2016年4月23日土曜日

中国経済のハードランディングリスクが高まっている(8):ゾンビ企業の復活、次々と生産を再開

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ロイター 2016年 04月 22日 08:57 JST
http://jp.reuters.com/article/angle-china-steel-zombie-idJPKCN0XI2ZV?sp=true

アングル:中国「ゾンビ」製鉄所が復活、
 過剰生産やまず

[上海/マニラ 21日 ロイター] -
 中国鉄鋼メーカーによる輸出攻勢が世界的な供給過剰を引き起こしたとして、国際社会は中国政府に余剰生産能力を減らすよう迫っているが、中国の鉄鋼都市では逆の現象が起きている。

 今年に入って国内の鉄鋼価格が急上昇したため、中国政府が掲げる方針とは裏腹に、製鉄所は生産を加速させている。
 生産停止に追い込まれて閉鎖寸前だった「ゾンビ」製鉄所も息を吹き返しつつある。

 中国の鉄鋼(鉄筋)価格SRBcv1は、年初から77%上昇。
 昨年相次いだ工場閉鎖で需給が引き締まり、消費側の在庫補充や、春節(旧正月)休暇後の需要の高まりなど、いくつかの国内の要因が重なったとみられる。

 鉄鋼生産が盛んな河北省唐山市では今月29日、10月までの予定で世界園芸博覧会が開幕する。
 一定期間中は製鉄所の稼働を縮小して排気を半減させるよう求められており、それを前に一部で生産を加速させる動きが出ている。

 中国は、世界の鉄鋼生産の半分を占め、
 その余剰生産能力は米国の生産量の4倍に達している。
 しかし過剰生産解消の掛け声をよそに、鉄鋼情報サイトの中国聯合鋼鉄網(Custeel.com)によると、
 68カ所の溶鉱炉(推定生産能力5000万トン)が生産を再開した
という。
 また我的鉄鋼網の調べでは、小規模な鉄工所の1月の設備稼働率は51%から58%に、大手では84%から87%にそれぞれ上昇した。

■<次々と生産を再開>

 鉄鋼価格の回復は「ゾンビ」製鉄所に命綱を投げ込んだ。
 そのため「生産能力の削減はもはや考えられない」と、マッコーリーのアナリスト、イアン・ローパー氏は話す。

 年間300万トンあった鉄鋼生産を昨年8月に停止した山西文水海威鋼鉄の幹部は、近く生産を再開すると語った。
 同程度の規模の江蘇申特鋼鉄も、昨年12月に生産を停止したが、価格の上昇を受けて今年3月に生産を再開したという。

 中国聯合鋼鉄網のHu Yanping氏によると、鉄鋼生産の利益率は平均で1トンあたり500─600元(77─93ドル)と約2年ぶりの高水準にある。
 Hu氏は「政府は景気を浮揚させ、鉱工業セクターの需要を押し上げる一方で、供給サイドの改革も推進したいという、ジレンマに陥っている」と述べた。

■<重要なのは輸出量>

 中国など主要な鉄鋼生産国は18日、世界的な供給過剰の解消に向けて協議したが、具体的な対策での合意に至らなかった。
 米国や欧州連合(EU)などは19日、合意できなかった責任は中国政府にあるとし、緊急に対策を講じることを求めた。

 英国は、インド鉄鋼大手タタ・スチール(TISC.NS)が、中国製を含む安い輸入品の大量流入が原因で英事業の一部売却を決めたことで、1万5000人の雇用が危機に瀕している。
 ドイツでは4万人を超える鉄鋼労働者が、中国からの輸入製品安売りなどに抗議する街頭デモを行った。

 ただ、昨年は中国の鉄鋼輸出が過去最高の1億1200万トンに達したことで、中国に対する怒りが高まったが、今年は国内価格の上昇によって、海外への輸出が抑えられる可能性がある。

 BMIリサーチの商品ストラテジスト、ミッチェル・ヒューガース氏は、中国の鉄鋼生産が2011年の水準を回復しても、生産と消費の差である過剰生産量が当時のように低水準にとどまれば、世界は恩恵を受けるはずだと指摘する。
 「重要なのは生産能力の削減ではなく、輸出される量なのだ」
と同氏は話す。

(記者:Ruby Lian、Manolo Serapio Jr 翻訳:長谷川晶子 編集:加藤京子)



Record china配信日時:2016年4月24日(日) 7時0分
http://www.recordchina.co.jp/a135595.html

労働争議が年間1万件以上、政府が補助金支給
―「ゾンビ企業」しぶとく生き残る


●中国ではゾンビ企業が労働争議の中心になっています」  こう語るのは香港に拠点を置く非政府機関(NGO)で、中国本土の労働運動の調査機関「中国労工通信(CLB)」代表の韓東方氏(53)だ。写真は黒竜江省の炭鉱労働者のデモ。

 「中国ではゾンビ企業が労働争議の中心になっています」 
 こう語るのは香港に拠点を置く非政府機関(NGO)で、中国本土の労働運動の調査機関「中国労工通信(CLB)」代表の韓東方氏(53)だ。
 
 韓代表は1963年生まれの53歳。
 もともと北京市の鉄道労働者だったが、1989年春の民主化要求デモで、学生らの「北京市大学自治連合会」と共闘するため「北京労働者自治連合会」を結成。
 1949年の新中国建国後、労働者による自発的な団体は同連合会が初めてだっただけに、ポーランドの自主労組「連帯」の創始者であるレフ・ワレサ氏(元大統領)になぞらえられ、
 「中国のレフ・ワレサ」
と大きな反響を呼んだ。

 しかし、1989年6月4日の天安門事件後、当局の指名手配を受け逮捕、投獄され、獄中で肺結核を患い、治療のため、釈放され米国で療養。
 肺結核が完治後の93年8月、中国広東省に密入国し逮捕されたが、当時は英国領だった香港に追放され、そのまま香港にとどまり、97年には香港の市民権を取得している。

 韓代表は香港でCLBを創設し、中国内でのかつての人脈を活用して労働者ネットワークを構築し、情報を収集。
 自らが立ち上げた中国の労働運動専門サイト「中国労工通信」で、中国の労働者のデモやストライキに関する情報を逐一伝えており、その情報の正確さには定評がある。

 韓氏によると、最近の最も大きなデモは黒竜江省双鴨山市の国有炭鉱「双鴨山砿業集団」の労働者とその家族ら数万人による「給料未払いデモ」だ。
 同集団は2014年から給料の未払いが発生。
 今年3月までの半年間は完全に支払いがストップ。
 すでに倒産していてもおかしくないのだが、国有企業ということもあり、地元政府が補助金を支給し、何とか存続している状態だ。
 
 赤字垂れ流しで、利益も生まない企業のことを中国では「ゾンビ企業」と呼んでいる。
 ゾンビとは死体がよみがえった幽霊で、香港映画で有名なキョンシーを指す。
 ゾンビ企業も「亡霊のような企業」で、韓氏によると、その典型が同集団だ。

 双鴨山市では昨年来、デモが多発している。
 このため、3月に北京で開催中だった全国人民代表大会で、記者が黒竜江省の陸昊省長に質問したが、陸氏は「給料の未払いなど一銭もない」と言い放ったのだ。
 この発言がネット上で伝えられると、同集団の労働者らの怒りが爆発。
 「陸昊よ、ぬけぬけとでたらめを言うな」
 「共産党は我々の金を返せ」
などとの横断幕を掲げた数万人の労働者らが大規模なデモに打って出て警官隊と衝突。
 事態を重く見た党中央が地元政府に指示して、一時金として2カ月分の給料を支払うことで労働者側と合意し、いまは平穏を取り戻している。

 中国政府の統計では昨年1月から9月までで1万1007件の労働争議が中国全土で起きており、韓氏の指摘する通り、その大半は同集団のようなゾンビ企業が舞台になっている。 

 とはいえ、倒産させれば、多くの失業者が出て大きな騒動に発展することは明らかなだけに、当局が一時金を支払うことで、ゾンビ企業はしぶとく生き延びていくという悪循環が続いているのである。

◆筆者プロフィール:相馬勝
1956年、青森県生まれ。東京外国語大学中国学科卒業。産経新聞外信部記者、次長、香港支局長、米ジョージワシントン大学東アジア研究所でフルブライト研究員、米ハーバード大学でニーマン特別ジャーナリズム研究員を経て、2010年6月末で産経新聞社を退社し現在ジャーナリスト。著書は「中国共産党に消された人々」(小学館刊=小学館ノンフィクション大賞優秀賞受賞作品)、「中国軍300万人次の戦争」(講談社)、「ハーバード大学で日本はこう教えられている」(新潮社刊)、「習近平の『反日計画』―中国『機密文書』に記された危険な野望」(小学館刊)など多数。



ダイヤモンドオンライン 2016年4月28日 陳言 [在北京ジャーナリスト]
http://diamond.jp/articles/-/90442

中国版「債務の株式化」は急場しのぎの危険なゲーム

 李克強首相は、第12期全国人民代表大会第4回会議閉幕後の3月16日の記者会見で、市場化による債務の株式化(デット・エクイティ・スワップ、DES)を通じて、企業のレバレッジ(負債比率)を低下させることができる、と初めて提起した。
 1週間後の3月24日、ボアオ・アジアフォーラム2016年年次総会の開幕式でも、李首相は再び、市場化の手法で債務株式化を推進し、企業の負債比率を引き下げることが可能だと表明した。

 そして4月4日、多くのメディアが次のように報じた。
 最初の債務株式化の規模はおよそ1兆元に確定し、3年以内に達成する。
 国家開発銀行、中国銀行、工商銀行、招商銀行等が債務株式化のテスト銀行となる。

 中国で債務株式化が実施されるのは、これが初めてではない。
 例えば1999年に国有企業は経営が苦しくなり、信達、華融、長城と東方の資産管理会社が設立され、国営企業に融資した国有銀行の1.4兆元の不良債務のうち、4000億元を株式化した。
 さらに今年3月8日にも、江蘇熔盛重工有限公司が中国銀行に対して27.5億元の株式を発行し、同額の債務を帳消しにした。
 しかし、ここまでの規模での債務株式化はまだ執行されていなかった。

 その意味では17年ぶりに、中国は再び債務株式化時代を迎えようとしている。
 しかし、17年前とは違って今回は、関連政策に対する社会的な論議が格段に激しい。

 短期的に見れば、債務株式化は債務を負っている企業にとっても、債権者である銀行にとってもメリットはあるだろう。
 まず巨額の債務を抹消された企業は、破産に至らず、周囲への連鎖的な債務ショックも引き起こさずに済む。
 また債権者も窮地から脱却できる。債権者の銀行は不良貸付をバランスシートから抹消し、利益に影響を与えないようにできるからだ。

 そのため1兆元の債務の株式化は、A株市場で次のようなメッセージとして受け止められている。
 「国は企業の融資返済の困難性と銀行の焦げ付きを座視できなくなり、市場救済、信頼性回復の意図を明確にした」。
 これが4月5日のA株の大幅高騰の理由である。

 しかし、本当にみんなが大喜びできる局面なのだろうか?
 経済学者や証券会社の分析では、この政策は深刻な「毒酒を飲んで渇きを癒す」に等しい急場しのぎの色彩が濃い、という見方が大勢だ。

■短期的には蜜の味
長期的には毒の味

 債務株式化は、短期的には一部企業の流動性危機を緩和し、銀行の利益への影響を低下させるため、特に企業の破産・倒産件数の増加や、銀行への金融引き締め、高失業率、社会不安などの一連の問題がもたらす政治的な圧力の回避には役立つだろう。

 しかし、経済の視点から言えば、銀行借款は債権であり、普通株は株主権であり、両者の性格は全く異なる。
 また異なった収益期待、収益形式、リスクと流動性を備えている。
 銀行は借款を提供し、期日に応じて利子と元金を回収し、事前に契約した収益率と期日内の流動性を入手する。
 一方、株式投資には高いリスクと不確定性が備わっており、投資家の収益率、収益を得られるまでの時間は予測困難だ。

 銀行は株式投資会社ではない。
 本来、固定的な収益を希望している銀行からすれば、債権を株式に転換することは本来的な投資目的、期待に全く合致しないし、なにより銀行は十分な株式投資、管理能力も持ち合わせていない。
 不良債権の抹消は銀行経営層の短期的な業績向上には有利だろうが、
 結局のところ、債務株式化は短期的な帳簿上のゲームに過ぎない。

 そもそも銀行経営が直面している主要なリスクの一つは短期借入、長期貸出がもたらす満期ミスマッチのリスクである。
 それに対し、融資を株式に転換するというのは、返済期限の再延長(無期限延長もあり得る)を意味し、銀行の資金回収が遅れ、銀行の流動性リスクが大幅に増大し、自己資本率が引き下げられたことになる。
 もし真の民間銀行であれば、債務株式化には何のメリットもない。

債務株式化以降も、不良資産は依然として銀行の手元に残る。
 それを「融資」とは呼ばず「株式」と呼ぶだけのことに変わっただけのことだ。
 もし融資先の企業の経営が好転しない
──極端なケースではさらに悪化し破産する(債務株式化に追い込まれた企業にはその公算が大きい)──
と、銀行の手元の株券は紙くずになってしまう。
 銀行というのは仮に融資先企業の破産・清算を選択した場合でも、回収できるのがほんの小額の資金であったとしても資産を換金させるように望むものである。
 対して、債務を株式化するというのは、破産したらまったくの御破算となるということで、
多くの場合、銀行はそれを望まないだろう。

 いずれにしても、一旦、債務株式化した企業には、なにがあっても復活してもらわなければならず、仮に破綻すれば、これらの「不良投資」による損失が暴露され、銀行のシステムそのものが巨大なリスクに見舞われる。
 銀行システムの安定が中国経済にとって大変重要であることは明白だ。
 大量の債務株式化株は中国経済にとって、巨大な地雷が埋め込まれるのと同じである。

■今も7割の問題株式を保有する17年前の不良資産管理会社

 もし債務株式化の対象企業が全て上場企業であれば、銀行は市場で売却するという容易 な撤退方法を持てる。
 しかし、中国における上場企業はごく少数であり、上場していない大中型企業が非常に多い。
 銀行は手元にある株をいかにして処理するのか?

 1999年当時、4大国有商業銀行の不良債権を処理するために、4つの資産管理会社(AMC=Asset Management Companies)が不良債権を引き受け、問題企業への融資を株式に転換したが、AMCはその後も売却することができないまま、今でも当時の株式を大量に所有している。
  4AMCのひとつである中国華融資産管理公司を例にとると、1999年に引き受けた債務株式化企業は281社に達し、17年も経過した2015年6月末時点でも、その70%近い196社もの株を所持しているのだ。
 しかも、AMCが売却した僅かな株式については、その売却額は入手したときの額と比べて1~3倍程度というのが一般的だ。
 この17年間の中国のインフレ率を考慮すると、収益の面ではもはや沙汰の外であり、半数以上がまだ処理されずに放置されているというのはなおさら深刻な事態といえる。

■1兆元の行き先を決める人が
 利益配分の権力を持つ

 さらに、債務株式化の最大のリスクは、巨大なレントシーキング(民間企業が政府などに働きかけて政策などを変更させて利益を得る行為)の余地を作り出すことである。

 最近、あるメディアが政府関係者の話として、次のように報じた。
★.債務株式化の対象は、
 潜在価値のある、一時的に困難に陥っている国営企業を中心とする企業に絞られる。
 こうした企業は、銀行の帳簿上、「注目」または「正常」に分類されている融資であり、「不良」融資ではない。
 従って、今回の債務株式化で、過剰生産の「ゾンビ企業」が対象になることはない──。

 問題は誰が、潜在価値のある、一時的に困難に陥っている企業だと判断し、どこを「ゾンビ企業」と決めるかだ。
 それは銀行なのか、それとも監督・管理機関なのか? 
 実際、どちらもその判断能力を持ち合わせてはいないだろう。
 ただその両者の違いといえば、能力がないからやりたがらない銀行と、能力がなくても「1兆元」というハードな目標を打ち出した監督・管理機関という点であろう。

  「1兆元」という数字が債務株式化のパラドックスを象徴的に表現している。
 もし不良債権に株式化の価値があれば、銀行が自らそうするにしろ、他の主体が銀行側から購入するにしろ、自ずと市場で株式化を希望する人が現れるはずだ。
 市場参加者は利益を追い求め、お金があれば誰しも儲けようとするのに、
 なぜ「1兆元」などという融通のきかない目標を掲げたのだろうか?

 もし不良債権に株式化の価値がなければ、強制的に「1兆元」の目標を達成させることで損なわれるのは、一体、誰の利益か? 
 忘れてはならないのは、中国の国民が銀行株を買わなくても、銀行の大株主は国である以上、損をするのは中国国民一人一人であるということだ。

 債務株式化が、ある人には利益をもたらし、ある人は損失を被る可能性のある取引であるならば、この1兆元の行き先を決める人が、利益配分の権力を持つようになる。
 そこに、大きなレントシーキングの余地が生まれるに違いない。

 極端な話をすれば、真剣に企業を作ろうと思っているわけではない輩が、銀行から何らかの方法である程度のお金を借り、その後、そのお金を移し替えるか、或いは浪費してしまってから、最後に、あっけらかんと銀行に「さあ借金を株式化しようぜ」と伝える。
 名目上、企業に負債はなく、銀行にも不良債権はない。
 これこそ「濡れ手で粟」の手口ではないのか?

 こうした連中に大なり小なり銀行の政策決定に影響力を行使する権力があれば、このような不道徳な方法で不労所得を得ることもできる。
 損するのは銀行の株主──つまり、中国という国なのであろう。



ロイター 2016年 05月 3日 19:24 JST
http://jp.reuters.com/article/china-commodities-statistics-idJPKCN0XU0KG

中国国家統計局、データ不正提供の疑いで統計発表を中止
 
[北京 3日 ロイター] -
 中国政府幹部が統計結果の不正提供で利益を得ていたとの疑いが浮上する中、国家統計局(NBS)による主要コモディティ生産に関する複数の指数発表が途絶えており、同国の指標の透明性に関する疑問が広がっている。

中国共産党の汚職監視機関である中央規律検査委員会(CCDI)は前週、数百人の国家統計局職員が公式データを私利のために利用していると非難。
 313人を起訴する方向で取り調べているとした。

 これらの指標は原油や金属に関するもので、第1・四半期の統計はまだ発表されていない。石
 炭や鉄鉱、電気に関する地方のデータも、年初から公表されていない。

 大半は、CCDIが昨年10月に「規律違反」の疑いがあるとして国家統計局の調査を開始して以来、発表が途絶えている。
 同局のトップだった王保安・局長は2月後半に解任された。



現代ビジネス 2016年05月09日(月) 真壁 昭夫
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/48608

中国でひそかに進行する「もうひとつのバブル危機」

 最近、中国の不動産価格の上昇が目立つ。
 利下げや規制緩和を受けて住宅購入者向けの貸し出しが容易になり、多くの都市で住宅価格が上昇している。
 一部には、バブルの発生を懸念する見方もある。

 そして、別の市場でも注意すべき動きが進んでいる。
 それは、中国で取引される鉄鉱石先物価格の上昇だ。
 すでに大連商品取引所(DCE)に上場されている鉄鉱石先物の価格は、年初来で60%程度上昇している。
 過剰な生産能力のリストラが急務である中国経済において、こうした“根拠なき熱狂”が広がっていることには注意が必要だ。

■投機熱に煽られる鉄鉱石価格

 リーマンショック後の4兆元(当時の邦貨換算額で60兆円程度)の巨額の景気刺激策の結果、中国の粗鋼生産能力は世界最大にまで拡大した。
 潜在的な粗鋼生産能力は年間11億トンから12億トンと言われる。
 昨年の実績を見ると、そのうち4億トン程度が過剰になっているとみられる。

 わが国の粗鋼生産能力は年間1億トン程度だ。
 それに比べると、中国の鉄鋼業界が抱える過剰生産能力はまさに巨大だ。
 景気減速が進む中で過剰供給を解消するには、リストラを行い需給の調整を図るしかない。
 そして、理論的にはリストラ圧力が高い場合、世界の粗鋼、鉄鉱石の価格には下押し圧力がかかるはずだ。

 しかし、中国では全く逆の動きが進んでいる。
 年初来、大連で取引される鉄鉱石先物は60%程度上昇した。
 そして、上海で取引される鉄筋先物を始め鉄鋼関連製品の価格持ち直しも進んできた。
 アナリストらが今年の鉄鉱石価格の見通しを上方修正するなど、強気な見方も多い。
 なお、中国政府はリストラの進展が価格を支えているとの見解を示している。

 過剰な供給圧力が強いにもかかわらず鉄鉱石などの価格が上昇する状況は、“根拠なき熱狂”と呼ぶにふさわしい。
 そして、鉄鉱石などの価格高騰は中国の住宅価格の上昇に支えられているようだ。

 度重なる利下げ、景気刺激策としての不動産購入に関する規制緩和に支えられ、中国の住宅価格は上昇している。
 それが鉄筋への需要観測を高め、投機に火をつけている。
 当局は商品先物取引への規制強化に乗り出しているが、どれほどの効果があるか定かではない。

■中国政府「乗り継ぎ政策」の限界

 注意が必要なのは、中国経済の減速懸念が高まる中、資産価格には下落圧力がかかりやすいことだ。
 住宅市場の過熱、それを受けた鉄鉱石価格の急上昇はいずれ逆方向に動くことも考えられる。
 それによって市場に大きなショックが走る可能性は軽視できない。

 近年の中国の情勢を見ると、株式市場が下落すると、規制緩和などを通して投資資金を不動産市場に流入させる動きが繰り返されてきた。
 足許の住宅価格の過熱は、昨年半ば以降の株価下落への対策に支えられてきた。

 徐々に、この景気対策は限界を迎えるだろう。
 経済成長率が低下する以上、不動産や株価などに対する下押し圧力は高まる。
 大規模な景気刺激策が過剰な生産能力を生み出したという教訓がある為、積極的な財政支出も期待しづらい。
 そのため、一旦、相場が下落し始めると、これまで以上のマグニチュードで市場、経済が混乱する恐れもある。

 それでも中国政府が不動産と株式の相場高騰のスイッチングを繰り返し、景気を支えようとするなら、チャイナリスクはますます膨らむ。
 すでに、住宅関連の需要を見込んで中国の鉄鋼メーカーは増産に動いている。
 それは、構造改革を難航させる恐れもある。
 引き続き中国経済は前途多難だ。


ニューズウイーク  2016年5月7日(土)08時23分 ロイター発
http://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2016/05/post-5039.php

中国建設機械業界、過剰生産で「遠い夜明け」
経営破産した建設会社から差し押さえられた建設機械が中古品市場に大量に流入


● 5月6日、掘削機やブルドーザーなどの建設機械の中国内販売台数は、月間ベースで過去2年間減少が続いていたが、2016年1─3月になるとようやくプラスに転じた。
写真の建設機械は北京郊外で4日撮影(2016年 ロイター/Fang Yan)

 掘削機やブルドーザーをはじめとする建設機械の中国での販売台数は、月間ベースで過去2年間、減少が続いていたが、不動産販売と建設活動が上向くなかで、2016年1─3月になるとようやくプラスに転じた。

 ただディーラーやコンサルタント、そしてメーカー自身も、年初の堅調な動きは回復の始まりを示唆するものではなく、ごく一時的な上向きに過ぎないと慎重な見方を崩していない。
 かつての建設ブームのお蔭で中国は世界的な金融危機から脱却することができたが、最近の明るい兆候は、業界が引きずる痛みを覆い隠しているに過ぎないというのだ。

 新たな排出量規制は建機の販売を後押ししているが、以前は掘削機やローダーを量産していた工場は、現在では生産能力のほんの一部しか稼働しておらず、稼働率は20─25%程度にとどまっているという。

 さらに、建設ブームの時代に購入された機械は今ではほとんど使用されておらず、経営破産した建設会社から差し押さえられた建機は中古品市場に大量に流入しており、新たな建機販売の足かせになっている。

 年初の中国の経済指標は建設の持ち直しを示すなど総じて好調で、エコノミストの一部は16年の中国成長率予想を引き上げた。
 ただ4月は振るわず、景気は早くも失速しつつあるとの懸念が広がっている。

 ロイターの記者は、北京郊外にあるディーラーを訪ねたが、人影はまばら。まだ包装材に包まれた掘削機やフォークリフトトラックが中古品に交じって放置された状態だった。
 買い手の姿はまったくなかった。

 広西柳工機械<000528 .ss="">の建機を販売しているディーラーのマネジャーは、ピーク時には需要に追い付かないほどだった、と振り返る。

 「待ちきれない顧客は柳工に直接行って、工場の外で列を作ったものだ」
と語った。
 今や、買い手が付く3台のうち2台は中古、という。

 世界最大の重機器メーカー、米キャタピラーは先月、中国の建設部門に回復の兆しがみられる、と楽観的な見方を示したが、同時に「どの程度この状況が続くか見極める」などと慎重な姿勢も示した。

 中国龍工<3339 .hk="">の営業担当者は、1─4月は売り上げが伸びたが、それは新たな排出量規制により、顧客が購入を前倒ししたことが大きいとし、こうした需要は長続きはしない、との見方を示した。

■<機械が多過ぎる>

 中国の建機セクターが抱えている主要な問題の1つは過剰生産だ。
 中国と海外の企業は2008年以降、工場に積極投資して生産を急激に拡大した。
 その結果、景気が減速すると、作り過ぎの状態に。
 中国ではもはや売れなくなり、輸出市場に活路を求めざるを得なくなった。

 建機市場を専門とするコンサルタント会社、オフハイウェー・リサーチによると、2015年の生産は2003年以来の低水準だった。
 中国最大のブルドーザーメーカー、山推建機<000680 .sz="">で中国国内での販売を統括するある幹部は
 「政府による投資の影響は当初考えていたほど大きなものではなかった。
 機械はすでにあふれている」
と指摘。
 「2010年のような急成長は、もう戻ってはこない」
と語った。

 コマツ<6301 .t="">は先週、中国の需要が最大25%減少する可能性を警告。
 藤塚主夫・副社長CFO(最高財務責任者)は、
 中国市場について「製造業中心に成長が鈍化していることは変わらない」
と述べた。

 建機業界は確かに、最悪期と比べると回復している。
 最悪期には12カ月を超えていた在庫も、通常の水準に戻りつつある。
 例えば、中連重科<000157 .sz="">では在庫は3─4カ月で、2カ月という通常のレベルとたいして変わらない水準になっていると、幹部の1人は話している。

 しかし、中古市場の拡大や、既存の機械がほとんど使われていないといった現象に代表される供給過剰の問題は残っており、オフハイウェー・リサーチのマネジングディレクター、デービッド・フィリップス氏は、解消まであと1年から1年半はかかるとの見方を示している。

 同氏は「とにかく仕事が少なすぎ、機械は多過ぎる」と語った。

(Fang Yan記者、Anne Marie Roantree記者 翻訳:吉川彩 編集:内田慎一)



鉄鋼新聞 5月17日(火)6時0分配信
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20160517-00010001-tekkou-ind

中国、鉄鋼増産に拍車
4月の1日当たり粗鋼、最高の231万4000トン

 中国・国家統計局が14日に発表した同国の4月の鉄鋼生産は、銑鉄が5842万トン(前年同月比2・0%減)、粗鋼は6942万トン(同0・5%増)、鋼材は9668万トン(同0・5%増)だった。
 銑鉄は前年割れへ転じたものの、1日当たりの粗鋼生産は231万4千トンと、前月比で3万5千トン増え過去最高水準に達した。
 3~4月に中国鉄鋼市況が急騰し、中国ミルの採算が大幅に改善したことで増産に拍車が掛かったようだ。

 同統計局の数値は後に修正されることがあるが、公表時点ベースでの1日当たり粗鋼生産量を比較すると、2016年4月は14年6月の230万9700トンを超え過去最高となった。
 3月に開かれた全人代後、中国市場では建材関連の買い付けが活発化し、2カ月間で熱延コイルや条鋼類など市況は150ドルほど上昇。
 急速に販価改善が進み「中国ミルのトン当たりマージンは約500元(約80ドル)にまで改善した」(商社幹部)ことで、河北省をはじめとした華北のミルを中心に休止設備を再稼働する動きが伝えられていた。

 ただ実需が伴わない中での増産に、市況はピークアウトし始めており、今後は増産意欲も低下に向かいそうだ。
 多数の鉄鋼メーカーが本拠を置く河北省唐山市では4月末から世界園芸博覧会など国際行事が半年ほど行われるため、環境対策で数百万トン分の減産になるとも指摘される。
 同統計局は鉄鋼や石炭といった過剰能力を抱える業種を念頭に
 「工業生産の伸びは鈍化しているが、構造調整を果敢に進める」
としており、
 今回の増産が改めて過剰能力問題をクローズアップさせる契機になる可能性がある。
  1~4月累計の鉄鋼生産は、銑鉄が2億2486万トン(前年同期比3・7%減)、粗鋼が2億6142万トン(2・3%減)、鋼材が3億5949万トン(0・2%増)だった。

■ 自動車生産、4月も増加/地場系に陰りも 

 鉄鋼以外の4月の経済統計では、自動車生産が220万2千台(前年同月比4・3%増)となり、6カ月連続で前年実績を上回った。
 小型車への減税効果が続いている形だが
 「日系など外資系の自動車メーカーは堅調だが、中国地場の民族系メーカーは販売が失速している」(商社幹部)
とされ、は行性が見られている。

 4月のコークス生産量は3625万トン(3・4%減)、
 発電量は4444億キロワット(1・7%減)、
 金属加工機械の生産台数は7万台(4・3%減)
だった。
 1~4月累計では、自動車生産が889万3千台(前年同期比5・5%増)、
 コークス生産が1億3887万トン(7・6%減)、
 発電量が1兆7986億キロワット(0・9%増)、
 金属加工機械の生産が24万台(7・1%減)
だった。



サーチナニュース 2016-05-27 17:58
http://biz.searchina.net/id/1610800?page=1

中国の過剰生産能力の削減はままならず
=大和総研が鉄鋼産業で考察

 大和総研経済調査部の主席研究員 齋藤尚登氏は5月27日にレポート「操業停止と能力削減は別物なのだが・・・」(全1ページ)を発表し、
 中国における過剰生産能力の削減が遅々として進まない背景を解説した。
 レポートの要旨は以下のとおり。

 2016年に入って、中国の鉄鋼価格が乱高下している。

 2011年夏には1トン当たり5000元を超えていた鉄鋼(鉄筋)価格は、景気減速による需要減退に伴い下落。
  2015年末には2000元を割り込んだ。
 2015年は粗鋼生産能力12億トンに対して、生産は8億トン(国内向け7億トン、輸出向け1億トン)にとどまり、過剰生産能力の削減が政策課題の一つとなっていた。
 こうしたなか、2016年2月には国務院が鉄鋼の過剰生産能力削減に関する意見を発表し、今後5年で1億トン~1.5億トンの過剰生産能力を削減するとした。

 現地ヒアリングによると、今後5年は生産能力を増やす新規投資は原則認めない方針が打ち出されたほか、生産能力削減に対するインセンティブが付与されるなど、今回の中央政府の本気度は高いとされている。

 中央財政は5年間で1000億元の特別奨励・補助資金を拠出し、過剰生産能力の解消に取り組む企業の従業員の再配置・再就職支援に重点的に充てるとしたが、財政部が発表した実施細則では、過剰生産能力をより早くより多く削減すると、より多くの特別奨励・補助資金が得られるといったインセンティブを地方政府に与えている。
 このため、地方政府の反応も早く、鉄鋼の一大生産拠点である河北省は、3億トンの生産能力のうち1億トンを削減する意向を示している。
 河北省だけで5年間の最低削減目標が達成される計算である。

 生産能力削減で需給がタイト化するとの思惑や、不動産開発投資の底打ち・反転などの好材料もあり(粗鋼生産は1月~3月の前年同期比3.2%減から4月には前年同月比0.5%増へと改善)、2月以降、鉄鋼価格は大きく上昇した。鉄鋼価格は4月26日には3150元の高値を付け、年初来で57.4%の上昇を記録した。

 しかし、その後、鉄鋼価格は反落し、5月24日は2345元と年初からは17.2%高、高値からは25.6%安の水準にある。
 行きすぎた価格上昇の反動に加え、操業を停止していた鉄鋼メーカーが、4月下旬までの価格上昇を受けて相次いで生産を再開したこともある。
 河北省のある鉄鋼メーカーは業績不振で電気代を支払うことができずに、昨年11月以降操業停止を余儀なくされたが、この4月に操業を再開したという。
 ゾンビ企業の復活である。

 当たり前のことだが、操業停止と生産能力削減は別物である。
 中国では少なくともこれまでは、これが曖昧だったところに過剰生産能力削減の難しさの一因があった。
 今回の政策では、実際に生産能力が削減されたかを第三者機関がチェックするとしているが、これが機能しなければ、市況が少し良くなると死んだふりをしていたゾンビ企業が復活し、生産能力の削減はままならないことになる。

(情報提供:大和総研、編集担当:徳永浩)





【2016 異態の国家:明日への展望】


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