2016年4月10日日曜日

南シナ海人工島による軍事化の危機(6):フィリピンに肩入れする日本の思惑、ベトナムの立場

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 2012年の反日デモで「お詫びと反省の国」とばかりに眠り込んでいた日本のマクラを蹴飛ばして叩き起こしたのが中国。
 寝ぼけ眼でフラフラたってからこの3年。
 「お詫びと反省」の2/3世紀という長い年月を経て、「ニューノーマル」に大きく舵をとった日本。
 安保法制を整備して、やっとこさ国としての面目を作り出しつつある日本。
 その最初のパートナーに選んだのが弱国フィリッピン。
 「ニューノーマル日本と弱国フィリッピン」
 尖閣諸島を「核心的利益」と声高に叫んでも、日本は中国に一瞥の考慮もしない。
 必要なら「海自を送り込みますよ」と脅し、
 巡視船も増強して、「手出ししたらやりますよ」と脅しをかける。
 中国は口でいうだけで、尖閣には手も足も出ない。
 宣伝用に周りをウロウロするだけ。
 手出しをすれば、日本は海上封鎖、空域封鎖をやりかねない。
 日本は尖閣では一歩も引かない
という姿勢を強行にアピールしている。
 実際、引かないだろう。
 そこまでいくと中国もあとに引けなくなる。
 ドンパチが始まれば中国共産党政治体制が危機に陥る。
 中国の態度が日本を硬化させ、抜き差しならぬものにしまっている。
 よって、中国にとって尖閣は盲腸みたいなものになってしまった。
 
 尖閣は完全に日本の握中に収まってしまった。
 これをかえることはもう不可能になってしまっている。
 そこで、中国は東シナ海から南シナ海にシフトせざるを得なくなった。
 内部強化も一段落して、安保法制の施行によりや独り立ちできるようになった日本もそれにともなって少しずつ南シナ海に出始めている。
 その最も大きな理由は中国を南シナ海に足止めさせておくことである。
 東シナ海は完全に把握した。
 中国に色気を出せないためには南シナ海に中国を閉じ込めて、中国の悪行をアピールすることが一番てっとり早い。
 といって、日本は南シナ海に致命的な権益はない。
 そこで、弱国フィリピンに肩入れして、ここに中国を釘付けにしようというわけである。
 「中国対フィリピン・日本」という構図では、その中間に経済的には中国への依存の大きいが政治的には対立するベトナム・インドネシアがある。
 さらにこれに親中国のマレーシアが加わる。
 東シナ海では「日本対中国」だが、
 南シナ海では「中国対周辺多国」
となり、中国批判が出やすくなる。
 日本はそれを狙っている。


レコードチャイナ 配信日時:2016年4月9日(土) 22時30分
https://www.blogger.com/blogger.g?blogID=3111299725321485166#editor/src=sidebar

防衛協力進める日比両国、
南シナ海にらみ中国けん制

 2016年4月9日、海上自衛隊の練習潜水艦「おやしお」が護衛艦2隻とともに3日、フィリピン北部・ルソン島のスービック湾に寄港した。
 日本の潜水艦の寄港は15年ぶりだ。南シナ海で広範な領有権を主張して傍若無人にも見える海洋進出を図り、比などと対立している中国。
 これに対抗して中国をけん制する日比防衛協力も着々と進んでいる。

 日本は今年2月末、東南アジア諸国連合(ASEAN)加盟国で初めて
 フィリピンと「防衛装備品・技術移転協定」を締結した。
 武器や関連技術を第三国に移転したり、当初の目的以外に使ったりする場合に輸出国の事前同意を義務付ける内容で、移転の前提になる。
 協定締結を受け、日本側は海洋監視用として
 比側が求める海自の練習機「TC90」5機程度の貸与
を準備している。

 これに先立ち、昨年5月には護衛艦「はるさめ」「あまぎり」が、マニラ西方海域で比海軍のフリゲート艦1隻と共同訓練を行った。
 日比共同訓練は初で、昨年4月に日米中やASEAN各国などで合意した海上衝突回避規範(CUES)に沿った通信・戦術訓練が目的だった。
 6月にも海自P3C対潜哨戒機が参加して比海軍との捜索・救難訓練を実施。中国が埋め立てを強行した南沙(英語名・スプラトリー)諸島に近い海域を訓練場所に充てた。

 さらに、昨年9月22日から10月7日にかけて比西部のパラワン島や周辺海域で在沖縄米海兵隊と比海兵隊が共同で行った敵前上陸などの訓練に、オブザーバーとして陸上自衛隊幹部らを派遣した。
 パラワン島は南沙諸島のそばに位置し、米比両国は先月、同島の比空軍基地を米軍の拠点とすることで合意した。

 今回の潜水艦派遣について、海自は「訓練航海の一環で、特定の国を意識したものではない」と説明する。
 その一方で、中谷元・防衛相は日比防衛協力に関して
 「南シナ海では航行の自由やシーレーン(海上交通路)の確保は重要であり、
 比とは共同訓練など地域の安定に資する活動に積極的に取り組んできた。
 今後も2国間や多国間での共同訓練などを行い、連携を進めていきたい」
と述べた。
 同相は4月下旬には比を訪問し、練習機貸与などの調整を進める予定という。

 潜水艦に同行した護衛艦「ありあけ」「せとぎり」の2隻は、その後、南シナ海の領有権を中国と争っているベトナム最大の軍港カムラン湾に向かった。
 海自のカムラン湾寄港は初めて。
 これにも中国をけん制する狙いがあるとみられる。

 こうした中、4日からは米比両国軍の合同軍事演習「バリカタン」がマニラ近郊などで始まった。
 日本は今回もオブザーバー参加だが、米国防総省高官は
 「自衛隊が定期的に正式参加するようになる」
との見通しを示した。

 中国は日比防衛協力に当然、反発する。
 潜水艦派遣などが伝えられた3月初め、中国外交部の洪磊報道官は
 「国家間の協力は地域の平和と安定に資するものであるべきだ。
 第三国を念頭に置いたり、他国の主権と安全や国益を害したりするものであってはならない」
と強調。
 「日本は第2次世界大戦中に中国の南シナ海の諸島を不法占拠している。
 日本が再び南シナ海に軍事的回帰をする動きを、われわれは高度に警戒している」
と、逆に日本をけん制した。



ロイター 2016年 05月 2日 18:19 JST
http://jp.reuters.com/article/philippine-president-aquino-idJPKCN0XT0ME

日本が比軍に自衛隊機を貸与へ、
譲渡できず苦肉の策

[東京 2日 ロイター] -
 日本とフィリピンは2日、自衛隊の練習機を海上監視用としてフィリピン軍に貸し出すことで合意した。当初は譲渡を検討したが、日本が国内制度の壁を越えられず、親日のアキノ大統領退任までに間に合わせる苦肉の策として貸与することにした。

 中谷元防衛相とガズミン国防相が同日午後に電話で会談して合意した。
 海上自衛隊が操縦士育成に使用している練習機「TC90」を最大5機、有償で貸し出す。
 乗員の訓練や機体の整備も支援する。
 南シナ海で中国と緊張が続くフィリピンの海上監視能力を高める狙い。

 もともと日本は同機を譲渡する方向で検討してきた。
 ところが、国有財産を無償で供与したり、実勢価格より安く売却することを禁じた財政法が障害になっていた。

 日本の政府関係者によると、中古の市場価格3000万円程度で売却することを打診したものの、無償供与を求めるフィリピン側と折り合わなかった。
 財政法を変える案も浮上したが、アキノ大統領が退任する6月までに間に合わず、貸し出すことにした。
 貸付条件は今後詰める。

 TC90は米ビーチクラフト社が開発したビジネス機で、高い軍事能力はない。
 しかし、目視やレーダーで艦船を監視する程度の任務には使えるという。
 フィリピン海軍の現有機の2倍弱の航続距離がある。

 フィリピンは海の監視能力を高める装備の供与を日本に求めており、特に対潜哨戒機「P3C」に強い関心を示している。
 P3Cは収集した情報の解析などに高度な運用能力が必要なことから、まずは扱いの容易なTC90が候補に上がってきた。




●海上自衛隊 教育航空集団徳島教育航空群TC-90


WEDGE Infinity 日本をもっと、考える 2016年03月25日(Fri)  岡崎研究所
http://wedge.ismedia.jp/articles/-/6364?page=1

中国が16年南シナ海支配を強化する理由

 米シンクタンクCSISのポリング研究員が、2月18日のCSISのサイトで、
 2016年は、中国がますます南シナ海における実効支配を強化しようとするため、緊張は一層激化するだろう、
と指摘しています。
 要旨は、次の通りです。

■国際的な無法者と化す中国

 南シナ海問題に関する中比仲裁裁判は、今年5月下旬頃には、中比両国に法的拘束力を持つ判決を下すとみられている。

 15からなる訴訟内容は複雑であり、最終的に裁判所がどのような結論を出すのかは明らかになっていない。
 しかし、中国の「9段線」主張には説得力がなく、中国は国連海洋法条約が定める以上の領海、EEZ、大陸棚を主張しうる根拠を有していないとの判決が下されるのは、ほぼ確実であろう。
 もっとも、この判決は南シナ海で係争中の島・岩に対する中国の領有権主張に影響を及ぼすこともなければ、広範な海洋権益主張をやめさせることにもならないかもしれない。
 しかし判決は、中国の地形から生じる海洋主張の内容を、地図上の曖昧な点線ではない形で明確にするよう命じるものとなるはずである。

 中国は裁判所に命令されたからといって、急に主張を明確化することはないだろうが、2013年初頭にフィリピンが仲裁裁判に提訴した時から、中国は提訴を取り下げるよう躍起になってきた。
 判決が出て、中国が国際的な無法者として評判を落とすコストを自覚しているからである。
 このコストは、中国が政治的妥協を検討する一因となっている。
 すなわち、中国は歴史的権利を主張するのではなく、国連海洋法条約に基づく形で「9段線」を再定義し、フィリピンが提訴を取り下げることと共同経済開発に合意することを条件に、本格的な交渉に取り組む可能性がある。
 こうした政治的妥協を促進するために、米比は裁判所判決に対する国際的な支持を取り付けるキャンペーンを張る必要がある。
 判決に対する支持は、豪州、日本、欧州の他、東南アジア諸国からも取り付ける必要がある。

■南シナ海で中国が軍事力を増強させる2016年

 2015年末、中国はスプラトリー諸島で民間機の試験飛行を行い、運用可能な滑走路を確立した。
 スビ礁とミスチーフ礁の滑走路もまもなくそうなるはずであり、このまま何もしなければ2016年前半にも軍用機の試験飛行が実施されよう。
 その他4つの人工島でも、中国は海空軍のための港湾施設、レーダーの整備などを継続している。
 さらに、永興島で地対空ミサイルを配備したように、2016年に南シナ海で中国の軍事力が増強されることは明白である。

 南シナ海における中国の海空能力の向上は、東南アジア諸国に域外国の関与を求める声を大きくさせ、米国が当該海域における航行の自由作戦の頻度を上げているように、既に豪州も東南アジア海域の哨戒活動を拡大しつつある。

 日本でも豪州やフィリピンをはじめとする地域パートナー国との防衛協力を拡大するとともに、新日米ガイドラインを通じて南シナ海の哨戒活動における役割を拡大するかどうか議論されている。
 また、インド海軍も、ベトナムに対して装備を提供したり、日米豪と安全保障パートナーとなったりしている。

 南シナ海における米国の情報・監視・哨戒能力は、今年1月フィリピン最高裁で米比拡大防衛協力協定が合法化されたことで確実に増強されよう。

 2016年には南シナ海における緊張が今まで以上に高まることが予想されるが、中国のさらなる侵略を抑止し、東南アジア諸国の権利を支援し、紛争管理のための政治的妥協を目指す多国間キャンペーンを行っていく余地があろう。

出 典:Gregory B. Poling ‘A Tumultuous 2016 in the South China Sea’(CSIS, February 18, 2016)
URL:http://csis.org/publication/tumultuous-2016-south-china-sea

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 2016年には南シナ海における緊張が今まで以上に高まりそうである、と米シンクタンクCSISのポリングが述べています。

 習近平政権は、「南シナ海は古代以来中国の領土である」との独善的な領土拡張の主張をくり返し、一部パラセル諸島において、地対空ミサイルを配備しつつあります。
 本年には、中国とフィリピン、マレーシア、ベトナムなどの間で、漁民、石油探索船、航空機の活動などをめぐって、局地的衝突が起こる可能性が強いとの本論評の予測は当たっているように思われます。

■オバマ大統領の任期中を好機とみる中国

 米国の活動については、「航行の自由作戦」の頻度が上がりつつあると本論評は述べていますが、これまでのところ、2カ月に一度程度の頻度で、中国の主張する島嶼の領海や接続水域の中を米艦船が航行する程度にとどまっています。
 それに対し、中国はそのような米軍の活動の前で、さらに島嶼拡張工事、ミサイル配備など軍備強化に向かいつつあります。

 中国としては、オバマ大統領の任期中が南シナ海での拡張を図る好機と見ている可能性もあります。

 最近行われたASEAN首脳とオバマ大統領との会談においては、踏み込んで具体的に中国の対応ぶりを非難するには至りませんでした。
 中国からの働きかけがあったのでしょうが、ASEAN10カ国の足並みが一部国家のために揃わなかったことが露呈しました。

 ハーグの仲裁裁判所が中比間の仲裁結果を5月にも公表すると報道されていますが、中国は同裁判所の管轄権そのものを拒否するのではないかと思われます。
 中国としては、あくまでも各個撃破の形で、自らのペースで南シナ海の問題処理を目指すとの方針に変わりはなさそうです。

 日本としては、米国、ASEANの主要国と歩調を合わせた形で、国際ルールにのっとり本件を処理する方向で、これら国々と引き続き協力する必要があります。



JB Press 2016.4.13(水)  川島 博之
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/46550

中国が大嫌いだけど顔には出せないベトナム
ハノイの農村で見つけた日本との親和性



 この冬ハノイを訪ねるチャンスがあった。
 ハノイ周辺の農村の視察が目的だったが、そこで見聞きしたことを伝えたい。

 ベトナムの1人当たりGDPは約2000ドルをやや上回った水準で、中国の約4分の1。
 やっと低所得国を脱したが、まだ貧しい。
 だが、その農村風景は中国とそれほど変わらにないどころか、中国より豊かに見えた。

 このところ、ベトナムは年6%程度の順調な経済成長を続けている。
 次の10年でその姿は大きく変貌しよう。

■日本の農村を思わせる風景

 ハノイの冬は寒い。
 寒いとは聞いていたもの南国とのイメージがありTシャツを用意して行ったが、Tシャツを着るチャンスはなかった。
 コートが必要なほどではないが、冬服でちょうどよい。

 農村視察ではハノイを流れる紅河に沿って北西方向に車で向かった。
 ハノイ中心部から約150キロメートル離れた農村を視察したが、意外に開発が進んでいるのには驚いた。

 下の写真1は農村の溜池を写したもの。その前にある道路がきれいに舗装されている。
 筆者は多くの途上国を訪ねたが、幹線から外れた農村の道路がこのよういにきれいに舗装されている姿を見たことはない。
 緑が多いこともあって、なかなか落ち着いた風景である。日本の農村に似ていると思った。


●写真1 農村の溜池

 そして冒頭の写真は、この村で見つけた商店だ。
 さほど多くの物は売っていなかったが、その店先はこぎれいである。
 右奥に黄色いスクーターが写っている。
 庭に置いた鉢植えなどもよく手入れされており、生活に余裕を感じた。

 ベトナムでは共産党独裁が続いている。
 政治体制は中国に似ている。
 しかし、政策は大きく異なるようだ。
 中国の経済発展は都市中心であり、農村は著しく軽視されてきた。
 この点においてベトナムは少し異なる。
 それは中国ほど政権が高圧的に物事を進めることが苦手であることが反映されているようだ。

 現在、ハノイでは初めての公共交通網であるモノレールの建設が進んでいる(写真2)。
 だが、その建設はもたついている。
 権利が錯綜し土地の買収に時間がかかることが一因とされる。
 このあたり、共産党の強権によって公共工事が著しいスピードで進む中国と異なっている。


●写真2 ハノイのモノレール建設現場

 都市での公共工事がはかばかしく進まない反面、農村では道路整備が意外に進んでいる。
 その姿はどこか日本に似ている。
 その背景には宗教があるのではないだろうか。
 写真3はハノイ郊外のお寺の内部である。日本のお寺かと思った人も多いだろう。


●写真3 仏教寺院

 それもそのはず、ベトナムの仏教は日本と同じく中国を経由して伝わった大乗仏教である。
 同じ東南アジアでもタイやミャンマーに伝わった上座部仏教とは異なる。

 中国に仏教が根付くことはなかった。
 現在、その信者は少なく、影響力はほとんどないとと言ってよい。
 だが、ベトナムには仏教が根付いた。
 その根付き方が日本によく似ている。
 社会主義を標榜していることもあり、国が公然と仏教を支持することはない。
 そして人々は熱心な仏教徒ではない。

 それでも、その行動原理は大乗仏教の影響を強く受けている。
 例えば、ベトナム革命が遠い記憶になった昨今、農村ではお寺で結婚式を行うケースが多いと言う。
 日本は葬式を仏式で行うことが多いが、どちらの国も人生の節目に仏教が登場する。
 目には見えないが、現代のベトナム人にとって大乗仏教は心のよりどころになっており、行動指針になっている。

 そんな人々は何事につけても強権的な姿勢を嫌う。
 なにごとも“なあなあ”で解決しようとする。
 強権的な中国のやり方とは異なる。どこか日本的なのだ。

■筋金入りの反中国感情

 そんなハノイ郊外の農村視察であったが、その間に聞いた話は、徹底的な反中国感情で埋め尽くされていた。

 「日本は尖閣諸島を巡って中国と対立しているが、ベトナムも南沙諸島を巡って大変だね」
などと聞くと、
 「元は海南島もベトナムの領土だったのに中国に取られてしまった。
 中国は油断も隙もない国だ」
といった答えが返ってくる。

 ベトナムの歴史上の英雄は、どれも中国に敢然と立ち向かった人たちである。
 それはベトナムに王朝を開いた英雄だけでない。
 誰もが2000年も前に漢の支配に立ち向かったハイ・バ・チュン姉妹の悲話などを知っており、その反中国感情は筋金入りとの印象を受けた。

 ただ、2000年間にわたり戦い続けてきた中国に対する態度は複雑なようだ。
 ある外交官は、「国民に強い反中国感情があるが、政府がそれを強く言い出せないところにベトナムの苦しみがある」と言っていた。
 日本と中国は海を隔てている。
 日本は中国に攻められたことはない。
 元寇があったが、あれは中国ではなくモンゴルが攻めて来た。
 それに対して、ベトナムは何度も中国に攻め込まれている。

 太平洋戦争が終わった1945年。
 その秋、ハノイには日本軍、フランス軍、そしてなんと中国の国民党軍がいた。
 厚かましくも、中国は日本軍の敗北を新たなベトナム支配のチャンスと思ったようなのだ。
 日本が敗北すると直ぐにハノイに進駐してきた。

 日本軍はまもなく帰る。
 そしてフランス軍とは一度は戦わなければならないが、それでもフランスは遠い国であり、その軍隊はいずれ帰る。
 だが、ベトナムを属国扱いしたがる中国はいつ帰るか分からない。
 ベトナムが独立するためには、中国と上手く交渉して平和裏にお引き取りいただかなければならない。
 当時、ベトミン(ベトナム独立同盟会)を率いていたホー・チ・ミンが最も心を砕いたのは、実は日本やフランスに関することではなく中国に関することだったそうだ。

中国の膨張政策を最も恐れている国は、海で隔てられた日本でもフィリピンでもなく、ベトナムである。
 そして、強く恐れているがためにストレートには反中国感情を表明できない。
 トラの尾を踏むことはできない。
 それがベトナムである。

■ベトナムは日本にシンパシーを感じている

 以上のようなことをよく理解してお付き合いすれば、大乗仏教がその行動原理の中心にあるために、ベトナムは日本にとって東南アジアの中でも最も付き合いやすく、かつ頼りになる国である。

 ベトナムは中国の膨張政策に困惑する日本に強いシンパシーを感じている。
 安倍首相がその第2次政権において最初の訪問国としてベトナムを選んだことを多くの人が知っていた。

 ベトナムは1人当たりのGDPがいまだ2000ドル程度であり、次の10年、大幅な経済成長が見込める。
 投資先としても魅力的である。
 21世紀、日本はベトナムともっと仲良くしてよいと思う。


ニューズウイーク 2016年5月2日(月)16時00分 楊海英(本誌コラムニスト)
http://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2016/05/post-5016.php

ベトナムの港に大国が熱視線「海洋アジア」が中国を黙らせる
14年ぶりのカムラン湾開港にちらつく赤い影
南シナ海問題に無策の米政権に必要な文明史観とは


●かつてソ連軍が駐留したカムラン湾に日米の艦隊が入港

 今、西太平洋で最も熱い視線を浴びている港は、先月上旬ベトナムが中部カムラン湾に開いた国際港だろう。
 南シナ海に面した軍事的要衝で長く閉ざされてきたが、外国の軍艦や民間船を受け入れることとなった。

 中国、ロシア、アメリカ、日本など、世界の大国は皆ベトナムに求愛し、虎視眈々とカムラン湾に軍艦を乗り入れようとしている。
 ベトナムもしたたかに八方美人を演じ、誰に対してもほほ笑みを絶やさない。

 時代をさかのぼれば79年春に、中国が社会主義の弟分を「懲罰」しようとベトナムに侵攻。
 それと前後するかのように、ソ連はカムラン湾の租借に成功した。
 ソ連は中越戦争でベトナムを強く支持し、太平洋艦隊の一部をカムラン湾に駐留させた。

【参考記事】南シナ海の中国を牽制するベトナム豪華クルーズの旅

 ソ連の戦略はその後、ロシア連邦に引き継がれる。
 熊(ロシア)は龍(中国)と時に熱愛を演じても、太平洋方面の戦略的な拠点を放棄しようとはしなかった。
 カムラン湾の戦略的な地位が忘却された時期もあった。
 冷戦後の91年、対岸のスービック海軍基地をフィリピンが閉鎖して米軍が撤退。
 02年にロシアも撤退してからは、カムラン湾は外国に門戸を閉ざした。

■ソ連が引いた隙に中国が

 米ソ2大国の対立が閉幕し、ソ連が歴史のかなたへ消えようとする。
 その隙を狙うかのように、南シナ海に躍り出たのが中国だ。
 ベトナム海軍を駆逐して、南シナ海を自国の内海にしようと主張しだした。

【参考記事】南シナ海「軍事化」中国の真意は

 見かねたアメリカはカムラン湾の「復帰」をベトナムに度々打診。
 ベトナム戦争という複雑な記憶を乗り越えて、11年にはついに星条旗を掲げた軍艦がベトナム人の歓迎を受けた。

【参考記事】アメリカは「中国封じ」に立ち上がれ

 ロシアもアメリカの行動を意識している。
 今年に入ってから、ロシアのショイグ国防相はカムチャツカ半島の軍事基地を視察。
 極東の軍港からベトナムを経てマラッカ海峡に至る、西太平洋の「弧」の強化を指示した。

 日本も今月、海上自衛隊の護衛艦「ありあけ」と「せとぎり」をカムラン湾に派遣。
 その前には練習潜水艦が護衛艦と共にスービック海軍基地を訪れていた。
 航行の自由作戦を実施中の米海軍への側面支援を担った演習の一環であろう。

 西太平洋の海が世界の表舞台に出たのは今に始まったことではない。
 「海」と「世界の近代化」との関係を分かりやすく描いた学説として、経済学者で静岡県知事を務める川勝平太の『文明の海洋史観』(中公叢書)がある。
 それによると、近代文明は西洋内部で自己生成したものではなく、「海洋アジア」のインパクトを受けて開花したものだという。

■文明論に基づく世界戦略

 13世紀に西洋はモンゴル帝国による大陸制覇の危機に直面し、その打開に向けて16世紀から海に乗り出した。
 「海洋アジア」の黄金と香辛料といった豊富な物資が西洋に富をもたらし、産業革命に成功する──近代以降の歴史は西洋列強によってつくられてきたとの説を論破し、西太平洋の重要性を説いた文明史観だ。

 カムラン湾をはじめ、南シナ海紛争の本質を理解するためには、アジアを中心とした世界戦略の再認識が不可欠だ。
 単に「アジア回帰」というスローガンを叫んでも、文明論に立脚した戦略がなければやがては頓挫する。
 米民主党政権は中国の領土拡張やイスラム過激派テロ、ロシアによるクリミア併合に手をこまねいている。
 すべては欧米だけで問題を解決しようとし、アジアを軸とした文明論的戦略が欠如しているからだ。

 海洋アジアの要を成す日本は、西洋と共にいち早く近代化を実現し、世界秩序の構築に寄与してきた。
 今後も関与をやめる必要はない。
 カムラン湾を抱えるベトナムと友好関係を築き、その背後にあるインドシナ半島の住民とも連携を強化すべきではないか。

 日米とインドシナの強固な結び付きで海洋の波風が収まれば、東アジアの乾燥大陸に住む乱暴な「龍」も国際法を遵守しなければならなくなるだろう。

[2016年4月19日号掲載]








【2016 異態の国家:明日への展望】


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