『
ニューズウイーク 2016年4月8日(金)16時28分 小暮聡子(ニューヨーク支局)
http://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2016/04/ny-5.php
NYタイムズですら蚊帳の外、
「パナマ文書」に乗り遅れた米メディア
アメリカで「世紀のリーク」の扱いが小さかった背景には、
米大手メディアの調査報道不参加がある
今後の暴露は生データを握るメディアに注目だ
●なぜ載っていない? 読者から説明を迫られたニューヨーク・タイムズのPublic Editorが、同紙Deputy Executive Editorに質問をして記事を公開、同紙がパナマ文書の存在を知らず、そのため独自取材できない記事では「一面にふさわしくない」と判断したことを明かしている
世界の権力者や富裕層がタックスヘイブン(租税回避地)であるパナマの法律事務所モサック・フォンセカを使って課税逃れをしていた――米国東部時間の4月3日午後、こうした実態を裏付けかねない内部資料「パナマ文書」についての第一報が出ると、ニュースは瞬く間に世界を駆け巡った。
この「爆弾」を落とされて激震が走ったのは、中国やロシア、アイスランドやイギリスの官邸だけではない。
1年以上前からこの文書の存在を知っていた世界100以上のメディア以外の報道機関も同じだ。
これまでに出ている情報によれば、
発端は2014年末にある匿名の人物が南ドイツ新聞の記者に連絡をとり、パナマ文書のリークを申し出たこと。
さながら「ディープスロート」のような人物から情報提供を受けた南ドイツ新聞は、米ワシントンに本拠を置く非営利組織「国際調査報道ジャーナリスト連合(ICIJ)」に話を持ちかけ、世界中のメディアを巻き込んで文書を分析することにした。
文書データのサイズが2.6テラバイト、ファイル数にして1150万(480万の電子メール、100万の画像、210万のPDF)と莫大で、裏取りするのにはグローバルな調査報道体制を敷く必要があったからだ。
こうしてICIJの呼びかけで
世界76カ国、
100以上のメディアから記者370人以上が協力し、
約1年かけて情報を分析
していった。
ICIJはプロジェクトに参加する記者だけがアクセスできるURLを作って、国をまたいで情報交換する仕組みを整えたという。
この世界的な調査報道の成果が「パナマ文書」の衝撃だ。
【参考記事】パナマ文書はどうやって世に出たのか
http://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2016/04/post-4850.php
プロジェクトにはイギリスからはBBCやガーディアン紙、フランスからはルモンド紙などが参加し、これらの媒体サイトには「パナマペーパー」の特設コーナーが設けられて大々的な報道が続いている。
ところが、IT情報サイトvocativによれば4月3日から4日にかけて世界の参加メディアが一斉にパナマ文書を報じるなか、4日のアメリカの各紙一面にはほとんど掲載がなかった。
米メディアでの扱いが小さかった理由は、1つには冷泉彰彦さんも指摘しているように、5日のウィスコンシン州の大統領選予備選に大きな注目が集まっていたことがあるだろう。
さらに冷泉さんは、アメリカでは節税や脱税が非難されない「風土」があることも指摘している。
一方で、メディア側の実情を明かしてしまえば、
米大手メディアはそもそも「パナマ文書」プロジェクトに軒並み参加しておらず、
生データにアクセスできないためにスタート時点では後追い報道しかできなかった、
というのがおそらく本音だ。
参加メディアのリストはICIJのサイトに公開されているが、アメリカからは
ニューヨーク・タイムズ紙、
ワシントン・ポスト紙、
ウォール・ストリート・ジャーナル紙
など主要紙が参加していない。
新聞に限った有名どころで名前を連ねているのは、
マイアミ・ヘラルド紙と
カリフォルニアを本拠地とするマクラッチー(McClatchy)社くらいだ
(本誌ニューズウィークも不参加)。
日本からは共同通信社と朝日新聞社が参加していて、ICIJのサイトに公開されている参加記者リストには共同通信の澤康臣さん(@yasuomisawa)、朝日新聞の奥山俊宏さん(@okuyamatoshi)の名前がある。
他にScilla Alecci さんとAlessia Cerantolaさんも「Japan」として記載されている。
【参考記事】世紀のリーク「パナマ文書」が暴く権力者の資産運用、そして犯罪
http://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2016/04/43-1.php
世界的なニュースを一面から外した理由について、ニューヨーク・タイムズ紙のPublic Editor(編集部門から独立した立場で報道内容を検証する役職)であるマーガレット・サリバンは、読者から説明を迫られた。
パナマ文書に関する後追い報道記事が同紙ウェブサイトで4日朝に最も読まれた10本に入るなど読者の関心が高いのにもかかわらず、4日の朝刊で「A3面」扱いだったことについて多くの問い合わせを受けたというサリバンは、4日午後、同紙ウェブサイト上で率直に釈明している。
それによれば、サリバンが同紙Deputy Executive Editorのマット・パーディーに説明を求めたところ、
「我々はこの文書があるということも、調査中だということも知らなかった」
と答えたという。
プロジェクトに参加していないニューヨーク・タイムズは
「文書にアクセスすることができなかった」
ため、独自取材が十分でないまま作った最初の記事は「一面にふさわしくない」と判断した。
パーディーは、現在ニューヨーク・タイムズがパナマ文書にアクセスできないことを「大きな問題だ」として、今後は出てくる情報に独自報道を交えながら報じていくと語っている。
ICIJのDeputy Directorであるマリーナ・ウォーカーによれば、
ICIJが協力体制を敷くのは大手メディアというより「協力的なメディア」だ。
他のメディアと情報を共有できるか、情報解禁のタイミングを守れるかなど、ICIJが重視するスタンスに合わないメディアもあるといい、過去に別の報道プロジェクトでニューヨーク・タイムズにアプローチした際には返事さえ来なかったそうだ。
その経験が今回の「ニューヨーク・タイムズ外し」につながったのだろうが、一方でライバル関係にある報道機関どうしで「スクープ」を共有することに馴染まないと判断するメディアがあるのもうなずける。
プロジェクトを率いるICIJのジェラード・ライルがWIREDに語ったところによれば、
ICIJはかつてウィキリークスがやったように生データをそのまま公表する予定はない。
顧客データには、権力者のような公人だけでなく一般人の極めてプライベートな情報(パスポートの写しなど)も含まれているからだ。
ライルは各国のプロジェクト参加記者に対し、
「自国の公益に合致する報道」
を呼びかけているという。
ちなみにICIJはパナマ文書についてあらかじめ予定されている報道を完了した際には各国の手でさらなる調査報道を期待しているといい、今後数週間のうちにプロジェクトに加わる新規メディアをいくつか選ぶ予定だ。
すでに各国のメディアから協力依頼が相次いでいるそうだ。
たしかに、パナマ文書については生データをそのまま公開するのではなく、調査報道のプロによる確かな分析・裏付けを経て世に出すというジャーナリスティックな手順が必要だろう。
そもそも、タックスヘイブンを使うこと自体は違法行為ではなく、
法の抜け穴をついた「節税対策」だ。
だが納税を計画的に逃れるという意味で倫理的には極めて怪しい行為のため、関与が疑われるだけでも対外的なイメージに傷がつくことは避けられない。
朝日新聞によれば、パナマ文書には日本国内を住所とする400の人や企業の情報が含まれているというが、関係者にとって最も怖いのはICIJプロジェクトによる報道ではなく、むしろ生データがハッキングされるなどしてそのまま世に出ることかもしれない。
そもそも、パナマ文書の流出元である法律事務所モサック・フォンセカはAFPの取材に対し、「国外のサーバーからハッキングを受けた」と語っている。
【参考記事】NYタイムズがウィキリークス連載を「突然中止」は誤報?
http://www.newsweekjapan.jp/newsroom/2010/12/post-184.php
2010年にウィキリークスがアメリカの外交公電を暴露した際には、初めは情報提供を受けたニューヨーク・タイムズやガーディアンなど世界5紙・誌が編集を経て報じていたが、翌年にはウィキリークスが全情報を未編集のまま公開することに踏み切った(これに対して5紙・誌は抗議した)。
この時点で、すでに未編集データへのアクセス方法が外部に漏れていたことが原因とみられている。
そのウィキリークスの報道担当者は、パナマ文書の全文をオンラインで公開すべきだと語った。
いずれにせよ、今後の「パナマ文書」報道についてはプロジェクトに参加したメディアの動きから目が離せない。
日本関連では、朝日新聞が特設コーナーを設けており、今後の続報に注目だ。
』
『
ニューズウイーク 2016年4月8日(金)19時03分 ポール・フォード(ニューリパブリック誌外部編集員、ポストライト社共同創業者)
http://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2016/04/post-4867.php
パナマ文書、巨大リークを専売化するメディア
生データはメディアしか読み解けないからメディアが扱うのだが、
それは世界の人々にとって幸せなのか
パナマ文書のニュースはもうご存じだろう。
では、パナマ文書に専用ウェブサイトが用意されていることや、#panamapapers のハッシュタグもあることはご存じだろうか。
★.ジャーナリストたちがパナマ文書をいかに「モノにした」か、
★.ニューヨーク・タイムズがなぜパナマ文書について知らされていなかったのか、
★.今回のリークの規模がいかにケタ違いか(文書にして1150万件、データにして2.6テラバイト)?
パナマ文書には2つの側面がある。
1].1つは、法律事務所モサック・フォンセカの内部告発者がもたらしたらしいナマの巨大データ、という側面。
データのほとんどは、オフショア法人の設立と投資に関するもののようだ。
その多くは公明正大だが、別の多くは世界から集まったドス黒い金だ。
2].2つめは、ジャーナリストたちの協同作業による分析・調査・公開を経て、グローバル・ジャーナリズムの一大イベントになったという側面だ。
今回のように、リークが製品のように扱われるのは初めてで、現実とは思えない。
まるで新製品の発売だ。
国境を越えたジャーナリスト・チームと洗練されたホームページ。
リークがあって、計画が練られて、誕生したのが、ジャーナリズム印の「パナマ文書」というブランドだ。
panama160408.jpg
ここには不気味なメッセージが込められている。
ウィキリークスが暴露した外交公電などゴミだ、不倫サイト「アシュレイ・マディソン」の顧客データベースも問題外、それよりも2.6テラバイト分のナマの腐敗情報のほうがずっと凄い。
【参考記事】不倫サイトがハッカーに襲われたら
まずはこのチャートを見てくれ、と彼らは言う。
いちばん上の長いバーが今回のリークだ。
どうだ、大きいだろう!
リークされたデータは、スノーデン(上から3番目)やウィキリークス(4番目)と比べてもパナマ文書が圧倒的に大きい
リーク情報の価値はいつからテラバイトで決まるようになったのだろうか?
パナマ文書の発覚で、アイスランドの首相は辞任に追い込まれた。
大したものだ、そしてこれはほんの序の口だ......。
ここでの売り物は我々が日ごろから読んだり買ったりするニュースだけではなく、ジャーナリズムそのものだ、という気がしてならない。
ブランド化された大量のリーク情報はジャーナリズムの新しい商品となり、報道機関の存在意義になる。
彼らはこう言っているようでもある。
「この膨大なデータの点と点を結びつけ、裏を取る気があるのはどうせジャーナリストだろう」
彼らの献身的なサービスに、お礼を言わなければなるまい。
以下は先月、私がニューリパブリック誌に書いた記事からの引用だ。
まだパナマ文書がニュースになる前のことだ。
パナマ文書は、大きなトレンドの一部に過ぎない。
アカデミー賞作品賞を受賞した映画『スポットライト 世紀のスクープ』の舞台は2001年ごろで、多くの登場人物が紙の書類を読んでいる。
今の我々の問題は、この当時とはまるで別物だ。
データはどこからでも入手可能。
そこでメディアは、巨大なデータを大衆のために翻訳するという新しい役割を担うことになる。
寄付で調査報道を行うNPOメディアのプロパブリカはその一例だ。
彼らは、他のいくつかのメディアと共同で「ドキュメントクラウド」というプロジェクトを推進している。
PDFファイルの山を検索しやすくする技術を開発するのが目的だ。
巨大なリーク情報は、あまりに退屈で難解なので一般の人は避けて通りがちだ。
アシュレイ・マディソンのように興味深い顧客データベースでさえもだ。
私はダウンロードしてみたが、よくわからないデータばかりで本当に退屈だった。
元CIA職員のエドワード・スノーデンやウィキリークスの例を挙げるまでもなく、我々はグローバルな巨大リークがあり得る新しい世界に住んでいる。
そこでは、そうしたデータを吟味して加工し、利用可能な形にして、残りは一般人の手の届かないところに保管するのが事実上メディアの仕事だ。
大衆でも理解できるような形にリークを加工し、どのリークが公開できるかを決めるのは2010年代のメディアの新たな責任ともいえる。
そうした特権の代わり、メディアは訴訟リスクを負いながら複雑なデータと格闘する。
【参考記事】ウィキリークス爆弾で外交は焼け野原に
http://www.newsweekjapan.jp/stories/us/2010/11/post-1837_1.php
【参考記事】米検閲システム「プリズム」を暴露した男
http://www.newsweekjapan.jp/stories/us/2013/06/post-2958.php
パナマ文書が流出したモサック・フォンセカ法律事務所の内部には、潜在的に腐敗した未完の世界経済があった。
メディアは地図を完成させ、その結果を少しずつ小出しにして人々の関心を長引かせることで利益を最大化する。
今回姿を表した「リーク・ジャーナリズム」の同盟は、世界の人々の利益にかなっているのだろうか。
パナマ文書プロジェクトを率いた国際調査報道ジャーナリスト連合(ICIJ)はそう思って欲しいだろう。
確信のある答えはない。
なぜなら、私もパナマ文書の生データにアクセスできないからだ。
アクセスできるのは世界でもほんの数百人の人間だろう。
従って、パナマ文書がジャーナリストにとってではなく我々にとって何を意味するかがわかるまでには、まだ長い時間がかかることになる。
』
『
ウォール・ストリート・ジャーナル 4月7日(木)8時57分配信
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20160407-00010669-wsj-bus_all
「パナマ文書」スキャンダル、早わかりQ&A
■「パナマ文書」とは何か
3日深夜に公表された膨大な量のリポートで、約140人の公人、企業幹部および著名人と、英領バージン諸島やパナマなどオフショア・タックスヘイブン(非居住者向け租税回避地)にある海外資産との関係が暴露された。
名指しされた一人であるアイスランドのグンロイグソン首相が辞任した。
一方、プーチン・ロシア大統領の報道官は批判を一蹴した。
今後、多くの政治家らに対する圧力が強まる可能性がある。
■暴露までの経緯は
国際調査報道ジャーナリスト連合(ICIJ)によると、76カ国の370人以上のジャーナリストから構成されるICIJが、何百万点にも上るパナマの法律事務所の記録を入手した。
この法律事務所はオフショアの持ち株会社を専門に扱っていた。
ICIJはこの記録に基づき、一連の記事を出稿。
これと平行して、一部の報道機関も記事を出した。
ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)は、記録の内容を独自で検証してはいない。
パナマの法律事務所「モサック・フォンセカ」は不正行為を否定している。
■こうした行為は違法か
一般的に、オフショアの会社を持つことは違法でないが、各メディアによると、一部の仲介者は資産や疑わしい取引を租税回避地に隠すことで顧客を保護している。
政治家に関して言えば、その資金の入手経路や使途が大きな問題となる。
■不正行為の疑いがある著名人は
これらのリポートによると、プーチン大統領の友人らは少なくとも20億ドル(約2200億円)に上る取引に関与していた。
それだけではない。
中国共産党中央政治局常務委員や習近平国家主席の親族もオフショア会社と関係を持っていることが明らかになった。
アイスランドのグンロイグソン首相は、英領バージン諸島にある企業を一部所有していることを公表しなかったとして非難された。
■なぜパナマなのか
パナマは長年、オフショア会社の設立場所として知られている。
法制度と銀行インフラがしっかりしていることが理由だ。
70を超えるスイスの銀行が脱税をほう助していたと米政府に告白した際、多くはパナマ企業を使うスキームに関わっていたと述べていた。
■こういった行為は増えているのか、減っているのか
ICIJがまとめた数字によると、近年、こうしたオフショア会社の利用は急激に減っている。
米政府は、制裁を回避したり、コンプライアンス(法令順守)に問題があったりする国際的な銀行に巨額の罰金を科している。
また、米国ではオフショアの口座にある資金を内国歳入庁(IRS)から隠すのがますます難しくなっている。
2009年以降、秘密オフショア口座に関連する訴訟の解決のため、5万4000人を超える米国の納税者が80億ドルを超える金額を支払っている。
■もうオフショア口座に資産を隠せないのか
米国でも外国でも、税当局から見えない場所に資産を隠すのは一層困難になっている。
だが配偶者や債権者などから隠れて現金を保有することは今も可能だ。
例えば、米国の納税者が租税回避地にある資産を元配偶者から見えない状態にしていた場合、この人は税申告書でこの口座について報告する必要がある。
だが、その配偶者はこの資産にアクセスできないかもしれない。
その発見と回収を困難にする租税回避地の法律があるからだ。
■検察は調査に乗り出しているのか
米司法省は、訴追の対象となり得る汚職の証拠が含まれているかを確認するため、文書を精査していると述べている。
同じような調査は、英国やオランダなどでも始まっている。
また、パナマの検事総長も、問題の法律事務所の調査に乗り出した。
リポートで名前が挙がったプーチン大統領に近い人物の中には、既にロシアのウクライナ介入を受けて実施されている米財務省の制裁対象になっている人もいる。
■途上国では
政治的敵対勢力ないし野党が事実上存在せず、国がメディアを強力に支配している国では、今回のリークによる影響はほとんどないかもしれない。
それ以外の国では、当局者によるオフショア会社の保有が不適切な行為とみなされる可能性がある。
■政策は変わるか
オバマ大統領は5日、多国籍企業による課税逃れに関する協議の中で、パナマ文書に言及した。
この問題には、主要20カ国・地域(G20)が集まる国際的な会議で大きな注目が集まる公算が大きい。
さらなるリポートと情報開示が続けば、法律や手続きの厳格化を求める市民の抗議が拡大する可能性があるほか、スキャンダルに関与した政治家や当局者の失脚につながるかもしれない。
By William Mauldin and Laura Saunders
』
『
ダイヤモンドオンライン 2016年4月13日 仲野博文 [ジャーナリスト]
http://diamond.jp/articles/-/89509
5分でわかる「パナマ文書」事件の経緯と深刻さ
中米パナマの法律事務所「モサック・フォンセカ」から機密扱いだった金融取引文書が大量に流出し、オフショア取引を利用して各国の有力者から犯罪者まで、様々な面々が租税回避やマネーロンダリングなどを行ってきたという情報が明るみになった。
各国では首脳らが弁明に追われており、アイスランドでは首相の辞任にまで発展。
膨大な量となる資料の全容が解明されるまでには数年かかるとの報道もあり、今後さらに世間を驚かす人物の関与が発覚する可能性もある。
(取材・文/ジャーナリスト 仲野博文)
■オフショア企業の立ち上げを行う
パナマの法律事務所の内部資料がリーク
今回の騒動は今から1年以上前、ドイツのミュンヘンにある南ドイツ新聞に匿名の内部告発者が接触したことに始まる。
情報提供者の詳細については明らかになっていないが、この人物はパナマの法律事務所「モサック・フォンセカ」の内部資料を、暗号化したデータファイルで南ドイツ新聞に送り、
「この法律事務所が行ってきた犯罪行為を世に知らしめてほしい」
とファイルの公表を要請。
そこから数ヵ月の間に、さらに追加資料がデータファイルで送られ、南ドイツ新聞が受け取ったファイルの合計は2.6テラバイトに達した。
2010年にウィキリークスでアメリカの外交公電の内容が流出した際にも世界中が大騒ぎとなったが、この時のデータの合計は1.7ギガバイト。
南ドイツ新聞に送られたデータの合計は、その1500倍以上。
2.6テラバイトのデータの中身は、メールだけで480万通以上あり、PDFや画像ファイルも300万点以上が存在する。
英BBCは5日、1977年から昨年12月までの間に、モサック・フォンセカと関係があった企業や信託、基金、個人は、判明しているだけでも21万件以上と伝えている。
モサック・フォンセカはこれまでに24万を超えるオフショア企業の立ち上げを行ってきたが、4日に
「これまでに不正行為は一度もなかった」
との声明を発表している。
オフショア取引とは、法人税や源泉所得税が皆無に等しいタックスヘイブンに資産を移し、管理・運用するもので、世界的に有名な大企業や富裕層が節税対策でオフショア取引を用いるケースは少なくない。
オフショア取引を国策として行う国も少なくなく、
★.カリブ海のケイマン諸島や
★.英領バージン諸島、
★.ヨーロッパではルクセンブルグやモナコ、また
★.アメリカでも東部デラウェア州
はオフショア取引のメッカとして知られている。
オフショア企業の設立自体は非合法ではないが、南ドイツ新聞が入手したデータでは、多くのケースでオフショア企業のオーナーに関する情報が隠蔽されていたため、マネーロンダリングや武器・麻薬の売買などにオフショア企業が使われている可能性が高いとして、調査報道が始まったのだという。
しかし、データ量があまりにも膨大なため、国際調査報道ジャーナリスト連合(ICIJ)に協力を依頼。
78ヵ国で活動する370人のジャーナリストがデータの分析や調査に従事している。
リークされたデータの量としても過去最大規模だが、この件で国境を越えて調査するジャーナリストの数も過去最大のものだ。
■世界中にあるタックスヘイブン、事件の舞台パナマの特徴は
世界中のタックスヘイブンが実際にどのくらいの規模なのか、はっきりとした数字は出ていない。
秘匿性が高いため、細かいデータ収集や分析を行うのが非常に困難だからだ。
カリフォルニア大学バークレー校のガブリエル・ザックマン准教授(経済学)は、昨年上梓した『国家の隠された資産』の中で、
世界中のタックスヘイブンで扱われている資産の総額は約7兆6000億ドル
に達すると指摘。
これは世界に存在する純資産の約8%となる数字だ。
タックスヘイブンはパナマに限らず、世界中のあらゆる地域にあり、それぞれのタックスヘイブンに得意分野が存在する。
例えば、パナマは秘匿性や法人化が得意との評判があり、
ケイマン諸島は銀行口座の開設、
同じくカリブ海にあるセントキッツ島は外国信託の取り扱いに特化している
ことで知られている。
騒動の渦中にある法律事務所「モサック・フォンセカ」がパナマにあるため、今回の情報漏洩は「パナマ文書」という名前で呼ばれている。
モサック・フォンセカはオフショア企業立ち上げの分野では世界第4位の法律事務所で、1977年にドイツ生まれのユルゲン・モサック氏とパナマ人のラモン・フォンセカ・モーラ氏によって設立された。
偶然にもモサック氏が生まれたのは、前述の南ドイツ新聞があるドイツ南部バイエルン州で、ICIJが入手した資料によると、ナチスの親衛隊に所属していたモサック氏の父は戦後アメリカに渡り、パナマで米諜報機関の秘密活動に従事しており、モサック氏は幼少期から現在までパナマで生活している。
パナマは1927年の法改正後、オフショア取引の中心地として、世界中の企業や投資家を相手にしてきた。
低い税率や非課税を適用して、多くの企業を呼び寄せるという手法はパナマ独自のものではなく、それ以前に米デラウェア州で採用された方法を参考に作られたのだという。
パナマ運河は多くの貨物船やタンカーが通過するため、多くの船舶会社がパナマに船籍を変更し、アルコール類の運搬や(アメリカ国内では禁酒法が施行されていた)、課税されない形での石油の運搬を行っていた。
タックスヘイブンとしてのパナマがニュースで大きく取り上げられたのは、1980年代になってからで、当時パナマを支配していたノリエガ将軍の主導で、コロンビアの麻薬カルテルのマネーロンダリングが行われていた事実が米メディアを中心に大々的に報じられた時であった。
■重大犯罪解決の糸口がみつかり
「パナマ文書」を証拠に美術品押収も
モサック・フォンセカの内部資料を調査してきたICIJによると、オフショア企業を利用して租税回避を行ってきた政治家や富裕層は世界中に存在するという。
さらに単なる租税回避ではなく、犯罪絡みの案件でマネーロンダリングが必要となり、モサック・フォンセカが用意したオフショア企業を利用する面々も少なくないようだ。
ICIJは、オフショア企業利用者の中にメキシコの麻薬組織や、ヒズボラのような過激派組織、北朝鮮やイランの政府系フロント企業が含まれていると発表している。
また、1983年にロンドンのヒースロー空港内の倉庫で3トンの金塊(総額40億円以上)が強奪された事件は、現在も未解決だが、事件の16ヵ月後にモサック・フォンセカが、ロンドンの資金洗浄屋(83年の強盗事件に関与したとして、92年に実刑判決)の依頼でパナマにペーパーカンパニーを作っていたことが判明している。
このペーパーカンパニーは1995年に閉鎖されたが、英犯罪史に残る大強盗事件の解決の糸口が、意外な形で出現しているのだ。
近年、ナチス政権下のドイツ軍がヨーロッパ各地で強奪した美術品の行方に関する話題がニュースで取り上げられることがあるが、モサック・フォンセカがこうした美術品の闇取引に一部関与していた実態も明らかになっている。
アメデオ・モディリアーニは1910年代にパリで活躍し、日本人画家の藤田嗣治らとも交友のあった著名なイタリア人画家であったが、彼が1918年に描いた「杖をもって座る男性」はパリ在住のユダヤ人画商が所有していた。
しかし、ドイツ軍がパリを占領する数週間前にこの画商は家族とともにパリを脱出。
ギャラリーにあった名画はドイツ軍によって盗まれたとみられている。
所有者の家族は戦後、ギャラリーから持ち去られた絵画の行方を追跡しようとしたが、情報不足もあって、お手上げの状態だった。
しかし、2008年に美術品のオークションで知られるニューヨークのサザビーズに「杖をもって座る男性」が登場したという情報を得た所有者家族は、現在の所有者が世界的に著名な美術品収集家のデービッド・ナマド氏だと知り、ナマド氏に対して絵画の返却を求めた。
しかし、絵画はパナマにあるオフショア企業のインターナショナル・アートセンターが所有するもので、ナマド氏は無関係と主張。
このオフショア企業の関係者の情報も公開されなかったため、絵画が返却されることはなかった。
しかし、パナマ文書によって、このオフショア企業がモサック・フォンセカによって1995年に設立され、1996年に競売で「杖をもって座る男性」を購入した事実、さらにこのオフショア企業の単独所有者がデービッド・ナマド氏本人であったことから事態は急変。
スイスの司法当局は11日、先週後半にジュネーブ市内で「杖をもって座る男性」を押収したと発表。
パナマ文書がきっかけとなって、スイスの司法当局内部で刑事手続きが開始され、押収に踏み切ったのだという。
■各国政府の現職リーダーやセレブの名前が続々と浮上中
パナマ文書から発見された名前には、各国の首脳や政府関係者の名前も存在する。
ロシアのプーチン大統領が総額2000億円以上の隠し資産を保有し、10代の頃からの友人でチェロ奏者のセルゲイ・ラドゥーギン氏が所有する複数のオフショア法人を中心に送金が行われたとする記録もあった。
プーチン氏の他にも、中国の習近平国家主席の義兄、シリアのバジャール・アサド大統領の2人のいとこや、キャメロン英首相の父親(2010年に他界)、米軍侵攻後に樹立されたイラク暫定政権で首相を務めたアラウィ氏、ウクライナのポロシェンコ大統領の名前などが判明している。
加えて、「クリーンな政治」をスローガンに2015年にアルゼンチン大統領に就任したマウリシオ・マクリ氏も、モサック・フォンセカ経由でバハマにオフショア企業を設立し、取締役に就任していたことが判明。
その時期、マクリ氏はブエノスアイレス市長を務めていたが、個人の収支報告にバハマに関する記載をしていなかったため、大きな批判を受けている。
イランのアフマディネジャド前大統領が実質的なオーナーとみられる国営石油企業(米政府の制裁対象となっている)や、パキスタンのシャリフ首相の息子がロンドンの高級不動産物件を購入する際に立ち上げたオフショア法人も、それぞれモサック・フォンセカ経由で英領バージン諸島に登記されている。
違法性は見られないものの、モサック・フォンセカを使ってオフショア法人を立ち上げ、資産の運用をする有名人が少なくないことも判明した。
映画俳優のジャッキー・チェンやサッカー選手のリオネル・メッシも資産運用目的でオフショア法人を設立していたことが大々的に報じられたが、そのほかにも映画監督のスタンリー・キューブリックの家族や、2005年にアイスランドの市民権を獲得したチェス王者のボビー・フィッシャー、有名プロゴルファーのニック・ファルドといった面々も、オフショア法人を利用していることがパナマ文書から明らかになっている。
■ウクライナ、アイスランド…
各国の市民はどう反応したか
各国の市民の反応も紹介しておこう。
ウクライナのポロシェンコ大統領は2014年の大統領就任後、モサック・フォンセカを介して英領バージン諸島に持ち株会社を設立し、自身の資産を移動したとされている。
ちょうどウクライナ東部での戦闘が激化し始めた時期でもあったため、ポロシェンコ大統領に対する激しい批判が噴出。
また、大統領職に就いている期間中の会社設立や、それに関する情報公開を行わなかったため、法的な問題も浮上している。
ウクライナ西部リヴィウ在住の企業家テトヤナ・オリニークさんは、パナマ文書ではポロシェンコ大統領以外の名前も存在し、ウクライナ国内のガバナンスのずさんさが改めて浮き彫りになったと語る。
「ポロシェンコ大統領のオフショア取引に関しては、取引の開始時期の方がより大きな問題となっており、議会ではすでに調査委員会の設立案が出ており、政治利用される可能性が懸念されます。
個人的に驚いたのは、現職のオデッサ市の市長がウクライナでは法律で禁止されている二重国籍者であったことです。
パナマ文書によって、こういった続々と明らかになっています」
アイスランドではグンロイグソン首相夫妻が2008年の金融危機直前に、モサック・フォンセカの手引きで英領バージン諸島のオフショア法人に資産を移していたことが発覚。
グンロイグソン首相がこの事実をこれまで公表してこなかったため、資産隠しの疑いも浮上している。
4日には首都のレイキャビクで2万2000人が参加するデモが行われ、デモの参加者は首相の辞任を要求した。
アイスランドの全人口は約32万人。
2万2000人が参加したデモは同国の歴史の中で最大規模のものだった。
デモに参加したレイキャビク在住のブリンヒルダ・イングファルスドッティルさんが、市民の思いについて語る。
「デモだけではなく、ツイッターでも首相に対する激しい批判が展開され、炎上する状態が続きました。
金融危機を経験したアイスランドでは、とにかく信用の回復が大切なのです。
私自身が小さな会社の経営者でもあるので、海外との取引や信用にはものすごく敏感で、今回の一件でビジネスがしづらくならないかと心配しています。
グンロイグソン首相の倫理観がアイスランド国民全体を象徴しているとは、決して思ってほしくありません」
現地時間の5日夕方、グンロイグソン首相は辞任を表明。
パナマ文書が発端となって辞任した初の現役首相となった。
ロイター通信は5日、フランス、オーストラリア、スウェーデン、ウクライナの司法当局が捜査に乗り出したと報道。
また、アメリカでも司法省の報道官が「一連のニュースには目を通している」とコメントし、事件に対する関心を見せた。
世界をゆるがす大規模スキャンダル発覚に対し、各国政府はどう反応しているだろうか。
ロシア政府はパナマ・ペーパーの内容を一蹴し、関係がないと主張している。
中国にいたっては、パナマ文書関連報道はほとんど行われず、オンラインニュースの検索にも規制がかけられたという報道も。
5月にはパナマ文書の更なる内容が公表される見込みだが、それを受けて世界中で自浄作用が働く気配は、今のところないようだ。
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新潮社 フォーサイト 4月13日(水)11時39分配信
http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20160413-00010000-fsight-int
CIAの陰謀か?
「パナマ文書」をインテリジェンス的に読み解く
タックスヘイブン(租税回避地)への偽装会社設立を斡旋する中米パナマの法律事務所モサック・フォンセカを震源に、突然世界を駆けめぐった「パナマ文書」のニュース。
習近平国家主席の親族らがかかわった財産隠しの疑いが報道されると、中国当局は関連情報の拡大を封鎖。
プーチン大統領の親友絡みの資金洗浄の疑惑に対しては、ロシアからは「CIAの陰謀」説が飛び出した。
ともかく流出した情報量が膨大で、世界の著名人の名前が次々と明らかにされるが、
米国の政治家や経済人らの名前がこれまでのところまったく出てこないのも奇妙ではある。
米国の民間組織「国際調査報道ジャーナリスト連合(ICIJ)」が南ドイツ新聞を経由して入手した資料は約1150万件、2.6テラバイトに及んだ。
2010年に表面化した内部情報公開サイト「ウィキリークス」が入手した米軍のアフガニスタン・イラク戦争関連情報および国務省文書が約75万件で1.7ギガバイト。
USBメモリ1本に収めて移動できたのと比較しても、圧倒的に膨大な量だ。
ウィキリークスの事件も元米中央情報局(CIA)職員エドワード・スノーデン容疑者がデータを持ち出した事件にしても、反米プロテストという動機が明確になっている。
しかし、パナマ文書の事件は、一体だれが、何の目的でこれほど大量のデータを流出させたか、いまだに明らかになっていない。
ネット上などで陰謀論が流れる理由はそんなところにある。
■調査報道に米政府の資金
それでは順に、陰謀説を追って行こう。
ウィキリークスがツイッターで流したのは、米政府機関が関連している、との情報だ。
ICIJには政府機関からの直接拠出などないようだが、
ICIJのパートナーとなっている「組織犯罪・腐敗報道プロジェクト(OCCRP)」に対して、実は米政府資金が贈与として提供されている。
OCCRPのホームページには金額は不明だが、資金提供元として米国際開発局(USAID)がはっきりと明記されている。
このほか、国連機関である「国連民主主義基金(UNDEF)」やヘッジファンドを主催するジョージ・ソロス氏の「オープン・ソサエティ財団」も名を連ねている。
ソロス氏の財団は、中央アジアなどの旧ソ連圏で民主化を促進するため多額の資金を投じてきたことはよく知られている。
今、OCCRPのホームページでトップに掲載されているのは、パナマ文書に関するICIJの記事だ。
このほか、プーチン大統領絡みの腐敗、ウクライナの汚職や治安の混乱、家具会社イケアの木材伐採やマフィア、麻薬組織などの問題が取り上げられている。
■独メディアにCIAが浸透
ただ、CIAの資金流出先として、OCCRPやICIJが挙げられているわけではない。
ロシア発のCIA陰謀説でも、具体的な証拠などは明らかにされていない。
抗ウイルスソフトの開発で有名で、米大統領選でリバタリアン党の指名獲得を狙うジョン・マカフィー氏が、俳優でラジオのパーソナリティ、アレックス・ジョーンズ氏と組んで「米政府の陰謀説」を拡大させようとしている。
モサック・フォンセカの顧客情報を最初に得たのが南ドイツ新聞であることを指摘、
「ドイツにはCIAが浸透したメディアが最も多い」
などと主張している。
マカフィー氏は大統領選本選挙に出ても、もちろん泡沫候補の類だが、リバタリアン党は前回大統領選で120万票以上獲得しており、無視できない影響力がある。
■モサック氏とCIAの関係
モサック・フォンセカの創始者のドイツ系パナマ人弁護士、ユルゲン・モサック氏の父エアハルト・モサック氏は第2次世界大戦中ナチの武装親衛隊員(SS)で、後にCIAへの情報提供者になった、と英紙デーリー・メールが伝えている。
父エアハルトは戦後、米国のナチ狩りでミュンヘンで捕まったが、釈放され、戦後1948年にパナマに移住した。
パナマではCIAに情報提供をもちかけ、対キューバ情報工作に従事したこともあったという。
ただ、パナマ人のラモン・フォンセカ氏とともにモサック・フォンセカを設立したユルゲンとCIAとの関係は明らかではない。フ
ォンセカ氏は元々小説家だったといわれている。
■CIAに協力した外国情報機関トップ
パナマ文書には、CIAに協力した元外国情報機関トップの名前が一部確認されている。
ICIJによると、1人はサウジアラビア総合情報局の元長官、シェイク・カマル・アドハム氏。
彼は米上院で、「1960年代から79年に至る間、CIAと中東全域を結ぶ連絡役」と指摘されたこともあった。
また、コロンビア空軍情報部長だったリカルド・ルビアノグロート少将、
元ルワンダ情報機関トップのエマヌエル・ヌダヒロ准将
の名前も、タックスヘイブン企業の関係者として名前が出ているという。
米大統領選絡みでは、ヒラリー・クリントン氏と民主党の指名を争うバーニー・サンダース氏が、こうした問題に元々批判的で、支持拡大のチャンスととらえている。
その中で、クリントン元大統領の選挙資金提供者として知られるイラン系米国人ファハド・アジマ氏もタックスヘイブンを利用していた。
彼は、民主・共和両党に選挙資金を提供、特にクリントン政権時代にはその見返りとして10回にわたりホワイトハウスを訪問、大統領と午後のコーヒーを楽しんだという。
レーガン政権時代の1985年には、「イラン・ニカラグア秘密工作」でイランに武器を引き渡す航空機を提供したとの記録もあるとICIJの記事は記している。
■ドイツ政府当局に内部告発
では、最初に南ドイツ新聞に情報提供したのは誰で、何が目的だったのか、については、まったく明らかにされていない。
同新聞に提供された原資料は、eメールが約480万件、データベース資料が約300万件、PDFが約215万件、画像が112万件、テキスト文書32万件などとなっている。
これを整理して分析、記事にするまでに約1年かかった、というわけだ。
その情報処理には、Nuix社という専門企業が無償で参加し、検索可能な資料として扱えるようにしたようだ。
その分析に80カ国以上、100社以上の約400人のジャーナリストが参加した。
そこから想像できる情報提供者のプロファイルは、恐らく相当な技術を持つハッカーではあるが、情報の内容、国際情勢については疎い人物ではないだろうか。
ただ可能な限りダウンロードした文書を南ドイツ新聞に無償で持ち込んだ、ということだけなのか。
実は、2年前、ずっと小規模ではあったが同じモサック・フォンセカの文書を内部告発でドイツ政府当局に持ち込んだ人物もいた、と南ドイツ新聞は伝えている。
何らかのドイツ絡みの動機が2つの情報漏洩事件をつなぐヒントになるのかもしれない。
早稲田大学客員教授 春名幹男
Foresight(フォーサイト)|国際情報サイト
http://www.fsight.jp/
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