2016年3月2日水曜日

中国経済のハードランディングリスクが高まっている(2):中国は苦境ではなく成長を予感させる、「この国は基本的に何の問題もない」?

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レコードチャイナ 配信日時:2016年3月1日(火) 1時10分
http://www.recordchina.co.jp/a130039.html

中国は苦境ではなく成長を予感させる、
「この国は基本的に何の問題もない」―米メディア

 2016年2月27日、環球時報によると、米フォーブスは25日、
 「新年を迎えた中国は苦境ではなく成長を予感させている」
との記事を掲載した。
 多くの投資家が中国経済の減速とその世界経済に与える悪影響を懸念している。
 しかし記事は、市場の反応は過剰だとしている。

 JPモルガン・チェースのジェームズ・ダイモン会長が中国に対するさまざまな懸念は誤りだとしたことに記事は賛同。
 中国を訪れ、5万人の従業員を持つ華為(ファーウェイ)の工場を視察し、成長の兆しがここかしこに見られたと指摘した。

 韓国はすでに中国を労働コストの低い製造業拠点とは見ず、危険なライバルとして捉えている。
 中国企業は世界各地のライバル企業の買収を進め、ロボットなど技術分野への投資も行っている。
 国民総生産(GDP)成長率低下への対応は今後注目すべき点だが、「この国は基本的に何の問題もない」としている。

 2004年も申年だったが、当時の中国は「世界の工場」として各国との間で契約を集めた。
 その12年後の申年を迎えた
 中国は、新たに進むべき道を作り出す時期になっている。



ロイター 2016年 03月 1日 17:00 JST
http://jp.reuters.com/article/angle-china-manufacturing-dilemma-idJPKCN0W33M5?sp=true

アングル:「世界の工場」に淘汰の兆し、中国が抱えるジレンマ

[東莞市(中国) 29日 ロイター] -
 春節(旧正月)の長い休暇を終えて、中国製造業の中心地に戻ってきた多くの出稼ぎ労働者は、先の見えない将来に直面している。
 とりわけ小規模な工場が、受注低迷と在庫増加に苦しんでいるからだ。

 中国輸出の約4分の1を占め、「世界の工場」と称される広東省の珠江デルタ──。
 ここで働く労働者や経営者によれば、2週間に及ぶ春節休暇後の製造ラインの稼働ペースは、例年よりも緩やかだという。

 同省東莞市にある西城工業区では、壊れた機械が散在し廃墟となった工場がいくつか見られる。
 また、工業用地とされる区画も、村人たちが野菜を作るために使われたりしている。
 これらは中国製品に対する需要が弱まっている兆しであり、事業閉鎖を強いられたり賃金を圧迫している。

 「給料の良い工場を見つけるのが私たちの望み」と話すのは、1月に工場を解雇された18歳の女性。彼女は新たな仕事を求めて工場の門をたたく数多くの出稼ぎ労働者の1人だ。
 「でも気を付けなくては。
 多くの工場が食事や住む場所を提供していない。
 給料の支払いも遅れていたりする。
 だまされたくない」
と、この女性が話すと、一緒にいた友人4人はうなずいた。

 こうした女性らの苦境は、これまで成長の原動力となってきた低価格製品を生み出す製造業からの転換をはかりたいが、次の成長基盤を支えてくれるであろう消費者の職も必要という中国指導者のジレンマを体現している。
 また、産業が整理され労働者の福利も圧迫されるなか、労働運動家は混乱が起きるリスクを指摘する。

■<製造業の縮小>

 経済規模が一国のインドネシアよりも大きな広東省だが、その輸出の伸びは、政府による1月の報告書によれば、今年はわずか1%の見通しだという。
 輸出市場より国内需要に応える小さな工場が景気減速の打撃を最も受けているということは、
 中国の消費者が同国経済のリバランスで必要とされるほどには代わりを務めていないこと
を示すもう一つのシグナルだと、専門家は指摘する。

 金融市場の安定化に躍起となり、昨年に成長率が過去25年で最も弱い6.9%まで減速している中国の政策当局者にとって、これは悪いニュースだろう。
 時計工場を営む男性は、難民危機や英国の欧州連合(EU)離脱の可能性といった欧州情勢の不確かさが、欧州で消費マインドを一段と弱らせ、中国の工場にも影響を及ぼしかねないと語る。
 「一定数の工場は規模を縮小したり、移転したりといった何らかの変化を経験することになるだろう」
と、この男性は指摘。
 「市場動向に従うしかない。
 年央までに十分な受注がなければ、人員を削減しなければならないだろう。
 だが当面は、今の労働力を維持したい」

■<淘汰>

 珠江デルタで求人の簡易ブースや看板がほとんど当たり前な光景であることに変わりないが、向こう数カ月で労働市場はさらに引き締まるとみられている。
 「企業の淘汰(とうた)が予想される」
と、東莞市トップの徐建華・中国共産党東莞市委員会書記は最近の記者会見で語った。
 徐氏は、同市では昨年に外資系約500社を含む3万9000社が倒産したとする一方、同時期にそれを上回る数の新たな会社が登録されたと強調。
 向こう1年は「経済的な課題がますます複雑化する」と、徐氏は指付け加えた。

 一方、中国で米アップル(AAPL.O)の受託生産を行う台湾・鴻海(ホンハイ)精密工業(2317.TW)の子会社Foxlinkのような安定した収入源を持つ一部の大規模な工場では、見通しは明るいように見える。
 同子会社の採用担当者は、多くの工業区が行き詰まっているとしたうえで、
 「われわれの会社は新たな労働者を必要としている。
 今でも多くの受注がある」
と語る。

 東莞市にある工業区の一部の労働者の話からは、労働争議やストが起きる可能性の高まっていることがうかがえる。
 「給料を払ってもらえなかった何人かの友人が、政府は何も助けてくれなかったと言っているのを聞いた」
と、同市の自動車工場で働く労働者は休憩中にタバコを吸いながら、こう答えた。
 「政府は役立たずだ」

 中国の指導部にとって本当の課題は、そのような失われた製造業の「生態系」の末端に取って代わるため、彼らが奨励しようとしているバイオテクノロジーやロボット工学などの分野で新たな仕事を十分に創出できるかどうかだ。

 「一般的に、雇用状況は流動的だ。
 工場が閉鎖される一方で、新たな製造分野で機会は生まれているが、問題はこれらの仕事が持続可能かということだ」
と、労働者の権利を擁護する監視団体「中国労工通報」のジェフリー・クロソール氏は指摘する。
 「多くの新興企業が失敗しており、そうした企業が提供する仕事はたいてい賃金が低いか、まともな労働条件ではなかったりする」

(James Pomfret記者 翻訳:伊藤典子 編集:下郡美紀)



ロイター 2016年 02月 29日 18:01 JST
http://jp.reuters.com/article/china-economy-employment-idJPKCN0W208N

中国、石炭・鉄鋼部門で180万人レイオフへ

[北京 29日 ロイター] -
 中国の尹蔚民・人事社会保障相は29日、過剰生産能力の削減の一環として、石炭・鉄鋼セクターで180万人をレイオフすると表明した。
 同相は、生産能力削減に伴って一定のレイオフが今年実施されるが、雇用の安定推移を確信していると述べた。
 180万人のレイオフがいつ実行されるのかなど、時期的な詳細には触れなかった。

 同相によると、内訳は、石炭セクターが130万人、鉄鋼セクターが50万人。
 政府高官がレイオフの具体的な数字に言及したのは今回が初めて。
 同相は
 「経済は比較的大きな下振れ圧力に直面しており、一部の企業は、生産や操業が困難な状況になっている。
 これは不適当な雇用につながる」
と指摘。
 さらに、今年学校を卒業する人が増えていることも雇用市場を圧迫する、との認識を示した。



ロイター 2016年 03月 1日 17:29 JST
http://jp.reuters.com/article/china-job-cut-idJPKCN0W33FT

中国、「ゾンビ企業」で500万─600万人削減へ=関係筋

[北京 1日 ロイター] -
 中国は過剰生産能力と公害対策の一環として、今後2─3年間で「ゾンビ企業」の雇用を500万─600万人削減する。
 関係筋が明らかにした。
 ある関係筋は、余剰生産能力を抱える業種で500万人を削減するのは約20年ぶりの大規模な人員削減になると指摘した。
 別の関係筋は削減規模は600万人になるとの見方を示した。
 工業情報省のコメントは得られていない。

 中国の尹蔚民・人事社会保障相は29日、過剰生産能力の削減の一環として、石炭・鉄鋼セクターで180万人をレイオフすると明らかにした。
 中国は、セメントや造船など7業界の余剰生産能力を削減する方針だが、最初の関係筋によると、太陽光発電業界はまだ成長の可能性があるため、大規模の雇用削減は免れる可能性が高い。
 中央政府は既に、粗鋼生産や石炭生産を削減する方針を示している。
 また、向こう2年間の鉄鋼・石炭業界の人員削減に対応するため、1000億元(152億9000万ドル)の中央政府予算を充てている。

 ただ、2人目の関係筋は、こうした中央政府の取り組みは、地方政府の強い反対にあうとの見方を示した。



レコードチャイナ 配信日時:2016年3月2日(水) 3時40分
http://www.recordchina.co.jp/a130120.html

中国、石炭・鉄鋼部門で180万人をレイオフへ
=米国ネットでは失業対策基金について疑問の声も

  2016年2月29日、ロイター通信によると、中国は石炭・鉄鋼業界で計180万人をレイオフする見通しであることを明らかにした。

 中国人力資源・社会保障部の尹蔚民(イン・ウェイミン)部長は29日、過剰生産能力を削減するため、石炭セクターで130万人、鉄鋼セクターで50万人の計180万人をレイオフする見通しであると述べた。
 レイオフの時期については言及しなかった。
 中国政府は先週、失業対策基金として2年間で1000億元(約1兆7250億円)を準備すると表明している。
 中国の李克強(リー・カーチアン)首相は同日、ルー米財務長官と会談し、失業対策基金はおもに石炭・鉄鋼業界に充てる見通しであると述べた。

 この報道に、米国のネットユーザーからは、
 「1000億元とは巨額だが、中国は大きな国だから、これでどうなるか興味深いね」
 「リベラル派の人々は、ブッシュ元大統領を責めるんだろうね」
 「1000億元という基金のほとんどが労働者たちの手に渡らず、賄賂などに使われてしまうだろうということが最大の問題だ」
といったコメントが寄せられている。



ロイター 2016年 03月 3日 16:31 JST
http://jp.reuters.com/article/china-steel-xinjiang-idJPKCN0W50HJ?sp=true

アングル:新疆で製鉄所閉鎖相次ぐ 
中国政府は社会不安を注視


● 3月2日、中国政府は最近、過剰生産能力を抱える鉄鋼セクターの合理化に動いているが、その犠牲になっているのが新疆ウイグル自治区だ。写真はウィグル自治区で起きた暴動後の様子。提供写真。2011年7月撮影(2016年 ロイター/)

[上海/北京 3日 ロイター] -
 中国政府は最近、過剰生産能力を抱える鉄鋼セクターの合理化に動いているが、その犠牲になっているのが新疆ウイグル自治区だ。
 中国はかつて、経済成長と雇用拡大を通じてウイグル族の社会的な不満をかわそうと、鉄鋼などあらゆる分野で投資を奨励してきたが、その後の政策転換で新疆の鉄鋼ブームはあえなく終了。
 今では深刻な苦境に陥っている。

 新疆では1000万トン超の鉄鋼生産能力が閉鎖されたと見られるが、これは米国の年鉄鋼生産量のおよそ10分の1に相当する規模だ。

 新疆八一鋼鉄(600581.SS)の子会社の関係者は
 「状況は非常に厳しい。
 新たに建設された製鋼所の多くが閉鎖されており、鉄鋼価格は急落している」
と指摘している。
 同子会社では、1トン当たりで300─400元(約45.95─61.27ドル)の損失が出ているという。

 関係筋によると、中国政府は現在、過剰生産能力と環境汚染を解消するため、
 向こう2─3年をかけて全国で500万─600万人をレイオフ
する計画。
 中国の尹蔚民・人事社会保障相も、石炭・鉄鋼セクターで全体の15%に相当する180万人をレイオフすると明らかにした。

 中国国際エンジニアリング・コンサルティング・コーポレーションの専門家は、2010年以降に「非合理的な」投資が盛んに行われた新疆の鉄鋼セクターでは、大規模な人員削減がすでに行われているとの見方を示した。

 新疆は人口が相対的に少なく、輸出機会も乏しいため、影響が大きくなりがちだ。
 中国社会科学院の研究者は
 「新疆は立地に大きな問題がある。
 拡大した生産能力に見合うほど内需は伸びていない」
と述べた。

■<中央政府、社会への影響注視>

 生産能力削減は河北省や山東省など伝統的な鉄鋼地帯が当面中心になると見られるが、これまでのところ新疆への打撃が突出している。

 統計局によると、新疆の昨年の鉄鋼生産が39%減の740万トンだったのに対して、河北省では1.3%増の1億8830万トン。
 新疆の稼働率は30─40%で、全国平均の65─70%を大幅に下回る。

 中国の中央政府は、独立問題を抱える新疆の安定維持についてはとりわけ神経を尖らせているため、雇用情勢の悪化は頭の痛い問題だ。

 アムネスティ・インターナショナルの東アジア担当ディレクターで、新疆について詳しいニコラス・ベケラン氏は
 「民族問題があるため、新疆の安定はとりわけ重要。
 政府は雇用不安が社会的な緊張の高まりにつながらないよう、対策をとろうとするはずだ」
と指摘している。

(Ruby Lian記者、Michael Martina記者 翻訳:吉川彩 編集:橋本俊樹)



TBS系(JNN) 3月4日(金)20時31分配信
http://headlines.yahoo.co.jp/videonews/jnn?a=20160304-00000069-jnn-int

中国経済減速を背景に、日系企業 緊迫のリストラ現場



 中国では5日から、国会にあたる全人代=全国人民代表大会が開かれます。
 経済減速が鮮明となる中、国有企業を中心に過剰な人員や生産設備をいかに整理していくかが課題となっていますが、それは日系企業も同じです。
 交渉がこじれればリスクも伴う人員整理。その緊迫の現場を取材しました。

 「悲しむ人、怒る人、騒ぐ人。いろんな方が出てくることが想定されます」
(キャストコンサルティング総経理 前川晃廣さん)

 クライアントの日系企業が中国人従業員を大量に整理解雇する日。
 日系企業の事業再編などのコンサルティング業務を行う前川さんは、日本人社長との打ち合わせを綿密に行います。

 「一緒にここで仕事をしてきた仲間を残念ながら『合意解除』という形で離職していただくのは非常に残念。何としても(経営を)立て直すためには、一旦縮小して、もう一度積み上げていく」
(電子機器製造会社総経理〔社長〕)

 「会社側から『経済補償金』を支払うことで『退職しませんか』という勧奨をしてください」
(キャストコンサルティング総経理 前川晃廣さん)

 中国では従業員を解雇する場合、たとえば勤続10年ならば月給10か月分が最低限となる「経済補償金」を支払うことが定められていますが、弁護士による解雇通告は当然、簡単にはいきません。

 「会社の経営状況が悪くなり、リストラを行わざるを得なくなりました。
 よってあなたとの雇用契約を解除したいのです」
(企業側弁護士)
 「それならもっと早くに知らせるべきだろう。
 これはあなたとの問題ではない。
 会社との問題です」
(解雇通告を受けた従業員)

 通告に従業員は怒りをあらわにしますが、弁護士も譲りません。

 「納得すればサインするが、今のままではできません」(従業員)
 「サインしてもしなくても仕事はないですよ。家で待機することになります」(企業側弁護士)

 解雇通告から30分後・・・

 「しかたない、サインするよ」(従業員)

 この日系電子部品製造会社は20年前に中国に進出、一時は従業員7000人を抱えるまでに成長しました。
 しかし、人件費の高騰などで経営は悪化し、従業員のおよそ1割の200人の解雇を決めたのです。

 「こちらの工場では以前、日系企業が電子部品の製造を行っていました。
 しかし、事業撤退に伴い、工場は現在稼働していません」(記者)

 広東省・東莞市は、これまで世界各国のメーカーが安い労働力を求め進出してきましたが、今、事業撤退が相次いでいるのです。

 「録音していいですか」(従業員)
 「いいですよ。私も録音していいですか」(企業側弁護士)

 この従業員は早期退職を希望していたにもかかわらず、この場でさらなる支払いを求めます。

 「会社から(有給休暇の)説明がなかった。今年1月に10日間使いたかったのに」(従業員)
 「規定に基づいて説明すると支払う必要はないです」(企業側弁護士)
 「合理性に欠けている。サインはしない。争点ははっきりさせる権利がある」(従業員)

 不合理な言い分が続き、日本人責任者も声を荒らげます。

 「あなたが(早期退職で)辞めたいと、あなたが言ったんでしょう。
 サインしなくていいよ」(日本人の現場責任者)

 対象の従業員への解雇通告がほぼ終わったころ、社長室で思わぬトラブルが起きていました。

 「どうして私を解雇しないんですか?」(従業員)
 「会社にとって必要だからです」(企業側弁護士)

 自分を解雇するよう訴える従業員。

 「理由を説明してください。
 同じ年の同僚で解雇された人もいる。
 解雇されないのは私への差別ではないですか」(従業員)
 「会社にも選ぶ権利がある。
 あなたの待遇は悪くないでしょう」(企業側弁護士)

 仕事が減る中、この従業員は「経済補償金」を手に入れて辞めた方が得だと考えたようなのです。

 「残った方々は『次は自分か』と思っている可能性もあるので、そのあたりを考えながら企業経営をやっていくお手伝いをせねばと思っています」(キャストコンサルティング総経理 前川晃廣さん)

 日中関係が改善に向かう一方、中国経済の減速などで日本企業の中国離れは進み、中国商務省によると、2015年の日本の対中投資額は前年に比べて25%余り減っています。
 市場としては依然として魅力のある中国でいかに生き残るか。日系企業も大きな岐路に立たされています。(04日15:43)



現代ビジネス 2016年02月23日(火) 週刊現代
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/47954

中国経済、今度こそ「大崩壊」
〜軍事大国化で低成長を隠すキケンな実情
そのころ北朝鮮では…?

 中国経済が、円高株安の日本以上に危機に陥っている。
 もはや巨竜は青息吐息。
 習近平は危険な方向に舵を切った。
 そして習近平以上に危険な金正恩は、軍トップを処刑。
 両国の最新事情に迫る。

■続出する「春節倒産」

 中国は、2月8日から始まった春節(旧正月)の大型連休を終えて、平常に戻った。
 と思いきや、北京や上海などの大都市で「異変」が起こっているという。

 北京在住ジャーナリストの李大音氏が語る。

 「春節で帰郷した労働者が、所属する会社や工場などに戻らないケースが続出し、『春節倒産』が相次いでいるのです。
 中国の企業は春節前、年に一度のボーナスを支給する習慣がありますが、今年は経営悪化でボーナスを出せない企業が多かった。
 それを不満に思った従業員たちが、会社に見切りをつけるのです。

 その他、都市部では、テナントが一斉に撤退した『ゴーストデパート』が続出していて、その数は昨年だけで、約300ヵ所にも上ると言われています。
 年初から都市部は大荒れです」

 中国の平均株価にあたる上海総合指数は、昨年末の3539ポイントから、春節前の2763ポイントへと、わずか1ヵ月あまりで22%も下落している。
 中国全土に1億8000万人いる「股民」(個人投資家)たちは、年初から損のしっぱなしなのだ。
 そのため、借金苦から違法な高利貸しに走り、財産を失う人々も、後を絶たない。

 大荒れなのは大都市ばかりではない。
 地方経済もガタガタだ。

 1月26日に開かれた遼寧省人民代表大会(県議会に相当)で、陳求発省長はやつれきった表情で、遼寧省の現状を報告した。

 「昨年の遼寧省のGDP成長率は、わずか3.0%しかなかった。
 これは過去23年なかった低成長で、PPI(生産者物価指数)は、43ヵ月連続で下落している。
 わが省の経済がここまで落ち込んだ理由は、以下の通りだ。
 企業の生産コストが上がり、少なからぬ業界と企業が経営困難に陥り、
 技術革新は追いつかず、
 新興産業は育たず、
 サービス業の発展は停滞し、
 地域の発展は不均衡で、
 財政収入は悪化し、財政支出は増え、
 国有企業は経営が回復せず、
民営企業は発展せず……」

 翌27日には、山西省の人民代表大会で、李小鵬省長が、やはり神妙な顔つきで、驚くべき省内の実態を告白した。

 「昨年の山西省のGDP成長率は、3.1%だった。
 この数値は過去34年で最低だ。
 その結果、すでに省内の約8割に上る自治体が、公務員の給与を支払えなくなっている……」

 このように、都市部も地方も、まるで雪崩を打ったように経済が急下降しているのだ。

 それでも中国政府は、相変わらず大本営発表を続けている。
 1月19日、国家統計局の王保安局長(大臣)が記者会見し、
 「昨年の中国のGDP成長率は、国外の逆風にもめげず、6.9%に達した」
と胸を張った。
 これに対して、普段は習近平政権に従順な中国メディアさえも、
 「本当は5%以下ではないのか」
と疑義を唱え始めた。
 すると習近平主席は1月26日、当の王局長に「腐敗分子」のレッテルを貼って電撃的に粛清し、お茶を濁したのである。

 習近平主席はまた、経済の失政を、軍備拡張することで国民の目からそらそうとしている。
 春節を目前に控えた2月1日、新調した人民服に身を包んだ習近平主席は、国防部の「八一大楼」に集結した人民解放軍の幹部たちを前に、檄を飛ばした。

 「本日から人民解放軍を、新たに5つの戦区に分け、中央に連合作戦指揮機構を設置する。
 これは、共産党中央と中央軍事委員会が『強軍の夢』を実現するための戦略的政策だ。
 君たちは『戦争ができ、戦争に勝つ』軍隊となるのだ!」

 こうして、長く7つの軍区に分かれていた人民解放軍を、5つの戦区に再編し、それらを自分が直接、統轄する体制を整えたのである。
 まさに200万人民解放軍を、「習近平の軍隊」に作り替えたのだ。

 前出の李氏が明かす。

 「まったく公にはされていませんが、その後に飛び出した
 習近平主席のセリフが、『21世紀の戦争は、陸海空天電の5軍によって決まる。
 特に「天」と「電」を強化せよ』というものでした。
 『天』とは衛星からの攻撃などを指す宇宙空間部隊で、
 『電』とはサイバー攻撃部隊を指します。

 つまり習近平主席は、従来型の陸海空3軍の戦いでは、到底アメリカに歯が立たないので、宇宙空間とサイバー攻撃で、世界の覇権を狙おうとしているわけです」

 実際、中国人民解放軍が仕掛けるサイバー攻撃はすでに始まっていて、先進国が一斉に、怒りの矛先を中国に向けている。

 米司法省は'14年5月、サイバー攻撃によって、アメリカの原発や鉄鋼、太陽電池関連の企業から情報を盗み取ったとして、人民解放軍61398部隊第3旅団に所属する5人の中国人将校を、刑事訴追した。
 かつては親中派と目されていたオバマ大統領でさえ、昨年9月に習近平主席が訪米した際には、中国の度重なるサイバー攻撃について、習近平主席を面罵している。

 2月9日には、クラッパー米国家情報長官が、上院軍事委員会の公聴会で、習近平政権に怒りをぶつけた。

 「(習近平主席は)昨年9月に、今後サイバー攻撃はしないと約束したはずだ。
 それなのに中国は相変わらず、アメリカ政府やその同盟国、企業などへのサイバー攻撃を繰り返している。
 中国の政権の正当性を脅かすとみなした機関を、次々に標的にしているのだ」

■日本の防衛省にもスパイが

 中国のサイバー攻撃は、日本にも「魔の手」を伸ばしてきている。
 サイバー攻撃に詳しい慶應義塾大学の土屋大洋教授が解説する。

 「攻撃を仕掛ける側が日本で一番欲しいのは、オーストラリアに今後、提供するかもしれない海上自衛隊の潜水艦情報などです。
 かつてアメリカも、最新鋭のF35戦闘機の技術を、中国に盗まれたというのが定説になっています。

 ただ、人民解放軍がいま主にやっている作業は、将来のサイバー戦争に備えて、日本のセキュリティシステムの中で脆弱な場所を探すことなのです」

 昨年6月、日本年金機構から、約125万件の個人情報が外部に流出していることが発覚し、大騒ぎになったことは、まだ記憶に新しい。
 年金機構のシステムに侵入した「エムディヴィ」と呼ばれる遠隔操作ウイルスを調査したネットセキュリティ会社、カスペルスキーの川合林太郎社長が語る。

 「エムディヴィは、かなり費用をかけたソフトで、かつバージョンアップしていきました。
 これが何者の犯行であるかは不明ですが、エムディヴィが仕組まれた添付ファイルの標準オフィステンプレートは、中国大陸で使用される簡体字の中国語版でした。
 他国語のものは検出されていません。

 なぜ年金機構が狙われたのかといえば、多方面にばら撒いた中で、たまたま着弾し、メールのウイルス付き添付ファイルを開けてしまったのが年金機構だったという可能性があります」

 それでは、最も狙い打ちされそうな防衛省の危機管理は万全なのか。
 防衛省関係者が語る。

 「われわれがいま一番危惧しているのは、日本に帰化した中国人の息子たちが続々と防衛大に入学し、卒業して自衛隊幹部候補生になっていることです。
 近未来に中国軍と対決する可能性があるイージス艦に彼らを乗せてよいのかということです」

 そして、北朝鮮が核とミサイルの実験を強行しても制裁に消極的な中国は、グルと見られても反論できない。
 近代国家の体をなしていない点では、まさに同じ穴のムジナである。

■そして隣のこの国は完全に狂っている
金正恩が今度は「120万朝鮮人民軍トップ」を処刑した
最側近だったのに

 「(5月の)朝鮮労働党第7回大会を前に、わが党を栄光の金日成・金正日同志の党として、さらに強化発展させるため、党内に残っている特権と特別勢力、官僚主義を集中的に批判し、徹底的に克服していく!」

 金正恩第一書記は、2月2日と3日、「革命の首都」平壌に、全国の朝鮮労働党と朝鮮人民軍の幹部を一堂に集めて、党史上初めてとなる党中央委員会と軍委員会合同の拡大会議を開催。
 冒頭のように激しい口調で幹部たちを鼓舞したのだった。

 ソウルで北朝鮮取材を続けるジャーナリストの金哲氏が解説する。

 「2月7日に『光明星4号』(長距離弾道ミサイル)の発射実験を控える中、党と軍に『李永吉ショック』が広がったため、金正恩は急遽、引き締めに走ったのです。
 党や軍には、『いったい何人の幹部を殺せば気が済むんだ』と、金正恩に対する失望感が広がっています」

 「李永吉ショック」とは、この会議の直前に、120万人民解放軍の戦闘の総責任者である李永吉総参謀長を突然解任し、処刑してしまったことだ。

 1955年生まれの李永吉は陸軍出身で、'98年に最高人民会議代議員、'02年に中将に昇進。
 金正恩に気に入られ、金正恩が公にデビューした'10年9月に、党中央政治局委員に任命された。
 '13年2月に作戦局長、同年8月には総参謀長に就任した。
 以後、金正恩第一書記がどこへ視察に行くにも、傍らに李永吉総参謀長の姿があった。
 そんな最側近の一人に、何が起こったのか。

 金氏が続ける。

 「韓国政府でも現在、原因を分析中ですが、李永吉が『現状の軍勢力では米韓軍とは戦えない』と正直に報告したところ、金正恩が激昂。
 そのまま李永吉を拘束し、処刑してしまったという説が流布しています。

 韓国軍は在韓米軍と組んで、3月7日から4月30日まで、史上最大規模の米韓合同軍事演習を行います。
 6500人乗りの原子力空母『ジョン・C・ステニス』を始め、最新鋭の戦闘機、イージス艦などを駆使して、そのまま実戦に移行することも想定した軍事演習です。

 そんな時、朝鮮人民軍は、今日食べる食糧にも事欠き、燃料不足で戦闘機や潜水艇もロクに機動しない有り様です。
 生粋の軍人気質の李永吉は、いたたまれない気持ちになったのでしょう」

■なぜ2月7日だったか

 それにしても、金正恩第一書記の度重なる側近たちの粛清は、常軌を逸しているとしか思えない。

 '12年7月に軍師の李英浩総参謀長を処刑。
 '13年12月に叔父の張成沢党行政部長を火炎放射器で処刑。
 '15年5月に玄永哲人民武力部長(国防相)をドーベルマンに喰わせて処刑。
 10月に崔竜海元軍総政治局長を農村送りに。
 12月に金養建統一戦線部長を自動車事故を装って暗殺……。
 過去4年で100人以上の幹部が粛清されているのだ。

 冒頭の大会を終えた金正恩第一書記は、2月6日に、国家宇宙開発局幹部が申請した長距離弾道ミサイル実験の発射命令書にサインした。

 だが、その時も一悶着あったという。

 「宇宙開発局の幹部は、『天候を見ながら、2月8日から10日の間に発射します』と報告しました。
 これに金正恩第一書記は、『絶対に明日7日の午前9時にしろ!』と噛みついたのです。
 その理由は、『2016年』『2月7日』『9時』の数字をそれぞれ足すと、縁起のいい『9』が3つ並ぶから。
 『9』は儒教の教えを守る金ファミリーのラッキーナンバーだと言い張ったのです」(同・金氏)

 そこで宇宙開発局は、発射予定日を変更。
 金第一書記は当日、早朝から平安北道鉄山郡東倉里の「西海衛星発射場」に乗り込んだ。

 だが、発射を待つ金正恩第一書記の姿は、他の地味な研究者たちの中にあって、異彩を放っていた。

 「絶対禁煙の発射台の管制塔で、かつて父・金正日総書記も愛飲していたカルティエのメンソールタバコをスパスパ吸い、脇で専用の大型玉製灰皿を持った秘書が構えていました。
 金第一書記が着ていたオーバーは、130kgの巨体に合わせて海外で特注した希少動物チンチラの毛皮で、3万ドル以上します」(同・金氏)

 午前9時に長距離弾道ミサイルの発射が成功すると、約500人の科学者や技術者たちと喜びを分かち合い、記念撮影に収まったのだった。

 核実験と長距離弾道ミサイル実験を合わせれば、日本円で3000億円を浪費したと言われる。これは北朝鮮の全国民の年収合計に匹敵する額だ。
 金第一書記は、餓死と凍死が北朝鮮全土で蔓延していることなど、気にも留めない。

 この暴挙に対して2月10日、日本は独自制裁を発表した。
 北朝鮮国籍者の入国禁止、すべての北朝鮮船籍の入国禁止といったことだ。
 日朝貿易はほぼゼロに等しいため、これらの制裁に実質的な効力はない。

 だが同日、韓国政府が発表した開城工業団地の操業停止は、北朝鮮経済を直撃する。
 2000年の南北首脳会談で、南北和解の象徴として'04年に始まった開城工業団地は、124社の韓国企業が約5万4000人の北朝鮮人労働者を雇用し、年間約130億円もの外貨を、北朝鮮にもたらしているからだ。
 韓国側からの停止発表は、初めてのことだ。

 内部では離反が相次ぎ、外国からは四面楚歌。
 稀代の暴君は、いよいよ追い詰められてきた。

「週刊現代」2016年2月27日号より