2016年4月19日火曜日

中国経済のハードランディングリスクが高まっている(7):習近平の締め付けは困難な時代への準備

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WEDGE Infinity 日本をもっと、考える 2016年04月19日(Tue)  岡崎研究所
http://wedge.ismedia.jp/articles/-/6548

隠しきれない中国経済の低迷

 ウォールストリートジャーナル紙は、3月16日付で
 「中国の経済的不調:全人代は表面を繕っているが、困難の兆候は積み上がっている」
との社説を掲げ、中国経済の先行きへの悲観論を展開しています。
 社説の要旨は次の通り。

 全人代は第12次5カ年計画を採択し、共産党は堅実にやっていくと約束し、終了した。
 李克強首相は雇用を維持し構造を変える、来年6.5%成長を達成しないことは考えられないと述べた。

■中国経済落ち込みの理由とは

 今回の全人代で黒龍江省知事の陸昊は国営のロングメイ鉱山会社を、雇用を維持したうえでの構造改革のモデルであるとし、解雇された労働者の収入は新規雇用もあり、少しも減っていないと述べた。
 これに対し炭鉱夫たちが本当ではないと抗議の声をあげた。
 陸氏はすぐ、虚偽の報告をしたものを罰すると前言を取り消した。
 中国の指導者は経済状況について誤った情報を得ている。
 会社の経営者は融資を受けるために財務上の問題を隠している。

 中国の経済困難の核心には、賃金の高騰につながっている労働力の減少がある。
 労働争議も増加している。

 金融上の問題もある。
 実質金利が上がっている。
 中国人民銀行は信用供与を拡大しようとしているが、銀行融資はゾンビ企業の延命や不動産投資投機に回っている。

 2008年の金融危機に際し、中国は大きな刺激策を実施した。
 インフラ整備や工場建設がなされた。
 これはうまくいき、経済は成長を続けた。
 しかしコストも高かった。
 今、工場の操業は能力以下になり、債務レベルは倍増し、多くの投資は回収できなくなっている。

 今の構造改革は1990-2000年代の朱鎔基の時(4500万人解雇された)より厳しくないと楽観論者は言っている。
 しかし今回の失業者の状況はもっと悪くなろう。
 15年前、中国は国有住宅を払い下げ、国民の懐を温めた。
 民間住宅の建設がブームになり、雇用が増加し、輸出も増えた。
 今回は、都市の住宅需要は満たされており、輸出は昨年、減っている。

 今年の全人代は良い恰好をしているが、当局は今後、その見かけを維持しえなくなるだろう。
 習近平のメディアや反体制派への締め付けは
 困難な時代への準備
のように思える。

出典:‘China’s Economic Rumbles’(Wall Street Journal, March 16, 2016)
http://www.wsj.com/articles/chinas-economic-rumbles-1458170883

*   *   *

 中国経済の減速懸念は、先の全人代の結果、後退したように思われます。
 しかし、この社説は、労働力不足による賃金上昇、実質金利の上昇、債務問題など、問題が山積していること、その問題が虚偽報告や情報の歪曲のためによく認識されていないことなどを指摘し、中国経済の将来への悲観論を展開しています。
 一つの見方でしょう。

■中国経済の光と影

 ただ、中国経済には巨大な外貨準備があり、
 財政支出を増大させる余地、
 強権的に産業の構造改革を進める力など、
強みもあります。

 中国経済の光と影を総合してどうバランスよく見ていくかの問題です。
 輸出主導高度成長の時代が過去のものになったこと、今後は内需主導の経済に移行していく必要があることは明らかです。
 この転換を中国が成功裏に行っていけるかどうかは、多くの要因が絡み合う話であって、簡単に結論めいたことは言えないように思われます。
 さらに、中国の統計資料が信頼できないことは判断を著しく困難にします。

 中国経済については、中国政府が言うように、2020年まで平均6.5%の成長をするとの前提をおきながらも、減速した場合にもそうでない場合にも備えておくしか手がないように思われます。
 さらなる中国の巨大化は好ましくありませんが、中国経済が混乱、減速すれば、その世界経済に与える影響も大きく、やはり好ましくありません。

 いずれにせよ、中国は経済的にも政治的にも不安定な国であることを認識し、将来大きな影響を受けないように、対中エクスポージャーをできるだけ抑えておくことが得策ではないかと思われます。
 中国経済のハードランディングへの警戒心は、
 李克強の「ハードランディングはない」との発言にもかかわらず、持ち続けておくのが正解と思われます。



ロイター 2016年 04月 19日 12:54 JST
http://jp.reuters.com/article/china-yuan-outflows-idJPKCN0XG08O?sp=true

アングル:腕ずくの人民元安定化はいつまで続くか

[上海/ニューヨーク 19日 ロイター] -
 中国人民銀行(中央銀行)は昨年8月に予想外の切り下げを実施したが、その後は人民元を安定させるために介入と市場規制を組み合わせた措置を講じて、
 元安に賭ける投機筋を退散させてきた。
 米連邦準備理事会(FRB)が利上げに慎重な姿勢であることもプラスに働き、中国からの資金流出は抑えられている。

 しかしこうした人民銀行による腕ずくの政策は、オンショアとオフショアの人民元市場の活力を失わせている。
 今後ドルが上昇した場合、足元の政策を持続できるかどうかは不透明だ。

 オンショアとオフショアの人民元レートは2月半ば以降、人民銀行の基準値に足並みをそろえた動きとなり、足元では「1ドル=6.5元近辺で推移」している。

 オフショア人民元オプション市場における1カ月物リスク・リバーサルが示す元売り圧力は2月以来消え失せており、一部のヘッジファンドはロイターに対して人民元安を見越したポジションから手を引いたことを明らかにした。

 ロンドンを拠点とするヘッジファンド、ノース・アセットマネジメントのパートナー、Sugandh Mittal氏は「全面降伏の状況に見える」と述べた。
 同氏によると、ノース・アセットマネジメントは近年、人民元の上昇と下落双方にポジションを構築していたが、今は中国の金利動向を読む戦略を重視する姿勢に方向転換している。

 人民元の急落を予想した投資家の中には、カイル・バス氏が率いるヘイマン・キャピタル・マネジメントなどの著名ヘッジファンドも含まれる。
 バス氏は、人民銀行が国内の銀行の資本増強のために紙幣増刷をすることで人民元は対ドルで30%前後下落せざるを得ないとの見方を示していた。

 ヘイマンはロイターのコメント要請には応じていない。

 人民銀行は元押し上げのために、
 3兆ドルを超える外貨準備の中から数千億ドルを投入し、
 フォワード市場でも活発に介入した
とみられている。

 さらに中国の銀行がオフショアで保有する元に対して準備金を義務付ける規制を導入したほか、「トービン税」と呼ばれる投機的な国際資本移動を抑制するための措置まで導入する意向まで示唆した。
 FRBが昨年12月に開始した利上げをその後実施していないことも、人民元の支えになっている。

 SLJマクロ・パートナーズのマネジングパートナー、スティーブン・ジェン氏は
 「FRBは、ハト派に転じることで中国の火事を消し止めるか、
 タカ派姿勢を維持して欧州と日本の火事を防ぐかどちらかしかできなかったが、
 選んだのは前者だった」
と指摘する。

■<根強い元安予想>

 それでも一部の市場関係者は、
 人民銀行が最終的には元安の大きな流れに屈するのは必至で、
 それが現実となる時期がやや先のばしされているだけ
とみる。

 セグラ・キャピタル・マネジメントのヘッジファンドマネジャー、アダム・ロッドマン氏は「われわれはエクスポージャーを縮小していない」と強気だ。

 ロッドマン氏は、同社は昨年11月に購入したオプションでまだ損失を被っておらず、
 人民元は向こう1年半から2年で下落するとの予想を変えていない、と強調。
 「元安に賭ける取引をだれもが極悪非道であるかのように位置づけようとしているが、それは馬鹿げている。
 中国は資本流出に苦しむとともに全般的な与信と金融は勢いが弱まっており、自国通貨に下げ圧力がかかることを意味する」
と説明した。

 CLSAのアナリストチームは、人民元が来年後半までに対ドルで変動相場制に移行すると予想した上で、その結果として短期的な資金流出が起きて
 「ドル/人民元は9元まで元安」
に振れる可能性を想定。

 「永遠に続けられないものはいつかやめなければならない」
とし、資金流出によって中国政府は「介入方針を撤回して人民元が市場に基づいて価値が決まるのを許容する」とみている。

(Pete Sweeney、Jennifer Ablan記者)



ダイヤモンドオンライン 2016年4月20日 宿輪純一 [経済学博士・エコノミスト
http://diamond.jp/articles/-/89916

中国の為替政策は「対ドル人民元高」
「通貨バスケット」が好きな中国

 金融、特に鉄火場ともいえる金融市場に関しては、経済理論よりも、現場で実際にやってみなければわからないことがたくさんある。
 実務経験が重要で、それがないと実際の金融市場の理解はおぼつかない。

中国当局は現在、人民元を、後述する「通貨バスケット」を参考に運営している。
 しかし、筆者のディーラー経験から見ても、現場では
 通貨バスケットを念頭としたディーリングは非常に面倒くさく、結局は対ドルの取引にシフトしていくものである。
 中国の通貨当局も市場をにらみ、ドルに連動させた人民元高政策を進めるものと考えられる。

■そもそも通貨バスケットとは何か?

通貨バスケットとは、
 様々な通貨をバスケット(かご)にまとめるかのように、加重平均した人工的な為替レートのこと。
 自国通貨を通貨バスケットに固定(連動)させる、あるいは参考にする通貨制度を、通貨バスケット制という。
 加重平均の比率は、一般的には貿易量等に応じて設定することが多い。
 また、この算出された加重平均のレートと一定の変動幅(ターゲットゾーン)を設けることもある。

 為替政策で通貨バスケットを使う理由は、米ドルなど一つの通貨に連動させるよりも変動が穏やかになることに加え、その国の経済の対外関係がより正確に反映されるメリットがあるからだ。
 逆にいうと、為替レートに対するその国の通貨(金融)政策の影響は少なくなるという特徴がある。

■中国当局は通貨バスケットがお好き

 先日、筆者は上海郊外の住宅街にある中国外貨取引センター(CEFTS: China Foreign Exchange Trade System )を訪問した。
 一般的にインターバンク(金融機関間)の為替取引(ディーリング)は、以前はボイスブローカー(人)経由や直接電話取引が行われていたが、最近では電子ブローキングシステム(Electronic Broking System:EBS)経由で取引されるようになっている。
 しかし、中国では電話などのネットワークで自由に取引ができるわけではなく、インターバンク為替取引も、先物取引のように“取引所内”で取引・管理されている。
 その取引所に当たるのが、中国人民銀行傘下の組織CEFTSである。



 現在、取引されている通貨は14通貨(表参照)で、ここで成立した取引は上海清算所(SHCH:Shanghai Clearing House)に送られる。
 このような仕組みで、中国ではインターバンク取引のリスクの管理・低減を可能にしているわけだ。

 中国の通貨・国際金融政策を詳しく確認してみると、非常によく先進国の金融市場について勉強した様子が感じられ、通貨バスケットを好むという傾向がある。
 以前から、人民元を「構成比率未公表の通貨バスケット」に連動させており、これは、シンガポール通貨庁と同様の仕組みだ。

 さらに、「BIS(Bank of International Settlement:国際決済銀行)の通貨バスケット」も参考として発表しており、また、人民元の国際化・基軸通貨化戦略に基づいて参加することになったIMFの「SDR(Special Drawing Right:特別引出権)」も、当然のことながら通貨バスケットだ。
 中国の周小川人民銀行総裁が、通貨制度は米ドルではなく、SDRに連動すべきだと主張する論文を書いたのは記憶に新しいところである。

 このように、中国は経済が大きくなり、人民元も国際化する中で、通貨制度自体も試行錯誤を行っているのだ。
 しかも、米ドルの影響を弱めようとする方向性も感じられる。

 構成比率を発表しない通貨バスケットについては、恐らく裏打ちはあるのだろうが、半面で為替レートを操作するのにも使える、ともいえる。
 同じ仕組みを採用するシンガポールの金融政策には特徴があり、いわゆる「金利」を操作する政策を持たない。

 シンガポールの金融政策は、香港と同様に中央銀行と財務省を合わせた通貨当局・シンガポール通貨庁(MAS:Monetary Authority of Singapore)が担当しており、景気対策と物価対策を「為替レート」の操作で行う。
 景気を良くしたい(輸出を伸ばしたい)ときには為替レートを引き下げ、物価を下げたいときには、シンガポールは輸入品が多いので為替レートを引き上げる。
 この実体経済を重視した政策を、中国も導入しようとしたのだろう。

■中国の通貨制度、修正の歴史

 人民元が大幅に下落した今年1月、CSFTSは計算した実需に基づく比率通貨バスケットを発表し、あくまで「参考」としている。
 貿易を中心とした実体経済に対しては有効なものであるにもかかわらず、だ。
 なぜ「参考」としているのかというと、それは投機筋等の国際投資の流れが、先に述べたように「対ドルレート」に注目するからである。

 中国はSDRへの参加のためにも、急ピッチで国際化を進めている。
 いままでも海外のマネーの影響は受けてきたが、今後はさらに国際資本移動(投機)を受け入れなければならない。
 国際資本移動は、中国では熱貨(ホットマネー)とも呼ばれ、通貨制度を揺るがしてきた。

 筆者は国際通貨制度、特に中国の通貨制度を長年研究してきたが、中国は通貨制度を固定から変動に変えると、そのたびに偶然1997年のアジア通貨危機や2008年のリーマンショックなどの危機が発生して、対ドルの対応がなされ、固定に戻すことを余儀なくされてきた(詳細は、弊書『通貨経済学入門』(日本経済新聞社)P177以降を参照)。

■最近の人民元の運用は

 冒頭で述べたように、ある国で国際資本移動が盛んになるほどに、通貨政策は通貨バスケット連動から対ドル連動へとシフトする傾向が高まる。
 実際に金融市場の取引でも、面倒くさい通貨バスケットは使われなくなる傾向がある。
 たとえばユーロ導入前の欧州では、ECU(European Currency Unit)という通貨バスケットと自国通貨の関係を管理していたが、管理の面倒くささから、欧州域内の基軸通貨であった西ドイツマルクとのレートを管理することが主流になっていった。

 しかも、人民元は国際化しているため、ソロスを始めとする投資家(投機家)の資本移動(熱貨)と対決しなければならない立場であり、その場合、対ドルレートを意識し上げていくことが大事になってくる。
 実際、1月の下落以降、対ドルレートを上げてきている。

 最近の状況的にも、米利上げ観測の後退で人民元の下落圧力が一時的に緩んでいる。
 直近3月では、米ドルを売って人民元を買う為替介入が減り、外貨準備も5ヵ月ぶりに増加。
 さらにG20においても、中国は人民元の安定(下落させないこと)を約束した。

 長期的に見ると、中国には5ヵ年計画を超える2つの経済計画がある。
★.一つは経済規模で世界一になろうとする「100年計画」。
★. そしてもう一つは人民元を基軸通貨にする「30年計画」だ。
 習近平国家主席はこの2つの長期計画を進めている。

 100年計画の目標は経済規模で、米ドル建てGDPで測られる。
 2010年に日本を抜いて2位になり話題になったのは記憶に新しい。
 最近では中国の各省の目標もGDPで評価をしている。
 習近平国家主席は人民元高を好んでいたとも伝えられ、それもドル建GDPが上昇すればするほど、目標に対する評価は上がったわけだ。

 つまり、CEFTSの
★.「通貨バスケット」は平時の実体経済の調整のため、
★.「対米ドル」の対応は国際資本移動対応のために運用される
と考えられる。
 今後も中国は国家的な目標達成のため、
 原則として中長期的には通貨政策として人民元を対ドルで「切り上げ」ていく
というのが十分考えられる。

※「宿輪ゼミ」は2015年9月に、会員が“1万人”を超えました。
※ 本連載は「宿輪ゼミ」を開催する第1・第3水曜日に合わせて、リリースされています。連載は自身の研究に基づく個人的なものであり、所属する組織とは全く関係ありません。



Bloomberg 4月28日(木)2時15分配信
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20160428-00000007-bloom_st-bus_all

今年の中国経済は予想以上に、
バブル脅威先送り-ブラックロック会長

 (ブルームバーグ):
 米ブラックロックのローレンス・フィンク会長兼最高経営責任者(CEO)は、
 中国に今年投資していない投資家は後悔するだろう
との見方を示した。
 ただ、中国への長期投資には否定的だ。

 フィンク会長は27日のブルームバーグとのインタビューで、
 中国指導部は景気の活性化に積極的に取り組んでおり、結果的に現在見込まれているより高い経済成長を実現するだろうと予測した。
 だが、当局の打ち出した景気対策が将来にバブルを膨らませることになりかねないと警告。
 フィンク会長はこのバブルが最終的にはじけるリスクを確率20%と見込んだ。

 4兆7000億ドル(約522兆円)の運用資産を抱えるブラックロックのフィンク会長は、
 「2016年は『あのとき中国に投資しておけば』と振り返る年になるだろう」
と発言。
 「今年の中国株式市場は堅調だろう。
 だが長期の投資も素晴らしいとは言わない」
と語った。

原題:Fink Says China to Do Well This Year as Bubble Threat
Postponed(抜粋)



Record china 配信日時:2016年4月29日(金) 7時50分
http://www.recordchina.co.jp/a130696.html

中国経済は岐路に立たされている、
だが、開けた思想は中国の今後を明るく照らすだろう―米誌

 2016年4月27日、世界経済において重要な役割を担っている中国の今後に各方面が注目し、中国経済の今後に対し悲観的な見方もある中、米誌は見通しが明るいと報じている。
 環球時報が伝えた。

 米誌フォーブスは25日、
 「約40年前にトウ小平指導の下改革開放が推進され、中国は今や世界第2位の経済大国となった。
 中国経済には大きな重圧がのしかかっているが、一帯一路(中国から中央アジアを経由して欧州に至る陸と、東南アジアを経由してアフリカ・欧州に至る海の二つのルートからなる中国提唱の経済圏構想。
 陸では高速鉄道の建設、海では港湾整備などを行う)や
 インターネットなどと現代製造業との結合を推進するインターネットプラス計画、
 十三五(2016-20年の第13次5カ年計画)
といった新たな考え方や政策が中国の道を切り開くと、中国指導陣は確信しているはずだ」
と指摘した。

 さらに、
 「中国は『創造』を重点に置いており、開けた思想が今後の発展を促すと認識している。
 中国は今岐路に立たされているが、経済における自由な思想は中国の今後を明るく照らしている」
と報じている。



ニュースソクラ 5月13日(金)16時30分配信  俵 一郎 (国際金融専門家)
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20160513-00010001-socra-int

減速ぎみだが、ソフトランディングできそうな中国経済

■中国経済から見る、習近平政権の権力闘争

 先日、中国経済について国際機関や米国のシンクタンクと意見交換をしてきた。

 日本では中国経済の先行きにかなり悲観視する声が強い。
  そうした中で米国で飲み方を総合すると、結論的には経済のスローダウンは間違いないものの、一部で喧伝されているハードランディングの恐れは少ない、というものだった。

1].その根拠としては第一に過剰設備に悩む鉄鋼、石油化学などのオールド・エコノミーの苦境は明らかである一方で、いまやGDPの5割を超えた
 第三次産業を中心とするニューエコノミーが中国経済を牽引すると予想していることが挙げられよう。
 製造業のPMIが50を割り込んできた一方で、非製造業は一貫して50を超えている。
 個人消費指標がずっと底堅く、日本での爆買いの勢いが衰えないのもこのためだ。

2].第二には、財政支出の拡大や相次ぐ金融緩和などの政策発動による下支え効果だ
 財政面では2020年までに高速鉄道網をさらに広げて80%の都市を繋ぐほか、高速道路網もこの間にさらに3万キロ延伸するという壮大な計画を推し進める方針を打ち出している。
 インフラ整備と財政刺激効果を併せて狙っている。
 金融面をみると、この一年半で6度の利下げと5度の預金準備率引き下げを実施している。
 景気のスローダウンにもかかわらず、マネーサプライ(M2)は13%台の高水準で推移している。

3].第三には3月の全国人民代表大会(全人代)でもゾンビ企業の整理・淘汰を打ち出したとはいえ、そのペースは極めて緩慢なものに留まるとみられるからだ。
 500~600万人という失業者を生み、国営銀行の不良資産を爆発的に増やす早急な破綻の選択は現実的ではない。
 言い換えれば、国営企業の改革は進まないということだ。

4].第四にはGDP比280%にも達するという総債務のかなりの部分が過剰設備や不動産開発で膨らんだ地方政府の債務や非効率な国営企業の借入である。
 債務削減(デレバレッジ)は必須である。しかし、これも中国政府は時間を掛けて財政資金や外貨準備資金の取り崩しなどで賄っていく方針のようだ。

 以上のような政策に則って、習近平政権は今後、2020年まで最低6.5%の成長を続けて、今度の全人代で公約とされた10年間で所得倍増の目標達成を狙っている。
★.要約すれば、金融・財政政策をフル回転させたうえ、
 外科的手術による経済へのショックは最低限で済ませようとしている、
と米国のエコノミストらは予測しているようだ。

 このシナリオに問題がない訳ではない。
 最大の問題は、ゾンビ企業の整理・淘汰、そこに貸し込んでいる銀行の不良資産問題を顕現化させないように徐々に進めて行こうという考え方だ。
 どこかで聞いた覚えがある政策だ。
 そう、日本におけるバブル破裂後の不良資産問題への対応と同じだ。

 結局、思い切ったショック療法を回避しようと時間を掛けたのがいわゆるバランスシート不況に繋がり、「失われた10年」と称されるに至った。
 現在の中国は当時の日本より圧倒的に潜在成長力が高いので、その心配はいらない、との指摘が多かった。
 しかし、企業が過剰設備、過剰債務、過剰人員を抱えたまま活動していけば経済の効率は低下していくので、成長率が4~5%に落ちる可能性は高い。

 中長期的課題は多い。
 第一には中国では一人っ子政策などの咎めから労働人口がこれからますます減ってくる。
 そうした中で成長を達成するためには労働生産性を引き上げるような産業構造の高度化(ハイテク化、経済のサービス化)を図らなければならない。
 いま中国はそのための生産の内生化を急速に進めようとしている。

 従来、高度な技術を要する資本財・中間財は香港、台湾、韓国などからの輸入に依存していた。
 現在進めている2025年までに現状25%の内製化比率を70%に引き上げようと計画している。
 その影響は韓国経済などに中国向け輸出の鈍化という形で現われている。
 しかし、意欲的な計画を実現するためにはハイテク産業などを中心に相当の高付加価値化を達成しないと難しい。

 もっと厄介なのは、いわゆる農民工の戸籍問題と社会保障問題であろう。
 中国経済の高度成長は都市戸籍を得られない農民が都会に出て低賃金で働くところから始まった。
 しかし、都会での戸籍取得は許されず、医療・年金などの社会保障の恩恵にも浴せず、不満が内訌している。
 さらに農村では教育機会も与えられず、多くの者が自分たちの子どもに中・高等教育を受けさせることができない。
 農村を基盤として成立した共産党だけにこの問題は疎かにできない。

 しかし、農民に戸籍の移動を認め、社会保障を充実させれば、財政コストの増大を招くほか、国際競争力の低下に繋がる、というジレンマに直面する。
 こうした諸問題に取り組まねばならない習近平政権には、まず権力の集中、抵抗勢力たる政敵の撲滅が不可欠である。
 現在の権力闘争もこういう文脈で理解していくと分かり易い。



サーチナニュース 2016-06-30 15:03
http://news.searchina.net/id/1613275?page=1

中国は失われた10年を経験した日本経済の「二の舞」になるのか?

 中国メディアの環球網は28日付の記事で、中国経済の成長が鈍化していることについて、失われた10年を経験した日本経済の「二の舞」を演じる事になる可能性について論じている。

 記事は日本が失われた10年を経験することになった「鍵になる原因」は
★.「ゾンビ企業にお金を貸し続けたことが日本の金融システムを崩壊させたことにある」
と指摘、
 不良債権の整理に時間がかかり、経済成長が損なわれた
との見方を示した。

 続けて
 「ゾンビ企業とゾンビ銀行の有害な相互作用が日本の実体経済の大動脈をふさいだことが、
 日本の生産性に対して現在に至るまで回復できないほどのダメージを与えた」
と説明した。

 中国でも近年、ゾンビ企業の存在が指摘され、問題視されている。
 世界的に批判の高まっている過剰生産が深刻化しているが、記事は中国経済が今後、日本経済の二の舞を演じるかどうかは
 「中国の指導者の意志にかかっている」
と論じた。

 記事の主張は明確だ。
 手遅れにならないうちに血管の「詰り」を取り除く手術をすることが必要であり、
 中国の指導者層は中国経済の健康のためにこの手術を行う決定を下さなければならない、
 そうしなければゾンビ企業とゾンビ銀行によって経済の血管を詰まらせてしまった日本の二の舞を演じる
という警告だ。

 この手術は中国にとって国有企業の構造改革を意味するが、簡単ではない。
 国有企業は多くの働き手の受け皿となっており、淘汰させれば失業者が大量に生まれ、社会不安につながる恐れもある。
 そうした意味では、
★.国有企業の改革は中国共産党の体制を崩壊させることにすらつながりかねないが、
 中国共産党の指導者たちにそれができるだろうか。
 党の指導者層は構造改革の必要性を理解していても、現在の過剰生産を見る限りでは国有企業は構造改革と逆に動いているというのが現状のようだ。



【2016 異態の国家:明日への展望】


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