2016年4月20日水曜日

「裏切りのオバマ」終末の大変身(1):中国への見方を大きく変えた米国

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JB Press 2016.4.20(水)  渡部 悦和
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/46626

中国への見方を大きく変えた米国、
日本は再評価
2030年のグローバルトレンドと日米の対中国戦略

 2016年は米国の大統領選挙の年であり、年初からワシントンDCに所在する多くの安全保障関係のシンクタンクが、台頭する中国にいかに対処すべきかに関する論文を矢継ぎ早に発表している。

 例えば、
 CSIS*1の“Asia-Pacific Rebalance 2025”、CSISとSPF USA*2共同の
 “The U.S.- Japan Alliance to 2030:”、
 ランド研究所の“The Power to Coerce”
 元太平洋軍司令官デニス・C・ブレア大将の
 Assertive Engagement:AN UPDATED U.S.-JAPAN STRAREGY FOR CHINA(主張する関与:最新の米国及び日本の対中国戦略)
などである。

 これら著名なシンクタンクの中から何人かは新大統領のスタッフとして新政権に参加することになるであろう。
 米国のシンクタンクにとって選挙の年は大いに活躍すべき年であり、各研究者にとっても個人としての将来がかかった重要な時期である。

■1 停滞期に入る中国

 各シンクタンクの報告書を読みながら思うことは、中長期的な世界の動向特に
 中国の将来を予測することがいかに難しいか
ということである。
 2014年頃まで、中国の目覚ましい国力の上昇と米国の相対的な国力の低下が常識とされ、2030年頃には中国の国力が米国の国力を追い越すとまで予想されていた*3。

 しかし、2015年6月に始まった上海株式市場の暴落をはじめとして、最近明らかになってきた中国の経済的な不振は深刻なものであり、著名な投資家ジョージ・ソロス氏は、2016年1月のダボス会議において、
 「中国経済のハードランディングは不可避だ。
 予測を口にしているのではない。
 今それを目撃しているのだ」
と発言して中国政府の激しい反論を受けた。
 
 中国政府の反論にもかかわらず、中国は今ハードランディング中であるという意見や中国崩壊論を唱える専門家が特に日本では増えてきた。
中国崩壊とまではいかなくても、
 「中国経済は2014年から一貫して悪化していて、
 その状況は日本のバブル崩壊に似ていて、
 2016年の中国経済は間違いなく深刻な試練の年となろう。
 中国は長期停滞の10年、長い冬の時代に入っている
と主張する有名な専門家*4もいる。

 私は中国崩壊論には与しないが、中国は日本の「失われた20年」のような停滞期に入っていると思う。
 同じ主張を南カリフォルニア大学のダニエル・リンチ准教授がしている。
 彼は、フォーリン・アフェアーズ(FA)に掲載された「中国台頭の終焉」*5という論考で次のように主張している。
「中国の株式市場の不調、
 会社の赤字増大、
 外貨準備高の流出
は中国の経済的な不振を示す。
 中国共産党は、経済不振の深刻さを認識しているが、
 経済不振は中国崩壊まではいかない。
 中国崩壊をソ連崩壊と同列に考えることは適切ではない
「日本の1990年からの失われた20年のようなものである。
 日本は、株バブルと不動産バブルの崩壊によりデフレ・スパイラルに陥ったが、日本が崩壊したとは表現できないように、中国の崩壊とは表現できない
 私は、ダニエル・リンチ准教授の意見に賛成である。

 一方、中国の李克強首相は、中国経済のハードランディングを否定し、政府発表の経済成長率6.5%以上の達成に自信を表明しているが、世界の専門家の評価との乖離は大きい。
 そもそも中国の経済に関する予測が難しいのは
 中国の各種データが信頼できないことに大きな原因
がある。
 李克強首相自身、遼寧省の党委員会書記の時代に自国のデータが信用できないから、李克強指数を信頼していたと言われている。
 中国政府が発表するデータを信用しない
 専門家は独自のデータで分析し、その分析結果は中国経済の未来に関して悲観的であるケースが多い。

 いずれにしろ、対中国戦略を構築するためには、中国の将来像を予想しなければいけない。
 本稿においては、米大統領選挙の年の12月に国家情報会議(NIC)が発表する「GLOBAL TRENDS」およびデニス・ブレア元大将(かつて国家情報長官であった)の中国分析を参考にして議論を進めることにする。

*1=戦略問題研究所(CSIS:Center for Strategic and International Studies)
*2=笹川平和財団USA(SPF USA:Sasakawa Peace Foundation USA)
*3=米国国家情報会議(NIC: National Intelligence Council)、“GLOBAL TRENDS 2030”
*4=田中直毅、「中国大停滞」、日本経済新聞出版社
*5=Daniel Lynch、“The End of China’s Rise”、 Foreign Affairs、January 11 2016

■2 GLOBAL TRENDS 2030

「GLOBAL TRENDS」は
 米国のインテリジェンスの英知を集めて作成され、
 大統領選に勝利した次期大統領に提出されるもので、最新のものは4年前に発表された「GLOBAL TRENDS 2030」である。

 2012年末に公表されたGLOBAL TRENDS 2030は、
 「2030年において米国は、かつての覇権国からトップ集団の1位にとどまる」
と指摘し、
 「圧倒的な力を背景に世界を同一の方向に向かわせてきた覇権国が存在しない2030年の世界」
になると指摘している。

 そして、米国に関するシナリオとして、
★.楽観シナリオ「再成長する米国」と
★.悲観シナリオ「没落する米国」
を提示しているが、
 現時点の米国の姿は「再成長する米国」であろう。

 また、各国の国力の比較予測を実施し、各国の国力を算定する2つのモデルの中で
 4変数モデル
 (GDP=国内総生産、
 人口、
 軍事費、
 技術投資
の4つが変数のモデル)では、
 2030年頃に中国が米国を抜き、2048年頃にインドが米国を抜くと予測
している。

 また、7変数モデル(GDP、人口、軍事費、技術投資、健康、教育、統治の7つが変数のモデル)
では2042年頃に中国が米国を抜くと予想している。
  図1は4変数モデルでの予測を示している。


図1「主要国の国力の推移」(出典:GLOBAL TRENDS 2030)

以上の予測は4年前に発表されたのであるが、現時点でこれを評価すると、適切な分析だと評価できる部分と明らかに不適切な分析結果であると言わざるを得ないものが混在している。

 まず、
 「2030年において米国は、かつての覇権国からトップ集団の1位にとどまる。圧倒的な力を背景に世界を同一の方向に向かわせてきた覇権国が存在しない2030年の世界」
という予測は適切であると思う。

 しかし、4変数モデルでの予測である
 「2030年頃に中国が米国を抜き、2048年頃にインドが米国を抜く」
という分析結果を信じる者は現時点では少ないであろう。

 4年前の中国に関する予測は右肩上がりの破竹の勢いの中国であったが、今や中国は深刻な経済的危機にあり、長期停滞の冬の時代に入るとすれば、米国の国力が中国に抜かれることはないであろう。
 米国が2030年においてもトップ集団の1位であり続けるであろう。

 GLOBAL TRENDS 2030の一部の結論、特に米国の国力の過小評価に当初から反論してきた専門家はいた。
 例えば、米ハーバード大学のジョセフ・ナイ特別功労教授は早い時期から米国の没落というシナリオに対して反対し、米国の強靭さを主張してきた。

■3 GLOBAL TRENDS 2035

 今年12月に発表される予定の「GLOBAL TRENDS 2035」の一端を知るためには、米国国家情報会議(NIC)のホームページ*6にアクセスするとよい。
 以下に示す4つのシナリオを知ることができる。

 筆者が最近ハーバード大学で出会ったNICの専門家は以下のように話していた。

 「GLOBAL TRENDS 2035では図1のように主要国の国力の推移を定量的に明示することはしない。
 GLOBAL TRENDS 2030で提示した図1の妥当性に対する多くの批判があり、各国の国力を定量的に算出し提示することのリスクは大きい」

「中国の各種データを信頼することができないにもかかわらず、それを使用せざるを得ないという点も大きな問題である」

 NICのホームページによると、
 GLOBAL TRENDS 2035のシナリオは4つであり、
★.On the Brink(崖っぷち)、
★.Hot & Cold(暑さ寒さ)、
★.Trial & Error(試行と錯誤)、
★.Feral Dogs(野生の犬)
だという。非常に分かりにくい奇をてらったシナリオの表題ではあるが、その概要は以下のとおりである。

●On the Brink(崖っぷち)シナリオ:[大国間の紛争シナリオ]

 大国間における地政学的な競争が先鋭化し、各国政府は、攻撃的に影響圏を拡大しようとし、国家間紛争の可能性が高まる。
 しかし、紛争のエスカレーションのリスクや広範囲に拡大する分裂のリスクが、信頼醸成措置の構築を促すことになるかもしれない。

このシナリオの戦略環境は、大国間の絶え間のない経済的・政治的・安全保障上の競争により、平和と戦争の崖っぷち(on the brink of peace and war)にある。

●Hot & Cold(暑さ寒さ)シナリオ:[気候変動の影響シナリオ]

一連の不吉な天候予測、実際の悪天候に起因する事案および病気の発生が、これにいかに対処するかをめぐり国家間に深刻な不和を煽ることになる。
 場合によっては、自然災害や病気の発生が国際的な協力や対処メカニズムの発展を助長することもある。

●Trial & Error(試行と錯誤)シナリオ:[非国家主体の影響シナリオ]

 各国政府が経済的および政治的な諸問題を抱えている場合、各種の非国家主体(ビジネス・エリート、宗教グループ、犯罪シンジケート、過激主義者)が政府の中核機能を支配するために最新の技術を利用し、政府の形を変化させ多様な政府を作ることがある。

 多くの政府が、直面する諸問題に効率的に対処するために、そして公私のパートナーシップを通じた社会的刷新を実現するために、政府の伝統的な役割を個人やNPOに喜んで譲ることになる。

●Feral Dogs(野生の犬*7)シナリオ:[長い期間の低成長やゼロ成長の影響シナリオ]

 長い期間の低成長やゼロ成長が、世界の多くの地域で政治的な不安定さを増大させ、
 能力がある諸国を内向きかつ防衛的にさせ、
 より狭量なより分割された世界を作り出す国家主義的および重商主義的政策を採用させる。
 この時代を切り抜け、必要な経済的・政治的改革やロボット、バイオテクノロジー、3Dプリンターなどの新たなビジネス分野を追求する国々は、長期的に維持可能な経済パフォーマンスを達成するかもしれない。

*6=https://nicglobaltrends.tumblr.com/post/141610120692/with-every-global-trends-the
*7=野生の犬は、痩せて、いつも獲物を狙って牙をむき出しにしているイメージである。

■4 デニス・ブレア論文の中国認識と日米共通の対中国戦略

 本稿の冒頭で紹介した各種論文の中でブレア論文「主張する関与:最新の米国および日本の対中国戦略」を取り上げる。

 ブレア氏は、太平洋軍司令官や国家情報長官(2009年1月29日~ 2010年5月28日)を歴任し、特に国家情報長官の時にはGLOBAL TRENDSを指導する立場であった。
 現在69歳で日本のシンクタンクSPF USAの会長および最高経営責任者(CEO)である。

 筆者も何度かブレア氏と話す機会に恵まれたが、優れた安全保障の専門家である。
 ブレア氏は、米国の同盟国としての日本の重要性を理解したうえで、日米共通の対中国戦略を構築すべきであるという立場をとっている。

 ブレア論文の際立った特徴は、日米同盟関係を背景として日米共通の対中国戦略を提唱した点にある。

●ブレア論文の結論

 ブレア氏は、論文の結論として、
 米国と日本の共通の対中国戦略は「主張する関与(Assertive Engagement)*8」であるべきだ
と主張している。

 ブレア氏によると、日米の従来の対中政策が、中国の直接的侵略に対する軍事的抑止を維持しつつ、共通の経済的および外交的利益を促進するものであったが、その戦略は中国の活動に対して日米両国の国益を擁護するには不十分である。

 対中国政策に関しては、「関与とヘッジ」(Engagement and Hedging)という表現を使用する人が多く、ブレア氏の案も「関与とヘッジ」ではあるが、従来のような温厚な関与ではなく、より押しの強い自己主張の強い関与「主張する関与」である。

 この「主張する関与」では、中国とは協調をしつつも、双方の利害が対立する場合には公正で平和的な妥協を鍛造する(筆者注:forgeという単語が使用されているが、鉄(中国)をたたいて妥協策を作り上げるイメージである)ことにより日米の国益を擁護すると主張している。

●「主張する関与」の背景としての対中国認識と戦略の一端

 まずブレア論文が結論とした「主張する関与」が導き出された背景となっている、
 2030年までを見通した中国の未来に関する予測について説明する。


図2「中国に関する将来予測」(出典:ブレア論文“Assertive Engagement”)

 図2は、中国の国力(経済力、軍事力など)と対外姿勢が将来に向けていかに変化するかの予測であり、
★.X軸は対外姿勢が消極的であるか攻撃的であるかを示す。
★.Y軸は国力が弱くなるか強くなるかを示す。

 中国の将来は、白紙的には4つのシナリオ、
★.「強くて攻撃的(Powerful and Aggressive)」、
★.「強くて友好的(Powerful and Benevolent)」、
★.「弱くて攻撃的(Weak and Aggressive)」、
★.「弱くて内向き(Weak and Inward Looking)」
が考えられる。

 GLOBAL TRENDS 2035の関連で言えば、
★.「強くて攻撃的」な中国は「On the Brink(崖っぷち)シナリオ」に、
★.「弱くて攻撃的」な中国は「Feral Dogs(野生の犬)シナリオ」
に関連している。

*8=Assertive Engagementの訳について:英語のassertiveには、「断言的な」、「言い張る」、「自己主張の強い」などの意味があるが、本稿においては「主張する関与」と仮訳をしておく。

 以下に4つの白紙的なシナリオと最終的に対中国戦略を構築する際に前提となる基本シナリオを提示する。

●シナリオ1:「強くて友好的」な中国

 このシナリオは日米にとって好ましいシナリオである。
 中国経済は新常態に上手く移行し、短中期的に5~7%の経済成長率を達成する。

 国内的に安定し、対外的にも米国、日本、欧州と協調する。
 東シナ海・南シナ海の領土問題でも平和的解決を模索し、サイバー空間での情報窃取を慎み、世界の諸問題の解決に積極的に関与する。

●シナリオ2:「強くて攻撃的」な中国

このシナリオは日米にとって最も危険で困難なシナリオである。
 中国経済はほぼ完全に市場経済に移行し、
 5~7%の経済成長率(少なくとも日米よりも3~4%高い成長率)を達成する。

 国内の企業が有利になるように外国企業の中国での活動を制限し、海外では重商主義的な政策をとる。
 国防費を増大させ、2030年には米国の国防費に迫る。

 その経済力・軍事力を活用し、中国共産党の独裁、台湾統一、チベット・新疆の統治、東シナ海・南シナ海の領土問題の要求実現をアグッレシブに追求する。
 日本周辺で大規模な軍事演習を実施する。

 さらにインドとの国境問題で拡大要求をし、インド洋での支配的な海洋パワーになることを追求する。

 サイバー攻撃を強化し、中国主導の経済的および軍事的な地域組織を構築し既存の国際組織に対抗する。
 世界の紛争地帯において中国の国益を追求する。
 気候変動などの国際的課題に対し自国の国益を優先する一国行動主義的な政策を追求する。

●シナリオ3:「弱くて内向き」な中国

 このシナリオは、中国の1975年から2000年までの状態と同じであり、日米ともに中国に脅威を感じないシナリオである。

新常態の経済への移行に失敗し、せいぜい2~3%の経済成長率であり、
 国内問題(経済不振に伴う不満など)の処理に追われ、
 国防費も経済成長率の低下とともに削減せざるを得ない状況になる。

国内的にはメディア・インタ-ネットの統制を強化し、
 共産党への反対意見を押さえつけるが、
 東シナ海・南シナ海の領土問題やインドとの国境問題での対外姿勢をソフトにする。
 国際的な機関や地域的な機関への関与を減じ、世界の紛争地域への介入を避ける。

●シナリオ4:「弱くて攻撃的」な中国

 このシナリオにおける中国の将来は、輝きを失った成長(2~3%以下)と国内の困難な諸問題に伴う社会秩序の維持に汲々とした状態である。

 共産党の権力を維持するために、国内の諸問題を米国および日本の責任であると非難する。
 チベットと新疆に対して過酷な対応をし、国粋主義的な論理に基づき領土問題などにおいて攻撃的な対外政策をとる。

中国政府は、自国の弱さを認識しているため、
 日本や米国との全面戦争を求めはしないが、戦争一歩手前まで挑発を繰り返す。

 台湾、東シナ海・南シナ海、インドとの国境において挑発的だが制限された行為で緊張を高める。
 世界の諸問題の解決において、日米の国益を棄損するような挑発的で愛国主義的な政策を採用する。

●対中国戦略を構築するための基本シナリオ

 白紙的にはメリハリの利いた上記4つのシナリオが考えられるが、
 日米共通の対中国戦略構築のための基本的シナリオは以上4つをミックスしたもの
として考える。

 その基本シナリオによると、
1].中国共産党の権力掌握は継続し、
2].その経済成長率は3~4%であり、
3].中国が世界一の経済大国である米国を凌駕することはない。
4].国防費の増加率は、現在のレベルを維持する可能性はあるが、現在の10%の伸び率から3~4%の伸び率に低下する。

 結論として、図3の濃い小さな楕円が示す基本シナリオに基づいた位置にある将来の中国を前提として対中国戦略を考える。
 なお、大きな楕円は基本シナリオの振れ幅を示すが、「強くて攻撃的」なシナリオに近づいてくる。


図3「中国に対する日米同盟戦略「主張する関与」」(出典:ブレア論文“Assertive Engagement”)

 次いで、中国に対していかに対処するかの選択肢であるが、ブレア氏は図3に示す4つの選択肢を提示している。

 つまり、
 「外的バランシング(External Balancing)」、
 「内的バランシング(Internal Balancing)」、
 「制度への取り込み(Institutionalization)」、
 「安心の保証(Reassurance)」
である。

●「外的バランシング」とは
 中国の影響力に対抗するために日米が他の国々と協力するか、中国と対立する他の国々の能力強化を手助けすること。
 例えば、日米が、インド、オーストラリア、南西アジア諸国と協力することである。

●「内的バランシング」とは、
 日米のそれぞれの国の政治的・軍事的能力を増強することにより、中国の影響力を相殺し、その侵略を抑止・撃退すること。
 例えば、防衛費の増加、在日米軍を作戦コマンドに格上げすること、民間飛行場を軍民共用にすることなどである。

●「制度への取り込み」とは
 中国と協力的でウィンウィンの経済的関係を促進することである。
 中国のTPP(環太平洋戦略的経済連携協定)加入やアジアインフラ投資銀行(AIIB)への日米の協力などである。

●「安心の保証」とは、
 軍事的及び外交的措置で、共通の課題解決のために中国の協力を促進することである。
 例えば、中国と共同して人道的支援や災害派遣演習を実施することである。

 図3は、中国の将来の動向に応じて、「制度への取り込み」や「安心の保証」も活用されるが、主として外的バランシングと内的バランシングが多用されることを示す。

なお、内的バランシング、外的バランシングという用語は国際政治のバランシング理論の中で普通に使われている用語である。

 簡単に表現すると、
★.自らの努力(防衛費の増加、安全保障法制の整備、経済成長など)で対処する「自助」と
★.同盟国や友好国との協力により対処する「共助」
という表現になる。
 内的バランシングが「自助であり、
 外的バランシングが「共助である。

公助が存在しない国際システム(アナーキーな国際システム)において
 自らの安全確保のためには自助努力が前提であり、
 自助だけでは足りないところは周辺諸国との協力による共助で対処することになる。

 通常は、日米同盟によるバランシングは外的バランシングに分類されるが、ブレア氏は、日本と米国が共同して中国に対処することを強調するために、日米によるバランシングを内的バランシングで説明している。

 この点はブレア論文の「日米共同の戦略」という特徴がよく出ている。
 なお、ミアシャイマー教授は、「外的バランシングは、脅威を受けた側の国々がまとまって防御的な同盟を結成し、危険な敵を封じ込めることであり、二極化した世界だけに起こる」と主張している*9。

●「主張する関与」の5つの政策

 ブレア氏が提唱する「主張する関与(Assertive Engagement)」の5つの政策であるが、詳しくは次回のリポートで報告する。

●中国に対するより統合された米国および日本の戦略
●より強い米国および日本の経済
●中国との現実的な経済関係
●より強力な日米協同の軍事力
●東シナ海および南シナ海における中国の侵略への対処

*9=ジョン・ミアシャイマー、「大国政治の悲劇」、P223、五月書房

■結言

中国が現在陥っている経済的危機の深刻さとは、
 GLOBAL TRENDS 2030で
 予想された中国の破竹の勢いの国力の増強が実現しないこと
を意味する。

 様々な中国に対するシナリオを紹介してきたが、私の
 中国に対する評価は「手負いの龍」のイメージ
である。

 経済的苦境にある手負いの熊であるロシアがクリミア併合やシリアでの軍事行動などの問題行動を引き起こしているように、手負いの龍である中国も攻撃的な対外政策をとる可能性がある。

 ダニエル・リンチ氏が「中国台頭の終焉」で指摘するように、
 「中国台頭の終わりは、日本の台頭の終わりが日本のエリートたちを傷つけた以上に中国共産党を傷つけるであろう。
 国粋主義的な軍人や野望に満ちた外交の戦略家たちは
 強圧的で不快な外交政策に明らかに関心を持っているが、それらの政策により中国の状況を支え切れるものではない」
のである。

 一方、中国の台頭以降、世界の日本に対する注目度は極度に低下していたが、最近発表された論文などに共通的に見られるのが、
 米国の対中国戦略において日本を高めに再評価する動き、
日米同盟を再評価する動きである。

 この日本に対する評価の上昇と中国に対する評価の低下は注目すべき現象であることを強調したい。

 かかる状況下でいかなる対中戦略を構築するかが私のテーマである。
 幸いにもワシントンDCに所在するシンクタンクが対中国戦略に関して各種の提言をしている。

 本稿では主として、デニス・ブレア大将の論文を中心に記述してきたが、次回はブレア論文の細部とともに、各シンクタンクが提唱する対中国戦略について、本稿の続編として記述してみたいと思う。



サーチナニュース 2016-03-11 07:11
http://news.searchina.net/id/1604567?page=1

中国海軍に黄信号、
空母や原潜の建造がストップするかも
=米で指摘、中国メディアも注視


●写真は環球網の10日付報道の画面キャプチャー

 中国メディアの環球網は10日
 「米でリポート:中国海軍の発展に隠れた危機、
 母や原潜の建造はストップするだろう」
と題する記事を掲載した。

 記事は米国のシンクタンク「ランド研究所」が最近になり発表したリポート
 「中国海軍の現代化、どこに向かう?」
を紹介した。

 同リポートは、中国は過去2年間に大型の軍艦を次々に就役させた、中国が保有する2隻目、国産としては初の空母の建造を急ピッチで進めていると指摘。
 さらに戦略原子力潜水艦の遠洋パトロールも実施し、2015年にはソマリアと国境を接するアフリカ東部のジブチでの海外初の補給基地の建設を宣言したと指摘した。

 中国の意図としては、「近海における実力を拡大」しつつあり「全地球規模の野心」を持ち、アジアにおける米国の指導的地位に挑戦していると論じた。
 また、中国にとってシーレーンの安全確保はますます重要になり、海外における中国人や中国人の資産は増大、さらに南シナ海や尖閣諸島の紛糾もあると指摘。

 それ以外にも中国は海軍力を増強し、台湾などで突発事態が発生した場合に備える必要もあると論じた。

 リポートは、中国が今後も海軍力を増強する方針との見方を示した上で、
★.中国が軍拡競争にのめりこみ、
 現在考えている以上の水上艦や潜水艦、ミサイルを建造することになる可能性がある
という。

 一方で、中国経済の成長鈍化で、中国政府が高価な装備の建造中止を選択する可能性もあると指摘。
 例としては航空母艦や戦略原子力潜水艦の建造をはじめとする高性能の軍艦のをあきらめ、もっと安価な装備の拡充に方針転換をするという。
 その場合、弾道ミサイルの建造に力を入れ始める可能性があるという。

 同記事に対しては
 「経済は成長速度が落ちているだけで、成長していないわけではない。
 どの大国にもあることだ」
などとする、反発の声が多く寄せられた。




【2016 異態の国家:明日への展望】


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