2016年4月17日日曜日

中国の中央アジア戦略:ロシアの怒り買う可能性?

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ロイター 2016年 04月 17日 08:35 JST Peter Marino

コラム:中国の中央アジア戦略、ロシアの怒り買う可能性


[12日 ロイター] -
 西側のメディアや政治機関には、中国とロシアをあたかも「反西側陣営」のように表現する傾向がある。
 両国とも西側諸国に比べ政治体制は独裁的で、開放的な制度や報道の自由については懐疑的である。

 中国とロシアは、国際的な論争において欧州・米国の利益に反する立場で互いに味方し合うことが多い。
 たが、こうした見方はモスクワと北京のあいだの競争と不信感を見落としている。

 中国が最近提案した中央アジアにおける反テロ協調体制を機に、中ロ両国のライバル関係が再び注目を集めるようになっている。
 というのも、その体制にはロシアが含まれておらず、中ロの緊張が今後数十年のあいだに高まってくる可能性が増している。

 中央アジア地域は、数世紀にわたって、中ロ双方にとって戦略的な懸念の源となってきた。
 だがそうした懸念は、中央アジアの部族からの侵入を定期的に受ける側だった中国の方が大きい。

 18世紀半ばになると、この地域をより確実に統制しようという両帝国の努力が実を結ぶようになった。
 ロシアはシベリアを支配下に収め、清朝中国は新疆地区に入植地を確立したからだ。
 これは事実上「新たな国境地帯」が生まれたことを意味する。

 こうして恒久的なプレゼンスを確立したことで周縁の部族から受ける脅威は緩和されたが、ユーラシア大陸の2大帝国が中央アジアにおいて競争・対立することになり、それが今日まで続いている。

 それ以降、大半の時期においてロシアの方が中国よりも強大であり、ときにはその力の差は非常に大きかった。
 ロシアは中央アジア地域における勝者としての立場に慣れ、最終的にソ連時代には、中央アジアの各共和国、さらにはモンゴルに対してまで影響力を及ぼすようになった。
 だが、いまや形勢は逆転した。
 再び台頭した中国が強い自己主張を続けており、ロシア政府を憂慮させている。

 中国による反テロ協調体制の提案は、こうした「大国外交」の最新バージョンといえる。
 この協調体制が正式に構築されれば、中国と中央アジア諸国政府のあいだの情報共有、監視および軍事的な取り組みの調整に重点が置かれることになる。

 パキスタン、アフガニスタン、タジキスタンは関心を示しており、他の共和国とも早々に交渉を行うことが提案されている。
 今のところ詳細があまり明らかにされていないのは、合意困難な点が数多く生じ、提案されている取り組み全体が崩壊してしまう可能性があることを示唆している。
★.中国の外交は、あるプロジェクトにおいて格下の国と見なす諸国を相手にするとき、
 ぎこちなく行き過ぎになる例が見られる
だけに、なおさらである。

 とはいえ、今回の提案は、中国からアフガニスタンへの7000万ドル(約76億5000万円)規模のテロ対策支援供与、また中央アジア地域における中国の通商外交、特に、
 中央アジアを経由して陸路で欧州・中国を結ぶことを想定した、習近平国家主席の言う「一帯一路」インフラ構築計画に続くものである。

 これら取り組みのいずれにおいても、ロシアは、いわば明示的に上席に招かれてはいない。
 提案されている協調体制からのロシア外しは、中ロ両国が過去15年間、中央アジアにおける主要な条約機構である上海協力機構に参加しているだけに、いっそう目立っている。
上海協力機構は、少なくとも建前としては、いま中国政府がロシアを排除したまったくの新しい機関において実施しようとしている活動に取り組むことを意図するものである。

 中央アジア地域では、地元のイスラム原理主義グループによるテロ活動の可能性が問題となっている。
 実際、過激派組織「イスラム国」は最近この地域への勢力拡大に努めており、これまで以上に中国政府がイスラム国の攻撃対象になっている。
 こうなると、ロシアが「対テロ協調は影響力拡大を狙う中国の策略にすぎない」と主張するのは難しくなる。

 中央アジア系の民族、特にテュルク人は、中ロいずれにおいても民族的・文化的な多数派を構成していない。
 中ロ両国には2500万人近いテュルク人がいるが、特に国内社会によく統合されているわけでもなく、不満や対立は少なくない。

 新疆地域のウイグル族は、以前中国に対する抵抗運動の組織・扇動を試みており、彼らに対する中国政府の厳しい姿勢を考えれば、同じことが繰り返される可能性はある。
 新疆地域における中国治安部隊の規模は大幅に増加しており、自治区の一部では戒厳令に近い状態となっている。
 それだけに、中央アジアに中国の治安部隊が常駐するとしても、単にこうした状況の延長にすぎないとも言える。

 だが、中央アジアにおける外交、提携構築という点での中国の取り組みが特に目を引くのは、まさに今、中国がグローバル外交の舞台でその影響力を誇示しようとし始めているからだ。

 今年初め、中国は初の海外軍事基地の設立に向けた合意を結んだ。
 すでに米国、日本などが部隊を駐留させているジブチに海軍の拠点を設ける計画だ。
 こうした動きに先立って、人民解放軍の大規模な改革が行われた。
 地上部隊を削減しつつ、軍に対し、自国の防衛だけでなく、世界各地で中国の国益を守るという役割を明確に与えるものである。

 ロシア政府もこうした中国の行動パターンを見逃さなかった。
 ロシア政府は歴史的に、プーチンがよくロシアの「近隣他国」と呼ぶ、ウクライナ、カフカス、中央アジアなどに対する外国の介入を非常に嫌っているからだ。

 中央アジアでの中ロ両国の対立において大きな不確定要因となるのが、米国の動向である。
 米国はアフガニスタンに15年近く軍事介入を続けており、この地域の安全保障について直接的な関心と経験を有しているが、新たな中国の取り組みが実現した場合に、これを支持するとも参加するともまだ決めていない。

 米国が中央アジア地域におけるロシアの動きよりも、中国の動きの方に対して疑念を持つとすれば、これを機に米国はロシアと協力する独自の外交手段を手にすることになるかもしれない。

 あるいは、その正反対、つまり米中が共同してロシアの圧力に抵抗することもあろう。
 米国政府が、中央アジア地域における中ロいずれのプレゼンスも望ましくないと判断すれば、いわゆる三すくみの条件が整う可能性もある。

 しかし結局のところ、中国主導の対テロ協調体制は現時点では提案でしかない。
 外交においては、ロシア、中国、米国が相互不信に陥る場合と同様に、お互いを必要とする場合もまた多い。
 したがって3国とも、中央アジアで真っ向からの対決姿勢はとらないかもしれない。
 少なくとも当面は。

*筆者は、北東アジア問題と国際政治経済学が専門の国際政治アナリスト。

*筆者はロイターのコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています。(翻訳:エァクレーレン)



ロイター 2016年 04月 19日 17:39 JST
http://jp.reuters.com/article/russia-putin-idJPKCN0XG054?sp=true

コラム:ロシアはいつ壊れるのか

[14日 ロイター] -
 ロシアはいつ崩壊するのか。
 どん底の原油価格や、西側諸国による制裁、インフレ、そして人口危機──。
 第2のロシア革命はいつ起こるのだろうか。
 1917年に発生したロシア革命から100周年を迎える来年だろうか。

 第1次ロシア革命では、労働者や農民、兵士がサンクトペテルブルクの豪華な宮殿にいる貴族階級に反抗して決起した。
 その人数は膨大ではなかったが、十分なものだった。

 プーチン大統領が率いるソ連崩壊後の支配階級は今や、モスクワの豪華なクレムリン宮殿に移り、生まれながらに裕福ではなかった埋め合わせに、大きな富をお互いにぐっと差し出し合っている。
 不平不満のある人々にとっては、魅力的な目標だろう。

 今のところ、革命の兆しもないし、深刻なデモさえもない。
 クレムリンの中枢にいるプーチン氏は、世論調査で80─90%の支持率を享受し、非常に高い人気を今も誇っている。
 2014年3月にロシアがウクライナ南部にあるクリミア半島を併合して以来、この2年間そのような状況が続いている。

 ウラジーミル・ナボコフの1945年の著書「A Conversation Piece(原題)」の中で、ロシアの白軍の亡命大佐は、彼の祖国を奪った共産党の宿敵だったが、スターリンへの敬愛の感情を爆発させている。
 「偉大なロシア人民は目覚めた。
 そして、我が祖国は再び偉大な国となる。
 今日、ロシアから出てくるあらゆる言葉に、私は力を感じる。
 私は古き母国ロシアの素晴らしさを感じる」

 著名なリベラル色の強い評論家、アンドレイ・コレスニコフ氏は、現在のロシアの指導部が「不自由さを聖なるものにする」傾向があると書いた。
 すなわち
 「新しい社会契約は、ロシア人民がクリミアや国家威信と引き換えに自由を放棄することを要求している」

 このような誇りの高まりに伴って、それを強化するような姿勢が現れている。
 つまり、スターリンへのさらなる称賛と、米国やヨーロッパ連合体(EU)に対する称賛の大幅な低下だ。
 ロシア人の大部分は、権力の誇示を称賛する亡命大佐と一致している。

 「ロシアは再び偉大な国である」
という誇りの植え付けは、クレムリンにとって最大の、そしておそらく唯一のカードであり、何度も使う必要があるだろう。
 ロバート・カプラン氏は最近のエッセイの中で、プーチン氏の
 「外交政策はより創造的に、そして、用意周到でなければならない。
 彼が海外でカオスを作り出せば作り出すほど、国内での彼の安定的な独裁体制が価値あるものとなる」
と記した。
 ロシア大統領が本当に西側を嫌いかどうかはともかく、プーチン氏が生き残れるかどうかは、彼自身がそう振る舞うことにかかっている。

 しかし、プーチン氏の成功には1つの問題がある。
 クリミア併合は、制裁実施前から顕著だった同国の不況を補うものとなった。
 それは、堅調な消費増加と引き換えに、国家への忠誠を要求し、指導者層が裕福になるよう任せるという、プーチン流の社会契約から、人々の話題を変えた。

 コレスニコフ氏が指摘するように、
 「国家イデオロギーは未来への最重要な概念は与えてくれない。
 その土台はロシアの過去の栄光だ。
 この意味では、国家イデオロギーは、極めて限定的な寿命しか持ち合わせていない」。
 カプランもこれに同意している。
 「プーチン氏は経済破綻の影響から自らのレジームを守ることはできなだろう」
と。

 ロシアで最も優秀なエコノミストの1人は今月、ロシアのナショナリズム、及び帝国主義の復活は脆弱であり、それを変える、もしくは変えなければならないとの予想の確固とした裏付けを示そうとした。
 (カプラン氏は、フルシチョフを1964年に倒したようなクーデターの可能性を排除できないと考えている)。

 第1期プーチン政権で経済開発貿易相第1次官を務め、現在はフロリダ州立大教授のミハイル・ドミトリエフ氏は、「プーチンの春」で改革が実施できると考えた優秀な若手リベラル派のグループの1人だった。
 しかし、プーチン政権が独裁に向かって漂流しているとみるや、ドミトリエフ氏はグループを去った。

 同氏は、英王立国際問題研究所(チャタムハウス)での年次ロシア講義の中で、注意深いエコノミストの手本となっている。
 すなわち、ロシア経済は大災害ではない。
 ロシアの中央銀行は、どの中銀に劣らず、景気後退を何とか管理してきた。
 失業率は約6%と低く、欧州の多くの国よりははるかに低水準だ。
 輸入が足りず、その分を国内生産でまかなう点で成功してきた。
 原油価格の下落で白日の下にさらされた、ロシアの原油価格依存は、経済を他の分野にも多様化させなくてはいけないという新たな関心を起こしている──。

 とは言うものの、ロシアは今年、推定で1.5%のマイナス成長という景気後退に直面している。
 よくて、かなり低いプラス成長へ戻る予想だ。
 2017年は0.9%、2018年は1.2%の成長が見込まれている。
 運がよければ、ロシアは10年後、GDPが危機以前の水準まで戻るだろう。
 雇用は堅調だ。
 従業員を解雇するよりも、雇用者は賃金を削減するからだ。
 消費はかなり悪化している。

 驚くべきことではないが、政治家の人気は落ち込んできている。
 メドベージェフ首相の支持率は大幅に低下してきている。
 多くの州知事の支持率も同様だ。

 しかし、プーチン氏は違う。
 以前の多くの独裁者と同く、たとえ彼が命令を下したとしても、政治論争を超えた人物となっている。
 同氏は、自らのレジームが建てられている岩だ。
 欠かせない人物だ。
 大多数のロシア人が同氏に与えている支持、もしくは愛情、が消えるとすれば、現在の権力構造を支えるすべてが失われることになる。

 その時、他の世界にいるわれわれは未知の領域に踏み込むことになる。
 ロシアは指導者を中心に団結することができず、はっきりとした後継者もいない。
 リベラル派は小さく、いまだ信頼を置けない集団のままだ。

 皮肉にも、希望は抗議運動の中にある。
 ドミトリエフ氏によれば、ロシアにおいて、抗議運動はおおよそ経済的な混乱から数年遅れて起こるという。
 例えば、2011年の抗議運動の高まりは、世界の他の多くの国と同様、2008年の激しい景気後退の3年後だった。

 抗議運動によって、より強く過激なナショナリストのグループや、プーチニズムの終焉はこの偉大な国が、自らの復活に必要な欧州との関係を再構築する好機とみる人々が、指導者として登場することもあり得る。

 「ヨーロッパの運命」は、旧ソ連のゴルバチョフ元大統領が1980年代後半にソ連を開放した根底にある意味だった。
 それは、1990年代当時のエリツィン政権によっても、断続的に保たれた。
 しかし、それはもてあそばれ、2000年代になってプーチン氏によってきっぱりと捨てられた。

 プーチン氏がもし失脚するならば、ロシアは復活のチャンスがある。
 それを望む人々は誰でも勇気と強さ、そして支援を必要とするだろう。
 こうした人々が失敗したとき、今日より危険な領域に私たちは踏み入ることになろう。

*筆者はロイターのコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています。





【2016 異態の国家:明日への展望】


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