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WEDGE Infinity 日本をもっと、考える 2016年04月22日(Fri) 岡崎研究所
http://wedge.ismedia.jp/articles/-/6552
個人崇拝という劇薬を飲んだ習近平
中国社会が激しい変化に見舞われる中、全国人民代表大会では相も変わらない画一的な政治ショーが繰り広げられました。
今回の全人代ついて、エコノミスト誌3月19-25日号の社説が、こんな従順な全人代をさらに締め付けようとしていることに習近平の不安が感じられる、言っています。
要旨は次の通り。
■ドラマのエキストラのような代表たち
中国は、わずか一世代で見分けがつかなくなるほど変貌を遂げたが、毎春、人民大会堂で行われる、全国人民代表大会は変わりがない。
憲法が定める国家の最高権力機関だが、代表たちはドラマに出てくるよく訓練されたエキストラのようだ。
仰々しい演説を拝聴、ピッタリのタイミングで熱心に拍手し、一つの例外もなしに提案された法案、予算案、政府報告を承認する。
憲法の規定がどうあろうと、常に党が全人代の上に来るのは変わらない。
もっとも、全人代が権力を獲得したかに思えた時はあった。
民主化を求める抗議運動が中国全土を席巻した1989年、全人代常務委員長の万里が全人代を緊急召集し、平和的解決を図るのではないかと期待された。
しかし、そうしたことは起きず、その後、全人代の閉鎖性、統制、画一性はさらに強まった。
その意味では、全人代も中国全体の流れをよく反映している。
今の全人代に独立性があると幻想を抱く者はいない。
今年も、予算、李首相の報告、五カ年計画等、9つの案件が次々と承認され、五カ年計画の賛同率は何と97.3%だった。
大会後の定例の首相記者会見もこれはというものはなかった。
李首相はGDPの目標成長率6.5~7.0%を擁護した後、明るい面を強調しようと、大量解雇抜きで鉄鋼・石炭産業を改革すると述べたが、既に政府が今後5年で180万人が失職すると発表している。
今年は新聞も特に明るいニュースのみ報道しようとしている。
先月には、習が大手の新聞社、通信社、テレビ局を視察、報道機関の「姓」は「党」だと念押しした。
その後、「北朝鮮」、「スモッグ」、「習の顔が載った襟章」等、21の「機微な話題」のリストが漏洩された。
党も、党員に「四つの全面」や「五つの開発概念」の習熟を求める新たなイデオロギー運動を展開、新聞も「四つの意識」運動を推進している。
どうやら党と習に対し、改めて絶対的忠誠を誓うのが今の風潮のようだ。
曖昧模糊としたプロパガンダ、見せ掛けの国会、骨抜きの報道、習の顔の襟章
……みな過去の悪しき時代の匂いがプンプンする。
しかし、人民大会堂の外の中国の現実社会の変容を消し去ることはできない。
李首相の記者会見の場でも、中国人記者がネットで集めた1000万人の回答を基に質問することができた。
また、代表たちも少なくとも現実社会の懸念は表明できる。
他方、昔ながらの新聞検閲を行うのは簡単だが、これはネットで嘲りや怒りを引き起こし、それを抑えようとすれば、際限なきモグラ叩きゲームになる。
要するに、全人代は表面上、平静かつ十年一日のごとく変らないが、現実の中国社会は胸が痛くなるような経済的、社会的変化に見舞われている。
それが引き起こす不安、反対、さらには抗議を前に、
習近平は、党の確実性の中に逃げ込みたいようだ。
一貫性は強さだ。
しかし、既に十分従順な国会や厳重な統制下にある報道機関をさらに締め付けようとするのは、一貫性よりも弱さの表れのように思える。
出典:‘This insubstantial pageant’(Economist, March 19-25, 2016)
http://www.economist.com/news/china/21695074-national-peoples-congress-neither-effective-parliament-nor-good-theatre
* * *
■変化した社会に対応できない共産党
中国統治の基本は「党の指導」であり、それが「一党支配」の意味するところです。
当然、党は憲法の上にあります。
システムもそうなっています。
全国人民代表大会であろうとネット空間であろうと「党の指導」は貫かれなければなりません。
この「党の指導」をより効果的なものとするために、ある時は管理をゆるめ、ある時は締め付けるのです。
最近の党による思想面やマスコミに対する締め付けは、確かにエコノミストが言うように「弱さの表れ」という側面はあります。
そこには、大きく変化した社会に対応できていないことからくる不安もあります。
同時に、習近平が8700万の党員を掌握できていないと感じていることからくる不安もあります。
党中央、つまり習近平を「核心」としたり、絶対服従を要求したりしているのは、現実がそうなっていないからです。
これは主に党内の問題であって、国民との関係ではありません。
党の政策の実施や人事のための締め付けであり、来年の党大会までこの傾向が続く可能性は高いでしょう。
しかし、個人崇拝と権力集中に向かう締め付けは、文化大革命を経験した中国社会と共産党にとり、今や「劇薬」であり、反感は容易に募り得ます。
これからは、経済や外交での失敗が、簡単に習近平の命取りになり得ます。
習近平がいつ軌道修正するか、まさに“要経過観察期間”に入ったと言えるでしょう。
』
『
Record china 配信日時:2016年4月22日(金) 16時50分
http://www.recordchina.co.jp/a134574.html
「軍事委統合作戦指揮総指揮」
習近平に新たな肩書き、
軍権掌握を誇示―仏メディア
●21日、新華社と中国中央テレビは習近平主席を「軍事委統合作戦指揮総指揮」との新たな肩書きで呼んでいる。
2016年4月21日、RFI中国語版サイトによると、中国の習近平(シー・ジンピン)国家主席に「軍事委統合作戦指揮総指揮」という新たな肩書きができた。
新華社と中国中央テレビ(CCTV)は20日、習近平国家主席が中央軍事委員会統合作戦指揮センターを視察したと報じた。
その際に習主席を「軍事委統合作戦指揮総指揮」との新たな肩書きで呼んでいる。
新華社英字版は「コマンダー・イン・チーフ」との訳語を当てており、統合作戦指揮センターのトップであることを改めて強調し、軍を掌握していることを示した。
また、習主席は視察時に迷彩服を着用している。
2014年1月の内モンゴル自治区の国境を視察した際に続いて2回目の着用となる。
軍の視察時にも通常は中山服を着用していることが多いだけに、より軍に近い存在として自身をアピールしたものとみられる。
』
産経新聞 4月22日(金)11時26分配信
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20160422-00000526-san-cn
香港英字紙、習近平主席「死去」と誤報
【上海支局】
香港の英字紙サウスチャイナ・モーニングポストは、21日付紙面に掲載した中国の習近平国家主席に関する記事で、習氏が「死亡した」と誤って伝えた。
同紙は22日付の紙面で記事を訂正した。
同紙は昨年末、中国資本に買収されていた。
問題の記事は、中央軍事委員会主席を兼ねる習氏が北京にある「統合作戦指揮センター」を視察したことを伝える内容。
記事の後段で軍指導部の権力問題に触れ、同委副主席を務めた徐才厚氏が「昨年死亡した」とあるべきところを、徐(Xu)と習(Xi)を取り違えて掲載した。
22日付の2面に「訂正」を掲載して「誤記」だったと説明した。
電子英字新聞スタンダードなどは同日、この誤報を取り上げ、同紙が電子商取引大手アリババに昨年買収されたことと絡めて報じた。
習氏をめぐっては、3月にも中国国営の新華社通信が、「中国の最高指導者」とすべき部分で「中国最後の指導者」としたまま記事を配信し、訂正していた。
』
なにか、このところ習近平の周辺は規律が行き届いていない。
それともネデイアが意図的にやっているのだろうか。
編集者が確認をするはずであろうに。
『
Record china配信日時:2016年4月25日(月) 7時0分
http://www.recordchina.co.jp/a135613.html
習近平氏の愛称「習大大(習おじさん)」、
中国共産党内や国営メディアで使用禁止に―仏メディア
2016年4月23日、中国共産党中央はこのほど、地方の幹部や国営メディアなどに対し、習近平(シー・ジンピン)総書記の愛称「習大大(習おじさん)」の使用を禁止する通達を出した。
仏RFI(中国語電子版)が香港・明報の報道を引用して伝えた。
記事によると、中国共産党で情報や治安などの部門を主管する中央政法委員会は20日までに、傘下のメディアに対して通知したという。
中国国営の新華社通信でも22日の会議でこの指示が伝えられた。
「習大大」という呼称は、中国版ツイッター・微博(ウェイボー)のアカウント「学習粉絲団(習氏に学ぶファン)」が最初に使用したとされる。
続いて、習氏夫人を指す「彭麻麻(彭麗媛ママ)」も生まれた。
中国共産党機関紙の人民日報でも使われたほか、
新華社の記事にはたびたび登場していた。
』
なにが起こっているのか?
習近平の皇帝化が進行しているとか。
『
Yahoo ニュース 2016年4月25日 7時0分配信 遠藤誉 | 東京福祉大学国際交流センター長、筑波大学名誉教授、理学博士
http://bylines.news.yahoo.co.jp/endohomare/20160425-00056974/
習近平のブレーンは誰だ?
――7人の「影軍団」から読み解く
習近平には7人の影のブレーンがいる。
中でも突出しているのは王滬寧(おうこねい)だ。
江沢民、胡錦濤と三代続けてブレーンを担ってきた。
その王滬寧が、会議室の狭さから座席に関して劉鶴(りゅうかく)に便宜を図ったことが、あらぬ流言飛語となり物議をかもしている。
真相は?
(以下、敬称はすべて省略する。)
◆習近平の「影軍団」――7人の「帝王師」たち
習近平には中共中央政策研究室主任の王滬寧というブレーンがいることは、中共中央で知らない者はいない。
しかし、実はそれ以外にも、王滬寧を含めた「7人の影軍団」(7人のブレーン)がいることを知っている者は、そう多くはない。
中国の巷では「影軍団」のことを「帝王師(ていおうし)」とささやく者もいる。
「帝王師」とは「皇帝の老師(ろうし)」のことだ。
皇帝を創りあげるための賢者で、控え目で目立たず、信頼のできる「切れ者」であることが要求される。
これは中国古来からの習わしと言っていいだろう。
では以下に7人の「習近平の帝王師たち」の名前を書いてみよう。
1.王滬寧(おう・こねい)(1955年生まれ):
中共中央政治局委員、中共中央政策研究室主任。
江沢民政権の「三つの代表」、胡錦濤政権の「科学的発展観」の起草者。
習近平の最高ブレーン。
総設計師的役割をしている。
2.栗戦書(りつ・せんしょ)(1950年生まれ):
中共中央政治局委員、中共中央弁公庁主任、中共中央書記処書記。
2012年9月、まだ胡錦濤時代だったときに令計画の失脚にともない昇格。
3. 劉鶴(りゅう・かく)(1952年生まれ):
中共中央委員(政治局委員ではない)。中共中央財経領導小組弁公室主任、国家発展改革委員会副主任。
習近平(1953年生まれ)が北京101中学で勉学していたときのクラスメート。
胡錦濤時代から中共中央財経領導小組弁公室の副主任をしていて(2003年~2013年3月)、習近平政権になってから主任(2013年3月)になっただけで、そう飛び級的な出世をしているわけではない。
しかし、幼馴染みということがあり、経済領域を裏でコントロールしていると言われている。
かつてハーバード大学で公共管理修士取得。
4.何毅亭(か・きてい)(1952年生まれ):
中共中央委員会委員、中共中央党校常務副校長。
校長の劉雲山に睨みを利かしている。
5.丁薛祥(てい・せつしょう)(1962年生まれ):
中共中央弁公庁常務副主任、総書記弁公室主任。
2006年に上海市書記だった陳良宇が胡錦濤政権により逮捕投獄されたあと、2007年に習近平が上海市書記になったのだが、そのときに組織部部長だった丁薛祥は、陳良宇支持者が多い中国共産党上海市委員会の中で窮地に立たされている習近平を支え、上海市の政権を安定させた(このときの窮地に関しては『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』で詳述した)。
そのため習近平の覚えめでたく、出世して中央にいる。
6.李書磊(り・しょらい)(1964年生まれ):
中国共産党北京市委員会常務委員、北京市紀律検査委員会書記。
14歳で北京大学に入学した神童。
習近平の政治秘書。
7.鐘紹軍(しょう・しょうぐん)(生年月日不詳 ):
中共中央軍事委員会弁公室主任。
中国のネットには、彼に関するいかなる情報もない。
皆無だ。
すべて削除されている。
いつから削除され始めたのか、うっかりダウンロードしていなかったので定かでない。
従って彼に関しては、たとえばアメリカにある複数の中文情報などに一部準拠して書くことにする。
中国のネット空間で情報が「ゼロ」というのは異常事態で、「何かある」としか考えられないので、少し詳細に書くことをお許し願いたい。
鐘紹軍は習近平が浙江省に移動したときに中国共産党浙江省委員会組織部の副組織部長をしていた。
このとき習近平は鐘紹軍を気に入って、2007年に上海市の書記になった時にも彼を連れて行き、中国共産党上海市委員会弁公庁副主任という職位を彼に与え、自分の最も身近な「秘書」として常にそばに置いていた。
2007年秋に習近平がチャイナ・ナイン(胡錦濤時代の中共中央政治局常務委員9人)入りして北京の中南海に行くと、鐘紹軍もまた北京に行き中共中央弁公庁調研室政治組組長になる。
習近平政権になってから、中共中央軍事員会弁公庁副主任になり、2015年に中共中央軍事員会弁公室主任になっている。
香港の雑誌『前哨』(2015年9月号)によれば、腐敗問題ですでに死刑判決を受けている元中国人民解放軍后勤部副部長・谷俊山を告発したのは劉源ということになっているが、実はその背後には鐘紹軍がおり、彼が劉源に証拠を渡したのだという(筆者が2012年に著した『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』では、筆者も劉源と書いた)。
胡錦濤政権から習近平政権に移る直前に、郭伯雄および徐才厚という二人の中央軍事委員会副主席は下野しているが、このときすでに、
「2012年財政年度の軍事費6700億元の半分以上は軍幹部腐敗分子のポケットに入っている」
ことを突き止めたのも鐘紹軍で、習近平の腐敗撲滅運動と軍事大改革に陰で大いに貢献していたことになる。
反腐敗運動で表面に出てくるのは中央紀律検査委員会書記としての王岐山だが、
影では鐘紹軍が動いていたということになろうか。
◆劉鶴に「席を譲った」とされる王滬寧
あまりに鐘紹軍のことが興味深く、つい前置きが長くなってしまい、申し訳ない。
本来言いたかったのは、劉鶴に「席を譲った」とされる王滬寧の話だ。
今年4月3日に書いた本コラムの記事「ワシントン米中首脳会談、中国での報道」の冒頭にある写真を見て頂きたい。
左側の米側は、一列に並んで座っている。
右側の中国側は、この写真ではよく見えないが、やや2列に並んで座っている形になっている。
中国側の座り方が見える写真があるので、これをクリックしてみていただきたい。
王滬寧が第二列目にいるように見える。
一番右の端にメガネをかけている男性が王滬寧だ。
このときの会議室はものすごく狭くて、左右の間に隙間がなく、人数も多いので真っ直ぐに横一列に並ぶと、自分の列の端の人の顔は見えない。
関係者の周辺から直接聞いた話によれば、このとき習近平は会議開始前の雑談の中でオバマに言おうとしたあるデータに関して数値が思い出せず、劉鶴に聞いたという。
劉鶴は一番奥に座っていたので、間に人が多すぎて声が遠い。
すると、習近平のすぐ隣に座っていた王滬寧が咄嗟に椅子を後ろに引き、劉鶴と習近平の間を縮めようとした。
それを見た国務委員の楊潔チ(よう・けっち)もあわてて自分の椅子を後ろに引き、習近平が劉鶴に聞きやすいようにしてあげたという。
その結果、王滬寧と楊潔チが第二列にいるような形になってしまったとのことだ。
ところが、この座席の位置に根拠を置いて、「王滬寧が第二線に退いた」として、次期チャイナ・セブン(習近平政権における中共中央政治局常務委委員7人)の座席を占う分析が現れ始めた。
2017年に開催される第19回党大会で、習近平と李克強の2人を除いた5人のチャイナ・セブンが停年で退き、新しい5人が入ってくるが、その中に劉鶴が入るかもしれないという予測を、この「座席」を根拠に論議しているのである。
王滬寧が第一線から退いて、上記3の劉鶴にその「席」を譲るのではないかと分析しているのだ。
劉鶴は、中共中央政治局委員は言うに及ばず、中共中央委員でさえ、まだなったばかり。
2012年の第18回党大会で、初めて平の共産党員から中央委員に選ばれた。
しかも中共中央財経領導小組の弁公室の主任でしかない。
小組の方には権威があるが、弁公室というのは、その小組の事務局に過ぎない。
弁公室には決定権などないのに、劉鶴のことを最高決定機関の主任と書いている日本の報道があるのを知って驚いた。
筆者はかつて中国政府の国務院西部開発領導小組の弁公室の一部局の人材開発顧問に就いていたことがあるが、弁公室(事務局)と小組では雲泥の差。
弁公室は「小組で決まった事務を遂行する」だけの事務組織にすぎないのである。
習近平はもちろん劉鶴を重んじているが、劉鶴の身分から言えば、来年の第19回党大会でせいぜい入って中共中央政治局委員といったところだろう。
王滬寧ならいざ知らず、劉鶴がチャイナ・セブンに入る可能性は非常に低い。
もっとも、王滬寧がチャイナ・セブン入りして空いたポストに、後継者として劉鶴が(中共中央政治局委員として)滑り込むという構図は十分に考えられる。
中央テレビ局CCTVでは出席者の名前をいつも通り「習近平、王滬寧、栗戦書、楊潔チ……」の順番で読み上げていた。
◆「帝王師」として別格の王滬寧
そもそも「帝王師」というのは、本来隠れているものだ。
王滬寧は復旦大学時代(1978年~95年)に数多くの論文を発表した。
中でも趙紫陽の政治体制改革に関する論文が多く、「趙紫陽の政治辞典」とまで称された。
95年になると江沢民に目をつけられて中央政策研究室政治組の組長になり、「三つの代表」論の論理的根拠を執筆。
胡錦濤政権になっても中央政策研究室主任(2002年~2012年)、中央書記処主任(2007年~2012年)などを歴任し、胡錦濤の「科学的発展観」の原稿も執筆している。
しかし習近平がまだ国家副主席だったときに、王滬寧は習近平に対して
「あなたは何もわかってない! 不用意に喋らないでくれ!」
と面と向かって怒鳴ったことがある(詳細は『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』)。
激怒した習近平は「辞めてやる!」と言って周りを困らせたが、ことほどさように、王滬寧には出世欲がない。
政治的野心は皆無だ。
まさに「帝王師」の極意を地で行く、本物のブレーンなのである。
習近平は王滬寧の頭の良さと論理性の高さに屈服し、結局、最高ブレーンとして位置づけている。
「中華民族の偉大なる復興」や「中国の夢」という政権スローガンを練り出してあげたのも王滬寧だ。
習近平政権の中心軸を成している。
◆習近平と王滬寧の仲
今年の全人代が開催された人民大会堂の会場を出るときに、王岐山が習近平の肩を後ろからつついただけで、「衆人環視」の中で「肩をつつけるような仲」あるいは「習近平をしのぐ大物」などとして日本では大騒動していた情報があったが、少々見当違いだろう。
そのようなことはよくある風景。
習近平と王滬寧の衆人環視の前での談笑をご覧いただきたい。
これは2014年3月5日から開催された全人代第二回全体会議(3月9日)退場の際の風景だ。
習近平を先頭として退場するので、王滬寧がかなり後ろから追いかけて習近平を呼び止め振り返らせたものと思われる。
王滬寧はまだ背広のボタンをはめ終わってないのがわかる。
これを見て王滬寧が習近平をしのぐ大物などと言えるだろうか?
「帝王師」の基本ルールに従えば、「目立たないこと」が最優先される。
その意味での真のブレーンは、あるいは習近平が完全に隠させた7番目の鐘紹軍なのかもしれない。
彼こそが「皇帝の黒幕」なのか……。
(チャイナ・セブンの次期メンバーに関しては、まだ1年以上もあるので、じっくり時間をかけて楽しみながら分析していきたい。)
』
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ロイター 2016年 04月 26日 16:33 JST
http://jp.reuters.com/article/china-pr-idJPKCN0XN0ND?sp=true
アングル:イメージ向上狙う中国、海外代理店をオーディション
[北京/上海 21日 ロイター] -
西側諸国とより効果的なコミュニケーションを図ろうとする中国当局が海外広告大手5社に対して新たなキャンペーンについてオーディションを行っていたことが分かった。
関係者4人が明らかにした。
西側の大手広告会社による競争は、海外の中国企業がますます厳しい監視の目にさらされ、中国国内では反対派が弾圧され、南シナ海の領有権をめぐり国際緊張が高まる状況のなかで起こった。
中国政府の対外宣伝部門である国務院新聞弁公室(SCIO)は、ヒル・アンド・ノウルトン、ケッチャム、オグルヴィ・パブリック・リレーションズのプレゼンテーションを受けたことが、上記関係者と、ロイターが確認した企業間の通信記録でによって明らかになった。
フライシュマン・ヒラードとエデルマンもオーディション審査に参加した、と1人の関係者が明らかにした。
プレゼンテーションは予備的なもので、契約には至っていない。
関係筋は、中国国内のPR企業もプレゼンテーションに参加したかどうかは定かではないという。
中国が国際統治システムにおいてより大きな役割を果たすことを望む習近平・国家主席は、2012年11月の就任以来、中国の「ソフトパワー」を打ち出し、中国のメッセージを世界によりよく伝えようと国を先導してきた。
■<「不公正に取り扱われている」>
プレゼンテーションを行ったPR会社の幹部は、中国の指導者層は西側諸国とより効果的にコミュニケーションを取る必要性を理解していると話した。
「彼らは外国メディアに不公正に取り扱われていると感じている」
と同幹部は語る。
プレゼンテーションについて問われれたSCIO広報担当者は、同グループは中国への理解を深めてもらうために、外国メディアや調査機関、PR会社との接触を維持していると述べた。
ヒル・アンド・ノウルトンの親会社のWPPの広報担当者は、コメントしなかった。
ケッチャムもコメントを拒否。
フライシュマン・ヒラード、オグルヴィ、エデルマンは質問に対して回答しなかった。
★.内部メールや関係者によると、SCIOはPR会社に対し、それぞれ個別の会合で、
最も急を要する中国のイメージ問題についての提案やや、新しい形態のメディア運営についての見解を求めた
という。
自国のイメージアップのため、西側のPR会社に中国政府が頼ってきたのはこれが初めてではない。
例えば、チベット暴動に対する中国当局の対応をめぐって国際的な非難が強まるなか、2008年夏に開催された北京五輪のプロモーションのため、中国政府はヒル・アンド・ノウルトンを雇っている。
その年、聖火リレーは世界中で抗議運動の妨害を受けた。
米企業のウェーバー・シャンドウィックも、2008年の北京五輪期間中は中国のアドバイザーを務めた。
■<審査の対象に>
こうした広告キャンペーンの提案は、中国の指導者層が内外で極めて重要な局面に直面している時期と重なっている。
国営企業を中心とする中国企業は、海外で買収攻勢をかけており、しばしば、対米外国投資委員会(CFIUS)による厳しい審査に直面している。
CFIUSは、外国企業による買収が国家安全保障に与える影響について審査する機関だ。
中国は、特に外国為替において金融市場と透明性の高い対話を図っていないと国際的に批判されてきた。
李克強首相は、市場とのコミュニケーションを向上するための取り組みを行っていると語っている。
現在検討中のPRキャンペーンは、中国政府が国内メディアや言論に対する統制を高めるタイミングとも重なっている。
中国に駐在する米国、ドイツ、カナダ、日本の各大使は1月、中国の新たな反テロ法、サイバーセキュリティー法案、及び幅広い検閲を含む海外非政府組織(NGO)管理法案に懸念を表明する書簡に署名している。
2月のSCIOでのプレゼンテーションにおいて、中国当局者は、以前の海外PR会社との会合時よりも、興味を持ったように見えたと同会合をよく知る幹部は語ったが、詳細は明らかにしなかった。
(記者:Engen Tham、Matthew Miller、翻訳:高橋浩祐、編集:下郡美紀)
』
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朝日新聞デジタル 4月29日(金)0時23分配信
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20160429-00000004-asahi-int
香港の軍事評論家、日本に移住へ 「身の安全」理由に
香港で軍事専門誌を発行してきた著名な軍事評論家、平可夫氏が「身の安全」を理由に、5月に日本へ移住することを決めた。
雑誌の発行は続ける予定だが、中国当局の関与が指摘されている書店関係者の失踪事件を受け、香港での活動継続は危険性が高いと判断した。
平氏は中国雲南省出身だが、カナダ国籍で、香港の永住権も持っていた。
日本への留学経験もあり、中国語のほか、日英ロシア語にも堪能で、幅広い人脈を生かして、雑誌「漢和防務評論」で、中国軍の動向や腐敗問題などを論じてきた。
失踪事件では、中国共産党に批判的な本を出版していた書店親会社の株主がタイや香港から中国本土に強制的に連行された疑いが指摘されている。
香港は「一国二制度」の下で、言論の自由が保障されていると考えられてきたが、平氏は「カナダ国籍があっても身の安全は守れないと感じた。香港はもう二制度ではない」と話している。
』
『
ダイヤモンドオンライン 2016年5月10日 加藤嘉一
http://diamond.jp/articles/-/90501
中国共産党が“内部造反者”を過剰に懸念する理由
■全国党校工作会議で発表された
習近平談話から透ける意図
「国内外のあらゆる敵対勢力は、しばしば我々の体制や価値観を変えようと企んでいる。
我々の姓や名前を改めようと企んでいる。
それらが悪質なのは、我々にマルクス主義・社会主義・共産主義に対する信仰を放棄させようと企んでいる点にある。
党内における一部同志を含め、一部の人間はこれらの企みに隠されている陰謀に気づいていない。
数百年の歴史を経てきた西側の“普遍的価値”になぜ寄り添ってはいけないのか?
西側の一部政治的制度・要素をなぜ参考にしてはならないのか?
受け入れたとしてもそれほど大きな損失はないではないか?
なぜそこまで頑なになるのか?
このように考える。
一部の人間は西側の理論や制度を信奉し、それらこそが金科玉条だと見なし、知らぬ間に西側資本主義というイデオロギーの宣伝者と化しているのだ」
極めて強い表現に読めるこのセンテンス。
2015年12月11日、習近平共産党総書記(以下敬称略)が全国党校工作会議で発表した談話(以下「習近平談話」)の中の一節である。
前回同会議が開かれた2008年当時、習近平は中央党校の校長を歴任していた(2007年~2012年)。
現在は劉雲山・中央書記処書記が務めているが、約8700万人いる共産党員の幹部を育成し、マルクス主義や毛沢東思想に立脚した理論・イデオロギーの研究機関でもある党校(全国に3000以上、研究者や事務員の数は約10万)のトップは、政治局常務委員が兼任することが慣例になっている事実からも、党校という機関・システムが中国共産党の政治にとっていかに重要であるかが理解できる。
「党校事業は党の事業にとっての重要な構成部分である。
党校は我が党のリーダーや幹部を育成するための主なチャネルである」(習近平談話)
昨年末という時期、全国党校工作会議という内部の場面で発表された習近平談話だが、世に問われたのは今月(2016年5月)に入ってからであった。
国家指導者、党・政府機関の分野責任者、業界を代表する知識人などが党の戦略・イデオロギー・政策などを宣伝・主張する際に使うことが多い共産党中央機関刊行物『求是』に掲載された。
このタイムラグは何を意味しているのか。
それほど過去の話ではないとはいえ、約5ヵ月前の談話である。
それをこのタイミングで持ち出し、かつ『求是』という共産党中央にとって核心的に重要な刊行物に掲載する意図はどこにあったのか。
習近平談話が党校というベールに包まれた空間における内部談話であったことを考えれば、一定の時間が経過してから公開するという予定がそもそも組まれていた可能性は否定できない。
一方で、この時期における“電撃公開”(筆者注:2016年5月初旬には中国共産党中央にとって特別に重要な政治会議や政治的に重要な記念日・イベントが組まれていたわけではなかった)は、党中央、特に習近平(およびその側近)の昨今の政治情勢に対する懸念と警戒を露呈しているようにも映る。
■中国共産党の“現状”に対する懸念と警戒を読み解く
中国民主化研究という本連載のテーマからすれば、注目すべきは言うまでもなく後者の側面である。
以下、習近平談話をレビューしつつ、中国共産党の“現状”に対する懸念と警戒の一面を掘り起こしてみたいと思う。
何を懸念し、警戒しているのか。
まずはその対象を明らかにしていきたい。
対象の大小という視点から、「警戒」について議論していくことにする。
冒頭で引用した習近平談話の一節を振り返れば明らかであるが、共産党体制内部、特に一部幹部の間でマルクス主義・社会主義・共産主義に対する信仰や忠誠が薄れ、その前後の過程において、西側の制度や価値観に“洗脳”されている現象が発生していること。
これが警戒の対象であると解読できる。
習近平は談話のなかで、以下のような指摘もしている。
「私がかつて言ったように、
中国が中国共産党によって統治されるようになったのは、
中国・中国人民・中華民族にとっての幸いごとである。
中国の近代史・現代史・革命史を深く学べば容易に分かるように、中国共産党が領導していなければ、我々の国家・民族が今日のような成功を収めることはあり得なかったし、現在のような国際的地位を築くことも考えられなかった。
党の領導を堅持するという重大な原則的問題において、我々は明確な意識を持ち、目を研ぎ澄ませ、断固とした立場を取らなければならない
。いかなる曖昧や動揺もあってはならないのだ」
習近平談話のキーワードは「党校姓党」であった。
直訳すれば「党校の姓は党である」、意訳すれば
「党校は共産党が政治的に正しいと主張するイデオロギーを持たなければならない」
となるだろう。
このテーマで行った談話の内容をこのタイミングで公開した事実から、
習近平をはじめとした共産党指導部が体制内部から“造反者”が出ることをかつてないほどに警戒している
と判断できる。
党校だけではない。
メディアでも同じことが起きている。
今年2月19日、習近平は劉雲山(元中央宣伝部長)を引き連れて、党のマウスピースと呼ばれる新華社・人民日報・中央電子台(CCTV)を視察し、報道・世論工作座談会を主催した。
その場で習近平は
「党の報道・世論工作は党にとって1つの重要な仕事であり、治国理政、国の安泰に関わる一大事業である。
国内外の情勢の発展に適応し、党の工作の全局から出発し自らの立場をわきまえ、党の領導、正しい政治的方向性、人民を中心に据えた工作のベクトルを堅持しなければならない」
と指摘した上で、次の“決まり文句”を発した。
「党と政府が主催するメディアは党と政府の宣伝拠点であり、
その姓は党でなければならない」
党校での談話とまったく同じ論調である。
「姓は党」が意味するところを明示すべく、習近平は次のように補足している。
「党の報道・世論に関わるメディアの仕事はすべて党の意思を体現し、党の主張を反映し、党中央の権威と党の団結を守らなければならない。
党を愛し、党を守り、党のために働かなければならないのである」
党校と党メディア。
前者は中共式イデオロギーの育成拠点であり、後者はそれの宣伝拠点である。
私がこれまで交流してきた共産党の関係者、特に日本との戦争や国共内戦、そして中華人民共和国の成立を実体験として目撃してきた“老一輩”たちは、往々にして、
中国共産党の一党支配にとって最も重要な3つの要素は
「軍隊」
「宣伝」
「人事」
である
と主張する。
そして、この3つが動揺し不安定になれば、「この国はあっという間に崩壊してしまうのだ」(中央政治局委員を歴任した長老)。
この観点からすれば、党校と党メディアはまさに「宣伝」と「人事」に直接的に関わる分野である。
中国人民解放軍が中国共産党の軍隊であるという中国の内実に考えを及ぼせば、党校という場所は解放軍を共産党の傘下に置いておくための重要な手段であるとも解釈できる
(筆者注:中央軍事委員会主席と副主席はいずれも中央政治局委員を兼任するという“人事”にも、党が軍の上にかぶさっている実情が如実に反映されている)。
「宣伝」を担当する党メディアが依拠するイデオロギーを作成している一大拠点が党校であるという点にも目を配れば、本稿が描く舞台である党校という場所は、「軍隊」「宣伝」「人事」という3大要素すべてに絡んできたという解釈が可能であろう。
だからこそ、習近平は党校の建設に頑なにこだわるのであり、そこから西側の価値観に“洗脳”される“造反者”が出ることをかつてないほどに警戒しているのだと言える。
■党校の教室で党の方針に背く見解を語ることは「許されない」
次に「懸念」の対象を議論していきたい。
「個人の見解は往々にして探索的であり、それが正しいかどうかは実践を通じて検証されなければならない。
個人的見解を内部で研究することは可能であるし、一定のチャネルを通じて上層部に反映することもできる。
しかし、党校の授業の場で主張したり、社会で発表することには慎重であるべきだ。
語り手にその気がなくても、聞き手は色々な解釈をする。
党校の人間が語ったのであれば、人々は比較的正統な観点であると判断し、容易に信じてしまう。
下心のある人間は、党校の人間が語ったことを口実に、党校のなかにも党中央に対して色々言う人間が出てきた、
共産党内部にも異なる考え方が出てきた、とまくし立てるだろう。
党校にこのような言論が出ることの殺戮性は大きく、軽視できない」
習近平は談話のなかでこのように語ると同時に、党の理論や方針に背く見解を語ることは、党校の教室や公共の場、パブリック、プライベートな場を含めて、「許されない」と結論づけている。
私が知る限り、共産党指導部はこれまでもこの手のプリンシプルで党の建設を進めてきた。
しかし、習近平という最高指導者が上記のような論調で、党校会議の場で赤裸々に警戒心を露わにし、かつそれを全ての人間が閲覧できる“公の場”で発表したという事実は、まさに党指導部の現状、およびこれから発生し得る事態に対する懸念を示している。
「懸念」の対象は、党校という共産党にとって核心的に重要なイデオロギー拠点が温床となり、共産党の立場や原則とは異なる、場合によってはそれらに背く価値観や考え方が世論一般・社会全体に蔓延してしまう事態だと判断できるだろう。
「党校の一部学者は西側資本主義の価値観を授業で語ったり、社会の不当な活動に参加したりしている。
一部の人間に限られていると思うが、影響はとても悪い。
このような問題が党校で起きることがあってはならない」(習近平)。
本稿の最後に、中国民主化研究という立場から、今回の習近平談話によって、中国共産党が将来的に西側の政治体制や価値観に理解や関心を示す可能性がますます低くなっているばかりか、それらに対する抵抗感・嫌悪感を一層強めていることが見て取れる次の一節をレビューしておきたい。
「冷戦が終わって以来、西側の価値観や観念が浸透していくなかで、一部国家は見るにも見苦しい状態へと陥っている。
戦火が飛び交い、社会は分裂し、混乱している。
イラク、シリア、リビアなどの国家はその典型だ!
西側資本主義の価値体系から我が国の実践や発展を評価し、西側の基準に符合すれば正しく、そうでなければ古く、遅れていて、批判・攻撃すべきだなどと言うようであれば、その後遺症は計り知れない!」
このセンテンスから、中国共産党指導部は、西側の制度や価値観を取り入れれば、イラク・シリア・リビアといった国家を引き合いに出し、「西側のロジックに乗れば、明日は我が身だ」という意識を抱いていることが容易に見て取れる。
中国共産党の指導者が“西側”という言葉を使用する際に最も直接的に意識するのは往々にして米国であるが、米国へのライバル心・対抗心という観点からも、中国が西側の制度や価値観に理解や関心を示す可能性は、今後継続的に低下していくというのが私の見立てである。
■党校を拠点とした対外的発信の背景に“西側”へのライバル心も
その意味で、次のセンテンスは中国がイデオロギーという観点からも“西側”に対するライバル心を抱いている現状が解読できる。
「遅れれば叩かれる。
貧しければ飢える。
言葉を持たなければ罵られる。
長期にわたって、我が党は、人民を率いる過程で“叩かれること”“飢えること”“罵られること”という3大問題を解決すべく奮闘してきた。
数世代の努力によって、前の2つは基本的な解決を見ている。
しかし、“罵られること”という問題はいまだ根本的な解決を見ていない。
国際的な発言権を獲得することは、我々が何としても解決しなければならない問題だ」
習近平は、国際的な発言権を持ち、広めていくための一大拠点として党校を掲げている。
党校を拠点とした対外的発信を一大課題に据えている。
「歴史を終わらせるわけにはいかない。
最期まで闘うのだ」
習近平談話を読みながら、中南海がそんな雄叫びを上げているように聴こえた。
』
『
ダイヤモンドオンライン 2016年5月12日 陳言 [在北京ジャーナリスト]
http://diamond.jp/articles/-/90976
中国の公務員にサボり、
無責任、非効率が横行する訳
■言い訳がネット上で炎上
能率が悪いことは、中国の行政機関の重要な特徴の一つであり、官僚のサボタージュなどは、常に目に余る。
たとえば、今年の4月7日、『北京晩報』は国家商標局が7ヵ月間で一度も商標登録証を発行していないため、多くの企業がビジネスチャンスを失い、重大な損失を被っていると報じた。
この事態の原因について商標局職員が寄せた回答が、ネット上で失笑や怒りを買っている。
なんと
「商標登録証用の用紙がずっと届かない!」
というものだったからだ。
しばらくして、商標局の管理部門である国家工商総局は声明を出し、購買手続きの煩雑さや部門間の連携不足などが原因で、商標登録証発行の遅延が生じていることを認めた。
そして、現在は商標登録証用の用紙がすでに供給され、3月28日からは時間外勤務による印刷発行を開始しており、5月末までに滞っていた前期分の商標登録証をすべての申請者に発行する見込みだと続けた。
商標局の用紙切れは去年8月からだが、今年1月になってようやく商標局は用紙サプライヤーの入札募集を行った。
この4ヵ月以上にわたる空白期間について、政府からは何の説明もない。
そして、1月末に北京印刷集団有限公司が用紙供給業務を落札した。
工商総局が初めに掲載した入札募集の告知によると、契約締結後、北京印刷集団は30日以内に初回20万枚の商標登録証を納品し、45日以内に2回目、60日以内に3回目、75日以内に最後の納品をそれぞれ行うことになっていた。
つまり、遅くとも2月末には初回の商標登録証が納品されているはずであり、4月中旬までに全4回分の納品が完了していなければならない。
しかし商標局の話によると、3月末にようやく用紙が納品されたとのことだ。
いくら購買手続きの煩雑さや部門間の連携不足といった問題があったにせよ、これほどまでに極端な能率の悪さには驚かざるを得ない。
今回発生した大規模なミス以外に、商標局の能率に関する問題は常に深刻であり、「申請処理の遅延や手続きの難航」で名が通っている。
エージェントに料金を支払って、煩雑な手続きの代行を依頼したとしても、予定通りに商標登録証を受け取れるとは限らない。
以前、ある外資企業が商標登録を出願したところ、10年たっても審査や異議申し立ての手続きが進まないばかりか、商標出願の継続手続きが行われていないため失効したとの通知を受けたそうだ。
■人民の満足度は常に軽視
このような商標局の極端な能率の悪さに対抗するための策として、エージェントは「未登録に関して継続的に注意の喚起」を促すという余計な仕事に力を入れざるを得ない。
そして、登録証が発行されないにもかかわらず、すでに10年も待っている顧客に対して出願継続費用を速やかに支払うように通知しなければならない。
彼らはこの継続費用のことを「延命金」と呼んでいる。
商標出願の成功は保証できないが、少なくとも一縷の望みは残される。
中国政府機関の能率の悪さは国内だけでなく、
世界中でも広く知られている。
米「タイム」誌に以前掲載された
「単なる噂に過ぎない中国式の能率」
という記事で、中国政府は大型かつ多数の政策決定において、飛び抜けた能率の良さを示しているが、政策実行の面においては官僚主義が蔓延していると指摘されている。
際限なく待たされる各種許可証や証明書の発行、奇妙で漠然とした規約制度、何かと突然改訂される手続きの流れ……小さな企業でさえも誰か専任者を指名して、政府部門との交渉に専念させざるを得なくなっている。
世界銀行の『世界ガバナンス指標(WGI)』では、中国政府の能率は1996年以降ずっと世界ランキングの中位を上下しており、2014年になって突然大きな進歩が見られたが、それでも212ヵ国中140位だった。
中国の政府部門による財政支出の規模と人員面での複雑さは他の国々を上回っているが、行政の職務遂行能力においては他の国々よりも大きく後れをとっていると明らかにしている。
公共サービスを提供している唯一の非市場機関として、政府は実質的に独占的な地位を占めている。
そして他に取って代わられることもないため、当然ながら競争の圧力にさらされることはない。
それゆえ、能率を向上させるために必要な原動力を持ち合わせていないのだ。
中国の政府部門にはこの傾向がとりわけ顕著に表れている。
中国政府が果たすより重要な役割は、
国家の安定と発展を維持することであり、
人民の幸福な生活ではないこと
は誰もが知っている。
中国政府の役人に対する業績審査の体制にこの点が明らかに見られる。
経済発展は最も核心的な評価指標であり、時代に最大限順応するに当たり、環境保護やエネルギー消費、社会の治安、公的教育といった議題は常に取り上げられるが、人民の満足度は常に最も軽視されている。
■公務員の昇進制度の構造的不備
役人の業績審査基準以外に、一般公務員の昇進制度も政府部門の長期的な能率悪化の原因となっている。
1993年に設けられた公務員制度は今年で23年目を迎える。
しかし、その制度における昇進の内情は誰もが知っている。
『公務員法』によると、中国の公務員の昇進には二つの面がある。
それは職務上の昇進と職階上の昇進だ。
前者は権力や地位の上昇を、
後者は給料や待遇の向上を意味する。
とはいえ、職務上の昇進は職階上の昇進と関係があり、公務員が昇給を願うのならば、まず出世しなければならない。
しかしながら、中国の公務員のうち、60%以上は県・郷級の末端部署に在籍しており、郷級から県級幹部に昇進できる公務員は全体のわずか4.4%で、県級から庁級に昇進する者はわずか1%だ。
深刻なまでに人員数がポスト数を上回っている。
そのため、昇進や昇給が望めない末端部署の公務員は、職務上の怠慢に陥りやすい。
2015年11月に発表された『県級以下の機関向けに設けられる公務員の職務および職階の並行制度に関する意見』で、公務員の職務上の昇進と職階上の昇進を分離することが決定され、これにより職階の低い末端職員も自らの努力によって相応の給料を得ることができるようになる。
ただ、この制度の本格的な実施には多くの困難が待ち受けている。
仮に実施されたとしても権力が発言権を左右する政府の体系において、高給取りだが職階が低い者はより多くの現実的な問題を抱えることだろう。
仮にすべてが順調であったとしても、公務員の審査内容自体に不備がある以上、高給取りの政府職員でさえ、実務の能率向上に力を注ぐことができるとは限らない。
公務員の審査内容において、職場での業績と個人的な業務成果は何ら関係がなく、個人的な利益と公共サービスの質もあまり関連性がない。
異なる部門、異なる業種、異なる職位で働く職員たちはみな、異なる審査体系の下で評価されるが、その基準は多くの場合「徳、能、勤、績、廉」の五つの分野に分かれている。
徳とは品行やモラルのことで、上司を尊重し、全体に目を配ることが含まれる。
能とは技能を学び、各業務の水準を向上させることだ。
勤とは勤勉に働くことを指す。
績とは業務上の成果のことであり、
最後の廉は、廉潔で己を律すること
だ。
これらの審査基準が各公務員の出世の行方を大きく左右するとはいえ、実際に昇進するかどうかは上層部の手に委ねられている。
そのため公務員にとって能率の重要性はいっそう低くなる。
こうした審査制度によって形作られる公務員のイメージは、堅実で頭の固い行政執行者だ。
彼らにとって大切なのは、上司の指示に逐一従って任務を完了させることだけであり、
問題を解決に導いて成果を残すことなど必要ない
のだ。
仮に問題が発生したとしても彼らにとって必要なのは黙って上司に聞き従い、現場の流れに合わせることであり、後で何の責任も問われることはない。
最終的には「手続きの難航」「連携不足」などの漠然とした理由を掲げて逃げ道を設けることができるのだ。
■誰も責任を問わない、負わない
各人が能率に関して責められる心配がない反面、誰も他人の責任を追及しようとしない。
何十年も前の計画経済の体制下で、
「無制限の政府」
「全能の政府」
の管理方式が形成され、政府が規則を制定し、実施し、監督している。
政府がすべてを取り仕切っているが、政府を監督し、権力のチェック・アンド・バランスを図る者がいない。
それゆえ政府は自由に経済および社会生活に介入することができる。
こうした状態が現在まで続いた結果、
政府機関は巨大化し、
社会化の水準は低く、
人員過剰に陥っている。
「全能の政府」において、
役人たちはほとんどコスト意識やサービス意識を持っておらず、
彼らは何の疑いも持たず業績を追求することによってコストの増加を招いており、
改良や改善を行う能力を持ち合わせていない。
そうして能率の悪い業務が常態化し、それを止めようとする者もいないのだ。
商標局による今回の対応はまさに、彼らの責任感とサービス意識が無きに等しいことを浮き彫りにすると共に、これほどまでに深刻な職務上の怠慢が放置されていることをも示している。
民衆が苦情を申し立てる場がなく、メディアによって取り上げられて注目を浴びるまで待つしかないのだ。
また社会全体で物議を醸したり、叱責を受けたりしても、誰も責任を取ろうとせず、被害を受けた人への賠償を行おうともしない。
そして、型通りの謝罪を行ってから本来行うべき業務に着手するといった調子だ。
2009年に共産党中央が公布した『党政治指導幹部の問責に関する暫定規定』には、
行政活動における職権乱用や違法行為、国家の利益や人民の生命や財産に悪影響を及ぼす職務上の怠慢などが発覚した場合は、
党政治指導幹部の責任を問わねばならないと定められている。
しかし、規定と実行は別問題だ。
今日に至るまで、商標局内は依然として平穏なままであり、責任者が現れて謝罪したり、責任を取って誰かが辞任したり、また誰かが責任に問われたりすることもなく、いつもの日常が続いている。
』
『
JB Press 2016.5.18(水) 瀬口 清之
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/46853
中国有識者層に募る習近平主席への不信感
政治状況の不透明性に対する懸念が広がる
■1.習近平政権の政治基盤の安定性に変化の兆し
4月下旬に北京と上海に出張した。
目的は定例の中国経済情勢に関する現地での情報収集である。
習近平政権が掲げる「新常態」の方針の下、的確なマクロ経済政策運営と積極的な構造改革の組み合わせによって、
経済の安定が保持されており、安心して見ていられる状況である。
この点については、今回の出張中に面談した政府内および民間の経済専門家の全員がほぼ一致した見方をしていた。
しかし、その面談相手と話しているうちに、
「経済は安定しているが、最近政治情勢が不透明になってきていて心配だ」
との懸念を耳にすることが少なからずあった。
これまで習近平政権が行ってきた政策について、政治面では反腐敗キャンペーンの断行が国民的支持を得ている。
経済面でも雇用と物価の安定を確保し続け、過剰設備の削減や過剰不動産在庫の処理への取り組みも一定の成果を上げるなど、こちらも高い評価を得てきた。
最近は政治リスクの高い軍組織の抜本的改革まで実現し、着々と政策の結果を積みげてきている。
こうした政策面の大きな成果もあって、多くの国民から「習おじさん」(中国語では「習大大」、シーターターと発音)と親しみを込めた愛称で呼ばれるなど、政権基盤も安定度を増していた。
ただし、有識者の間では、学者やメディアに対してイデオロギーや政府批判に関わる活動の取り締まりがますます強化されてきていることに対する疑念がしばしば指摘されていた。
それでも昨年までは習近平政権の政治的な安定性が強まる傾向が続いていたように感じられていた。
しかし、今回の出張中およびその後に耳にした習近平政権に対する評価は、そうした従来の政権基盤の安定性の増大傾向に変化の兆しを感じさせるものだった。
■2.いくつかの懸念される出来事
具体的には以下のような出来事がそうした変化の兆しを感じさせた。
第1に、2月7日の夜(中国の春節<旧正月>の大晦日の夜)に放送された中国版紅白歌合戦(春節聯歓晩会、略称「春晩」)の中で、習近平主席を中心に共産党指導層全員の映像が流されたことである。
内容的には習近平主席をプレイアップするものであったため、党が禁止している個人崇拝の事例に当たるのではないかとの懸念が指摘されている。
第2に、3月初旬にネット上の公開の場に出された習近平主席に対する辞任要求である。
この文章は、新疆ウィグル自治区、有名経済誌の「財経」を傘下にもつ財訊集団およびアリババが3社共同で設立した「無界新聞」のニュースサイトに掲載された。
その内容は、習近平主席への権力集中、周辺国に対する非融和的な外交政策、過剰設備の削減に伴う失業の増大などに対する批判である。
中国の有識者の目から見て、この内容は一般の記者が書いたものではなく、党指導層に近い人物が習近平政権の政策運営を批判するために誰かに書かせたものであるように見える由。
第3に、李克強総理の政策実行力に対する評価がますます低下してきていることだ。
政府内部の幹部級の間でも、国有企業改革推進の遅れや昨年来の株式市場の混乱を収拾し解決することができなかったことなど、政策運営能力の不足を指摘する声がある。
メディア関係者からの情報によれば、1月末の政治局常務会議の席上で、
李克強総理が辞任を申し出たと聞く。
これは本気で辞任を考えたのではなく、習近平主席が李克強総理を尊重しようとしない姿勢を示していることに対する反発を表すための意思表示と見られている。
しかし、李克強総理が歴代の総理に比べて存在感の薄い総理であるとの評価はすでに幅広く定着した見方であるように見受けられる。
これに関連して、日本のメディア関係者の間では、全人代において李克強総理が政府活動報告を終えた際に、習近平主席が慣例となっている握手を交わさず、目を合わせることすらなかったことを2人の間の関係悪化ととらえる見方が一般的である。
しかし、中国人の間ではこのことを重くとらえる見方は多くないように感じられた。
第4に、5月初旬に人民大会堂で、毛沢東元主席を称賛する革命歌(中国語で「紅歌」)のコンサートが開かれ、「56フラワーズ」(中国語名「五十六朵花」=56輪の花)という日本のAKB48に似た女性アイドルグループが出演した。
彼女らは習近平主席を讃える歌も披露したことから、これが党内で個人崇拝を想起させると批判された。
しかし、その批判に対する批判も出され、党内で意見対立が表面化している模様である。
■3.政治状況不透明化の背景
以上の出来事に見られる新たな懸念材料を整理すれば、
第1に、習近平主席に対する個人崇拝懸念とそれを巡る党内の意見対立の表面化、
第2に、党内おける習近平政権の政策運営批判、
第3に、習近平主席と李克強総理の間の信頼関係の低下
である。
このうち、第1と第2は密接に絡み合っていると考えられる。
第1の点を批判するのは一般庶民ではなく、主に有識者層である。
一方、第2の点についても、習近平政権の政策運営に不満を抱いているのは、同じく有識者層である。
有識者層の習近平政権に対する不満の火種は数多く存在している。
具体的には、反腐敗キャンペーンによって給与水準、福利厚生水準、社会的ステータスなどが大幅に悪化した公務員および国有企業関係者の根深い不満がある。
それに加えて、構造改革の推進によって税収が減らされる地方政府、当局の監視が強まる金融機関、当局による情報統制が強まるメディア、当局の規制により学術研究の制約を受ける学者などである。
こうした人々は習近平政権による政策運営によって様々な不利益を被っており、強い不満を募らせている。
彼らが習近平主席自身の問題点として個人崇拝容認の懸念を指摘し、抵抗姿勢を強めようとしていると見るのが自然ではないだろうか。
第3の点は、前の2つとは異質であるあるが、
習近平政権の今後の政策運営において1つの不安材料である。
今年は第13次5か年計画の初年度であるほか、過剰設備の削減という構造改革を推進するうえでも非常に重要な局面を迎えている。
しかも来年の秋には第19回党大会が開催され、通常であれば習近平主席の後継者が明らかにされるため、党内人事政策上も重大な時期である。
こうした時期に政治状況の不透明化が見られているのは、先行きの政策運営の安定にとって大きな不安材料である。
中国政権基盤の安定および中国経済の安定持続は日本をはじめ、アジア諸国にとっても重大な関心事である。
上記の変化の兆しが政権基盤の不安定化につながることなく、今後も安定的な政策運営が保持されるかどうか、しばらく政治から目が離せない状況が続きそうである。
』
Yahoo ニュース 2016年4月25日 7時0分配信 遠藤誉 | 東京福祉大学国際交流センター長、筑波大学名誉教授、理学博士
http://bylines.news.yahoo.co.jp/endohomare/20160425-00056974/
習近平のブレーンは誰だ?
――7人の「影軍団」から読み解く
習近平には7人の影のブレーンがいる。
中でも突出しているのは王滬寧(おうこねい)だ。
江沢民、胡錦濤と三代続けてブレーンを担ってきた。
その王滬寧が、会議室の狭さから座席に関して劉鶴(りゅうかく)に便宜を図ったことが、あらぬ流言飛語となり物議をかもしている。
真相は?
(以下、敬称はすべて省略する。)
◆習近平の「影軍団」――7人の「帝王師」たち
習近平には中共中央政策研究室主任の王滬寧というブレーンがいることは、中共中央で知らない者はいない。
しかし、実はそれ以外にも、王滬寧を含めた「7人の影軍団」(7人のブレーン)がいることを知っている者は、そう多くはない。
中国の巷では「影軍団」のことを「帝王師(ていおうし)」とささやく者もいる。
「帝王師」とは「皇帝の老師(ろうし)」のことだ。
皇帝を創りあげるための賢者で、控え目で目立たず、信頼のできる「切れ者」であることが要求される。
これは中国古来からの習わしと言っていいだろう。
では以下に7人の「習近平の帝王師たち」の名前を書いてみよう。
1.王滬寧(おう・こねい)(1955年生まれ):
中共中央政治局委員、中共中央政策研究室主任。
江沢民政権の「三つの代表」、胡錦濤政権の「科学的発展観」の起草者。
習近平の最高ブレーン。
総設計師的役割をしている。
2.栗戦書(りつ・せんしょ)(1950年生まれ):
中共中央政治局委員、中共中央弁公庁主任、中共中央書記処書記。
2012年9月、まだ胡錦濤時代だったときに令計画の失脚にともない昇格。
3. 劉鶴(りゅう・かく)(1952年生まれ):
中共中央委員(政治局委員ではない)。中共中央財経領導小組弁公室主任、国家発展改革委員会副主任。
習近平(1953年生まれ)が北京101中学で勉学していたときのクラスメート。
胡錦濤時代から中共中央財経領導小組弁公室の副主任をしていて(2003年~2013年3月)、習近平政権になってから主任(2013年3月)になっただけで、そう飛び級的な出世をしているわけではない。
しかし、幼馴染みということがあり、経済領域を裏でコントロールしていると言われている。
かつてハーバード大学で公共管理修士取得。
4.何毅亭(か・きてい)(1952年生まれ):
中共中央委員会委員、中共中央党校常務副校長。
校長の劉雲山に睨みを利かしている。
5.丁薛祥(てい・せつしょう)(1962年生まれ):
中共中央弁公庁常務副主任、総書記弁公室主任。
2006年に上海市書記だった陳良宇が胡錦濤政権により逮捕投獄されたあと、2007年に習近平が上海市書記になったのだが、そのときに組織部部長だった丁薛祥は、陳良宇支持者が多い中国共産党上海市委員会の中で窮地に立たされている習近平を支え、上海市の政権を安定させた(このときの窮地に関しては『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』で詳述した)。
そのため習近平の覚えめでたく、出世して中央にいる。
6.李書磊(り・しょらい)(1964年生まれ):
中国共産党北京市委員会常務委員、北京市紀律検査委員会書記。
14歳で北京大学に入学した神童。
習近平の政治秘書。
7.鐘紹軍(しょう・しょうぐん)(生年月日不詳 ):
中共中央軍事委員会弁公室主任。
中国のネットには、彼に関するいかなる情報もない。
皆無だ。
すべて削除されている。
いつから削除され始めたのか、うっかりダウンロードしていなかったので定かでない。
従って彼に関しては、たとえばアメリカにある複数の中文情報などに一部準拠して書くことにする。
中国のネット空間で情報が「ゼロ」というのは異常事態で、「何かある」としか考えられないので、少し詳細に書くことをお許し願いたい。
鐘紹軍は習近平が浙江省に移動したときに中国共産党浙江省委員会組織部の副組織部長をしていた。
このとき習近平は鐘紹軍を気に入って、2007年に上海市の書記になった時にも彼を連れて行き、中国共産党上海市委員会弁公庁副主任という職位を彼に与え、自分の最も身近な「秘書」として常にそばに置いていた。
2007年秋に習近平がチャイナ・ナイン(胡錦濤時代の中共中央政治局常務委員9人)入りして北京の中南海に行くと、鐘紹軍もまた北京に行き中共中央弁公庁調研室政治組組長になる。
習近平政権になってから、中共中央軍事員会弁公庁副主任になり、2015年に中共中央軍事員会弁公室主任になっている。
香港の雑誌『前哨』(2015年9月号)によれば、腐敗問題ですでに死刑判決を受けている元中国人民解放軍后勤部副部長・谷俊山を告発したのは劉源ということになっているが、実はその背後には鐘紹軍がおり、彼が劉源に証拠を渡したのだという(筆者が2012年に著した『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』では、筆者も劉源と書いた)。
胡錦濤政権から習近平政権に移る直前に、郭伯雄および徐才厚という二人の中央軍事委員会副主席は下野しているが、このときすでに、
「2012年財政年度の軍事費6700億元の半分以上は軍幹部腐敗分子のポケットに入っている」
ことを突き止めたのも鐘紹軍で、習近平の腐敗撲滅運動と軍事大改革に陰で大いに貢献していたことになる。
反腐敗運動で表面に出てくるのは中央紀律検査委員会書記としての王岐山だが、
影では鐘紹軍が動いていたということになろうか。
◆劉鶴に「席を譲った」とされる王滬寧
あまりに鐘紹軍のことが興味深く、つい前置きが長くなってしまい、申し訳ない。
本来言いたかったのは、劉鶴に「席を譲った」とされる王滬寧の話だ。
今年4月3日に書いた本コラムの記事「ワシントン米中首脳会談、中国での報道」の冒頭にある写真を見て頂きたい。
左側の米側は、一列に並んで座っている。
右側の中国側は、この写真ではよく見えないが、やや2列に並んで座っている形になっている。
中国側の座り方が見える写真があるので、これをクリックしてみていただきたい。
王滬寧が第二列目にいるように見える。
一番右の端にメガネをかけている男性が王滬寧だ。
このときの会議室はものすごく狭くて、左右の間に隙間がなく、人数も多いので真っ直ぐに横一列に並ぶと、自分の列の端の人の顔は見えない。
関係者の周辺から直接聞いた話によれば、このとき習近平は会議開始前の雑談の中でオバマに言おうとしたあるデータに関して数値が思い出せず、劉鶴に聞いたという。
劉鶴は一番奥に座っていたので、間に人が多すぎて声が遠い。
すると、習近平のすぐ隣に座っていた王滬寧が咄嗟に椅子を後ろに引き、劉鶴と習近平の間を縮めようとした。
それを見た国務委員の楊潔チ(よう・けっち)もあわてて自分の椅子を後ろに引き、習近平が劉鶴に聞きやすいようにしてあげたという。
その結果、王滬寧と楊潔チが第二列にいるような形になってしまったとのことだ。
ところが、この座席の位置に根拠を置いて、「王滬寧が第二線に退いた」として、次期チャイナ・セブン(習近平政権における中共中央政治局常務委委員7人)の座席を占う分析が現れ始めた。
2017年に開催される第19回党大会で、習近平と李克強の2人を除いた5人のチャイナ・セブンが停年で退き、新しい5人が入ってくるが、その中に劉鶴が入るかもしれないという予測を、この「座席」を根拠に論議しているのである。
王滬寧が第一線から退いて、上記3の劉鶴にその「席」を譲るのではないかと分析しているのだ。
劉鶴は、中共中央政治局委員は言うに及ばず、中共中央委員でさえ、まだなったばかり。
2012年の第18回党大会で、初めて平の共産党員から中央委員に選ばれた。
しかも中共中央財経領導小組の弁公室の主任でしかない。
小組の方には権威があるが、弁公室というのは、その小組の事務局に過ぎない。
弁公室には決定権などないのに、劉鶴のことを最高決定機関の主任と書いている日本の報道があるのを知って驚いた。
筆者はかつて中国政府の国務院西部開発領導小組の弁公室の一部局の人材開発顧問に就いていたことがあるが、弁公室(事務局)と小組では雲泥の差。
弁公室は「小組で決まった事務を遂行する」だけの事務組織にすぎないのである。
習近平はもちろん劉鶴を重んじているが、劉鶴の身分から言えば、来年の第19回党大会でせいぜい入って中共中央政治局委員といったところだろう。
王滬寧ならいざ知らず、劉鶴がチャイナ・セブンに入る可能性は非常に低い。
もっとも、王滬寧がチャイナ・セブン入りして空いたポストに、後継者として劉鶴が(中共中央政治局委員として)滑り込むという構図は十分に考えられる。
中央テレビ局CCTVでは出席者の名前をいつも通り「習近平、王滬寧、栗戦書、楊潔チ……」の順番で読み上げていた。
◆「帝王師」として別格の王滬寧
そもそも「帝王師」というのは、本来隠れているものだ。
王滬寧は復旦大学時代(1978年~95年)に数多くの論文を発表した。
中でも趙紫陽の政治体制改革に関する論文が多く、「趙紫陽の政治辞典」とまで称された。
95年になると江沢民に目をつけられて中央政策研究室政治組の組長になり、「三つの代表」論の論理的根拠を執筆。
胡錦濤政権になっても中央政策研究室主任(2002年~2012年)、中央書記処主任(2007年~2012年)などを歴任し、胡錦濤の「科学的発展観」の原稿も執筆している。
しかし習近平がまだ国家副主席だったときに、王滬寧は習近平に対して
「あなたは何もわかってない! 不用意に喋らないでくれ!」
と面と向かって怒鳴ったことがある(詳細は『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』)。
激怒した習近平は「辞めてやる!」と言って周りを困らせたが、ことほどさように、王滬寧には出世欲がない。
政治的野心は皆無だ。
まさに「帝王師」の極意を地で行く、本物のブレーンなのである。
習近平は王滬寧の頭の良さと論理性の高さに屈服し、結局、最高ブレーンとして位置づけている。
「中華民族の偉大なる復興」や「中国の夢」という政権スローガンを練り出してあげたのも王滬寧だ。
習近平政権の中心軸を成している。
◆習近平と王滬寧の仲
今年の全人代が開催された人民大会堂の会場を出るときに、王岐山が習近平の肩を後ろからつついただけで、「衆人環視」の中で「肩をつつけるような仲」あるいは「習近平をしのぐ大物」などとして日本では大騒動していた情報があったが、少々見当違いだろう。
そのようなことはよくある風景。
習近平と王滬寧の衆人環視の前での談笑をご覧いただきたい。
これは2014年3月5日から開催された全人代第二回全体会議(3月9日)退場の際の風景だ。
習近平を先頭として退場するので、王滬寧がかなり後ろから追いかけて習近平を呼び止め振り返らせたものと思われる。
王滬寧はまだ背広のボタンをはめ終わってないのがわかる。
これを見て王滬寧が習近平をしのぐ大物などと言えるだろうか?
「帝王師」の基本ルールに従えば、「目立たないこと」が最優先される。
その意味での真のブレーンは、あるいは習近平が完全に隠させた7番目の鐘紹軍なのかもしれない。
彼こそが「皇帝の黒幕」なのか……。
(チャイナ・セブンの次期メンバーに関しては、まだ1年以上もあるので、じっくり時間をかけて楽しみながら分析していきたい。)
』
『
ロイター 2016年 04月 26日 16:33 JST
http://jp.reuters.com/article/china-pr-idJPKCN0XN0ND?sp=true
アングル:イメージ向上狙う中国、海外代理店をオーディション
[北京/上海 21日 ロイター] -
西側諸国とより効果的なコミュニケーションを図ろうとする中国当局が海外広告大手5社に対して新たなキャンペーンについてオーディションを行っていたことが分かった。
関係者4人が明らかにした。
西側の大手広告会社による競争は、海外の中国企業がますます厳しい監視の目にさらされ、中国国内では反対派が弾圧され、南シナ海の領有権をめぐり国際緊張が高まる状況のなかで起こった。
中国政府の対外宣伝部門である国務院新聞弁公室(SCIO)は、ヒル・アンド・ノウルトン、ケッチャム、オグルヴィ・パブリック・リレーションズのプレゼンテーションを受けたことが、上記関係者と、ロイターが確認した企業間の通信記録でによって明らかになった。
フライシュマン・ヒラードとエデルマンもオーディション審査に参加した、と1人の関係者が明らかにした。
プレゼンテーションは予備的なもので、契約には至っていない。
関係筋は、中国国内のPR企業もプレゼンテーションに参加したかどうかは定かではないという。
中国が国際統治システムにおいてより大きな役割を果たすことを望む習近平・国家主席は、2012年11月の就任以来、中国の「ソフトパワー」を打ち出し、中国のメッセージを世界によりよく伝えようと国を先導してきた。
■<「不公正に取り扱われている」>
プレゼンテーションを行ったPR会社の幹部は、中国の指導者層は西側諸国とより効果的にコミュニケーションを取る必要性を理解していると話した。
「彼らは外国メディアに不公正に取り扱われていると感じている」
と同幹部は語る。
プレゼンテーションについて問われれたSCIO広報担当者は、同グループは中国への理解を深めてもらうために、外国メディアや調査機関、PR会社との接触を維持していると述べた。
ヒル・アンド・ノウルトンの親会社のWPPの広報担当者は、コメントしなかった。
ケッチャムもコメントを拒否。
フライシュマン・ヒラード、オグルヴィ、エデルマンは質問に対して回答しなかった。
★.内部メールや関係者によると、SCIOはPR会社に対し、それぞれ個別の会合で、
最も急を要する中国のイメージ問題についての提案やや、新しい形態のメディア運営についての見解を求めた
という。
自国のイメージアップのため、西側のPR会社に中国政府が頼ってきたのはこれが初めてではない。
例えば、チベット暴動に対する中国当局の対応をめぐって国際的な非難が強まるなか、2008年夏に開催された北京五輪のプロモーションのため、中国政府はヒル・アンド・ノウルトンを雇っている。
その年、聖火リレーは世界中で抗議運動の妨害を受けた。
米企業のウェーバー・シャンドウィックも、2008年の北京五輪期間中は中国のアドバイザーを務めた。
■<審査の対象に>
こうした広告キャンペーンの提案は、中国の指導者層が内外で極めて重要な局面に直面している時期と重なっている。
国営企業を中心とする中国企業は、海外で買収攻勢をかけており、しばしば、対米外国投資委員会(CFIUS)による厳しい審査に直面している。
CFIUSは、外国企業による買収が国家安全保障に与える影響について審査する機関だ。
中国は、特に外国為替において金融市場と透明性の高い対話を図っていないと国際的に批判されてきた。
李克強首相は、市場とのコミュニケーションを向上するための取り組みを行っていると語っている。
現在検討中のPRキャンペーンは、中国政府が国内メディアや言論に対する統制を高めるタイミングとも重なっている。
中国に駐在する米国、ドイツ、カナダ、日本の各大使は1月、中国の新たな反テロ法、サイバーセキュリティー法案、及び幅広い検閲を含む海外非政府組織(NGO)管理法案に懸念を表明する書簡に署名している。
2月のSCIOでのプレゼンテーションにおいて、中国当局者は、以前の海外PR会社との会合時よりも、興味を持ったように見えたと同会合をよく知る幹部は語ったが、詳細は明らかにしなかった。
(記者:Engen Tham、Matthew Miller、翻訳:高橋浩祐、編集:下郡美紀)
』
『
朝日新聞デジタル 4月29日(金)0時23分配信
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20160429-00000004-asahi-int
香港の軍事評論家、日本に移住へ 「身の安全」理由に
香港で軍事専門誌を発行してきた著名な軍事評論家、平可夫氏が「身の安全」を理由に、5月に日本へ移住することを決めた。
雑誌の発行は続ける予定だが、中国当局の関与が指摘されている書店関係者の失踪事件を受け、香港での活動継続は危険性が高いと判断した。
平氏は中国雲南省出身だが、カナダ国籍で、香港の永住権も持っていた。
日本への留学経験もあり、中国語のほか、日英ロシア語にも堪能で、幅広い人脈を生かして、雑誌「漢和防務評論」で、中国軍の動向や腐敗問題などを論じてきた。
失踪事件では、中国共産党に批判的な本を出版していた書店親会社の株主がタイや香港から中国本土に強制的に連行された疑いが指摘されている。
香港は「一国二制度」の下で、言論の自由が保障されていると考えられてきたが、平氏は「カナダ国籍があっても身の安全は守れないと感じた。香港はもう二制度ではない」と話している。
』
『
ダイヤモンドオンライン 2016年5月10日 加藤嘉一
http://diamond.jp/articles/-/90501
中国共産党が“内部造反者”を過剰に懸念する理由
■全国党校工作会議で発表された
習近平談話から透ける意図
「国内外のあらゆる敵対勢力は、しばしば我々の体制や価値観を変えようと企んでいる。
我々の姓や名前を改めようと企んでいる。
それらが悪質なのは、我々にマルクス主義・社会主義・共産主義に対する信仰を放棄させようと企んでいる点にある。
党内における一部同志を含め、一部の人間はこれらの企みに隠されている陰謀に気づいていない。
数百年の歴史を経てきた西側の“普遍的価値”になぜ寄り添ってはいけないのか?
西側の一部政治的制度・要素をなぜ参考にしてはならないのか?
受け入れたとしてもそれほど大きな損失はないではないか?
なぜそこまで頑なになるのか?
このように考える。
一部の人間は西側の理論や制度を信奉し、それらこそが金科玉条だと見なし、知らぬ間に西側資本主義というイデオロギーの宣伝者と化しているのだ」
極めて強い表現に読めるこのセンテンス。
2015年12月11日、習近平共産党総書記(以下敬称略)が全国党校工作会議で発表した談話(以下「習近平談話」)の中の一節である。
前回同会議が開かれた2008年当時、習近平は中央党校の校長を歴任していた(2007年~2012年)。
現在は劉雲山・中央書記処書記が務めているが、約8700万人いる共産党員の幹部を育成し、マルクス主義や毛沢東思想に立脚した理論・イデオロギーの研究機関でもある党校(全国に3000以上、研究者や事務員の数は約10万)のトップは、政治局常務委員が兼任することが慣例になっている事実からも、党校という機関・システムが中国共産党の政治にとっていかに重要であるかが理解できる。
「党校事業は党の事業にとっての重要な構成部分である。
党校は我が党のリーダーや幹部を育成するための主なチャネルである」(習近平談話)
昨年末という時期、全国党校工作会議という内部の場面で発表された習近平談話だが、世に問われたのは今月(2016年5月)に入ってからであった。
国家指導者、党・政府機関の分野責任者、業界を代表する知識人などが党の戦略・イデオロギー・政策などを宣伝・主張する際に使うことが多い共産党中央機関刊行物『求是』に掲載された。
このタイムラグは何を意味しているのか。
それほど過去の話ではないとはいえ、約5ヵ月前の談話である。
それをこのタイミングで持ち出し、かつ『求是』という共産党中央にとって核心的に重要な刊行物に掲載する意図はどこにあったのか。
習近平談話が党校というベールに包まれた空間における内部談話であったことを考えれば、一定の時間が経過してから公開するという予定がそもそも組まれていた可能性は否定できない。
一方で、この時期における“電撃公開”(筆者注:2016年5月初旬には中国共産党中央にとって特別に重要な政治会議や政治的に重要な記念日・イベントが組まれていたわけではなかった)は、党中央、特に習近平(およびその側近)の昨今の政治情勢に対する懸念と警戒を露呈しているようにも映る。
■中国共産党の“現状”に対する懸念と警戒を読み解く
中国民主化研究という本連載のテーマからすれば、注目すべきは言うまでもなく後者の側面である。
以下、習近平談話をレビューしつつ、中国共産党の“現状”に対する懸念と警戒の一面を掘り起こしてみたいと思う。
何を懸念し、警戒しているのか。
まずはその対象を明らかにしていきたい。
対象の大小という視点から、「警戒」について議論していくことにする。
冒頭で引用した習近平談話の一節を振り返れば明らかであるが、共産党体制内部、特に一部幹部の間でマルクス主義・社会主義・共産主義に対する信仰や忠誠が薄れ、その前後の過程において、西側の制度や価値観に“洗脳”されている現象が発生していること。
これが警戒の対象であると解読できる。
習近平は談話のなかで、以下のような指摘もしている。
「私がかつて言ったように、
中国が中国共産党によって統治されるようになったのは、
中国・中国人民・中華民族にとっての幸いごとである。
中国の近代史・現代史・革命史を深く学べば容易に分かるように、中国共産党が領導していなければ、我々の国家・民族が今日のような成功を収めることはあり得なかったし、現在のような国際的地位を築くことも考えられなかった。
党の領導を堅持するという重大な原則的問題において、我々は明確な意識を持ち、目を研ぎ澄ませ、断固とした立場を取らなければならない
。いかなる曖昧や動揺もあってはならないのだ」
習近平談話のキーワードは「党校姓党」であった。
直訳すれば「党校の姓は党である」、意訳すれば
「党校は共産党が政治的に正しいと主張するイデオロギーを持たなければならない」
となるだろう。
このテーマで行った談話の内容をこのタイミングで公開した事実から、
習近平をはじめとした共産党指導部が体制内部から“造反者”が出ることをかつてないほどに警戒している
と判断できる。
党校だけではない。
メディアでも同じことが起きている。
今年2月19日、習近平は劉雲山(元中央宣伝部長)を引き連れて、党のマウスピースと呼ばれる新華社・人民日報・中央電子台(CCTV)を視察し、報道・世論工作座談会を主催した。
その場で習近平は
「党の報道・世論工作は党にとって1つの重要な仕事であり、治国理政、国の安泰に関わる一大事業である。
国内外の情勢の発展に適応し、党の工作の全局から出発し自らの立場をわきまえ、党の領導、正しい政治的方向性、人民を中心に据えた工作のベクトルを堅持しなければならない」
と指摘した上で、次の“決まり文句”を発した。
「党と政府が主催するメディアは党と政府の宣伝拠点であり、
その姓は党でなければならない」
党校での談話とまったく同じ論調である。
「姓は党」が意味するところを明示すべく、習近平は次のように補足している。
「党の報道・世論に関わるメディアの仕事はすべて党の意思を体現し、党の主張を反映し、党中央の権威と党の団結を守らなければならない。
党を愛し、党を守り、党のために働かなければならないのである」
党校と党メディア。
前者は中共式イデオロギーの育成拠点であり、後者はそれの宣伝拠点である。
私がこれまで交流してきた共産党の関係者、特に日本との戦争や国共内戦、そして中華人民共和国の成立を実体験として目撃してきた“老一輩”たちは、往々にして、
中国共産党の一党支配にとって最も重要な3つの要素は
「軍隊」
「宣伝」
「人事」
である
と主張する。
そして、この3つが動揺し不安定になれば、「この国はあっという間に崩壊してしまうのだ」(中央政治局委員を歴任した長老)。
この観点からすれば、党校と党メディアはまさに「宣伝」と「人事」に直接的に関わる分野である。
中国人民解放軍が中国共産党の軍隊であるという中国の内実に考えを及ぼせば、党校という場所は解放軍を共産党の傘下に置いておくための重要な手段であるとも解釈できる
(筆者注:中央軍事委員会主席と副主席はいずれも中央政治局委員を兼任するという“人事”にも、党が軍の上にかぶさっている実情が如実に反映されている)。
「宣伝」を担当する党メディアが依拠するイデオロギーを作成している一大拠点が党校であるという点にも目を配れば、本稿が描く舞台である党校という場所は、「軍隊」「宣伝」「人事」という3大要素すべてに絡んできたという解釈が可能であろう。
だからこそ、習近平は党校の建設に頑なにこだわるのであり、そこから西側の価値観に“洗脳”される“造反者”が出ることをかつてないほどに警戒しているのだと言える。
■党校の教室で党の方針に背く見解を語ることは「許されない」
次に「懸念」の対象を議論していきたい。
「個人の見解は往々にして探索的であり、それが正しいかどうかは実践を通じて検証されなければならない。
個人的見解を内部で研究することは可能であるし、一定のチャネルを通じて上層部に反映することもできる。
しかし、党校の授業の場で主張したり、社会で発表することには慎重であるべきだ。
語り手にその気がなくても、聞き手は色々な解釈をする。
党校の人間が語ったのであれば、人々は比較的正統な観点であると判断し、容易に信じてしまう。
下心のある人間は、党校の人間が語ったことを口実に、党校のなかにも党中央に対して色々言う人間が出てきた、
共産党内部にも異なる考え方が出てきた、とまくし立てるだろう。
党校にこのような言論が出ることの殺戮性は大きく、軽視できない」
習近平は談話のなかでこのように語ると同時に、党の理論や方針に背く見解を語ることは、党校の教室や公共の場、パブリック、プライベートな場を含めて、「許されない」と結論づけている。
私が知る限り、共産党指導部はこれまでもこの手のプリンシプルで党の建設を進めてきた。
しかし、習近平という最高指導者が上記のような論調で、党校会議の場で赤裸々に警戒心を露わにし、かつそれを全ての人間が閲覧できる“公の場”で発表したという事実は、まさに党指導部の現状、およびこれから発生し得る事態に対する懸念を示している。
「懸念」の対象は、党校という共産党にとって核心的に重要なイデオロギー拠点が温床となり、共産党の立場や原則とは異なる、場合によってはそれらに背く価値観や考え方が世論一般・社会全体に蔓延してしまう事態だと判断できるだろう。
「党校の一部学者は西側資本主義の価値観を授業で語ったり、社会の不当な活動に参加したりしている。
一部の人間に限られていると思うが、影響はとても悪い。
このような問題が党校で起きることがあってはならない」(習近平)。
本稿の最後に、中国民主化研究という立場から、今回の習近平談話によって、中国共産党が将来的に西側の政治体制や価値観に理解や関心を示す可能性がますます低くなっているばかりか、それらに対する抵抗感・嫌悪感を一層強めていることが見て取れる次の一節をレビューしておきたい。
「冷戦が終わって以来、西側の価値観や観念が浸透していくなかで、一部国家は見るにも見苦しい状態へと陥っている。
戦火が飛び交い、社会は分裂し、混乱している。
イラク、シリア、リビアなどの国家はその典型だ!
西側資本主義の価値体系から我が国の実践や発展を評価し、西側の基準に符合すれば正しく、そうでなければ古く、遅れていて、批判・攻撃すべきだなどと言うようであれば、その後遺症は計り知れない!」
このセンテンスから、中国共産党指導部は、西側の制度や価値観を取り入れれば、イラク・シリア・リビアといった国家を引き合いに出し、「西側のロジックに乗れば、明日は我が身だ」という意識を抱いていることが容易に見て取れる。
中国共産党の指導者が“西側”という言葉を使用する際に最も直接的に意識するのは往々にして米国であるが、米国へのライバル心・対抗心という観点からも、中国が西側の制度や価値観に理解や関心を示す可能性は、今後継続的に低下していくというのが私の見立てである。
■党校を拠点とした対外的発信の背景に“西側”へのライバル心も
その意味で、次のセンテンスは中国がイデオロギーという観点からも“西側”に対するライバル心を抱いている現状が解読できる。
「遅れれば叩かれる。
貧しければ飢える。
言葉を持たなければ罵られる。
長期にわたって、我が党は、人民を率いる過程で“叩かれること”“飢えること”“罵られること”という3大問題を解決すべく奮闘してきた。
数世代の努力によって、前の2つは基本的な解決を見ている。
しかし、“罵られること”という問題はいまだ根本的な解決を見ていない。
国際的な発言権を獲得することは、我々が何としても解決しなければならない問題だ」
習近平は、国際的な発言権を持ち、広めていくための一大拠点として党校を掲げている。
党校を拠点とした対外的発信を一大課題に据えている。
「歴史を終わらせるわけにはいかない。
最期まで闘うのだ」
習近平談話を読みながら、中南海がそんな雄叫びを上げているように聴こえた。
』
『
ダイヤモンドオンライン 2016年5月12日 陳言 [在北京ジャーナリスト]
http://diamond.jp/articles/-/90976
中国の公務員にサボり、
無責任、非効率が横行する訳
■言い訳がネット上で炎上
能率が悪いことは、中国の行政機関の重要な特徴の一つであり、官僚のサボタージュなどは、常に目に余る。
たとえば、今年の4月7日、『北京晩報』は国家商標局が7ヵ月間で一度も商標登録証を発行していないため、多くの企業がビジネスチャンスを失い、重大な損失を被っていると報じた。
この事態の原因について商標局職員が寄せた回答が、ネット上で失笑や怒りを買っている。
なんと
「商標登録証用の用紙がずっと届かない!」
というものだったからだ。
しばらくして、商標局の管理部門である国家工商総局は声明を出し、購買手続きの煩雑さや部門間の連携不足などが原因で、商標登録証発行の遅延が生じていることを認めた。
そして、現在は商標登録証用の用紙がすでに供給され、3月28日からは時間外勤務による印刷発行を開始しており、5月末までに滞っていた前期分の商標登録証をすべての申請者に発行する見込みだと続けた。
商標局の用紙切れは去年8月からだが、今年1月になってようやく商標局は用紙サプライヤーの入札募集を行った。
この4ヵ月以上にわたる空白期間について、政府からは何の説明もない。
そして、1月末に北京印刷集団有限公司が用紙供給業務を落札した。
工商総局が初めに掲載した入札募集の告知によると、契約締結後、北京印刷集団は30日以内に初回20万枚の商標登録証を納品し、45日以内に2回目、60日以内に3回目、75日以内に最後の納品をそれぞれ行うことになっていた。
つまり、遅くとも2月末には初回の商標登録証が納品されているはずであり、4月中旬までに全4回分の納品が完了していなければならない。
しかし商標局の話によると、3月末にようやく用紙が納品されたとのことだ。
いくら購買手続きの煩雑さや部門間の連携不足といった問題があったにせよ、これほどまでに極端な能率の悪さには驚かざるを得ない。
今回発生した大規模なミス以外に、商標局の能率に関する問題は常に深刻であり、「申請処理の遅延や手続きの難航」で名が通っている。
エージェントに料金を支払って、煩雑な手続きの代行を依頼したとしても、予定通りに商標登録証を受け取れるとは限らない。
以前、ある外資企業が商標登録を出願したところ、10年たっても審査や異議申し立ての手続きが進まないばかりか、商標出願の継続手続きが行われていないため失効したとの通知を受けたそうだ。
■人民の満足度は常に軽視
このような商標局の極端な能率の悪さに対抗するための策として、エージェントは「未登録に関して継続的に注意の喚起」を促すという余計な仕事に力を入れざるを得ない。
そして、登録証が発行されないにもかかわらず、すでに10年も待っている顧客に対して出願継続費用を速やかに支払うように通知しなければならない。
彼らはこの継続費用のことを「延命金」と呼んでいる。
商標出願の成功は保証できないが、少なくとも一縷の望みは残される。
中国政府機関の能率の悪さは国内だけでなく、
世界中でも広く知られている。
米「タイム」誌に以前掲載された
「単なる噂に過ぎない中国式の能率」
という記事で、中国政府は大型かつ多数の政策決定において、飛び抜けた能率の良さを示しているが、政策実行の面においては官僚主義が蔓延していると指摘されている。
際限なく待たされる各種許可証や証明書の発行、奇妙で漠然とした規約制度、何かと突然改訂される手続きの流れ……小さな企業でさえも誰か専任者を指名して、政府部門との交渉に専念させざるを得なくなっている。
世界銀行の『世界ガバナンス指標(WGI)』では、中国政府の能率は1996年以降ずっと世界ランキングの中位を上下しており、2014年になって突然大きな進歩が見られたが、それでも212ヵ国中140位だった。
中国の政府部門による財政支出の規模と人員面での複雑さは他の国々を上回っているが、行政の職務遂行能力においては他の国々よりも大きく後れをとっていると明らかにしている。
公共サービスを提供している唯一の非市場機関として、政府は実質的に独占的な地位を占めている。
そして他に取って代わられることもないため、当然ながら競争の圧力にさらされることはない。
それゆえ、能率を向上させるために必要な原動力を持ち合わせていないのだ。
中国の政府部門にはこの傾向がとりわけ顕著に表れている。
中国政府が果たすより重要な役割は、
国家の安定と発展を維持することであり、
人民の幸福な生活ではないこと
は誰もが知っている。
中国政府の役人に対する業績審査の体制にこの点が明らかに見られる。
経済発展は最も核心的な評価指標であり、時代に最大限順応するに当たり、環境保護やエネルギー消費、社会の治安、公的教育といった議題は常に取り上げられるが、人民の満足度は常に最も軽視されている。
■公務員の昇進制度の構造的不備
役人の業績審査基準以外に、一般公務員の昇進制度も政府部門の長期的な能率悪化の原因となっている。
1993年に設けられた公務員制度は今年で23年目を迎える。
しかし、その制度における昇進の内情は誰もが知っている。
『公務員法』によると、中国の公務員の昇進には二つの面がある。
それは職務上の昇進と職階上の昇進だ。
前者は権力や地位の上昇を、
後者は給料や待遇の向上を意味する。
とはいえ、職務上の昇進は職階上の昇進と関係があり、公務員が昇給を願うのならば、まず出世しなければならない。
しかしながら、中国の公務員のうち、60%以上は県・郷級の末端部署に在籍しており、郷級から県級幹部に昇進できる公務員は全体のわずか4.4%で、県級から庁級に昇進する者はわずか1%だ。
深刻なまでに人員数がポスト数を上回っている。
そのため、昇進や昇給が望めない末端部署の公務員は、職務上の怠慢に陥りやすい。
2015年11月に発表された『県級以下の機関向けに設けられる公務員の職務および職階の並行制度に関する意見』で、公務員の職務上の昇進と職階上の昇進を分離することが決定され、これにより職階の低い末端職員も自らの努力によって相応の給料を得ることができるようになる。
ただ、この制度の本格的な実施には多くの困難が待ち受けている。
仮に実施されたとしても権力が発言権を左右する政府の体系において、高給取りだが職階が低い者はより多くの現実的な問題を抱えることだろう。
仮にすべてが順調であったとしても、公務員の審査内容自体に不備がある以上、高給取りの政府職員でさえ、実務の能率向上に力を注ぐことができるとは限らない。
公務員の審査内容において、職場での業績と個人的な業務成果は何ら関係がなく、個人的な利益と公共サービスの質もあまり関連性がない。
異なる部門、異なる業種、異なる職位で働く職員たちはみな、異なる審査体系の下で評価されるが、その基準は多くの場合「徳、能、勤、績、廉」の五つの分野に分かれている。
徳とは品行やモラルのことで、上司を尊重し、全体に目を配ることが含まれる。
能とは技能を学び、各業務の水準を向上させることだ。
勤とは勤勉に働くことを指す。
績とは業務上の成果のことであり、
最後の廉は、廉潔で己を律すること
だ。
これらの審査基準が各公務員の出世の行方を大きく左右するとはいえ、実際に昇進するかどうかは上層部の手に委ねられている。
そのため公務員にとって能率の重要性はいっそう低くなる。
こうした審査制度によって形作られる公務員のイメージは、堅実で頭の固い行政執行者だ。
彼らにとって大切なのは、上司の指示に逐一従って任務を完了させることだけであり、
問題を解決に導いて成果を残すことなど必要ない
のだ。
仮に問題が発生したとしても彼らにとって必要なのは黙って上司に聞き従い、現場の流れに合わせることであり、後で何の責任も問われることはない。
最終的には「手続きの難航」「連携不足」などの漠然とした理由を掲げて逃げ道を設けることができるのだ。
■誰も責任を問わない、負わない
各人が能率に関して責められる心配がない反面、誰も他人の責任を追及しようとしない。
何十年も前の計画経済の体制下で、
「無制限の政府」
「全能の政府」
の管理方式が形成され、政府が規則を制定し、実施し、監督している。
政府がすべてを取り仕切っているが、政府を監督し、権力のチェック・アンド・バランスを図る者がいない。
それゆえ政府は自由に経済および社会生活に介入することができる。
こうした状態が現在まで続いた結果、
政府機関は巨大化し、
社会化の水準は低く、
人員過剰に陥っている。
「全能の政府」において、
役人たちはほとんどコスト意識やサービス意識を持っておらず、
彼らは何の疑いも持たず業績を追求することによってコストの増加を招いており、
改良や改善を行う能力を持ち合わせていない。
そうして能率の悪い業務が常態化し、それを止めようとする者もいないのだ。
商標局による今回の対応はまさに、彼らの責任感とサービス意識が無きに等しいことを浮き彫りにすると共に、これほどまでに深刻な職務上の怠慢が放置されていることをも示している。
民衆が苦情を申し立てる場がなく、メディアによって取り上げられて注目を浴びるまで待つしかないのだ。
また社会全体で物議を醸したり、叱責を受けたりしても、誰も責任を取ろうとせず、被害を受けた人への賠償を行おうともしない。
そして、型通りの謝罪を行ってから本来行うべき業務に着手するといった調子だ。
2009年に共産党中央が公布した『党政治指導幹部の問責に関する暫定規定』には、
行政活動における職権乱用や違法行為、国家の利益や人民の生命や財産に悪影響を及ぼす職務上の怠慢などが発覚した場合は、
党政治指導幹部の責任を問わねばならないと定められている。
しかし、規定と実行は別問題だ。
今日に至るまで、商標局内は依然として平穏なままであり、責任者が現れて謝罪したり、責任を取って誰かが辞任したり、また誰かが責任に問われたりすることもなく、いつもの日常が続いている。
』
『
JB Press 2016.5.18(水) 瀬口 清之
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/46853
中国有識者層に募る習近平主席への不信感
政治状況の不透明性に対する懸念が広がる
■1.習近平政権の政治基盤の安定性に変化の兆し
4月下旬に北京と上海に出張した。
目的は定例の中国経済情勢に関する現地での情報収集である。
習近平政権が掲げる「新常態」の方針の下、的確なマクロ経済政策運営と積極的な構造改革の組み合わせによって、
経済の安定が保持されており、安心して見ていられる状況である。
この点については、今回の出張中に面談した政府内および民間の経済専門家の全員がほぼ一致した見方をしていた。
しかし、その面談相手と話しているうちに、
「経済は安定しているが、最近政治情勢が不透明になってきていて心配だ」
との懸念を耳にすることが少なからずあった。
これまで習近平政権が行ってきた政策について、政治面では反腐敗キャンペーンの断行が国民的支持を得ている。
経済面でも雇用と物価の安定を確保し続け、過剰設備の削減や過剰不動産在庫の処理への取り組みも一定の成果を上げるなど、こちらも高い評価を得てきた。
最近は政治リスクの高い軍組織の抜本的改革まで実現し、着々と政策の結果を積みげてきている。
こうした政策面の大きな成果もあって、多くの国民から「習おじさん」(中国語では「習大大」、シーターターと発音)と親しみを込めた愛称で呼ばれるなど、政権基盤も安定度を増していた。
ただし、有識者の間では、学者やメディアに対してイデオロギーや政府批判に関わる活動の取り締まりがますます強化されてきていることに対する疑念がしばしば指摘されていた。
それでも昨年までは習近平政権の政治的な安定性が強まる傾向が続いていたように感じられていた。
しかし、今回の出張中およびその後に耳にした習近平政権に対する評価は、そうした従来の政権基盤の安定性の増大傾向に変化の兆しを感じさせるものだった。
■2.いくつかの懸念される出来事
具体的には以下のような出来事がそうした変化の兆しを感じさせた。
第1に、2月7日の夜(中国の春節<旧正月>の大晦日の夜)に放送された中国版紅白歌合戦(春節聯歓晩会、略称「春晩」)の中で、習近平主席を中心に共産党指導層全員の映像が流されたことである。
内容的には習近平主席をプレイアップするものであったため、党が禁止している個人崇拝の事例に当たるのではないかとの懸念が指摘されている。
第2に、3月初旬にネット上の公開の場に出された習近平主席に対する辞任要求である。
この文章は、新疆ウィグル自治区、有名経済誌の「財経」を傘下にもつ財訊集団およびアリババが3社共同で設立した「無界新聞」のニュースサイトに掲載された。
その内容は、習近平主席への権力集中、周辺国に対する非融和的な外交政策、過剰設備の削減に伴う失業の増大などに対する批判である。
中国の有識者の目から見て、この内容は一般の記者が書いたものではなく、党指導層に近い人物が習近平政権の政策運営を批判するために誰かに書かせたものであるように見える由。
第3に、李克強総理の政策実行力に対する評価がますます低下してきていることだ。
政府内部の幹部級の間でも、国有企業改革推進の遅れや昨年来の株式市場の混乱を収拾し解決することができなかったことなど、政策運営能力の不足を指摘する声がある。
メディア関係者からの情報によれば、1月末の政治局常務会議の席上で、
李克強総理が辞任を申し出たと聞く。
これは本気で辞任を考えたのではなく、習近平主席が李克強総理を尊重しようとしない姿勢を示していることに対する反発を表すための意思表示と見られている。
しかし、李克強総理が歴代の総理に比べて存在感の薄い総理であるとの評価はすでに幅広く定着した見方であるように見受けられる。
これに関連して、日本のメディア関係者の間では、全人代において李克強総理が政府活動報告を終えた際に、習近平主席が慣例となっている握手を交わさず、目を合わせることすらなかったことを2人の間の関係悪化ととらえる見方が一般的である。
しかし、中国人の間ではこのことを重くとらえる見方は多くないように感じられた。
第4に、5月初旬に人民大会堂で、毛沢東元主席を称賛する革命歌(中国語で「紅歌」)のコンサートが開かれ、「56フラワーズ」(中国語名「五十六朵花」=56輪の花)という日本のAKB48に似た女性アイドルグループが出演した。
彼女らは習近平主席を讃える歌も披露したことから、これが党内で個人崇拝を想起させると批判された。
しかし、その批判に対する批判も出され、党内で意見対立が表面化している模様である。
■3.政治状況不透明化の背景
以上の出来事に見られる新たな懸念材料を整理すれば、
第1に、習近平主席に対する個人崇拝懸念とそれを巡る党内の意見対立の表面化、
第2に、党内おける習近平政権の政策運営批判、
第3に、習近平主席と李克強総理の間の信頼関係の低下
である。
このうち、第1と第2は密接に絡み合っていると考えられる。
第1の点を批判するのは一般庶民ではなく、主に有識者層である。
一方、第2の点についても、習近平政権の政策運営に不満を抱いているのは、同じく有識者層である。
有識者層の習近平政権に対する不満の火種は数多く存在している。
具体的には、反腐敗キャンペーンによって給与水準、福利厚生水準、社会的ステータスなどが大幅に悪化した公務員および国有企業関係者の根深い不満がある。
それに加えて、構造改革の推進によって税収が減らされる地方政府、当局の監視が強まる金融機関、当局による情報統制が強まるメディア、当局の規制により学術研究の制約を受ける学者などである。
こうした人々は習近平政権による政策運営によって様々な不利益を被っており、強い不満を募らせている。
彼らが習近平主席自身の問題点として個人崇拝容認の懸念を指摘し、抵抗姿勢を強めようとしていると見るのが自然ではないだろうか。
第3の点は、前の2つとは異質であるあるが、
習近平政権の今後の政策運営において1つの不安材料である。
今年は第13次5か年計画の初年度であるほか、過剰設備の削減という構造改革を推進するうえでも非常に重要な局面を迎えている。
しかも来年の秋には第19回党大会が開催され、通常であれば習近平主席の後継者が明らかにされるため、党内人事政策上も重大な時期である。
こうした時期に政治状況の不透明化が見られているのは、先行きの政策運営の安定にとって大きな不安材料である。
中国政権基盤の安定および中国経済の安定持続は日本をはじめ、アジア諸国にとっても重大な関心事である。
上記の変化の兆しが政権基盤の不安定化につながることなく、今後も安定的な政策運営が保持されるかどうか、しばらく政治から目が離せない状況が続きそうである。
』
【2016 異態の国家:明日への展望】
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