2016年3月1日火曜日

米国防費の膨張が止まらない!:中東からアジアへシフトするアメリカの軍事戦略

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ニューズウイーク 2016年2月26日(金)17時00分 フレッド・カプラン(スレート誌コラムニスト)
http://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2016/02/post-4589.php

米国防費の膨張が止まらない!
Obama’s Whopping New Military Budget
 共和党から「腰抜け」と言われるオバマ政権だが
 国防支出はブッシュ前政権を大きく上回っている


●無駄遣い 国防総省はトラブル続きのF35に莫大な予算をつぎ込むことをやめようとしない Randy A. Crites-Lockheed Martin-Handout-REUTERS

 アメリカ大統領選を戦う共和党の候補者たちは、バラク・オバマ大統領が国防予算をケチり、軍をズタズタにしようとしていると非難する。
 しかし非難する前に、ホワイトハウスと国防総省が先頃発表した2017会計年度(16年10月~17年9月)の予算案をよく見たほうがいい。
 予算規模は、21世紀最大の年よりやや少ないだけ。
 しかも、その「今世紀最大の年」もオバマ政権だった。
 金の使い道が賢明かはともかく、これは反戦主義者の予算案でもなければ、締まり屋の予算案でもない。

 まず見落としてはならないのは、ここ数十年の国防予算がそうであるように、今回の国防予算も見掛けよりずっと多いということだ。
 国防総省によれば、17年度の国防予算はほぼ前年度並みの「5827億ドル」。
 だが、これは国防総省分だけの数字だ。
 行政管理予算局によれば、エネルギー省の核兵器プログラムなど、ほかの省庁の国防関連予算を含めた連邦政府全体の国防支出は6080億ドルに達する。
 前年比で2.1%の増加だ。

 実は、これでもまだ実態を過少評価している。
 国防総省の5827億ドルの予算は、
 「基本予算」と「国外作戦経費」の2つに分けられている。
 国外作戦経費はアフガニスタン、イラク、シリアなどで米軍が戦っている(あるいは、現地軍の「顧問」として関わっている)戦争の予算。
 基本予算は、それ以外のすべての一般経費だ。
 具体的には、人員、兵器、研究開発、運用・整備などに使う金である。

 近年、イラクとアフガニスタンからの米軍撤収が進むにつれて、国外作戦経費は減ってきた。
 それにもかかわらず、国防総省の予算全体が減っていないということは、
 基本予算が膨張していることを意味する。
 15年度と16年度を比べると、国外作戦経費は631億ドルから586億ドルに減ったのに対し、基本予算は4973億ドルから5217億ドルに増加している。
 5%近くの増加だ。

【参考記事】オバマの勝利なき「イラク撤退」宣言

 17年度の基本予算は5239億ドルへの微増にとどまったが、それでも01年度以降で4番目に多い額だ。
 これを上回った3つの年度は、10年度、11年度、12年度とすべてがオバマ政権下だった。

■F35戦闘機にこだわるが

 ジョージ・W・ブッシュ前政権の8年間とオバマ政権の8年間(17年度は要求ベース)を比べると、総額はブッシュ政権が3兆3040億ドルだったのに対し、オバマ政権は4兆1212億ドルに上る(インフレ調整を行えば差は縮まるが、それによる違いは知れている)。
 なぜ、こんなにも国防予算が膨張しているのか。
 そのほとんどは、冷戦時代に計画された兵器システムのための予算だ。

 すべてがそうとは言わない。
 ISIS(自称イスラム国、別名ISIL)対策予算(17年度は前年比50%増の75億ドルを計上)、
 サイバー防衛予算(67億ドルを計上)、
 テロ掃討ドローン(無人機)作戦予算(12億ドルを計上)
などもある。

【参考記事】ドローンの次は、殺人ロボット
【参考記事】オバマ、ISISとの戦いに35億ドル

 だが予算増大の主たる要因は、あくまでも
 ステルス戦闘機、
 原子力潜水艦、
 空母打撃群(空母戦闘群)
などだ。
 ステルス戦闘機「F35統合打撃戦闘機」の開発計画は、10年以上にわたりトラブルが続いている。
 アシュトン・カーター国防長官は国防次官時代、メーカーに改善を要求したが、問題はいまだに解決していない。

 それでもカーターは現在、17年度に63機のF35を新規に購入する予算を要求している。
 費用は1機当たり約1億7000万ドル、総額で105億ドルに上る。
 加えて、18年度購入予定のF35の頭金として5億ドル近くの予算も求めている。

■空軍と海軍重視にシフト

 救いはF35の購入が完了するまで、海軍のFA18戦闘攻撃機をさらに製造し、空軍のA10攻撃機の退役をあと数年先延ばしすると決めていることだ。
 両方とも安価な上に整備がしやすく、しかも十分に機能する。
 特に、現場のパイロットの人気が高いA10は、過去四半世紀にアメリカが戦ったほとんどの戦争で敵の戦車を破壊するために活躍してきた

 国防総省は、議会から課された強制歳出削減措置により、いくつかの兵器の購入を見送らざるを得なくなったことに不満を表明している。
 AH64攻撃ヘリコプター9機、V22輸送機(オスプレイ)2機、C130J輸送機3機、そしてF35統合打撃戦闘機5機などである。
 そう、カーターはF35を63機ではなく、68機購入したかったのだ。
 しかし問題点が解決されるまで、F35の購入はもっと削減してもいいくらいだ。
 強制歳出削減に至る政治的経緯には問題も多いが、予算の無駄遣いを防いだことはけがの功名だった。

 最後に、国防予算に関してもう1つ注目すべき要素がある。
 それは国防総省内の対立だ。
 60年代半ばから比較的最近まで、国防予算は陸軍と海軍と空軍がほぼ等しく分け合ってきた。
 近年、それが変わり始めた。
 陸軍の大型戦車の導入が減る一方、海軍と空軍は艦船と航空機の導入を続けている。
 今回の17年度予算案では、海軍と空軍の取り分がそれぞれ36%と35%なのに対し、陸軍は29%にとどまっている。

 自部門の予算を削られた軍幹部の間では、不満や疑心暗鬼が渦巻いているようだ。
 カーターはISISとの戦いで頭がいっぱいらしいが、来年発足する新政権の国防長官は省内の戦いにも悩まされるかもしれない。

[2016年3月 1日号掲載]



ダイヤモンドオンライン 2016年2月23日 北野幸伯 [国際関係アナリスト]
http://diamond.jp/articles/-/86785

第2次大戦前夜にそっくり!
米国離れが加速する世界情勢

ここ数年、世界各国のパワーバランスが大きく変化している。
中東では、米国とイスラエル、サウジアラビアの関係が悪化。
一方で、長らく足並みがそろっていた米国と英国の関係にも綻びが見られる。
世界の最新情勢を眺めれば、もはや「米英」「欧米」という言葉が、「死語」になりつつあることが分かる。

■燃料欲しさで中東に口出ししてきた米国はシェール革命で手のひらを返した

 今回、いくつかの世界秩序崩壊を検討するが、まずは、最新事例を考えてみよう。
 つい最近まで、米国の中東戦略の要だった、イスラエルとサウジアラビアを巡る大変化である。

  2003年3月20日にはじまったイラク戦争は、なんとも理不尽だった。
 米国が開戦理由に挙げた2つ、つまり「フセインはアルカイダを支援している」「イラクは大量破壊兵器を保有している」は、共にウソだった。
 では、米国がイラクを攻めた「本当の理由」は何だったのか?
 FRBのグリーンスパン元議長は、こんな興味深い「告白」をしている(太線筆写、以下同じ)。

★:「イラク開戦の動機は石油」=前FRB議長、回顧録で暴露
[ワシントン17日時事]18年間にわたって世界経済のかじ取りを担ったグリーンスパン前米連邦準備制度理事会(FRB)議長(81)が17日刊行の回顧録で、2003年春の米軍によるイラク開戦の動機は石油利権だったと暴露し、ブッシュ政権を慌てさせている。(2007年9月17日時事通信)

 なんと、グリーンスパンが「イラク開戦の動機は石油」と暴露している。続きも、なかなか興味深い。

★:米メディアによると、前議長は
 「イラク戦争はおおむね、石油をめぐるものだった。
 だが悲しいかな、この誰もが知っている事実を認めることは政治的に不都合なのだ」
と断言している。
 ブッシュ政権は、当時のフセイン政権による大量破壊兵器計画阻止を大義名分に開戦に踏み切ったが、同兵器は存在しなかったことが後に判明。
 「石油資源確保が真の目的だった」
とする見方は根強く語られてきた。(同上)

  イラク戦争の理由が「石油」であることは、「誰もが知っている事実」だという。
 これは、「陰謀論者」ではなく、「神様」と呼ばれたFRB議長の言葉だ。
 米国が、「石油」を理由にイラクを攻めたとなると、「ひどい話」だろう。
 しかし、当時「米国の原油は、16年に枯渇する」と予測されていた。
 もし、自国の石油が枯渇し、さらに中東から輸入できない状況になったらどうなるだろう?

  エネルギーがなければ、世界最大の経済も、最強の軍隊もまわらなくなる。
 そう考えると、米国が理不尽な戦争に走った理由も理解できる。
 というわけで、
 「自国の原油が枯渇する」と信じていた米国にとって、
 資源の宝庫・中東は、戦略的に「最重要地域」
だった。
 そして、イスラエルとサウジアラビアは、米国の特に重要なパートナーだった。

 ところが、状況は、意外な方向に動いていく。
 米国で「シェール革命」が起こったのだ。
 これで、米国は「近い将来資源が枯渇する」という恐怖から解放された。

■米国に捨てられるイスラエルとサウジアラビア

 それだけでなく、09年には「天然ガス生産」で、ロシアを抜いて世界1位に浮上。
 14年には、なんとアメリカは「原油生産」でも世界1位になった。
 いまや世界一の「石油ガス大国」になった米国にとって、
 「中東」は「最重要地域」ではなくなった。
 このことは、米国の外交政策を大きく変えることになる。
 オバマ大統領は11年11月、オーストラリア議会で演説し、
 「戦略の重点を(中東から)アジアにシフトする」
と宣言した。

 13年9月、米国はイスラエルとサウジにとって最大の敵と言えるイランとの和解に動きはじめる。
 イスラエルもサウジも、必死で米国の政策に影響を与えようとした。
 15年3月、イスラエルのネタニヤフ首相は、なんと「米国」議会で、イランとの和解を進めるオバマを痛烈に非難し、大さわぎになった。
 しかし
 「自国に石油ガスがたっぷりあり、中東は重要ではない」
という事実の前に、ネタニヤフの必死の訴えは無力だった。
 こうして、米国は、事実上イスラエルを見捨てた。
 「米国内で、イスラエルは最強ロビー集団である」というのは、もはや「過去の話」になった。

 さて、米国と他5大国は15年7月、核問題でイランと「歴史的合意」に至る。
 16年1月、イラン制裁は解除され、2月には欧州向け原油輸出が再開された。
 サウジアラビアは、どう動いたのだろうか?
 原油価格は14年夏まで、1バレル100ドル前後で推移していた。
 同年秋から下がりはじめたが、12月サウジアラビアが「減産拒否」を発表すると価格下落が加速する。
 そして、15年末には、30ドル台に突入した。
 サウジが減産を拒否した理由は、
 「米国のシェール革命をつぶすため」といわれている(原油が安ければ、シェール企業は利益を出せなくなり、撤退に追い込まれるという戦略だ)。

 それが事実だとしても、米国の政策は変わりそうにない。
 今年年初、サウジアラビアは、シーア派の指導者ニムル師を、「テロに関与した」として処刑した。
 シーア派イランの民衆は激怒し、テヘランのサウジアラビア大使館を襲撃。
 サウジは、これを理由に、イランとの国交断絶を宣言する。
 スンニ派の盟主・サウジとシーア派の大国・イランの関係が悪化し、一触即発の状況になる中、米国の対応はきわめて「冷淡」だった。

★:米国務省のカービー報道官は4日の記者会見で
 「我々はこの問題の仲介者になろうとしているかと問われれば、答えはノーだ」
と述べた。(読売新聞1月6日)

 ここまでの流れを見れば、
 米国がイスラエル、サウジアラビアを、もはや重視していない
ことは明らかだろう。

■盛り上がる「英中の黄金時代」
 英国の3度の裏切りが意味すること

  ここまでは、「シェール革命」という、米国にとって「ポジティブな現象」が引き起こした変化である。
 ところが、08年の「100年に1度の大不況」から顕著になった、「米国の衰退」と「中国の台頭」もまた、既存の秩序を変えた。

 08年以降、米国による「一極世界」は崩壊した。
 現在は、「米中二極時代」である。
 しかも、09~15年まで、明らかに「沈む米国、浮上する中国」という関係だった。
 現在、世界の国々は
 「米国につくのと中国につくのと、どっちが得だろう?」
と考えて行動している。
 そして、去年までは明らかに、
 「勝つのは中国だ。中国についた方がいい」
と考える国が多かった。

  米国と「特別な関係にある」といわれる英国はどうだろうか?
 実をいうと、「米英は一体化して動いている」というのも、いまや過去の話になっている。
 ここ3年間で、英国は米国を、重要な局面で3回裏切った。

 1回目は、13年8月である。
 オバマは、シリア・アサド軍が「化学兵器を使った」ことを理由に、「シリアを攻撃する」と宣言していた。
 しかし、英議会は13年8月29日、シリアへの軍事介入を拒否。
 オバマは孤立し、結局シリア攻撃を「ドタキャン」して大恥をかいた。

 2回目は、15年3月。
 英国は、米国の制止を無視して、中国が主導する「アジアインフラ投資銀行」(AIIB)への参加を表明した。
 これで、「雪崩現象」が起き、「AIIB」参加国は、激増していった。
 結局57もの国々がAIIB参加を決め、その中には、欧州のほとんどの国々、オーストラリア、韓国、イスラエルのような親米国家群も含まれている。
 またもや米国を孤立させ、中国に大勝利をもたらしたのは、英国の裏切りだったのだ。

 3回目は、15年12月。
 英国は、米国の意志に反し、「人民元をSDR構成通貨にする運動」を主導した。
 時事通信2015年12月5日付を見てみよう。

★:◇英国は「黄金時代」に期待
 しかし、審査は5年前と異なる展開をたどった。
 決定的な違いは、中国の経済力に魅せられた欧州諸国が早い段階から「元のSDR採用」に前向きな姿勢を示したことだ。
 特にロンドンの金融街シティーを擁する英国は「中国寄り」を鮮明にした。
 10月の習主席訪英では、バッキンガム宮殿で晩さん会を開き、キャサリン妃が中国を象徴するような赤いドレス姿で歓待。
 キャメロン政権は「英中の黄金時代」の演出に力を注いだ。
 この英中首脳会談でまとまった商談は、中国による英原発投資を含めて総額400億ポンド(約7兆4000億円)。
 さらに、英国は元のSDR採用への支持を確約し、将来のシティーへの元取引市場の誘致に有利なポジションを手に入れたとみられる。>(同上)

■チャイナマネーの台頭が「欧米」を死語にした

 英国は、ここ3年間米国を裏切り続けてきた。
 特に、「AIIB問題」「人民元SDR構成通貨問題」では、はっきりと米国よりも中国への配慮を優先させてきた。
 もはや「米英」という言葉は「死語」になりつつある。
 そして、「欧米」という言葉も同様だ。

 日本人は、世界でもっとも強固な関係という意味を込めて「米英」という。
 そして、これも「いつも一緒」という意味で、「欧米」という言葉を使う。
 「欧」は「欧州」で、最強国家はドイツである。
 「ソ連崩壊」「米国発の危機」などを予測し、「予言者」をよばれるフランスの人口学者エマニュエル・トッドは、「EU」のことを、「ドイツ帝国」と呼ぶ。

 仮に、「ドイツがEUを実質的に支配している」と考えると、ドイツ(帝国)の経済力は、米国を上回る一大勢力になる。
 そしてドイツも、英国と同じように「中国についた方がよさそうだ」と考えていた。
 ドイツ在住の作家・川口マーン惠美氏は、「現代ビジネス」1月15日付で、ドイツが「いかに親中なのか」を詳しく記している。引用してみよう。

★:去年の半ばぐらいまで、ドイツメディアはとにかく中国贔屓で、聞こえてくるのは中国経済が力強く伸びていく話ばかりだった。
 「中国はあれも買ってくれる、これも買ってくれる」、
 「それも千個ではなく十万個」
といった竜宮城のような話だ。

 いつからドイツは、親中になったのだろうか?

★:中国詣でを熱心にやり始めたのはシュレーダー前首相で、十年以上も前のことだが、その後を継いだメルケル首相は、最初の2年ほどはダライ・ラマに会うなどして中国側の機嫌を損ねたものの、それ以後はシュレーダー首相を超えるほどの蜜月外交に徹し始めた。(同上)

 独中関係は、急速に深まっていき、ついに重要度は日本を追い越してしまう。

★:毎年、大勢の財界のボス達を伴って北京を訪問しては、自動車を売り、エアバスを売り、ヨーロッパでは放棄した超高速鉄道も売って、「中国はドイツにとってアジアで一番重要な国」と言った。
 主要国サミットのニュースで聞いた、「アジアの代表は日本ではなく中国ではないか」というアナウンサーの言葉を、私は忘れることができない。(同上)

★:当然のことながらドイツでは、中国に進出しなければ時流に乗り遅れるという機運が熱病のように蔓延し、産業界はずっと前のめりの姿勢が続いた。
 そしてメディアが、それらをサクセスストーリーとして報道し、同時に、中国と仲良くできない日本を皮肉った。(同上)

 このように、ドイツと中国の関係は、明らかに日本とドイツの関係より良好だ。
 では、米国とドイツの関係はどうなのだろうか?
 ドイツも英国同様、米国の制止を振り切り「AIIB」参加を決めた。
 「人民元SDR構成通貨」問題でも、米国の反対を無視して「賛成」している。
 現時点で、中国とEU最強国家ドイツの関係は、米国とドイツの関係より良好といえる。
 つまり「欧米」という言葉も、すでに「死語」になりつつある。

■世界秩序の崩壊スピードの速さは第2次大戦前にそっくり

 ここまでで、最近まで「伝統的」と呼ばれた関係が崩壊している状況を見てきた。

 ●・米国とイスラエル、サウジアラビアの関係は悪化している。
 ●・かわって、米国とイランの関係は改善している。
 ●・米国と英国の関係は悪化している。
 ●・英国と中国の関係は、良好になっている。
 ●・ドイツをはじめとする欧州(特に西欧)と米国の関係は悪化している。
 ●・そして、欧州(特に西欧)と中国の関係は良好になっている。

  しかし、この新しい関係は「新秩序」ではなく、非常に変化の速い「流動的」なものだ。
 大国群が「親中国」になっていたのも、「金儲けをしたい」という単純な動機に過ぎない。
 中国経済が急速に沈みはじめた今年、欧州各国の「中国愛」も冷めていくことだろう
 (前述の川口氏は、ドイツの報道が「反中」に変化してきたと語っている)。

 今の日本にとって大事なのは、「世界情勢」の変化をしっかり追い、理解しておくことである。
 1939年8月、時の総理大臣・平沼騏一郎は「欧州の天地は複雑怪奇」という歴史的迷言を残して辞職した。
 翌月から第2次大戦が起こるという局面で、日本の総理は何が起こっているのか、まったく理解していなかったのだ。

 日本が負けたのは、「当然」といえるだろう。
 しかし、現代に生きる私たちも、当時の人々を笑うことはできない。
 今起こっている世界の変化は、1930年代同様に速く、不可解で、油断するとすぐ「複雑怪奇」で「理解不能」になってしまうのだから。


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ハンギョレ新聞 3月13日(日)5時4分配信 チョ・キウォン記者
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20160313-00023522-hankyoreh-kr

[ニュース分析]全世界に広がる米国のミサイル防衛網 


●米国のミサイル防衛システムの配置図(資料:タス、配備国)

■牽制する中国とロシア 米国、東欧にもMD基地構築

 ヨーロッパでは「イラン防衛用」でMD配備
 ロシア、自国の核抑止力無力化を疑い反発
 「いつでも軍事的攻撃」と威嚇も

 北東アジアでは「北朝鮮」を口実に推進
 軍事専門家「長期的に中国も対象」
 中ロ、MD対抗の兵器開発の予測も

 昨年12月、ルーマニアの首都ブカレストから約145キロ離れた南部のデベセルに、米国がミサイル防衛(MD)基地を完成させた。
 米国は東欧の真ん中に設置したミサイル防衛基地について、イランのミサイル防衛用としたが、ロシア外務省は「米国と同盟国が危険なプログラムを運用している」と反発した。
 ロシアは以前から、東欧に米国のミサイル防衛システムが設置されることに過敏に反応しており、東欧に設置されたミサイル防衛基地を軍事的に攻撃できると脅かしてきた。

 米国は最近、韓国に最新鋭地上配備型迎撃システム「高高度防衛ミサイル(THAAD)」の配備に関する議論を本格化させ、北東アジアの緊張を高めている。
 東欧では、米国が地域にミサイル防衛システム構築を本格的に試みた2000年代半ばから、この問題をめぐり、米国とロシアの間で摩擦が生じ、今も続いている。
 米国がミサイル防衛を構築する意図をめぐり、両国間の不信が解消されないでいるためだ。

 米国がデベセルのミサイル防衛基地に持ち込んだ設備はSPY(スパイ)1レーダーとMK41垂直発射台だ。
 SPY1レーダーは、米海軍イージス戦闘システムの中核となるレーダーだ。
 位相配列レーダーにより、コンピューターでビーム操向方向と操向量を調整できる。
 疑われる標的を集中的に追跡し、多数の目標物の探知・識別が可能だ。
 MK41垂直発射台は、ミサイル迎撃用のSM(スタンダードミサイル)3を発射できる装置だ。
 本来SM3は艦艇防衛用ミサイルだが、射程距離が500キロメートルに及ぶ。SPY1レーダーとMK41垂直発射台のいずれも、イージス艦の兵器システムを陸上用に切り替えたものだ。

 デベセル基地は今年上半期までに点検を終え、運用に入る予定だが、運用準備任務を任されたのも米海軍第6艦隊だ。
 第6艦隊は
 「デベセル基地のシステム運用の監督や訓練を担当する。
 新しい船で海上訓練をするのと似ている」、
 「2016年夏までにはデベセル基地の運用準備が終わるだろう」
と明らかにした。

 ロシアがデベセル基地に強く反発する理由は、伝統的なロシア勢力圏だった東欧の真ん中に米国がミサイル防衛基地を設置し、ロシアの核抑止力を無力化しようとしているとの疑念のためだ。
 旧ソ連のミハイル・ゴルバチョフ共産党書記長がドイツ統一を支援した理由は、米国と西欧が主導する北大西洋条約機構(NATO)が東進しないと考えたためであり、ソ連崩壊後、ソ連主導のワルシャワ条約機構は解体され、NATOの東進は続いている。
 NATOの東進は、ロシアがウクライナのクリミア半島を合併した原因の一つだった。

 ロシア外務省はデベセル基地の完成が「中距離核戦力全廃条約(INF)」を直接違反したものと米国を非難した。
 条約は1987年にロナルド・レーガン米大統領とゴルバチョフ・ソ連共産党書記長が、両国が保有する核弾頭の装着用の中距離、短距離、地上発射ミサイルを廃棄することに合意した歴史的な核兵器削減条約。
 ロシアはデベセル基地から発射されるスタンダード型ミサイルが、ロシアに向けられると考えている。

 ロシアの不信は、米国の欧州ミサイル防衛計画(EPAA)が誕生した時から続いている。
 同計画はビル・クリントン政権時にイランのミサイル脅威から欧州を防衛する名分で推進された。
 2002年にチェコのプラハで開かれた北大西洋条約機構会議で議論され始め、ジョージ・ブッシュ政権時の2008年までにポーランドに長距離迎撃ミサイル基地、チェコにレーダー基地を作るのが柱だった。

 長距離迎撃用ミサイルを配備する米国の計画に、ロシアは軍事的強攻策で対抗した。
 2008年、メドベージェ大統領はポーランドと近いロシアのカリーニングラード州に、射程距離が500キロに達し、核弾頭を装着できるイスカンデル・ミサイルを配備すると警告した。
 結局、2009年に発足したバラク・オバマ政権がポーランドなどに対するミサイル防衛基地構築計画を中止すると発表したことを受け、ロシアもカリーニングラードにイスカンデル・ミサイルを配置する案を撤回した。

 オバマ政権は2009年に新しい欧州ミサイル防衛計画を発表する。
 この計画はイージス艦の運用を中心にしており、イージス艦システムを陸上に適用したイージスアショアー(Aegis Ashore)を陸上基地に設置する内容を柱とした。
 その1段階は、2011年までミサイル防衛のイージス艦運用能力を高め、地中海にも増強配置することであり、
 2段階がルーマニアにイージスアショアーのテベセル基地を作るというものだった。
 ブッシュ政権時代、欧州ミサイル防衛計画に入っていたチェコレーダー基地設置計画は、軍事的活用度が落ちる衛星情報分析センターに変えることにしたため、チェコがこれに反発し、米国ミサイル防衛計画から離脱した。
 そして3段階が、2018年まで予定されたポーランドの陸上ミサイル防衛基地設置だ。
 元々は4段階でポーランドとルーマニアに中長距離迎撃ミサイル「SM3-IIB」を配備する計画だったが、2013年にロシアの反発のため4段階は推進しないことにした。

 ロシアは、オバマ政権に入り計画が変更されただけで依然として脅威と受け止めている。
 2012年、ロシアのメドベージェフ首相はモスクワでNATO関係者らに、ミサイル防衛計画に対するロシアの反応は
 「まだ政治的かつ外交的な姿だ。
 しかし、特定の状況では、われわれは技術的対応をせざるを得ない。
 それはあなたがたが好むものではない」
と述べている。
 いつでも軍事的対応をできるという意味だった。
 実際、ロシアは2009年に撤回したイスカンデル・ミサイルのカリーニングラード配備計画をことある度に持ち出し、欧州を威嚇した。
 昨年4月にも、ヴァレリー・ゲラシモフ・ロシア軍参謀総長は「ミサイル防衛設備が運用される場所は、まず対応の対象になるだろう」とした。
 ルーマニアとポーランドが攻撃の対象になり得るという話だ。

 米国が当初、欧州ミサイル防衛計画の名分に掲げたイランのミサイル脅威は、昨年のイラン核交渉妥結で大幅に減少しているのに、この計画を引き続き推進していることもロシア側の疑念を膨らませている。
 昨年末、ロシアのセルゲイ・ラブロフ外相は
 「イランの核プログラムが国際原子力機関(IAEA)の厳格な統制下に入れば、米国の欧州ミサイル防衛計画の必要性もなくなる」
と述べた。
 これに対して米ホワイトハウス国家安全保障会議報道官は
 「欧州ミサイル防衛に対する我々の計画は変わらない」
と答えている。
 これは米国の欧州ミサイル防衛計画がイラン用以外の他の意図があることを示唆している。

 米国のミサイル防衛システムは、他の地域でも拡大の一途にある。
 米国は最近数年間、ペルシャ湾諸国に集中的にミサイル迎撃システムを販売してきた。
 これら地域の国家の相当数が、短距離ミサイル迎撃用のパトリオットミサイルを配備しているので、長距離迎撃用の購入計画があると米国は見た。
 実際、2011年にアラブ首長国連邦(UAE)はTHAADを35億ドルで導入する契約を結んだ。

 米国議会調査局(CRS)のミサイル防衛専門家スティーブン・ヒルドレスは、軍縮関連専門誌「アームズ・コントロール・トゥデイ」に
 「(北東アジアの)ミサイル防衛と関連し、米国は北朝鮮のためだと言う。
 しかし、中国も長期的な観点から(米国の)考慮の対象となる」
と述べた。
 またロシアと中国は、米国のミサイル防衛の拡張が自らの戦略的な力を弱めると見て、ロシアと中国は米国のミサイル防衛に対抗する兵器を開発することになるだろうと指摘した。




【2016 明日への展望】


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