット通販は、前年同期比27.8%増の1兆251億元に上り、消費全体の10.6%となったとはいえ、まだ消費全体の1割である。
かつ肌感覚では、ネット通販が増えた以上に、店舗販売額は減っている。
寧局長が言うように、「消費の転換」は起こっているかもしれないが、それによって全体の消費量は下がっている印象なのだ。
実際、消費に直結する輸入額は、昨年13.2%も減少している。
■65歳以上が総人口の1割を突破
さて、国家統計局は4月20日、もう一つ興味深い統計データを発表した。
それは、「2015年全国1%人口ピックアップ調査主要データ公報」である。
中国は10年に一度、西暦で末尾がゼロの年に、人口調査を実施している。
だが最近は中国社会の変化が激しいので、中間にあたる
西暦の末尾が5の年(2015年)にも、人口調査を行ったというのだ。
予算や人員の関係から、人口の1%をメドに行ったのだという。
実際には、総人口の1.55%にあたる2131万人を調査した。
この「公報」によれば、2015年11月1日午前0時現在の中国大陸の総人口は、13億7349万人で、5年前の13億3972万人よりも3377万人増加したという。
増加率は、2.52%で、年換算すると、0.50%だ。
また、家庭数は4億947万戸で、平均家族数は3.10人。
男性は7億356万人で51.22%、女性は6億6993万人で48.78%。
女性を100とすると、男性は105.02で、これは5年前の105.20に較べると、改善が見られる。
民族別に見ると、漢族が12億5614万人で、91.46%。
55の少数民族は、計1億1735万人で、8.54%である。
漢族はこの5年で3021万人増え、少数民族は356万人増えた。
注目すべきは、年齢別人口である。
65歳以上が1億4374万人と、日本の総人口を上回る数だ。
しかもその比率が10.47%と、5年前の8.77%から1.60%も上昇し、初めて総人口の1割を突破したのだ。
これは中国社会が、ものすごいスピードで老齢化社会に向かっていることを意味する。
このペースで進めば、20年後には深刻な社会問題と化すだろう。
だが大卒も、1億7093万人もいて、こちらも日本の総人口を5000万人も上回っている。
豊富な「人材」に、中国の将来を託すしかない。
ちなみに前回、2010年の人口調査の時には、私も北京に住んでいたので経験している。
その時、私が住んでいたアパートにも調査員のオバサンがやってきて、性別、生年月日、民族、学歴などを聞いてきた。
私は、
「自分は日本から来た駐在員であって、中国人ではない」
と説明した。
するとオバサンは逆ギレして言った。
「そんなの、私の知ったことではないわ。
一人あたり2元もらえるんだから、あなたを数えたっていいでしょう」
首都・北京でさえ、こんな調子だった。
それからしばらくして山西省の僻地の村へ行った時、地元の人にどうやって人口調査をやったのか聞いてみた。
すると、こう答えた。
「各村の村長や党書記に電話をかけ、だいたいの人数を聞いて終わりだよ。
だってそうした方が、調査費が浮くではないか」
こうした経験をしたため、なぜ大仰に全国で人口調査なんかやるのかと思った。
そもそも中国には、15ケタか18ケタからなる身分証が全国民に与えられているので、身分証発行元の公安部は、正確な人口を把握しているはずではないか。
当時、少なからぬ中国人にこの疑問を投げかけ、帰ってきた回答も多岐にわたったが、
その中で納得できたものが二つあった。
★.一つは、一人っ子政策などのため、身分証を持たない「無戸籍者」(こっそり産んだ二人目以上の子供)が数千万人単位でいるというのだ。
だからきちんと対面して調査を行う必要がある。
★.もう一つは、公安部が掴んでいる正確な人口は、すでに15億5000万人を超えている。
そんな数は国家が養えないから、人口調査をやって、わざと少ない統計が出るようにしているというのだ。
いずれにしても、中国で正確な統計データを取るのが難しいこと、及び
中国の統計データには多くの場合、「目的」がある
ということを、理解したのだった。
』
『
現代ビジネス 2016年04月26日(火) 高橋洋一
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/48521
中国「GDP世界二位」の大嘘を暴く!
~デタラメな数字を産む統計偽装のカラクリが分かった
******
元財務官僚で、内閣府参事官(経済財政諮問会議特命室)などを歴任した高橋洋一氏の新著『中国GDPの大嘘』。
発売即重版となった話題の一冊を特別公開する。
******
■あまりに悲観的な中国の未来
2016年に入って世界経済が混沌としてきた。
そして、この混乱はしばらくおさまりそうにもない。
その震源地の一つに中国経済の崩壊がある。
中国の株式市場は2015年夏に始まり、
2016年春の段階で立ち直りの兆しは見えない。
株式市場の混乱は実体経済を脅かし、それがさらに株式市場を混乱させる「負のスパイラル」は今後も続く可能性大である。
さらにいえば中国経済の崩壊は、まだ序章に過ぎず、これから本格化すると私は見ている。
それはあたかも、ソビエト連邦崩壊を想起させる状況であり、これは偶然の一致ではない。
法政大学に日本統計研究所という研究機関がある。
ここが興味深い研究レポートをまとめてくれた。
ソ連の崩壊の原因にもつながった統計偽装について、その実態を生々しく伝えてくれているのだ。
ソビエトが崩壊したのは、その経済停滞が大きな要因だが、ソビエトを間違った方向に導いたのが統計偽装である。
統計偽装はソ連崩壊まで続けられ、その日まで公にならなかた。
白日のもとにさらされるようになったのは、ソ連が崩壊し、関係者がようやく自由に発言できるようになってからである。
中国は、ソ連をまねて中央集権的な統計組織を構築。現在では中国国家統計局として、各種統計を集中管理している。
当然、統計の算出方法もソ連から指導を受けていると推察される。
現在の中国は、情報公開の面で国際機関による調査団を受け入れないだろう。
ということは、しばらくの間、中国の統計は信用できない。
そこで私は、中国経済の実態に迫るとともに、中国統計の偽装についても調べてきた。
そこから導き出された答えは、あまりにも悲観的な中国の未来である。
今後、さらに混乱を招く中国情勢が、世界に波及する
――この事態にどう対処したらいいのか。
その解を求めるのはかなり困難かもしれない。
しかし看過しておけば、中国人民のみならず、日本を含めた諸外国まで災禍に巻き込むことになる。
最悪の事態だけはなんとか避けられないものか。
どこかに処方箋がないものか。いまからでも間に合うのではないか――。
そんな思いから、私は中国経済に関する新著を上梓した。
その一部を、二回に分けて公開したい。
■ソ連のデタラメ統計を受け継いだ中国
大きな船が航海に出たとしよう。
安全な航海には信頼できる海図と、航路を綿密に調べ上げたデータ、そして船の正確な状況認識が必要だ。
そういった情報なしに出航したとしたら、どうなるだろうか。
しかも自分のことしか考えない、チームワークの悪いクルーたちによって運航されているとしたら……
誰がこんな船に乗りたいと思うであろうか。
知らずに乗っている乗客は、不幸の極みというほかはない。
この船の航海は、国家の運営にもたとえられる。
国家の政治・経済の運営に必要な「海図」は、各種統計データということになる。
正確な統計データがあってこそ、国の進路を誤らない政策が打ち出せるというものだ。
ところが正確な統計データを出さない、作れない、データを捏造、改竄していたとしたら、どうなるであろうか。
航海でいえば、いいかげんでデタラメな海図を作り、それを頼りに海に出るようなものである。
遭難した船は沈没する。
では、遭難した国家はどうなるか……。
中国当局が発表する統計データや経済指標は、押しなべて信用できない。
その解説は後述するとして、
なぜ統計データがいいかげんに作成されるか、
その理由から説明しよう。
中国の統計システムは、社会主義国家の「先輩」である旧ソビエト社会主義共和国連邦(ソ連)に学んでいる。
1949年に誕生したばかりの中華人民共和国は、経済的な大改革を断行した。
が、その司令塔は、ソ連大使館だった。
ソ連から一万人もの顧問が北京にやって来て、四万人のロシア語を習得した中国人ともに中国の産業育成に当たった。
中国の経済は10年以内にイギリスを追い越し、15年以内にアメリカに追い付くという目標を打ち立てて――。
そのロシア人顧問団が持ち込んだなかに、旧ソ連の統計システムもあった。
アメリカに追い付くという壮大な目標は達せられなかったものの、それなりに産業は育っていった。
すると1960年、毛沢東はロシア人の顧問団を追い返し、ソ連式のシステムを中国独特のシステムに改めようとする。
そうして大躍進政策や文化大革命を経て、鄧小平の改革開放を迎える。
その間、このソ連式の統計システムだけは脈々と生き残っていたのである。
その手法はソ連国内で50年間も使用され続け、デタラメ統計を生み出してきた。
これをもとに国家運営するわけだから、国家が崩壊するのも無理はない。
問題は、そのデタラメ統計を世界が信じていたということ――。
■捏造は、半端なレベルではなかった
たとえばアメリカのノーベル経済学賞受賞者のポール・サミュエルソン。
彼はソ連が出すデタラメ数値を信じて、「ソ連は成長している」と言い切ってしまった。
サミュエルソンほどの偉人ですら騙されてしまう。
それだけ、統計データの虚偽を見抜くのは難しいことなのである。
しかも、ソ連がやっていた捏造は、半端なレベルではない。
ソ連が崩壊してみて初めてわかったことだが、実は、そのGDPは半分しかなかった。
1928年から1985年までの国民所得の伸びは、ソ連の公式統計によると90倍となっているが、実際には6.5倍しかなかった。
平均成長率に至っては、8.3%成長しているとしたのに、実際は3.3%しかなかった……。
この事実は、ソ連が崩壊して初めて明るみに出た。
ゴルバチョフ書記長は人がいいので「ペレストロイカ」(改革政策)や「グラスノスチ」(情報公開)をやってしまい、白日のもとにさらしてしまったのだ。
この統計システムをそのまま引き継いでいる中国が、果たして正確な統計の取り方をしているかどうか。
「お師匠」がデタラメだったから「生徒」は真面目にやります、ということが果たして起こりえるのか。
次にその検証を行いたい。
■偽造統計はこうして作る
まず、ソ連が長年にわたって虚偽の統計を取り続けてきた理由と手法を探ってみよう。
旧ソ連およびロシアの統計に関して、興味深い研究レポートがある。
一つは、法政大学日本統計研究所が発行した『ロシアにおける統計制度・政策の改革(Ⅱ)』(1994年)。
これは経済学博士でロシア科学アカデミー・ヨーロッパ比較社会・経済研究主任のヴァレンチン・ミハイロヴィッチ・クロードフ氏の論文「1991~1993ロシア経済状況の統計と判断」と題された論文などを集めたものだ。
もう一つは、同じく法政大学日本統計研究所がまとめた『統計研究参考資料 No.32 ペレストロイカとソ連統計』(1989年)。
これはソ連中央統計局長のエム・エス・コロリョフ氏の論文「統計のペレストロイカの諸課題」などを収録した論文集である。
いずれも旧ソ連の統計作成に責任者として直接関わった、
あるいは間近にいた人々の書き記した論文だけに、生々しい実態が明らかにされている。
結論からいうと、諸悪の根源は社会主義体制下における官僚主義だ。
計画経済における無理な経済政策も元凶だと断言していい。
これは社会主義国・ソ連の誕生とも関係している。
社会主義国の誕生直後は、アメリカを代表する資本主意国家陣営と張り合った。
そうした構図が世界地図上に描かれた。
「経済発展において、なんとしても資本主義国家には負けられない」
という意識と自負心がソ連首脳部に強かったことは、これらの論文からもうかがえる。
当時、統計システムとして有効な手法が現われると、時の書記長、スターリンは「数字の遊び」と批判し、封じている。
スターリンがなぜ、この有効な手法を封印したか正確な理由は記されていないが、想像はつく。
このスターリンの仕打ちを批判した経済学者で、ソ連中央統計局を指導したぺ・イ・ポポフが次のような言葉を書き遺している。
「統計は、それぞれの時点において希望される数字を与え得るものではない
……それは現実を表現する数字だけを与えるのだ」
わかりやすくいうと、国が計画し目標とした数値に統計を合わせるのではなく、現実や実態を表すのが統計だ、というのだ。
民主主義国家では当たり前のことが、統制経済下では、当たり前ではなかった。
■疑うヤツは人民の敵
このように正確な統計データを集計しようとした指導的職員は、統計機関から追放された。
多くの真っ当な統計家は、「人民の敵」というレッテルを貼られ、弾圧されていった。
わかりやすくいえば、国が立派な経済計画を立てたのだから、どんなことがあっても達成したことにしなければならない、統計はそれに合わせるべきだ、という国家の意志が強く作用している。
これは企業の粉飾事件にも似た構図がある、
2015年に発覚した東芝の粉飾事件も同様の構図。歴代の社長が、自分が社長でいる間は好業績でなければならない。
そこで、数字を操作して部下たちに好業績をでっち上げさせた。
東芝と社会主義国の統計システムは二重写しになる。
上場企業の場合、監査法人による監査を受けて決算手続を終える。
この監査は、企業の役員等とは利害関係のない、あくまで第三者でなければならない。
独立性が保たれていなければならないのだ。
つまり、監査に、情実による手心が加わってはならない。
同様に、統計データを作成する組織にも、独立性がなければならない。
ソ連の統計システムの欠点は、この自主独立の統計活動が保障されていなかった点にある。
官僚主義の問題と偽造統計システムの手法は、それをそっくり導入した社会主義国家としての「後輩」である中国にも引き継がれている。
そう、十分に想像がつくのだ。
後編では、いよいよ中国経済の大嘘を暴いていこう。
』
『
現代ビジネス 2016年04月27日(水) 高橋洋一
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/48522
中国経済、調べてみたらやっぱりウソだらけ!
~本当のGDPは、公式発表の3分の1!?
*****
発売即重版となった、高橋洋一氏の話題の書『中国GDPの大嘘』。前編ではソ連のデタラメな統計と、その手法を中国が継承してしまったことを指摘したが、後編ではいよいよ中国の「間違いだらけの数値」を暴いていく。
*****
「中国の経済統計、指標などまったく信用できない」
こう公言したのは、のちに首相の座に就く李克強である。
オフレコではあったが、この発言が飛び出したのは2007年9月、大連で開催された「第一回ダボス会議」でのこと。
当時、李克強は遼寧省の共産党委員会書記、すなわちトップで、温家宝首相とともにダボス会議のホスト役を務めていた。
冒頭の衝撃的な発言が飛び出したのは、アメリカ経済界代表団との会食の席だった。
オフレコという前提で、
「中国の経済統計、指標は、まったく信用できない。
遼寧省のGDP成長率も信用できない。
私が信用してチェックしているのは、わずか三つの統計数値だけ。
その三つとは電力消費量、鉄道貨物輸送量、銀行融資額。
この三つの統計を見て、遼寧省の経済成長の本当のスピードを測ることが可能になる。
他の中国の経済統計、とりわけGDPなどは、ただの『参考用数値』に過ぎない」
と漏らしてしまったのだ。
同席していたアメリカの駐中国大使、クラーク・ラントは国務省に報告。
これは部外秘だったが、2010年、機密情報を漏洩させる
ウィキリークスによって暴露
されてしまった。
この後、李克強が信用していたとされる三つの指標は「克強指数」とまでいわれるようになり、一部のエコノミストやメディアが信頼する数値となっている。
克強指数についても後述するが、李克強自身が「参考用数値」と述べたGDPに関しては、参考にすらならないという事実を、説明しよう。
■中国の「実際の数値」を暴く方法
経済統計の数値の真贋を見抜くには、複数の統計を合わせてみるとわかる。
そうして矛盾点があるか整合性があるかを見極め、統計数値の信頼性を計るのだ。
たとえば前述したGDPと失業率の関係。
ところが中国は失業率を発表していない。
社会主義国の「建前」として失業はないということなのかもしれない。
そこで私が注目したのが貿易統計だ。
中国が発表する統計のうち、数少ない、というか、
唯一信用できるのが、この貿易統計。
貿易統計は外国との関係もあって捏造しにくい。
相手国の「正しい」対中国貿易量を集計すれば、正確な数値が求められるからだ。
この事実を踏まえて2015年の中国の貿易統計をチェックしてみると、
輸出額は前年比8.0%減。
輸入額たるや14.1%の減少
となっているが、
中国当局はその原因を資源価格の低下、としている。
しかし、同年の中国のGDPに対する貿易依存度は「40.25%」
……GDP成長率6.9%を達成したとしたら、内需が異常に上昇した、ということになる。
中国では、習近平が国家主席に就任すると、最低賃金を引き上げている。
場所によってまちまちだが、おしなべて3年で四割ほど最低賃金は上昇している。
それに合わせて物価も上昇。
コンビニを覗いてみるとわかるが、商品によっては日本の物価より高くなっているケースも珍しくない。
前に紹介したように、イギリスのBBCニュースが疑問を投げかけているように、「成長率6.9%」という数値にも、大いに疑問が付いて回る。
そこで、どうしてこの「偽装数値」が出てきたのか、私なりの推測を述べてみよう。
■「2020年にGDPと国民の平均収入レベルを、それぞれ二倍にする」
二倍の基準は2010年比だ。
これを達成させるには年平均七%成長が求められる。
習近平に限らず中国人のメンタリティでは、メンツを重んじる。
なにより景気が悪くなれば、政権基盤を揺るがしかねない。
それ以降、七%成長は政権の至上命題になったのだ。
「公式統計」によれば、2012年の固定資産投資総額はおよそ36兆人民元(610兆円)。
前年比20%という高い伸びだ。
投資の伸びで、この年の成長率も、かなり押し上げられている。
ちなみに、公式発表では2012年のGDP成長率は7.8%になっている。
「中国の夢」という大風呂敷を広げただけあって、その年はどんなことがあっても高い成長率を維持しなければならなかった、そういう事情が強くうかがえる。
ところが2013年には景気が息切れしてきた。
李克強は懸念を示し、
「経済成長を達成させるための経済刺激、政府の直接投資に頼ろうとしても、その余地は決して大きくはない。
市場メカニズムに任せなくてはならない」
と発言したのだ。
無理に成長を維持しようとするなら、もう一段の投資を行わなければならない。
李克強はそれには限界があるとし、低成長の痛みを受け入れるよう求めたのだ。
■4年間で約2000兆円の景気刺激策を行った結果…
さらに中国には、2008年の四兆元(約68兆円)投資と、空前の金融緩和による後遺症がある。
このとき、リーマンショックによる経済の落ち込みを防ぐための大型投資を行なったのだ。
これが奏功し世界経済は立ち直りのきっかけをつかんだが、中国はその後、過剰設備などに苦しむことになる。
しかも四兆人民元のはずだった景気刺激策はその後も続き、
2009年からの四年間で、
なんと110兆人民元(およそ1900兆円弱)の固定資産投資が行なわれた。
過剰な投資は、各地にゴーストタウンを生み出すなど、いまだに負の遺産を遺している。
そのような背景もあって、李克強は経済政策の転換を匂わせた。
しかし中国政府内でも、これに同調する容認派と慎重派に分かれた。
特に2014年には、全国人民代表大会(全人代=日本の国会に相当)の前に、習近平主席と李克強首相との間で衝突があったという。
その年のGDP成長率7%を提案した李克強に対し、習近平は7.5%を主張して譲らなかったというのだ。
習近平の「中国の夢」にこだわる一面だった。
さらに一年後の全人代では「7%前後」と、前年より目標値を下げている。
しかも「前後」としているところがミソだ。そ
れだけ自信がなかったかとも受け取れる。
そして2015年のGDPの伸び率は6.9%……かなりゲタを履かせた数字であることは容易に想像がつくが、実は発表前から「発表される数値は6.8とか6.9あたりではないか」という予想が、私の耳にも届いていた。
別に正確かつ実態を表した数字を予想してのことではない。
「政治的に装飾された数値」としての数字だ。
つまり、経済成長が続いている資本主義社会では、成長率7.0%や6.9%の違いは、さほどではない。
この程度なら統計誤差の範囲であり、ほぼ目標達成と胸を張れる数値だ。
しかし中国では、これは多分に政治的なメッセージなのである。
すなわち対外的には、「やや経済成長は鈍化しているけれど、心配しなくてもいい」という、やや願望を込めたメッセージ。
そして国内的には、「七%達成はなんとしてもやり遂げる」という強い意志の表明なのである。
が、その中国も、統計のゴマカシもそろそろ限界と見て、今後少しずつ数値を下げてくることは間違いない。
日本のメディア、特にNHKを代表とする大メディアは、中国当局の発表をそのまま受けて、「7%成長を割り込むのは実に25年ぶり」などと伝えているが、実態はもっとかけ離れたところにある。
■実際のGDPは発表数値の3分の1!?
ここでもう一度、2015年の「中国GDP成長率7%」について検証してみよう。
2015年通期の成長率は六・九%だったが、上半期に限っていえば7.0%を達成。
年初に立てた目標に達したわけで、決して低い成長率ではない。
その一方で、中国政府は、2014年11月から翌年8月までの間、五回もの金利の引き下げを行なっている。
さらに公共事業も追加で行うなど、景気刺激策に躍起になっていた。
7%もの経済成長を達成したとすれば、そこまで景気刺激策を施さなくてもいいはずなのだが……。
別の角度から見てみよう。
信用できない中国の経済統計のなかでも、
農業生産と工業生産に関しては、しっかりデータを取っている節がうかがえる。
小売や物流といった第三次産業に関する統計には弱点があるものの、計画経済を進めるために、1950年代からしっかり生産量のデータをとっていた。
この農業および工業の2015年のGDP成長率を産業別のデータのなかから見ると、農林業に畜産と漁業を加えたところで3.6%、工業が6.0%の成長となっている。
この業種別GDPのほかに、自動車、鉄鋼、電力といった主要二七の工業製品の生産量データも出される。
これらをチェックしてみると、2015年上半期に六%以上の成長を達成した製品は四製品のみ。
さらに、13の工業製品は、伸び率がマイナスを記録している。
工業製品の生産量の伸びは平均で1%程度。
工業製品のデータに関しては割と正確に採取される。
そうなると、産業別の成長率六%の伸びと、工業製品別の生産量の伸びとが、かなり乖離していることがわかる。
粉飾の匂いがプンプンするのは工業成長率6%だ。
こういった数値を積み重ね、重ね合わせていくと、どうしても中国経済GDP6.9%成長というのは、相当にゲタを履かせた数値だということが判明する。
私は、中国の実際のGDPは、公式発表されている数値の三分の一程度ではないかと見ている。
(続きは本書をご覧ください)
●中国経済の暗い未来を指摘する話題の書。世界、そして日本への影響は?
』
『
現代ビジネス 2016年05月15日(日) 週刊現代,高橋洋一
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/48627
中国の成長率は、やはり、とんでもないデタラメだった!!
株価が暴落し、失業者が街に溢れてもなお、経済成長をアピールし続ける中国政府。
このほど『中国GDPの大嘘』を上梓したばかりの気鋭のエコノミストが、そのデタラメを看破する。
■国ぐるみの「粉飾決算」
今年に入って、世界経済が混沌としてきた。
その大きな要因は、間違いなく中国経済の崩壊にある。
年明け早々に株価が暴落し、上海株式市場は取引中止に追い込まれた。
そして株式市場の混乱が、今度は実体経済を脅かしている。
4月15日、中国が1-3月期のGDP(国内総生産)成長率を発表した。
前年同期比、6・7%増—。中国政府は今年の成長率目標を「6・5~7%」と、昨年の「7%前後」から引き下げていたが、この範囲内にぴったりと収まる数値。
今回発表された成長率が、政府によってコントロールされたものであることは明らかだ。
■中国の成長率は、やはり、とんでもないデタラメだった!!
それどころか、日本はいまでもGDP世界2位の経済大国、
中国には「失われた100年」が待っている!?
過去2年間における8つの四半期の成長率の動きは次の通り。
7・3%→7・4%→7・1%→7・2%→7・0%→7・0%→6・9%→6・8%。
こうして中国の成長率は「規則正しく」低下しているが、実際には、経済統計がこんな規則的な動きを見せることはあり得ない。
例えば、直近5年間の先進各国のGDP成長率がどれだけ大きく変化したかを、
「変動係数」という指数で見てみよう。
値が大きいほど、変動が大きいということになる。
日本2・4、アメリカ0・3、イギリス0・3、カナダ0・4、フランス0・9、ドイツ0・9、イタリア2・3。
原油価格の変動を受けて、世界各国のGDPが大きく変動しているのがわかる。
そんななか、中国の変動係数はわずかに0・1。
世界各国の経済変動に比べ、この安定ぶりは異常だ。
現実にはあり得ないと言える数値なのだ。
このように、中国が発表する経済統計は、実態というより政府に都合の良い「公式見解」に近い。
今回に限らず、中国が作成したあらゆる統計データや経済指標は、おしなべて信用できない。
なぜなら、かつてのソ連がそうであったように、社会主義国で重視されるのは「真実」よりも「メンツ」だからだ。
国が立てた経済計画は、どんなことがあっても達成したことにしなければならず、統計の数字は、その目標に都合の良い様に作り出すものなのだ。
いわば、国ぐるみの「粉飾決算」といえる。
特に、中国には体面を何よりも重んじる国民性がある。
面白いエピソードをひとつ紹介しよう。
中国はいま高速鉄道の海外輸出に力を入れているのだが、その売り文句として「中国の高速鉄道は事故を起こしたことがなく安全」と世界中で触れ回っている。
大抵の人はおや、と思うはずだ。
'11年に浙江省で起きた脱線事故は死者40人以上(実際には100人を超えるとの情報もある)。
中国当局が事故後すぐに車両を埋めて隠蔽しようとしたエピソードも相まって、大きなニュースになった。
だが、中国は今になって「あれは高速鉄道ではなく、特別快速列車だった」というおかしな理屈を立て、死亡事故を無かったことにしようとしている。
事故を起こしたのは、あくまで「特別快速列車」だから、高速鉄道はいまだに「無事故」というわけだ。
■矛盾だらけの公式データ
これだけ無茶苦茶な理屈を強弁してまで体面を守ろうとするのだから、統計数字を取り繕うことなど朝飯前だ。
そして、情報をコントロールするためならば、手段は選ばない。
私自身、こんな体験をしたことがある。
まだ財務省に在籍していた'90年代初め頃のことだが、中国のある経済シンクタンクに招かれて訪中し、北京の釣魚台(国賓館)に宿泊した。
夜、外出先で宴席が催された。
そこで私の横に接待係として付いたのは、とびっきりの美女。
「これは、いわゆるハニートラップに違いない」
即座に危険を察知した私は、「ちょっと用事があるから」と、「二次会」の誘いを断り、そそくさと逃げ出したため、事なきを得た。
接待以外にも、女性工作員による籠絡の仕方は様々だ。
私が見聞きした例だけでも、通訳としてあてがわれる場合もあるし、宿泊するホテルにマッサージ嬢として現れることもある。
このマッサージ嬢は足の指をていねいに洗ってくれるのだが、男性の目には、足元にひざまずいた女性の胸元が嫌でも飛び込んでくる。
そうなると、どんな男でも理性を失ってしまうものだ。
女性工作員と「親密な関係」になったが最後、帰りの空港で証拠写真を渡されれば、ほとんどの人間が中国側の操り人形になってしまう。
冗談ではなく、こうして籠絡され、中国の「公式見解」をそのまま垂れ流す官僚や学者は世界中に少なからず存在する。
これだけのことを平然とやる国だからこそ、中国の「正しい統計」の実態を探りだすことは、極めて困難だ。
だが私は、中国経済の実態に独自に迫るとともに、その「偽造統計」についても調査を続けてきた。
今回は、そこから導き出した中国の「大ウソ」を明らかにしよう。
たとえば、国家統計局が発行する「中国統計年鑑」を見ると、経済成長率が8%と発表された同じ年の電力消費がなんと10%も落ち込んでいる。
順調に経済成長をしている国で電力需要が急激に落ち込むなどということがあり得るだろうか。
この様に、誰が見ても「起こり得ない」と分かる矛盾した統計データが、国が発行する公式資料に堂々と掲載されているのだ。
■習近平は経済オンチ
地方政府が算出した統計データの積算が、中央政府のものと一致しないということも多い。
中国では、各地方政府が個別にGDP統計を作成・発表しているが、地方政府すべてのGDPを合算すると、不思議なことに中国全体のGDPを遥かに上回る数値が出てしまう。
この状況は、中央と地方政府のGDPが分離して発表されるようになった'85年からずっと続いており、しかもその差は年々拡大している。
原因はもちろん、地方政府がGDP統計を「水増し」しているからだ。
これは、中国では「注水」と呼ばれており、なかには地方政府主導で、企業が提出した数値を改ざんさせるケースもある。
そもそも、成長率6・7%という「偽造数値」はなぜ生まれたのか。
'12年の共産党大会において、習近平が
「'20年にGDPと国民の平均収入レベルをそれぞれ'10年の2倍にする」
と発言したのが事の発端だ。
この数字を達成するために必要なのが、年平均7%の成長なのだ。
国家元首がそう宣言してしまった以上、国家のメンツを守るためには、なんとしても7%前後の成長率を保持しなければならない。
そもそも、メンツ云々の前に、
中国では貧困層の鬱憤が溜まりに溜まって、地方では暴動が毎日のように起きている。
いままで暴動が大きなうねりになるのを押さえ込めたのは、「経済成長している」という名分があったからだ。
メンツを守るためにも、庶民の暴動を抑えるためにも、経済成長をアピールできる数字をでっち上げることが、習近平政権の至上命題なのだ。
だが、いまの中国産業の状況をつぶさに見ると、ほころびが随所に顕在化している。
例えば、自動車産業。
改革開放以降、中国人民が豊かになるにつれて自動車は売れに売れた
。かつては自転車で埋め尽くされていた天安門広場前の通りは、今では自動車で溢れかえっている。
ところが、'15年春、順調に売り上げを伸ばしていた中国国内での新車販売が、前年同月比でマイナスに転じたのだ。
その後も減少には歯止めがかからず、危機感を抱いた中国政府が10月に減税と補填の措置を打ち出したことで、販売数は一時的に持ち直した。
だが、それは需要を先食いしただけで、販売数は再び落ち込んでしまった。
この傾向は、年が改まっても改善せず、'16年の各自動車メーカーの中国工場での稼働率は、前年の半分まで落ち込む見通しだ。
■ゾンビ化する国有企業
こうした停滞は、自動車メーカーに限ったことではなく、あらゆる分野に及んでいる。
鉄道貨物輸送量の最新実績は、前年同期比14・1%減と大幅に減少している(グラフ2)。
さらに国有企業の業績悪化は輪をかけて深刻だ。
グラフ3を見れば'13年以降、中国の国有企業の業績が悪化の一途をたどっていることが分かるだろう。
少なからぬ数の国有企業が倒産状態を銀行からの融資でごまかし「ゾンビ化」しているが、中国政府はいまだ有効な手を打てていない。
こうして、他の数値が軒並み下落を続けているなか、GDPだけが一定の成長率を維持しているというのは、あまりにも不可解だ。
あらゆる状況を勘案すると、私は、中国の実際のGDPは公表されている67兆6708億元(約1136兆8694億円、1人民元を16・8円として計算)の3分の1程度にすぎないのではないかと考えている。
そして成長率は、6・7%どころか、恐らくマイナス—。
中国はまさに手詰まり状態なのだ。
今は、政府が必死にひねり出す「偽造統計」によって、実態が国民にひた隠しにされている。
だが、デタラメな実態が表面化すれば暴動が発生し、かつてのソ連のように独裁が崩壊する可能性さえある。
近い将来、隣国で未曾有の大混乱が起きることを前提に、我々は備えを進めなければならない。
「週刊現代」2016年5月7日・14日合併号より
』
『
ロイター 2016年 05月 3日 11:07 JST
http://jp.reuters.com/article/china-local-governments-debt-idJPKCN0XT0DR?sp=true
焦点:中国地方負債が膨張、
不動産バブルや金融安定に赤信号
[上海 29日 ロイター] -
中国の地方政府は中央政府の借り入れ規制緩和に乗じて、債券発行により大量の資金をオフバランスで調達し始めた。
調達資金は中国の貧弱な景気回復を下支えするが、一方で地方政府の負債は一段と膨らんでいる。
不動産やコモディティなど一部資産クラスでバブルの懸念も高まり、金融の安定に赤信号が灯っている。
エコノミストは、中国の景気回復の背景には公的部門の投資増加があるとみている。
第1・四半期の国内総生産(GDP)成長率は7年ぶりの低い伸びにとどまったが、他の経済指標は3月に入って成長が上向いたことを示している。
そして公的部門の投資資金の大半は地方政府が起債により調達したものだ。
光大証券が民間調査会社WINDのデータを元に推計したところ、地方政府の資金調達プラットフォームである融資平台(LGFV)の第1・四半期の調達額は少なくとも5380億元(830億ドル)に上った。
前年同期から178%の急増で、四半期としては2014年6月以来の高水準。
3月の起債額は2870億元(443億ドル)で月間で過去最大だった。
政府は14年に地方債市場を創設し、LGFV債を地方債のバランスシートに組み込もうとした。
しかし経済成長が鈍ったため、昨年半ばに軌道を修正して借り入れ規制を緩和した。
中央清算機関や仲介会社のデータによると、今年第1・四半期のLGFV債の発行は地方債の起債規模の60%程度となり、昨年第4・四半期の37%から上昇した。
ノムラ(香港)のチーフ中国エコノミストのYang Zhao氏は
「政府は昨年下半期に、負債によって調達可能なプロジェクトファイナンスの比率を引き上げた」
と指摘。
この規制緩和がLGFV債の起債増加につながったとみている。
その上で
「この流れが続けば、負債の対GDP比は急速に上昇しかねない。
持続可能な政策とは思われず、
政府当局者は2四半期以内に(与信)緩和のペースを減速するだろう」
とした。
LGFV債は、アナリストが懸念を示しているにもかかわらず投資家からの引き合いが比較的強い。
企業の債務不履行が増えて社債への信頼感が低下しているためだ。
上海を拠点とする外国のバイサイドの資金運用担当者は
「運用担当者は社債の信用の質に対する懸念を強めており、
国債や政府機関債に回帰しつつある」
と話す。
AA格付けのLGFV債の利回りは昨年半ばには通常の社債より高かったが、今では30ベーシスポイント(bp)低い水準で取引されている。
このため
「あらゆるLGFV債は半分国債のようなものだから、LGFV債を通じた調達は容易だ」(中国の市場関係者)
との声も聞かれる。
地方政府は駐車場から観光客向けアトラクションまで、さまざまな施設向けの資金を起債により調達している。
27日には貴州省のLGFVが7年物の債券で8億元を調達したが、この資金は欧州最大級のサッカースタジアムの2倍の規模を誇る施設の建設などに充てられる。
このLGFVの利払いに対する営業収益の比率は急激に悪化しているが、それでもこの債券の格付けは上から3番目の「ダブルA」だ。
(Nathaniel Taplin記者)
』
ロイター 2016年 05月 3日 11:07 JST
http://jp.reuters.com/article/china-local-governments-debt-idJPKCN0XT0DR?sp=true
焦点:中国地方負債が膨張、
不動産バブルや金融安定に赤信号
[上海 29日 ロイター] -
中国の地方政府は中央政府の借り入れ規制緩和に乗じて、債券発行により大量の資金をオフバランスで調達し始めた。
調達資金は中国の貧弱な景気回復を下支えするが、一方で地方政府の負債は一段と膨らんでいる。
不動産やコモディティなど一部資産クラスでバブルの懸念も高まり、金融の安定に赤信号が灯っている。
エコノミストは、中国の景気回復の背景には公的部門の投資増加があるとみている。
第1・四半期の国内総生産(GDP)成長率は7年ぶりの低い伸びにとどまったが、他の経済指標は3月に入って成長が上向いたことを示している。
そして公的部門の投資資金の大半は地方政府が起債により調達したものだ。
光大証券が民間調査会社WINDのデータを元に推計したところ、地方政府の資金調達プラットフォームである融資平台(LGFV)の第1・四半期の調達額は少なくとも5380億元(830億ドル)に上った。
前年同期から178%の急増で、四半期としては2014年6月以来の高水準。
3月の起債額は2870億元(443億ドル)で月間で過去最大だった。
政府は14年に地方債市場を創設し、LGFV債を地方債のバランスシートに組み込もうとした。
しかし経済成長が鈍ったため、昨年半ばに軌道を修正して借り入れ規制を緩和した。
中央清算機関や仲介会社のデータによると、今年第1・四半期のLGFV債の発行は地方債の起債規模の60%程度となり、昨年第4・四半期の37%から上昇した。
ノムラ(香港)のチーフ中国エコノミストのYang Zhao氏は
「政府は昨年下半期に、負債によって調達可能なプロジェクトファイナンスの比率を引き上げた」
と指摘。
この規制緩和がLGFV債の起債増加につながったとみている。
その上で
「この流れが続けば、負債の対GDP比は急速に上昇しかねない。
持続可能な政策とは思われず、
政府当局者は2四半期以内に(与信)緩和のペースを減速するだろう」
とした。
LGFV債は、アナリストが懸念を示しているにもかかわらず投資家からの引き合いが比較的強い。
企業の債務不履行が増えて社債への信頼感が低下しているためだ。
上海を拠点とする外国のバイサイドの資金運用担当者は
「運用担当者は社債の信用の質に対する懸念を強めており、
国債や政府機関債に回帰しつつある」
と話す。
AA格付けのLGFV債の利回りは昨年半ばには通常の社債より高かったが、今では30ベーシスポイント(bp)低い水準で取引されている。
このため
「あらゆるLGFV債は半分国債のようなものだから、LGFV債を通じた調達は容易だ」(中国の市場関係者)
との声も聞かれる。
地方政府は駐車場から観光客向けアトラクションまで、さまざまな施設向けの資金を起債により調達している。
27日には貴州省のLGFVが7年物の債券で8億元を調達したが、この資金は欧州最大級のサッカースタジアムの2倍の規模を誇る施設の建設などに充てられる。
このLGFVの利払いに対する営業収益の比率は急激に悪化しているが、それでもこの債券の格付けは上から3番目の「ダブルA」だ。
(Nathaniel Taplin記者)
』
『
Record china 配信日時:2016年5月25日(水) 5時10分
http://www.recordchina.co.jp/a139478.html
中国の深刻な不動産在庫に国営メディアが危機感、
中国ネットは「不動産バブルは庶民のせい?」と反発
2016年5月23日、中国メディアの人民日報が、過剰な不動産在庫に関する記事を掲載した。
中国の不動産市場では、長年にわたる急成長で多くの在庫を抱えるようになっている。
記事では、
★.欧米の持ち家率は60%ほどにすぎず、
日本では結婚時の持ち家率が14.3%で、
中国の90%
と大きく異なっていると指摘。中
国ではみんなが倹約して家を買うため不動産価格は上昇し続け、内需が拡大しないと主張し、賃貸物件の活用が不動産在庫対策になると論じた。
この記事が中国版ツイッター・微博(ウェイボー)で伝えられると、中国のネットユーザーからさまざまなコメントが寄せられた。
「住宅価格が高いことを庶民のせいにするのか」
「ほほう、不動産バブルは庶民のせいだといいたいのか。
なんて革新的な理論なんだ」
「倹約して家を買うような人が不動産価格を押し上げていると?」
「持ち家がないと小学校に入れないからだよ」
「俺は今年に入って2回も大家に追い出された。
2か月後には家賃値上げだ。
この気持ちが理解できるか?」
「70年間の使用権を持ち家と呼べるのか?」
「こういう時だけ西側の価値観を押し付けるのか」
「日本も欧米も政治家の資産は100%公開だ。
選択的な比較はやめてくれ」
』
【2016 異態の国家:明日への展望】
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