2016年4月7日木曜日

「パナマ文書」の衝撃(2):パナマ文書はどうやって世に出たのか、誰が盗みだしたのか?

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BBCニュース 2016.4.6視聴時間 01:14
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/46538

「パナマ文書」とは? 広がる波紋

 

 租税回避地として知られるパナマの法律事務所「モサック・フォンセカ」から流出した「パナマ文書」からは、各国首脳や著名人に関連した秘密裡に行われる資産運用の内容が明らかになった。
 失脚した独裁者たちだけでなく、現職の首脳の親族も関連が指摘され、波紋は今後も広がりそうだ。
 「パナマ文書」とはどんな資料なのか、簡単にまとめた。



ニューズウイーク 2016年4月6日(水)19時46分 小林恭子(在英ジャーナリスト)
http://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2016/04/post-4850.php

パナマ文書はどうやって世に出たのか
リーク元と接触した南ドイツ新聞の記者が明かす緊迫のやりとり
果たしてその正体は?


●スイスにもあったチューリヒのモサク・フォンセカ法律事務所 Arnd Wiegmann-REUTERS

 パナマの法律事務所「モサク・フォンセカ」から流出した、金融取引に関する大量の内部文書。
 これを元に「パナマ文書リーク」の報道記事が続々と出ている。
 いったいどうやって情報がメディアの手に渡り、各社の報道につながったのか。
 ウェブサイト、ニーマン・ラボ(4月4日付)とワイヤード(4月4日付)の記事から、要点をまとめてみたい。

 法律事務所の内部文書は1977年から2015年12月までの期間のもので、1150万点に上る。
 文書のサイズは2.6テラバイトに及ぶという。
 ウィキリークスの手によって世に出た米外交文書リーク(「ケーブルゲイト」、2010年)が1.73ギガバイトであったので、これの1000倍以上になるという。
 1150万の文書ファイルには480万の電子メール、100万の画像、210万のPDFが入っていた。

【参考記事】世紀のリーク「パナマ文書」が暴く権力者の資産運用、そして犯罪
http://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2016/04/43-1.php

■経緯は

 2014年末、ある人物が南ドイツ新聞の記者に暗号化されたチャットを通じて連絡をつけてきた。
 記者の名前はバスチアン・オベルマイヤー(Bastian Obermayer)。
 その人物は「犯罪を公にしたい」と言ったという。
 実際に顔を合わせず、連絡は暗号化されたチャンネルのみでだった。
 そうしなければ「命が危なくなる」からだった。

■暗号化されたチャットをその都度消去

  オベルマイヤー記者とリーク者は常に暗号化されたチャンネルで連絡を取り合い、どのチャンネルを使うかは時々変えた。
 それまでのコミュニケーションの内容をその都度、削除したという。
 暗号アプリの「シグナル」、「スリーマ」や、PGPメールなどを使ったというが、オベルマイヤーはどれをどのように使ったかについて、ワイヤードに明らかにしなかった。
 新たなチャンネルで連絡を始める際には一定の質問と答えを用意し、相手がその人物であることを互いに確認した。

 文書の一部を受け取った南ドイツ新聞は非営利組織の「国際調査報道ジャーナリスト連合」(ICIJ、ワシントンにある)に連絡した。
 ICIJは過去にも大型リークの分析を担当した経験があったからだ。
 ICIJのスタッフはミュンヘンにある南ドイツ新聞に出かけ、どう処理するかを話し合ったという。

 この間、ファイルは少しずつ南ドイツ新聞に送られていた。
 メールで送るには大きすぎるが、どうやって送られたのかについて、南ドイツ新聞はワイヤードに明らかにしていない。

 次に、ICIJのデベロパーたちがリーク文書を検索するサーチエンジンと世界の報道機関がアクセスできるURLを作った。
 サイトには報道機関の記者たちがリアルタイムでチャットできる仕組みも作られていた。
 記者同士がワシントン、ミュンヘン、ロンドン、ヨハネスバーグなどに集い、情報を交換もした。
 ICIJによると、リーク文書をそのまま公表する予定はないという。
 ジャーナリストたちが責任を持って記事化するよう、望んでいるからだ。

■情報源を守るためにHDも破壊
 
 リーク者を守るため、南ドイツ新聞のオベルマイヤーはリーク者との連絡用に使った電話やラップトップのハードドライブを破壊した。
 「念には念を入れたかった」。
 今でもリーク者が誰であるかは知らない状態だ。

 ワイヤードはメガリークの新たな時代が始まっている、という。

 ニーマン・ラボの記事によると、受け取った情報の分析は南ドイツ新聞ばかりではなく、フランスのルモンド紙、アルゼンチンのラ・ナシオン紙、スイスのゾンタ―グツァイトゥング紙、英国のガーディアンやBBCなどが協力して行った。
 プロジェクトにかかわった記者は約400人。
 世界76か国の100以上のメディア組織が協力したという。

 日本では共同通信と朝日新聞がこのプロジェクトに参加した。

 さらに詳しく知りたい方は「マッシャブル」の記事(英語)もご参考に。


[執筆者]
小林恭子(在英ジャーナリスト)
英国、欧州のメディア状況、社会・経済・政治事情を各種媒体に寄稿中。新刊『フィナンシャル・タイムズの実力』(洋泉社)、『英国メディア史』(中央公論新社)、『日本人が知らないウィキリークス(新書)』(共著、洋泉社)

※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。



BBC News 4月7日(木)17時46分配信 シリア・ハットン
http://www.bbc.com/japanese/features-and-analysis-35984040

 【パナマ文書】中国資産の密やかな流出 党幹部の親族も

 香港に並び立つ大銀行の脇では、幾重にも並ぶ両替商の店舗が得意とする匿名の取り引きが素早く行われている。
 しかし舞台裏では、もっと大規模な取り引きによって、かつてないペースで資金が動いている。
 中国本土から富が香港の両替商のもとへ流れ込み、さらに国外へと流れ出していく。

 中米パナマの法律事務所「モサック・フォンセカ」からリークされた資料によって、中国指導部の家族がどうやって資金をオフショアで貯めているかが分かった。
 資料のすべてを国際調査報道ジャーナリスト連合(ICIJ)が分析したところ、
 「モサック・フォンセカ」の業務の3割近くが、香港と中国本土の事務所によるものだと判明した。
 つまり同社にとって中国が最大の市場で、香港が最も忙しい事務所というわけだ。

■経済を不安定に? 

 「モサック・フォンセカ」の中国事業拡大は、中国の最富裕層がいかにオフショア投資に依存しているかという大きいトレンドの証拠だ。
 昨年1年で約1兆ドル(約110兆円)が中国外に流出し、外貨準備高をすり減らした。
 この動きは、中国の経済全体を不安定にさせる可能性がある。

 そして中国指導層の親族も、海外で資産を貯めているのだ。
 元職と現職を含めて少なくとも7人の国家指導者が、「モサック・フォンセカ」が設立したオフショア会社と関わりがあった。
 7人には、習近平国家主席のほか2人の最高幹部が含まれている。

■「パナマ文書」で名前の挙がった中国幹部

<現職>

・習近平国家主席――義兄がオフショア会社2社の会長・株主だった
・劉雲山中央政治局常務委員(共産党序列5位)――義理の娘がオフショア会社の会長・株主だった
・張高麗中央政治局常務委員(共産党序列7位)――義理の息子がオフショア会社3社の会長・株主だった

<元職>

・李鵬元首相(1987~1989年在任)――娘がオフショア会社の会長・株主だった
・賈慶林元政治局常務委員(2002~2012年在任、共産党序列4位)――孫娘がオフショア会社を所有していた
・曽慶紅元副主席(2002~2007年在任)――兄弟がオフショア会社の会長だった
・胡耀邦元中国共産党総書記(1982~1987年在任)――息子がオフショア会社の株主・会長・オーナーだった

 挙げられた名前の多くは以前からオフショア金融に関連して報道で取りざたされてきた。
 しかし、今回の文書漏洩は中国指導部にとって厄介なタイミングで起きた。
 オフショア会社の所有は中国では違法ではない。
 しかし隠れた資産の仕組みが存在したこと自体、中国指導部の家族に対してあらゆる疑問が湧きあがるきっかけとなる。
 中国共産党の綱領によると、党関係者は統治する立場から私利を得たりしないよう、清廉潔白にふるまわなくてはならない。
 そしてその家族も、政権トップとのつながりから私利を得てはならない。

 香港城市大学の政治アナリスト、ウィリー・ラム氏によると、習近平主席はこれまで「道徳と清貧において純粋な人」というイメージを掲げてきた。
 オフショア口座に莫大な資金を積み上げておくという行為は、
 「確実に習近平の教えや、共産党の有名な決まりごとに違反する」
という。
 「党幹部の子供たちが資産を不法に得たのかどうかは、中国の司法制度が非常に不透明なため分かりにくい」

■資金流出

 「パナマ文書」によって、中国のエリート層がどうやって資産を海外に保管しているか、かつてないほどよく分かるようになった。
 長々と続くメールのやりとりから、政府とつながりのある依頼人のオフショア会社設立を「モサック・フォンセカ」がいかに繰り返し手伝ったかが明らかだ。
 国際法はこうした場合、依頼人の身元調査を義務付けているが、「モサック・フォンセカ」はその手続きを踏んでいなかった。

 たとえば習主席の義兄にあたる鄧貴家氏が2004年と2009年に英領バージン諸島にオフショア会社3社を設立した際、手続きを手伝ったのは「モサック・フォンセカ」だが、同社は鄧氏と中国政界幹部との関係を調査しなかった。
 鄧氏が3つの会社を何に使ったのかは不明だが、習氏が2012年に国家主席に就任する前に1社は解散し、2社は休眠状態だった。

 しかしこれは実に皮肉な事態だ。
 習氏は主席になってからというもの、党内を対象に激しい腐敗一掃運動を展開してきた。
 2015年だけで、30万人もの党関係者が腐敗や汚職で処罰されているのだ。
 「モサック・フォンセカ」で起きていることは、よそでも繰り返されている。
 裕福な中国人は香港を出口に、資産を海外へ移動させて守っているのだ。
 香港在住の中国アナリスト、アンドリュー・コリアー氏は、
 「富裕層が資産を中国に置きたくないと思う理由は2つある」
と話す。
 「中国経済の失速が理由の一つだ。
 もうひとつは、党指導部による腐敗一掃の動きだ。
 中国内の資産は安全かどうか分からないという不安から、オフショアに移そうという人がいるようだ」

 中国からの資金流出を食い止めたい人たちが注目するのは、香港だ。
 中国の腐敗対策当局は3月、ほとんどの資金は香港経由で流出していると認め、完全に阻止するのは不可能かもしれないが止めさせるよう努力すると話している。

■「パニックになる」

 中国から昨年流出した資金のうち、約6000億ドルは金融当局の規制に触れる形で海外に移転した。
 中国国民は1人あたり年間5万ドルしか国外に持ち出すことはできない。
 それ以上は違法だ。
 現金を持ち出すために、複雑な送金の仕組みを使う人もいる。

 無認可の両替商にその手口を尋ねたところ、中国や香港、ベトナム、フィリピンなど各地で開いている何十もの「ゾンビ」口座に巨額の資金を置き、依頼人の送金をひそかに支援しているのだという。
 「ゾンビ」口座とは名義人が死亡したものの閉鎖されずに残っている口座のことで、
 これを使うことで資金の動きを追っても自分のところまでたどりつかない仕組みになっているという。
 「ひとつの国に持っている口座で、依頼人のお金を受け取る。
 そのお金を依頼人が必要とする通貨にして、別の国の別の口座に移すんだ」
とこの両替商は笑いながら説明してくれた。
 ただし、人民元を中国外に持ち出したいという依頼はもう受け付けないつもりだという。

 「ただでさえ手持ちの人民元がもう多すぎる」
と両替商は眉をひそめた。
 中国政府が、あなたのような両替商を摘発しはじめて、実際に法律を厳しく適用したらどうなる? 
 「パニックだ。パニックになる」

■マニーミュール――知らずに資金を運ぶ人たち

 資金の移動を突き動かすのは、不安感だ。
 「金融・経済政策を決める指導部の判断力に対する、信頼がないのだ」
とウィリー・ラム氏は説明する。
 「なので100万や200万米ドルを持つ人にしてみたら、少なくともその半分は海外に留め置かないと、馬鹿な話だということになる。
 党の未来をほとんど信頼していない
からという、単純な話だ」。

 大がかりな両替商を使うことができない人たちは、いわゆる「マニーミュール」を使って大金を国外に運ぶ。
 マニーミュールとは、大金を背負って国境を越える「ロバ=ミュール」の役割を果たす運び屋のことだ。
 「ロバ」として働く男性に話を聞いたところ、不安な依頼人の資金運び屋として忙しくしていると認めた。
 「海外に移住したい人、海外に投資したい人たちを手伝っている。
 現金を体にくくりつけることもあるし、小さいバッグで運ぶこともある。
 税関職員はいつも、荷物をたくさん抱えている人や、不安そうにしている人を抜き打ち検査するので、自分はふつうにふるまうようにしている」

■では、中国の最富裕層が資産を国外に持ち出すかどうかがなぜ重要なのか? 

 中国を出た資産はどこかに行かなくてはならない。
 この巨額の資産移動は世界中の不動産価格高騰を引き起こしている。
 中国本土の顧客と海外の販売業者をつなぐ不動産取引サイト「juwai.com」によると、中国人が昨年、海外不動産に支払った金額は520億ドル以上に上る。

 香港では、本土からの中国人が高級品を買いまくる。
 この現象は世界中で繰り返されている。
 中国の最富裕層は(本当に国の最高レベルにいる人たちも含む)中国以外の場所で資産を使い、保管しているのだ。
 この人たちはそうすることで自分を守っている。
 しかしそのせいで中国の安全が脅かされているのだ。

■タックスヘイブンで富裕層や権力者は何を
――パナマ文書とは

 中米パナマの法律事務所「モサック・フォンセカ」が所有していた1100万点に及ぶ資料を、南ドイツ新聞が入手。
 同紙はこれを国際調査報道ジャーナリスト連合(ICIJ)と共有した。
 76カ国107報道機関からなるICIJには、BBCパノラマや英紙ガーディアンも加わっている。
 BBCは情報提供者の身元について情報を持っていない。

 漏洩資料では、モサック・フォンセカが依頼人の資金洗浄、経済制裁回避、脱税を支援していた様子が示されている。
 これに対して同社は、40年にわたり合法に活動してきたし、いかなる犯罪行為の疑いをかけられたこともないし、立件されたこともないと反論している。

(英語記事 Panama Papers: How China's wealth is sneaked abroad)



2016.4.7(木)  Financial Times
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/46536
 (英フィナンシャル・タイムズ紙 2016年4月5日付)

プーチン大統領の金脈の中心にいるチェロ奏者
オフショア口座に20億ドル、
「パナマ文書」で怪しい取引が露呈

 ロシアのウラジーミル・プーチン大統領の親しい友人たちが同氏の統治下で財産と政治力を蓄える中、大統領に最初の妻を紹介し、2人の長女の名付け親でもあるチェロ奏者、セルゲイ・ロルドゥギン氏は、ロシアの新たな寡頭制の中で地位を築こうとはせず、音楽に人生を捧げることを選んだ。
 「私は数百万の金など持っていない」。
 同氏は2014年に、ニューヨーク・タイムズ紙にこう語った。

 実際にはロルドゥギン氏の資産は数百万ではなく、数十億ドルにのぼる。
 パナマの法律事務所「モサック・フォンセカ」から漏洩し、「国際調査報道ジャーナリスト連合(ICIJ)」が4月3日に公開した文書は、ロルドゥギン氏が密かにオフショア(租税回避地)の口座網に少なくとも20億ドルの資金を隠していたことを示している。
 これが事実なら、ロルドゥギン氏は断トツで世界一裕福な音楽家になるかもしれない。
 ICIJが暴いた1100万件の文書はどれもプーチン氏を名指ししてはいない。
 しかし一連の文書は、莫大とされる同氏の個人資産に関するこれまでの噂を裏付ける強力な証拠になる。

 米財務省は、2014年にロシアのクリミア併合に対する制裁を決定した際、プーチン氏の取り巻き集団のメンバーが、同氏の資金や投資を運用することで「出納係」の役を果たしていると述べていた。
 「ロルドゥギンがこれを自分で稼げたはずがないのは明らかだ――彼は音楽家なんだから」。
 反汚職活動家でプーチン氏の政敵であるアレクセイ・ナワリニー氏はこう言う。
 「プーチンが腐敗していることはニュースでも何でもないが、
 あの有名な『財布』に加えて、これも持っていることが分かった」

 ロシア政府高官らは疑惑を否定した。
 大統領府報道官のドミトリー・ペスコフ氏
――ロシアの法律では政府関係者の配偶者は企業を所有することを禁じられているものの、ペスコフ氏の妻はリークされた文書でオフショア企業の取締役として名前が挙げられている――
は3日、米中央情報局(CIA)と米国務省がロシア大統領の信用を傷つける「情報作戦」としてリークを企てたと述べた。

 リークされた文書は、ロルドゥギン氏が、ロシア銀行が運営する複雑な金融ネットワークを利用できることを示している。
 ロシア銀行のオーナー、ユーリ・コワルチュク氏は1990年代にプーチン氏やその後大富豪になった友人数人とともにサンクトペテルブルク郊外にダーチャ協同組合を立ち上げた人物で、ロシア銀行もコワルチュク氏も米国と欧州連合(EU)の制裁対象になっている。
 ロルドゥギン氏はニューヨーク・タイムズ紙に対し、何年も前に自分がお金に困っていたときに、好意としてロシア銀行の株式を贈られたと語った。
 現在、ロシア銀行は同氏を、3.2%の株式を所有する株主として記載している。
 2008年から2013年にかけて、ロシア銀行の資産は2倍以上に膨らんで80億ドルに達しており、同行はロルドゥギン氏と結びついた20億ドル規模の企業ネットワークを運営している。

 リークされた文書によると、このネットワークの主要仲介会社は、ほとんど無名の実業家オレグ・ゴルディン氏が経営権を持つ英領バージン諸島の会社サンダルウッドだ。
 文書は、サンダルウッドがロシア国営銀行VTBの子会社RCBキプロスから8億ドル相当の無担保融資を受けたことを示している。
 RCBキプロスはサンダルウッドの返済能力についてほとんど何も予防策を講じなかった。
 一連の文書によると、サンダルウッドは、多くの場合、有利な条件で利払いを受けられるローン交換合意にも関与していた。
 ある事例では、ロルドゥギン氏は1ドル払って800万ドルの金利を受け取っている。

 パナマ文書は、サンダルウッドの口座の資金の一部が、破格の低金利でプーチン氏と関係のあるロシア国内のプロジェクトの財源として使われたことを示している。
 ある例では、サンダルウッドはコワルチュク氏が共同所有するオゾンという会社に1130万ドル融資した。
 同氏のダーチャ協同組合の近くにスキーリゾート「イゴラ」を建設するためだ。

 ロイター通信によると、このリゾートは、プーチン氏の次女エカテリーナが2013年に、やはりプーチン氏の友人の息子にあたるキリル・シャマロフ氏と秘密裏に結婚した場所だ。
 リークによると、サンダルウッドが2012年に閉鎖された後、その業務はオーブ・フィナンシャル・コープという英領バージン諸島の会社に移管された。
 プーチン氏のメディアアドバイザー、ミハイル・レーシン氏と関係のある会社だ。

 文書によれば、ロルドゥギン氏は、レーシン氏が創業し、ロシア銀行が共同所有するテレビ広告会社ビデオ・インターナショナルの少数株式を保有している。
 レーシン氏は昨年ワシントンで不審死を遂げるまで、多くの場合はコワルチュク氏の助けを得て、ロシアメディアに対するクレムリンの支配力を振るった。
 リークされた文書は、ロルドゥギン氏が自動車メーカーのカマズとアフトワズの株式も保有していることを示している。
 また、ロルドゥギン氏と結びついた複数の企業が、ロシアのオリガルヒ(新興財閥)から極めて有利な条件で何百万ドルもの支払いを受けたことも明らかにしている。

 パナマ文書はさらに、鉄鋼大手セベルスターリと関係のある会社レーベンス・トレーディングが2007年に、ロルドゥギン氏と関係のある別の会社に金利2%で600万ドル貸し付け、わずか2カ月後に1ドルで債務免除したことを示している。
 オリガルヒのスレイマン・ケリモフ氏の支配下にある企業数社も、2010年に40億ルーブルの融資と2億ドルの融資を同額でロルドゥギン氏と関係のある企業に移管した。

 プーチン氏の柔道仲間のアルカディ・ローテンブルク氏は2013年に、ガスパイプライン建設計画の政府契約を勝ち取った後、ロルドゥギン氏と関係のある企業に対し、返済計画なしで2億3100万ドルの融資を実行した。
 リークされた文書によると、ロルドゥギン氏と関係のある企業は、ロシアの石油・ガス独占企業のロスネフチとガスプロムの株式の売買でも莫大な利益を上げた。
 2010年には、別のオフショア企業がロルドゥギン氏にロスネフチ株を売却した後、即座に売却契約を取り消し、ロルドゥギン氏の会社は賠償金として75万ドル受け取った。
 ロシア最大手銀行ズベルバンクが手がけた別のケースでは、ロルドゥギン氏が株式を購入し、翌日に買値より何十万ドルも高い値段で売り戻している。

 ロシアのメディアはロシアと関係のあるリークを無視し、ウクライナのペトロ・ポロシェンコ大統領が持つオフショア企業に関するニュースばかり取り上げた。

 「ロシアでの反応は、『はっはっ、連中は20億見つけただけか?』というものだ。
 そんなのは個人的な出費の小口現金だ」。
 ナワリニー氏はこう話す。「パナマはロシア政府関係者にとって一番人気のあるオフショアではない。
 もし英領バージン諸島についてこのような情報を見つけたら、金額は何倍も大きくなるだろう」



JB Press 2016.4.8(金)  池田 信夫
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/46557

パナマ文書で見えた世界の「地下経済」
タックスヘイブンを動かす闇のからくり


●パナマの首都パナマ市にある、法律事務所モサック・フォンセカが入るビル(2016年4月4日撮影)。(c)AFP/RODRIGO ARANGUA〔AFPBB News〕

 パナマの法律事務所モサック・フォンセカから漏洩した機密ファイルが、世界を震撼させている。
 「パナマ文書」と呼ばれるこの文書は、タックスヘイブン(租税回避地)であるパナマで税務処理を行なってきた「モサック・フォンセカ」が過去40年にわたって扱ってきた膨大な税務情報だ。

 南ドイツ新聞が入手し、国際調査報道ジャーナリスト連合(ICIJ)が4月3日に発表したところによると、そのデータ量は2.6テラバイト、1万4000の金融機関とそのクライアント21万4500社の税務情報が記載されているという。
 ウィキリークスやスノーデンのファイルより質量ともにはるかに大きく、インパクトも強烈だ。

■ケイマン諸島で見たタックスヘイブンの実態

 タックスヘイブンというと、実態のないペーパーカンパニーだと思う人が多いだろうが、私はその本拠地として有名なケイマン諸島に行ったことがある。
 1995年にインターネット上で営業していた銀行が姿をくらまし、その所在地がケイマンということになっていたので取材したのだ。

 広さは淡路島ぐらいで、空港のあたりは椰子の木しかない熱帯の島なのだが、高速道路で中心部に入ると、風景が一変する。
 高層ビルが林立し、それもシティバンクやバークレーズなど、世界の一流銀行ばかり。
 問題のネット銀行も堂々たる社屋があったが、無人だった。

 その銀行に預金をだまし取られた企業の北米本社もケイマン諸島にあったので、たずねてみた。
 たしかにそのビルは存在し、受付に聞くと会社もそこに登記されている。だが、
 調べてみると3階建てぐらいのビルに1500社も入居している。
 それも多くは北米本社とか世界本社としてケイマンで法人税(ほぼゼロ)を払っているが、
 従業員は受付しかいない。

 一応ケイマンにも大蔵省はあるのだが、日本の税務署より小さな建物で、スタッフも数十人。
  問題の企業についての税務資料を出してくれというと、出てきたのは10ページぐらいの簡単な財務資料だけで、ここ10年の売り上げや利益ぐらいしか書いてない。

税率は実質ゼロなので、財務内容を知る必要がないのだ。
 それでもケイマンは豊かだ。
 これだけ多くの銀行があれば、彼らの落とす金だけで小さな島は十分やっていける。
 一応主権国家なので、他国がケイマンの税率に介入できない。

 こんな小さな島に数千の「プライベートバンク」と称する金融機関があるが、その財務内容は "CONFIDENTIAL"としか書いてない。
 電話番号はあるが、電話しても「顧客の秘密を守ることが当社の使命だ」としか答えない。

■地下経済を支配する英米の金融資本

不可解なのは、世界の企業や大富豪が、
 こんな小さな島の電話しかない「銀行」に何億ドルも預金するのはなぜかということだ。

 その答は、現地の弁護士が教えてくれた。
 「実際にはそんな銀行は存在しない。
 キャッシュもケイマンにはないんだよ」。
  実際の取引が行なわれているのは、ニューヨークのウォール街とロンドンのシティのコンピューターネットワークで、「デリバティブ」と称する金融商品でケイマンの証券のようにみせているのだ。

 だからケイマンの金融機関の経営者にも、シティの銀行を退職した貴族や大蔵省OBなど、シティの関係者が多い。
 もとはイギリスの植民地だったので当然だが、正体不明の銀行の多くはシティのダミー会社であり、
 プーチンや習近平の親族の資産も、実際には
 英米の投資銀行にある
のだ。

 タックスヘイブン自体は違法ではないが、アップルの海外法人がこういう仕組みを利用して利益の1.8%しか納税していないことが議会で批判を浴びた。
 また、こういう銀行に預けられるのは犯罪や汚職などによって得られた資金のマネーロンダリング(資金洗浄)であることが多い。

 アメリカ政府も2001年の9・11の後、ブッシュ大統領がアルカイダの資金が隠されているという理由でケイマン諸島の銀行を摘発したが、失敗に終わった。
 タックスヘイブンの実態はコンピューターネットワークであり、最近では匿名の「ビットコイン」のような仮想通貨を使えば、タックスヘイブンも必要ない。

 世界の金融資産の1割は、こういうタックスヘイブンに隠された「地下経済」にあると推定されている。
 その最大の原因は、法人税を利益に課税した上に、
 その残りの配当にも所得税を課税する二重課税だからであり、
 法人税を廃止すれば租税回避はかなり減るだろう。

 タックスヘイブンが麻薬の売買や汚職の蓄財に使われていることも事実だが、問題はそういう犯罪であって租税回避ではない。
 公共サービスを受けている人が税を負担しないと、財政が支えられなくなるが、これを警察や税務署が摘発するのは限界がある。

 現実的な方法は、固定資産のような逃げられない資産に課税することと、消費税を増税することだ。
 所得税は捕捉しにくく回避しやすいが、
 消費は隠すことができない。
 ケイマン諸島に資産をもっている大富豪も、金を使うのは自国なので、そこで課税すればよい。

■アジアの政治情勢にも影響か

 問題はパナマ文書の信憑性だが、アイスランドのグンロイグソン首相は、この中に本人名義の口座が発見されて辞任したので、その信憑性は高い。
 他にもロシアのプーチン大統領や中国の習近平国家主席の親族の名前も出ており、これが事実だとすれば、問題は単なる租税回避にはとどまらない。

 タックスヘイブンには、ソ連が解体したとき国有財産を横領した「ロシアマフィア」の資金が大量にあるといわれ、プーチン自身がそういう「新興財閥」を資金源にしてのし上がってきた人物であり、海外資産の大部分はそういう犯罪による所得を隠した脱税と考えられる。

 しかし彼の場合にはロシアマフィア全体が泥棒集団であり、プーチンひとりの問題ではないので、全容が分からない。
 政敵も「消される」ので、有力な対抗勢力が少なく、摘発する司法当局も彼の支配下にあるので、政権への影響は限定的だろう。

 問題は中国である。
 パナマ文書を伝えるNHKニュースは、中国では放送が中断されたが、これは習近平の名前が出ることを恐れたためと思われる。
 中国では伝統的に、高級官僚は賄賂で蓄財して一族を養うことが義務とされているので、叩けば誰でも埃は出てくる。

 逆にいうと、スキャンダルが表面化したときが政治生命の終わりだ。
 習近平の有力なライバルだった薄煕来(元重慶市長)は、妻の殺人と海外蓄財の容疑で起訴されて無期懲役になったが、彼より巨額の隠し資産が報じられた温家宝はおとがめなしだった。

 習近平は国家主席と共産党総書記と軍事委員会主席を兼務し、かつてない権力を集中しているといわれるが、その権力基盤は意外に脆い。
 江沢民元国家主席を中心とする「上海グループ(上海閥)」がまだ実権をもち、党内抗争が絶えない。

 いま習近平は経済危機の中で政治的に追い込まれ、「虎も蠅も退治する」と銘打って反腐敗闘争を展開している。
 その実態は上海グループの排除だが、最大の虎が習自身だとなると政変になる可能性もある。
 これは東アジアの軍事情勢を不安定化するおそれがある。

 パナマで起こった情報漏洩は、世界経済を揺るがすだけでなく、国際政治にも大きな影響を与えるおそれがある。
 パナマ文書に出てくる日本企業は10社しかないが、これは対岸の火事ではないのだ。



BBC News 2016年04月07日(Thu) 
http://wedge.ismedia.jp/articles/-/6519

【パナマ文書】パナマ政府、
 オフショア問題で専門家パネル設置へ

 中米パナマのバレラ大統領は6日、タックスヘイブン(租税回避地)について法律事務所から漏洩した「パナマ文書」の問題で、オフショア金融業の透明性を改善するための国際専門家パネルを設置すると発表した。
 大統領は、漏洩文書の内容をめぐり他の国々と協力していく方針を示した。

 大統領はテレビ演説で「パナマ政府は外務省を通じて、国内外の専門家を集めた独立委員会を設置する」と表明した。
 パナマの法律事務所「モサック・フォンセカ」が所有していた1100万点に及ぶ資料が漏洩し、同社が多くの顧客の脱税や制裁回避を手伝っていた疑惑が浮上している。
 これを受けて一部の国では法的措置の可能性を検討している。

 大統領によると専門家パネルは、パナマの金融・法律システムの透明性向上のため、現行の商慣行を点検し、対策を提案することになる。
 特派員たちによると大統領は、先進諸国のメディアからパナマは「攻撃」されており、自分が不当に非難されていると感じている。
 そのため大統領は、パナマの名誉を守ろうとしているのだという。

 「モサック・フォンセカ」は自分たちはハッキングの被害者だと主張し、パナマ司法当局に苦情を提出した。
 共同経営者のラモン・フォンセカ氏は、文書が流出したのは内部漏洩が原因ではなく海外のサーバーからハッキングされたと話している。
 同社は漏洩文書について報道した報道機関について、
 「わが社から持ち出された書類や資料に、許可なくアクセス」
し、文脈を離れて内容を伝えたと批判している。

 フォンセカ氏はバレラ政権の閣僚経験者。
 モサック・フォンセカがブラジルの国営石油会社ペトロブラスをめぐる贈収賄事件との関連が疑われるなか、今年初めに辞任した。
 同社のブラジル拠点が、収賄が疑われる顧客数人のため、不動産取引を経由した資金洗浄の一環としてパナマでのオフショア会社設置を支援した疑いが出ている。

 パナマ・メディアによるとバレラ大統領は、フォンセカ氏を「友人」と呼び、まだ連絡を取り合っていると話している。
 「友人は、つらい時に逃げたりしない。そばにいるものだ」
とバレラ氏は話したという。
 「パナマ文書」では、オフショア会社を使った租税回避行動に関わったとして、多くの著名人や政治家が特定されている。

 5日には、アイスランドのグンロイグソン首相が辞任。
 「パナマ文書」で、妻と所有していたオフショア会社を議員初当選した際に申告していなかったことが明らかになった。
 アイスランド連立政権は後任に与党・進歩党の副党首、ヨハンソン農業相を指名。
 総選挙を秋に前倒しすると発表した。
 グンロイグソン氏は、オフショア会社の株は妻に売却したと説明し、問題となる行動は何もしていないと主張している。

(英語記事 Panama Papers: Government announces creation of 'panel of experts')

提供元:http://www.bbc.com/japanese/35985559



WEDGE Infinity 日本をもっと、考える 2016年04月07日(Thu)  佐々木伸 (星槎大学客員教授)
http://wedge.ismedia.jp/articles/-/6515

「パナマ文書」多くが合法なのが問題
プーチンから習近平まで疑惑数々

 タックスヘイブン(租税回避地)を使って各国首脳や有力者、著名人、富裕層らが税金逃れや不当蓄財、マネーロンダリング(資金洗浄)など闇の“悪行”を重ねていた実態が「パナマ文書」によって次々に暴露されている。
 格差社会にあえぐ国際社会に権力者や金持ちだけがいい目を見ているという怨嗟が広がっている。

■スノーデン文書を超える衝撃

  「パナマ文書」はタックスヘイブン法人の設立支援をてがける中米パナマの法律事務所「モッサク・フォンセカ」の内部文書。
 ドイツの有力紙南ドイツ新聞が入手し、「国際調査報道ジャーナリスト連合」(JCIJ)が分析・調査をしている。

 これまで判明したところでは、文書の法人情報の中には、
 10カ国の現旧指導者12人、
 これら指導者の親族ら61人、
 それ以外の政治家、政府幹部128人
が含まれている。
 また世界のサッカー界のスター、バルセロナ所属のメッシ選手、香港の俳優ジャッキー・チェンさんら著名人、
 日本の警備大手会社の創業者らによる法人設立も分かった。

 各国の指導者で、自身や親族、友人らが会社設立などで関与していたとされるのは、
 ロシアのプーチン大統領、
 中国の習近平国家主席、
 キャメロン英首相らをはじめ、
 シリアのアサド大統領、
 ウクライナのポロシェンコ大統領、
 韓国の盧泰愚元大統領
らだ。

 アイスランドのグンロイグソン首相は妻と共同で英領バージン諸島の会社を購入し、数百万ドルの投資を行っていた。
 同国は2008年の金融危機で国家経済が破綻状態になって以降、国民生活はどん底にあえいでいる。
 このため同首相が権限を利用して“うまい汁”を吸っているのではないかとの批判が高まり、首相は辞意表明に追い込まれた。

 中国では、習近平国家主席の義兄や、中国共産党序列5位の劉雲山・政治局常務委員、同7位の張高麗・筆頭副首相の親族の名前も含まれており、タックスヘイブンにある企業を利用して金融取引を行っていたのではないか、との疑惑が浮上している。

 習指導部は反腐敗運動を推進し、「虎もハエもたたく」と綱紀粛正を看板にしてきただけに今回の疑惑暴露により、政権に批判が強まるのは避けられない。
 中国では報道規制が敷かれ、この問題について7日からインターネットの検索ができなくなっており、都合の悪いモノにはフタをするという全体主義特有の強権姿勢が出ている。

 プーチン氏については、友人のチェロ奏者ロルドギン氏らがキプロスのロシア商業銀行から融資を引き出し、この資金がバージン諸島に設立した企業を経由するなど金融取引が行われ、その総額は約20億ドル(2100億円)にも達している。

 ロシア大統領報道官は「でたらめだ」と否定し、同銀行もロルドギン氏への便宜供与などを否定したが、一連の「パナマ文書」による衝撃は米国の情報活動や国防政策の秘密を暴露したあの「スノーデン文書」よりも大きい、との指摘もある。
 国際的に広がる格差社会の一端を明るみに出すものだからだ。

■捜査と規制の動き急

 大きな問題はこうした数々の疑惑に違法性があると単純に決め付けることができない点だ。
 タックスヘイブンで資産や企業を保有し、金融取引を行うこと自体は違法ではない。
 「多くの取引が合法で、それがむしろ問題だ」
とオバマ米大統領が指摘している通りだ。
 問題は情報が公開されない闇の中で取引などが行われているため、脱税、粉飾、資金洗浄、非合法活動・テロ支援など不正活動の温床になっているということだろう。

 北朝鮮への不正送金に関わったとされる複数の企業や、
 米国がテロ組織に指定しているレバノンの武装組織ヒズボラや
 メキシコ、グアテマラの麻薬密売グループに関わる企業の関与
も浮き彫りになっている。

 「パナマ文書」に関する当局の捜査の動きも急速に進み始めている。
 パナマ検察当局が違法行為の有無などについて捜査をすると発表、情報流出先の法律事務所を捜査する方針だ。
 米司法省も米国の法律に違反している事実がないかどうかの捜査を開始した。

■FIFAにも飛び火

 スイスの捜査当局は6日、この文書に関連して欧州サッカー連盟(UEFA)の本部を家宅捜索した。
 文書をめぐっては、国際サッカー連盟(FIFA)のインファンティノ会長がUEFAの法務責任者時代、FIFA汚職事件の被告2人が経営する会社と放映権の契約を結んだと伝えられている。

 タックスヘイブンの影響で世界各国が被っている税金逃れの損失は数兆ドルにも達するといわれており、米国を中心に税金逃れを規制する動きが加速しつつある。
 日本も含め欧米各国でタックスヘイブンへの移転企業に何らかの形の「出国税」が掛けられる仕組みも導入されている

 オバマ政権は近く、米国内で銀行口座を開設するペーパーカンパニーに対して実質的な会社の所有者らを特定することを銀行に義務付ける法律の制定を目指す考えとされ、規制と法の抜け道利用との“イタチごっこ”が今後も続くのは間違いない。



サーチナニュース 2016-04-08 18:55
http://news.searchina.net/id/1606968?page=1

パナマ文書:
国際金融大手HSBC、ペーパー会社2300社の設立に関与 
株価急落で配当利回り8%超え

 国際調査報道ジャーナリスト連合(ICIJ)が公表した「パナマ文書」で、
  世界的な金融グループのHSBCが約2300社のペーパー会社設立に関係していたことが判明した。

 パナマ文書は、同国の法律事務所「モサック・フォンセカ」から流出した1000万件以上にのぼる機密情報。
 英国のキャメロン首相、ロシアのプーチン首相、中国の習近平国家主席の親族や知人などが、租税回避地を活用してきたことを明らかにした。
 オフショア会社で資金を保有すること自体は違法ではないが、資産隠しや税金逃れの手法として利用される場合があるため、世界で高い関心を集めている。

■配当利回り8.4%

 同文書の公表を受け、HSBCの株価は5日に3.7%下落した。
 年初来ではすでに22.5%売られ、配当利回りは8.4%(15年実績ベース)まで上昇している。
 長期的な配当収入を狙う投資家にとっては、買いを検討したくなる利回り水準だろう。
 ただし、配当利回りの上昇には必ずそうなるだけの理由がある。
 HSBCの場合は新興国市場の景気減速による収益悪化が株価低迷の背景で、15年10-12月期は13億2500万ドル(約1460億円)の最終赤字を計上するなど低迷している。

 こうした状況でも、現在の配当水準が当面維持されるとの見方が根強い。
 日本の大手証券のレポートでは、
 「HSBCはリスク加重資産の削減を進めることで自己資本増強の必要性を引き下げ、緩やかな増配ペースを維持する」
といった予想も示された。

■お宝ポジション獲得のチャンス? 

 欧米の大手銀行グループの配当利回りは、高くても英バークレイズの4.8%程度。
 日本も含めれば、
 みずほフィナンシャルグループ<8411>の4.9%や、
 三井住友フィナンシャルグループ<8316>の4.8%
が目をひくが、日銀がマイナス金利政策を拡大する可能性もあることから、株価の下方リスクは大きい。

 HSBCの株価がどこで下げ止まるかは誰にもわからないが、パナマ文書によるスキャンダルと現在のHSBCの株価水準は、長期的な「お宝ポジション」を実現させる可能性を秘めている。
(情報提供:モーニングスター)



日本テレビ系(NNN) 4月9日(土)2時16分配信
http://headlines.yahoo.co.jp/videonews/nnn?a=20160409-00000004-nnn-int

“パナマ文書”ついに国家元首を捜査へ



 いわゆる「パナマ文書」が流出し、各国の政治家らによる課税逃れが指摘されている問題で7日、南米・アルゼンチンの検察当局は、去年12月に就任したばかりのマクリ大統領への捜査許可を裁判所に求めた。マ
 クリ大統領は、父親がタックスヘイブンのバハマなどに設立した2つの会社の重役であることが明らかになっている。

 パナマ文書の問題で捜査の手が国家首脳本人に及ぶのは初めて。



ロイター 2016年 04月 8日 09:35 JST
http://jp.reuters.com/article/column-panama-elite-idJPKCN0X501J

コラム:エリート層脅かす「パナマ文書」、流出は止まらず

[6日 ロイター] -
  パナマの法律事務所「モサック・フォンセカ」から約1100万点の機密文書が流出した。
  一見する限り、知られていたことがほとんどのように思える。
  少なくとも、疑惑はすでに広がっていたからだ。

   多くの場合は全く合法とはいえ、2008年の金融危機以降、有力者や企業の脱税・所有隠しを可能とするタックスヘイブン(租税回避地)やダミー企業、他の金融手段の世界的ネットワークを指摘する情報や証拠が絶え間なく流れていた。

 しかし、今回のいわゆる「パナマ文書」流出は史上最大であり、ほぼ間違いなくこれが最後ではあるまい。
 独裁国家、民主主義国家を問わず、世界で最も影響力のある人たちが富と力を築く一助となった不可解なネットワークは、徐々に明らかになりつつある。
 漸進的だが、もはや止めることは不可能だ。

 透明性の問題は現在、より広範なエリート層に対する反発につながっている。
 今後は間違いなく、火に油を注ぐことになるだろう。
 米大統領選、高まる欧州の政治不安、中国やサウジアラビアの政界工作など、あらゆる国の政治プロセスにおいて起きる可能性がある。

 その影響は広範囲に及ぶ可能性があり、しかも全てが楽観的とは決して言い難い。
 2011年に中東で起きた民主化運動「アラブの春」は、要するに、こうした傾向への怒りが原因の1つだった。
 「アラブの春」が結果として特にうまくいったわけではないが、米大統領選共和党候補指名争いでトップを走る不動産王ドナルド・トランプ氏の台頭や、欧州での超保守的な政策を考えると、西側でもすでに、多くの人が心配するような政治的変化が起きていると言える。

 しかしながら、強く望まれている政治やその他のシステム改革といった有益な結果をもたらす可能性もある。
 うまくいけば、ダボス会議に集まるような政財学界エリートたちの思い込みの一部を正し、それらを弱める一方、新たな血を取り入れられるはずだ。
 少なくとも、世界中の税制を見直し、個人や団体が義務を逃れられないようにする新たな原動力を生み出すに違いない。

 2008年に起きた金融危機の傷跡が今なお残るアイスランドでは、パナマ文書が流出したことですでに首相が辞任に追い込まれた。だが他の国では、影響はもっと複雑になる恐れがある。

 パナマ文書に記載されていた一部の例、とりわけロシアのプーチン大統領と、その友人の1人が運用する約20億ドル(約2163億円)の資産とのつながりに関するものは、多くの人が長い間信じてきたことに対する記録以外の何ものでもない。

 その正否はさておき、政財界の多くはプーチン氏が世界で最も裕福な層の1人だと常に考えていた。
 同時に、資金の大半は同氏の権力を維持する利権構造の一部として直ちに他の懐に入れられるとも考えている。

 パナマ文書で興味深い教訓はむしろ、その他多くの有力者がこうした手段を使っていた例にあると筆者は考える。
 これらにおいては、辞任や劇的な政変はあまり起きそうもない。

 キャメロン英首相の亡父が租税回避地を合法的に利用していたことが同文書で明らかとなったが、キャメロン氏はこれを切り抜けるだろう。
 この問題よりも、欧州連合(EU)離脱の是非を問う国民投票の方が同氏にとって脅威となる。
 同様に、文書に記載のあったアルゼンチン、ガーナ、エジプト、その他多くの国々の政界エリートたちも嵐を乗り切るだろう。

 だからといって、パナマ文書流出の効果が全くないわけではない。

 関与していた人たちの多くが明らかに依拠していたのは、
 「みんなでやれば怖くない」という論理である。
 世界中の政財界エリート層のあまりに多くが行っていたので、租税回避地や他の節税対策を使うことが悪いとは思わなかったのだ。

 むしろこのことが、すでに顕在化しつつある、若干異なる経歴を持つ政治指導者の新世代が台頭するというトレンドを加速させると、筆者は思う。
 このような環境では、富やエリート教育、キャリアといったことは実際、助けになるというより邪魔になる可能性がある。

 もっぱら富に執着する人の租税回避地使用は止められないかもしれないが、政治的権力も欲する人には抑止力となるだろう。

 このようなトレンドはすでに英国の政界で見られる。
 66歳の社会主義者、ジェレミー・コービン氏は、比較的主流の候補3人を破り、野党労働党の党首の座に就いた。
 同氏の予想外の勝利は多くの点で、米大統領選の民主党候補指名を争うサンダース上院議員の台頭を予感させるものだった。

 キャメロン首相率いる保守党政権は、近年の歴史において最も議席数の少ない政権の1つだ。
 首相を含む政権トップの何人かは名門イートン校出身で、多くが少なくとも数百万ポンドの銀行預金があり、コンサルティング会社や金融機関でのキャリアをもつ。
 最近まで、オズボーン財務相とロンドンのジョンソン市長がキャメロン氏に代わる最有力候補と目されていたが、2人とも同類である。

 だがつい最近になって、それは変わりつつある。
 任命されて間もないスティーブン・クラブ雇用・年金相の名が、保守党党首候補としてささやかれ始めている。
 クラブ氏はウェールズの労働者階級出身で、公営住宅でシングルマザーに育てられた。

 クラブ氏のような候補者はまだ米国政治システムに本格的に浸透していない。
 だが、それも時間の問題かもしれない。
 サンダース氏は最近の予備選で勝利を重ねているが、民主党候補の指名を得るには遅すぎたように見える。
 同氏と民主党候補指名を争うクリントン前国務長官とトランプ氏は、エリート層の主流であり続けている。

 しかし反権力の流れに乗っても、それほど成果は期待できないだろう。
 たとえ次世代の政治家がパナマ文書で露呈したような道徳的に不快な取引に巻き込まれるのを回避できたとしても、そうしたシステム自体が是正されることはないだろう。
 ほぼどの国でも貧富の格差が拡大しているとはいえ、現在のグローバル化した金融・貿易制度は発展途上諸国の何億人もの人々を貧困から救い出すことに寄与している。

 制度を完全に破壊することなく最悪の行為を更生させることは、決してたやすくはないだろう。

*筆者はロイターのコラムニスト。元ロイターの防衛担当記者で、現在はシンクタンク「Project for Study of the 21st Century(PS21)」を立ち上げ、理事を務める。

*本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています。





【2016 異態の国家:明日への展望】


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