2016年3月25日金曜日

中国経済のハードランディングリスクが高まっている(6):中国製造業のコストが米国と同水準に

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レコードチャイナ 配信日時:2016年3月23日(水) 16時30分
http://www.recordchina.co.jp/a131439.html

日本よりもはるかに高い中国の労働コスト、
生産性向上を上回る給与上昇が問題に―中国紙

   2016年3月22日、北京青年報はこのほど、
 「中国の労働コストは日米を超えたか?」
と題した記事を掲載した。

 英リサーチ企業オックスフォード・エコノミクス社は驚くべきリポートを発表した。
 2003年、2012年、2016年と3つの時期において米国と中国の労働コストを比較したものだ。
 2003年時点では中国の労働コストは米国の4割前後。
 2012年では中国は米国にかなり接近し、
 2016年にはわずか4%しか差がない
ことが判明した。
 さらに
 日本の労働コストは2016年段階で中国のわずか「70%」しかない
という。

 なぜこのような状況に陥ったのか。
 労働コストとは単なる給料の多寡ではなく、一定の付加価値を生み出すために必要となる労働者のコストを意味する。
 つまり、たとえ給与が高くともそれ以上の付加価値を生み出せれば労働コストは低くなるわけだ。

 中国では生産性向上よりも早いペースで給与が上昇したことが労働コストが上昇した原因となった。
 2003年から2016年にかけて中国製造業の賃金は倍増したが、生産性はこの伸び率に追いついていない。



サーチナニュース 2016-03-24 20:18
http://biz.searchina.net/id/1605732?page=1

中国製造業のコストが米国と同水準に
・・・将来を考えると恐ろしい=中国

 かつて中国は人件費の安さを強みとして世界各国から企業を誘致し、製造業を発展させてきた。
 だが、近年は人件費の高騰が続き、一部企業はすでに中国から東南アジアなどへ製造拠点を移しており、中国製造業は構造転換を求められている。

 中国メディアの百度百家はこのほど、中国が強みとしてきた「製造コスト」の安さはすでに失われており、中国製造業における「製造コスト」はすでに米国と同程度の水準にまで上昇していると指摘し、中国製造業の将来を考えると恐ろしいことだと論じた。

 記事は、中国で生活している立場では
 「中国の人件費が日本より高いとは到底信じられない」
と伝えつつ、
 人件費そのものは今なお米国や日本を下回っているのは事実と指摘。
 それでも中国製造業の「製造コスト」が米国と同水準である背景には生産性の差があるとし、
 中国は生産性が低いため相対的にコストがかかり、
 米国が「1ドル」で生産できるものが、中国では「96セント」
もかかってしまうと論じた。

 続けて、米中の製造コストが同等となってしまった以上、中国が生産する製品には、もはや「価格優位」は存在しないと指摘したうえで、中国がコスト優位を失った背景には
★.人件費の上昇のほか、
★.不動産価格の高騰、
★.増大する税負担
といった要因のほか、
★.生産効率の低さ
があると指摘。
★.中国では今なお立ち遅れた技術が多いうえに、
★.人材が流動的であるため熟練工が育たず、人材は育ってきたころに辞めてしまう
と伝え、こうした要因によって中国製造業の生産性は米国に到底及ばない状況だと論じた。

 記事は、中国経済にとって製造業は中核的な産業であり、サービス業も製造業を取り巻いて発展していると指摘。
 中国製造業の競争力が失われ、製造業全体が危機に見舞われれば中国経済のエンジンが失われることを意味すると指摘し、中国製造業の競争力が失われつつあることに危機感を示した。



レコードチャイナ 配信日時:2016年3月29日(火) 0時10分
http://www.recordchina.co.jp/a131994.html

中国の労働コスト面での優位性、
対米比較でわずか4%―米報告書

 2016年3月26日、中国メディア・澎湃新聞(ザ・ペーパー)によると、オックスフォード・エコノミクスによる評価で、中国製造業のコスト面での優位性はごくわずかであることが明らかになった。

 オックスフォード・エコノミクスが発表した報告書によると、
 中国製造業の単位労働コストが米国に対して保持している優位はすでに「4%」にまで縮小している
 日米英独などの先進諸国と比べると、中国の労働生産性は依然やや低い状態となっている。

 報告書を執筆したグレゴリー・ダコ氏とジェレミー・レオナルド氏は、ドル高やシェールガスへの投資減少といった逆風の中でも、
 米国製造業は世界的に高い競争力を維持している
と指摘した。

 一方、中国では賃金が長年増加し続けている。
 2016年の中国の実質賃金上げ幅は6.3%と、7%を下回ることが予測されているが、それでも米国の2.7%を大きく上回っており、中国のコスト面での優位縮小は明らかだ。

 しかし、単位労働コストで優位に立ちつつあるだけでは、米国製造業の復興を支える材料としては不足で、製造各社が生産拠点を米国へ戻す動きにはいまだ至っていない。


ダイヤモンドオンライン 2016年3月28日 吉田陽介[日中関係研究所研究員]
http://diamond.jp/articles/-/88547

管理を強める「習近平経済学」への転換
中国は浮上できるか

 3月16日に閉幕した全国人民代表大会(以下全人代と略す)で、中国の指導者は、減速を続ける中国経済という現実を前にして、今年は中国にとって困難な年であることを認め、今後厳しい舵取りを余儀なくされることを示した。

 李克強国務院総理が政府活動報告を読み上げている間厳しい表情を見せていた習近平総書記は、代表たちの審議に積極的に加わって意見を聞き、経済分野についてもいくらか発言していた。
 それがメディアによって伝えられ、存在が一際目立った。

 また、3月9日付けの『人民日報』は、習総書記が政治協商会議に出席した中国民主建国会、中華工商業聯合会委員との会見の際のスピーチを掲載した。
 このところ、なぜ習総書記は経済分野においても活発に発言しているのだろうか。

■市場主義的改革が後退し
 習近平経済学にシフト

 「経済は李克強、政治は習近平」

 習政権発足時にはそういう見方をする人が多かった。
 李総理は北京大学で経済学博士を取得したという経歴をもっているため、習総書記は経済分野での舵取りを李総理に全面的に任せており、棲み分けができていると見られていたし、筆者もそう見ていた。

 また、習政権成立当時は、経済の減速、景気刺激策に頼る経済政策からの転換の必要性、既得権益層にメスを入れることなど、これまでの政権が積み残した課題を処理する必要があった。
 2013年11月に開かれた第18期三中全会の「改革の全面的深化における若干の重要問題に関する中共中央の決定」は保守派の路線と改革派のそれが結合した産物だったが、そこには政府の役割を極力小さくし、債務の大幅な圧縮、経済構造改革を推進するという李総理の路線、つまり「李克強経済学(リコノミクス)」も反映されていた。

 例えば、三中全会の決定は、
 「企業が自主的に経営し、公平に競争し、消費者が自由に選択し、自主的に消費し、商品と生産要素が自由に移動し、平等に交換される」現代的市場の形成を急ぐ
ことや、
 「市場によって価格決定できるものは市場に委ね、政府は不当な介入を行なわない」
こと、
 「ミクロ的事柄に対する中央政府の管理を最大限に減らし、市場メカニズムによって効果的に調節できる経済活動はすべて審査・認可をやめる」
ことなど、市場に信頼を置いた経済改革を模索していた。

 当時発表された習総書記の一連の講話などをみると、反腐敗闘争や党建設を語るときとは違い、経済分野では独自のカラーを出すことなく
 「資源配分における市場の役割を強化する」
といった李総理の路線に沿った発言だった。

 だが、三中全会から2年余り経過したが、改革の必要性は絶えず強調されているものの、その歩みは遅くなっており、徐々に慎重な態度に変わりつつある。

 例えば、三中全会の決定では、
★.市場化の趨勢にあわせた国有企業改革を行い、
 市場に基づいた人員募集、
 自然独占業種企業の政府と企業の分離、
 現代的な管理方式の導入
などが提起されたが、
 昨年6月に出された「国有企業改革の深化の中での党の指導を堅持して党の建設を強化することについての若干の意見」と「企業の国有資産の監督を強化、改善して国有資産の流出を防ぐことに関する意見」は、改革派の主張するような
 「市場での競争に適応できる国有企業改革」ではなく
★.「国有企業を強くし、優秀にし、大きくする」
という伝統的基調であった。
 さらに国有企業における党の役割を強調したことから、市場志向の改革を期待していた人々からみると、改革からはやや後退したイメージを抱かせる内容だった。

 昨年11月に開かれた第18期五中全会は、「決定」の説明を国務院総理ではなく、党総書記が行った。
 これはこの35年で初のケースで、党が経済・社会発展の分野にもしっかり気を配っていくことを示すものとなった。

■習総書記が李総理の経済政策能力を疑問視?

 ここまで書いていくと、習総書記は「保守派」だという結論に達するが、必ずしもそうではない。
 習総書記は就任直後に広東省を視察して、改革開放をさらに深めるシグナルを発し、その他の場でも改革開放の必要性を強調している。
 さらに中央改革深化指導グループの頂点に立ち、中国共産党の進めている「改革の全面的深化」の陣頭指揮をとっている。

 では、なぜ李克強経済学が後退し、習近平経済学が注目されるようになったのだろうか。

 一部メディアでは、習総書記が李総理の経済政策立案能力に疑問を持っているため、自らが経済分野にも発言し始めたと伝えられている。
 その真偽はともかく、
 原因として考えられるのは、
1].一つは改革の条件がまだ整っていないため、急激な改革を断行すると、副作用が大きいことである。
 後で述べるが、現在の中国は市場経済に基づいた経済運営がなされているが、まだ成熟しているとは言いがたく、未成熟な段階で市場に信頼をおいた改革をおこなうと、秩序正しい経済運営が困難となる。

2].二つは既得権益の層の壁がまだ厚いため、なかなか改革が進まないことである。
 現在も反腐敗運動が続いていることを考えると、まだ長年にわたって形成された既得権益層がまだ一掃されておらず、党によるさらなる管理が必要であることを示している。

3].三つは、中国は社会主義であるため、マルクス主義経済学を重視する必要があるためである。
 李克強経済学は市場万能論に近く、そのもとでは、効率的な経済運営がなされるが、その一方で競争からはみ出た人々が出てくる。
 それは社会主義の原則にもとる。
 習総書記はマルクス主義経済学を重視しており、今後は社会主義的要素を増やしていくだろう。

 このような理由から注目されてきた習近平経済学。
 その中身はいったいどのようなものなのか。

■管理色を強めたとみえる
 習近平経済学の具体的特徴とは

 「習近平経済学(シコノミクス)」は徐々に注目を集めている言葉である。
 習総書記は過去の計画経済のような手法をとっていると見る向きもあるが、基本的には市場の役割を強化する第18期三中全会の路線を踏襲しつつ、独自のカラーも出している。
 その特色は「管理色の強い経済運営」ととらえられている。

 習近平経済学は初めから体系化されておらず、習総書記の経済関係の講話や発言から構築されたものである。
 習近平経済学の内容は次の五点であると筆者は考える。

1].第一は、「新常態(ニューノーマル)」である。
 この言葉は習総書記が2014年5月に河南省視察の際に初めて使った言葉で、同年の中央経済工作会議で提起された。
 その特徴は、
 高速度の成長から中高速の成長への転換、
 第三次産業、消費を主体とする構造改革の推進、
 投資に頼った成長からイノベーションによる成長への転換
である。
 「新常態」は現在の中国の経済政策関連の文書で必ず出てくる。

2].第二は、政府が「身を切る改革」を断行して、余裕の出た資金を必要とされている分野、つまり国民生活の改善などに振り向けるということである。
 これは習政権の進めている反腐敗闘争、節約励行に関係している。
 これは2014年度から「政府活動報告」「財政報告」でもよく述べられている。

3].第三に、「公有制経済を主体とし、非公有制経済を発展させる」という考えである。
 これはマルクス主義経済学に基づいた考え方で、民間企業は個人が資本を所有しているため資本主義的であり、国有企業は「みんなのもの」、つまり公的所有であって社会主義的であるというもので、中国共産党の一貫した考え方である。
 2015年11月23日、習総書記は中国共産党中央政治局集団学習会で、
 「公有制経済を打ち固め、発展させることはいささかも揺るぐことはない」
表明した。
 前出の国有企業改革の方針はこの考えに基づいている。

 非公有制経済について、今年の「政府活動報告」では、電力、電気通信、石油などの分野における民間企業の市場参入を奨励し、プロジェクト審査・許可などの面で国有企業と同等の待遇を受けられるようにすることを述べて非公有制経済が経済活動を行なううえでの環境整備を進めることを明確に述べている。

 さらに3月9日付けの習総書記の講話でも
 「公有制経済と非公有制経済は相互に補い合って成り立つものであり、相互に協力し合ってそれぞれの長所や役割を発揮させるものであり、排斥し合ったり、打ち消し合ったりするものではない」
と述べて非公有制経済の発展にお墨付きを与えている。
 このねらいは、非公有制経済との競争によって国有企業の体質改善をはかることにあると筆者は考える。

4].第四に、「見える手」と「見えざる手」をうまく結合させるという考えである。
 3月5日、習総書記は上海代表団に対し、
 「経済体制改革の核心は、政府と市場との関係を適切に処理することである」
と述べ、政府の機能転換によって審査・認可事項を減らす一方で、事中・事後の監督管理を強化することを主張した。
 習総書記は市場経済を発展させることは腐敗撲滅にも役立つと語ったことがあり、市場経済、つまり「見えざる手」は目的ではなく、手段としてとらえている。

5].第五に、供給側の構造的改革である。
 これは昨年の中央財経指導グループ第11回会議で初めて提起された言葉で、同年の中央経済工作会議で政策の基調となり、今年の「政府活動報告」に盛り込まれた。
 それは旧式の生産能力を淘汰し、企業にイノベーションを促し、企業の税・料金負担を軽減することである。

 今年1月、習総書記は、
 「現在および今後の一時期、わが国の経済発展を制約する要素は、供給側と需要側双方にあるが、主な問題は供給側にある」
と述べた。
 また、昨年の経済工作会議で習総書記は
 「戦略的には持久戦を堅持し、戦術的には殲滅戦をしっかりと戦う」
とも述べ、この取り組みは長期的なものであることを示唆した。

 以上が習近平の内容だが、これを一言でいえば、中国経済は新しい発展段階に入っており、それに適応するために諸改革を進めるが、その中で党が重要な役割を果たすというものである。
 昨年と今年の「政府活動報告」にも党の引き締めについても述べており、今後の改革において党による管理を強化することが予想される。

■まさに正念場の中国経済には痛みをともなう構造改革が必要

 昨年の中国の経済成長率は7%を下回って6.9%となり、これまで中国経済の発展を牽引役のひとつであった
 貿易の不振や、
 市場ニーズに合わない生産能力の存在、
 地方の債務問題、
 金融市場の潜在的リスク
などの要因もあって、今年度の「政府活動報告」も指摘しているように、中国の「発展が直面する困難はより多大に、試練はより厳しくなる」だろう。
 そのなかで、習近平経済学に転換した政権に課せられた課題は大きい。

1].まず、「痛みをともなう」改革を断行し、長期的発展につなげるということである。
 現在習政権は過去の政権が残した「負の遺産」を処理している。
 供給側改革が出てきた背景には、胡錦濤政権時にとられた4兆元にのぼる景気刺激政策がある。
 この政策により、多くの労働者が雇用され、景気回復に大きく貢献したが、その一方で、生産能力過剰問題という「副作用」が出てきた。
 過剰生産能力の淘汰の過程では、失業問題などが出てくるだろうが、このような「痛みをともなう」改革により、中国政府のいう「持続的発展」の基盤を築くことが必要だ。

 今年の全人代の「2015年度国民経済・社会発展計画の執行状況と2016年度国民経済・社会発展計画案」は、
 今年の経済成長率が6.5%を下回れば、それ以降はかなり高い成長率を維持する必要があると指摘しているが、
 6.5%にこだわって短期的な刺激策をとるのではなく、「痛みをともなう改革」の期間は、経済がやや停滞気味になるため、
 4~5%の成長率を視野におくほうが望ましいだろう。

2].次に、「秩序ある市場経済の発展」の環境を整えることである。
 第18期三中全会では、「秩序ある市場経済の発展」が提起され、四中全会ではそれを支えるものとして「法治国家の建設」が目標とされた。
 だが、昨年夏の株価暴落や財・サービス市場での取引の信義誠実の欠如などをみると、現在のところ、秩序ある市場経済の段階には達していないようだ。
 この目標が実現するまでは、急激ではなく漸進的な改革が必要だ。

3].さらに、競争ではじき出された人々への保障を十分に行なう必要がある。
 現在の改革は基本的に市場を手段としたものであり、それは必然的に二極分化を生む。
 その傾向を是正すべく、第18期五中全会でバランスのとれた発展を目指す「協調発展」「調和発展」の理念が提起され、今年の「政府活動報告」でもこの基調に基づいて、
 今年度は1000万以上の貧困人口の貧困脱却に取り組むことを明言した。
 また、中国政府は、過剰生産の解消の過程でリストラされた人たちへの再就職などの支援を行なうことも示唆しており、それがしっかりと実施される制度的基盤の構築が重要である。

 政府がイニシアティブを握って経済建設のレールを敷くのは、アジア諸国の経済発展の特徴だが、中国も他の国と同様、国家とりわけ党が指導的役割を発揮して経済建設を行なってきた。
 現在も党がイニシアティブを握って市場、とくに金融市場の整備を進めている。
 現在の流れからみると、党が強力な指導力をもって経済活動に介入するのは一時的なものとみられるが、いつまでそのような措置をとるかの見極めが重要となるだろう。

 全人代閉幕後の記者会見で李総理は、中国は持ちこたえる力があると言明したが、現在の中国はこれまで積み残された課題が多く、改革には痛みをともなうため、ここ数年の中国経済は楽観視できないだろう。
 構造的改革を進めていかに持続的発展の基盤を築いていくか、習近平政権の今後の取り組みにかかっている。



ロイター 2016年 03月 27日 10:52 JST 武者陵司
http://jp.reuters.com/article/column-forexforum-ryoji-musha-idJPKCN0WT006?sp=true

コラム:中国危機封じ込めで世界株高へ=武者陵司氏

[東京 27日] -
 年初の急激な世界株安を経て、主要国の経済政策運営は新たなステージに入った。
 端的に言えば、協調的危機対応だ。
 これによって、
 リスクオフの大元になっている中国危機の封じ込め
に成功すれば、世界株式が大きく反転上昇する可能性も高まってきた。

 前回のコラムで指摘したように、2016年の世界経済は、ナンバーワンのポジティブ(米国経済)と、ナンバーツーのネガティブ(中国経済)のバランス、綱引きによってどうなるかが決まる。
 1月と2月こそネガティブがポジティブに勝ったが、今後は勝敗が逆転しよう。

 米国経済は、15年12月の利上げ後も堅調な拡大を続けている。
 雇用の強さはあらためて指摘するまでもないが、消費も持ち直し、インフレ率も高まり、軟化していた製造業景況指数の復調も顕著である。
 また、賃金上昇圧力により労働分配率にも上昇の兆しが見られる。
 過去、労働分配率の上昇は景気の6合目あたりで起きており、この経験則に照らせば、米国景気後退シナリオが間違っていることは明らかだろう。

 1―2月に1万5500ドル付近まで急落したニューヨークダウ平均株価もすでに1万7000ドル台を回復している。
 15年5月19日に付けた終値ベースでの史上最高値1万8312ドルも年内に更新する可能性がある。

 日本株についても、現在1万6000―1万7000円付近で低迷する日経平均株価が年央までに1万9000―2万円台を回復し、中国の情勢次第では、年後半に向けて予想される大相場でアベノミクス後の最高値(2万0900円台)を上回る可能性もあると考える。

 このようなリスクオフからリスクオン相場への投資家マインドの転機は、後で振り返れば、2月末に中国・上海で開催された20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議だったということになるだろう。
 G20声明に盛り込まれた「為替レートの過度の変動や無秩序な動きは、経済及び金融の安定に対して悪影響を与え得る」との文言は、中国の政策自由度を大きく高めた。

 つまり、世界にリスクオフの毒をまき散らす人民元急落を防ぐためには、中国の資本規制も黙認されるということだ。
 これで、ジョージ・ソロス氏の中国ハードランディング発言などで勢いづいた投機筋の人民元売りも鳴りを潜めることになろう。

 9月4、5日には中国・杭州でG20首脳会議(サミット)が予定されている。
 国際社会に中国の国威を示す晴れ舞台で、面子(めんつ)を最重視する習近平指導部がいかなる成果を強調するかは目に見えている。
 強権的な手段も辞さない政策総動員で人民元相場の安定性を演出するのは必至だ。

 むろん、中国の問題は根本から解決されるわけではなく、緩慢な長期衰退が待ち受けているにすぎないが、中国危機が当面封印される可能性は大きく高まったと言えよう。

■<マイナス金利政策批判は的外れ>

 中国危機が封印されれば、日銀によるマイナス金利政策導入も、日本株にとって大きな追い風となろう。
 1月末の導入発表からほどなくして円高・株安にマーケットが一時急激に振れたこともあり同政策に対する世間の評価は低いが、私は、時間が経過するにつれて相当大きな効果を発揮していくと考えている。

 第1に、日銀当座資産からの資金の押し出し効果だ。
 確かに、量的緩和によるポートフォリオリバランスは、必ずしも当初の狙い通りに進展しているとは言えない。
 金融機関が得た国債売却代金はそのまま日銀当座預金に滞留してしまった。
 しかし、日銀当座預金残高の一部に対してマイナス金利が導入されたことで、滞留資金がいよいよリスク資産や貸し出しへと押し出されることが期待できよう。

 第2に、量・質・金利の3次元で緩和が可能になったことで、無限の弾丸を持つ日銀(金融政策)の威圧感が格段と高まることになった。
 欧州中銀(ECB)同様、必要とあれば、日銀はマイナス金利幅をさらに拡大していくことになろう。
 副作用を恐れない黒田日銀総裁の覚悟は、リスク回避的な市場参加者を追い落とし、マーケット心理を大きくリスクテイクに誘導していくことだろう。

 むろん、マイナス金利によって日銀当座預金から資金が流出すれば、マネタリーベースが縮小し、インフレ期待が弱まる恐れもある。
 よって、引き続き量の追求、すなわち国債購入額の増額も必要となる。
 その意味で、マイナス金利と量的緩和はペアで効果を発揮していくと見ている。

■<超過利潤の背景に「新たな生産性革命」>

 ところで、金融緩和に対して懐疑的な論者たちに、もう1つ言っておきたいことがある。
 それは、主要国の中央銀行が前代未聞の金融緩和を推し進めている理由だ。
 私は、その背景に、各国中銀が直面する未曽有の金融困難があると考えている。

 ここで、トマ・ピケティ氏の著書「21世紀の資本」で有名になった不等式「r>g」を思い出していただきたい。
 「r(リターン=利潤率)」が「g(グロース=経済成長率)」よりも高く、それゆえに格差が拡大しているという議論だ。

 実は、この不等式は、中銀の金融困難を説明するうえでは不完全だ。
 正しくは「r1>g>r2」だと私は考えている。
 r1は利潤率、つまり企業の儲け、r2は金利・利子率、つまり企業の資本コストである。

 教科書的な経済の普通の姿では、利潤率と利子率は連動すると考えられ、実際そうだった。
 景気拡大に伴い、企業の収益が向上する時には当然ながら金利は上がる。
 しかし、今起こっているのは、両者の極端な乖(かい)離である。

 企業は大儲けしているが、儲かったお金を再投資できなくて遊ばせ、金利が下がっている。
 利潤率は市場価格ベース(株式益回り=利益/株価)で見ても、簿価ベース(ROE=利益/株主資本簿価)で見てもほぼ8%と高いのに、長期国債利回りは日本でマイナス、ドイツやフランスで0%台、米国でも1.9%台と異常に低い(3月25日時点)。

 こう話すと、悲観論者からは、それは資本主義が退廃しているからであり、その退廃している経済実態に対してマネーを供給すればバブルをあおるという主張が聞こえてきそうだ。
 しかし、私は、まったく別の見方をしている。
 この状況は資本主義の進化であり、新たな産業革命がもたらした生産性向上によって、企業が著しい超過利潤を獲得しているという見方だ。
 補足すれば、
 IT化とグローバリゼーションの進展によって、
空前の生産性向上が起こり
1].労働投入、
2].資本投入
の「必要量が著しく低下」しているのだ。

 このように見れば、量的緩和政策やマイナス金利政策は、市場に存在する経済のスラック(余剰)を有効に稼働させる適切な政策ということになる。
 むろん、必要な政策は金融緩和だけではない。
 確かに、主要国は最近、金融緩和に偏り過ぎていた感はある。
 今後は、緩和的金融政策を維持しつつも、機動的な財政政策や税制改革、所得分配是正策を打つなど、余剰資本の有効活用を促す政策総動員がますます求められていくことになろう。

 その意味で、上海G20声明は正しい方向だと考える。
 経済のスラック解消に向けた総合的マクロ政策が今後、主要各国でとられるならば、長期経済繁栄と長期株高も見えてくる。
 逆にスラックを放置する政策がとられれば、資本は安全資産に逃げ込みデフレと株式暴落が引き起されるだろう。
 政策選択が決定的に大切である。

*武者陵司氏は、武者リサーチ代表。1973年横浜国立大学経済学部卒業後、大和証券に入社。87年まで企業調査アナリストとして、繊維・建設・不動産・自動車・電機エレクトロニクスなどを担当。その後、大和総研アメリカのチーフアナリスト、大和総研の企業調査第二部長などを経て、97年ドイツ証券入社。調査部長兼チーフストラテジスト、副会長兼チーフ・インベストメント・アドバイザーを歴任。2009年より現職。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。
*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。



現代ビジネス 2016年03月28日(月) 週刊現代
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/48219

ウソで固めた「中国経済」大崩壊
〜空前の倒産ラッシュ、
各地で発生する「報道されない暴動」
新築マンションはガラガラ、借金自殺100万人……

年に10日間しか開かれない中国の国会は、「茶番国会」と言われてきたが、今年はやや様子が異なる。
中国人も、さすがに自国の経済がヤバいと思い始めたからだ。
中国はタイタニック号なのか——。

■ついに幹部が刺殺された

 「社長は出てこい!」
 「オレたちに賠償金を払え!」
 中国南部の江西省にある「共産党革命の聖地」井岡山の麓で、春節(2月8日)の大型連休明けに暴動が起こった。
 拳を振り上げたのは、地元の鉄道用鉱山で働く約500人の工員たちだ。
 この人たちは、いわゆる「春節倒産」に遭った。
 連休中に社長一家が夜逃げしてしまったのだ。
 怒った工員たちは鉄パイプなどを振り回し、警備員や公安(警察官)の制止を振り切って、会社内に押し入った。
 そして金目のものを根こそぎ奪い取ると、最後は市役所を取り囲んだのだった。
 このような「報道されない暴動」が、中国全土で起こっている。
 中国経済は、大変なことになってきているのだ。

 そんな動乱をよそに、3月5日から16日まで、北京の人民大会堂で、年に一度の全国人民代表大会(全人代=国会に相当)が開かれ、中国全土から集まった2890人の代表(国会議員)たちが連日、舌戦を繰り広げている。
 現地で取材しているジャーナリストの李大音氏が語る。

 「例年はシャンシャン国会になるのですが、さすがにこれだけ中国経済が傾いてくると、中国経済は早晩、崩壊するのではないかという不安や追及の声が上がっています。
 特に、批判の矢面に立たされているのが、経済分野の総責任者である李克強首相です」

 李記者によれば人民大会堂では、「李克強首相がまもなく解任される」という噂が、まことしやかに流布しているという。

 「今回の全人代の開幕に先がけて2月22日に、中国共産党中央政治局(トップ25)会議が、中南海(中国最高幹部の職住地)で開かれました。
 全人代の進行や決議内容などを決める重要会議です。
 その会議で習近平主席が、『経済をうまく処理できない幹部は、どんなに地位が高かろうが、立ち去ってもらう』と断言したのです。
 習主席の脳裏にあるのが李首相であることは、話を聞いていた誰もが察しました」

 全人代開幕前日の3月4日、国営新華社通信は、王みん前遼寧省党委書記(省トップ)を、「重大な紀律違反により調査中」と発表した。
 遼寧省は、昨年のGDPの伸び率が、全国31地域の中で最悪の3・0%だった。
 遼寧省の人民代表大会では、陳求発省長が、同省の惨状を、次のように述べている。

 「わが省のGDPは、過去23年で最悪で、PPI(生産者物価指数)も43ヵ月連続で下降した。
 なぜこんなことになったかと言えば、企業の生産コストが上がり、一部業界と企業が経営困難に陥り、技術革新は追いつかず、新興産業は育たず、サービス業の発展は停滞し、地域の発展は不均衡で、財政収入は悪化し、財政支出は増え、国有企業は経営が回復せず、民営企業は発展せず……」

 遼寧省の省都・瀋陽に住む日本人駐在員が証言する。

 「街には失業者が溢れ、消費がまったく振るわず、次々に工場が閉鎖されています。
 3000社来ていた韓国企業も、撤退ラッシュですっかり影をひそめています。
 瀋陽の企業の納税番付で、2位に3倍以上の差をつけてダントツのBMWの工場が撤退する時が、790万瀋陽市民が路頭に迷う日と言われています。
 日系企業も昨年、日野自動車の大型バス工場が撤退し、いまや200社を切ろうとしている。
 日本人駐在員同士で会っても、撤退と縮小の暗い話ばかりです」

 同じく、遼寧省の大連駐在の日本人経営コンサルタントも証言する。

 「2月8日から始まった春節の大型連休が明けると、700万都市の大連は、倒産ラッシュに見舞われていました。
 従業員たちが戻ってきても、会社がなくなっている。
 それで失業者たちが市の中心街でデモを起こしたり、浮浪者と化してたむろしたりしていて、不穏な雰囲気が漂っています」

 3月6日には、遼寧省に隣接した吉林省遼源市の経済開発区トップだった孫慶安同市政協副主席が、エレベータに乗ったところを襲われ、メッタ刺しにされて殺害された。
 そのニュースが伝えられると、凶行に賛同する書き込みが相次いだ。

〈死ね、死ね!〉
 〈奴隷たちが起ち上がったぞ!〉

■習近平はもうキレている

 3月5日に始まった全人代では、初日から「失速する中国」を象徴するような「異変」が起こった。前出の李記者が続ける。

 「全人代のオープニングを飾る李克強首相の『政府活動報告』は、2015年の活動回顧に始まり、今年から始まる第13次5ヵ年計画の概要を説明しました。
 そして第3部の2016年の重点活動に移ったとたん、李首相の額に脂汗がしたたり始めたのです。
 聴衆たちは何事かと見守っていましたが、李首相は苦しいのか怒っているのか、30ヵ所以上も読み間違えました。
 特に驚愕したのが、『習近平総書記の一連の重要講話の精神を深く貫徹して』というくだりを、習近平ではなく、思わず自分が一番尊敬している『鄧小平』と口走ってしまったのです。
 その瞬間、壇上で聞いていた習近平主席は、鬼のような形相になりました」

 1時間53分に及んだ演説を終えた李克強首相は、全身がわなないているようだった。

 首相が「政府活動報告」を終えると、横に座った国家主席とガッチリ握手するというのが、全人代の昔からの慣わしだ。
 だが習近平主席は、苦虫を噛み潰したような表情で、李首相を完全無視して立ち去ってしまった。

 「ここからにわかに、『李克強首相解任説』が飛び交うようになりました。
 そもそも、就任した3年前には『李総理』と呼ばれていたのが、習近平主席に頭を押さえつけられて仕事が減ったため、2年前に『李省長』(省は日本の県に相当)というニックネームがついた。
 それが昨年は、『李県長』(県は日本の郡に相当)に変わった。
 今年また、『李村長』という新たな呼び名が登場したら、いよいよ'18年3月の任期を待たずしてクビでしょう」(同・李記者)

 李克強首相が演説の中で、最も汗だくになっていたのが、次のくだりを読んだ時だった。

 〈生産過剰の問題を解消していく。
 鉄鋼、石炭などの業種は、新規参入を食い止め、淘汰を推進する。
 そして「僵屍企業」(ゾンビ企業)を積極的に処理していく。
 そのために、中央政府は1000億元(約1兆7300億円)の補助金予算を取って、労働者の適切な移転を促す〉

 中国経済の分析が専門のRFSマネジメントのチーフエコノミスト、田代秀敏氏が解説する。

 ゾンビ企業の最たる業種が、石炭と鉄鋼です。
 これらを1年で処理すれば、約180万人の雇用が失われます。
 かつて日本は炭鉱の閉山に、半世紀弱もの長い年月をかけて、約20万人の雇用を切っていきました。
 それを中国は、たった1年で180万人も切ろうとしている。
 そのため、暴動など激しい抗議に発展するのも当たり前です。
 それで李首相は、演説で述べたように1000億元の予算を出すというわけですが、このうちどれだけ失業者への補償金になるのか不明です。
 むしろ、さらに激しい反発や抗議となるのではと危惧します」

前出の李記者も語る。

 「中国経済がここまで悪化したのは、
 一言で言えば、
 基幹産業をすべて牛耳っている1100社あまりの国有企業が、経済発展のお荷物になっている
からです。
 そこで李首相は、'13年3月に就任した当初、国有企業を市場化し、多元化(民営企業と同待遇)し、民営化していく計画を立てた。それを反故にしたのは習近平主席です。
 習主席は昨年8月、
 国有企業を200社から300社に統合し、それらをすべて『党中央』、すなわち自分が完全に指導するとした。
 つまり国有企業の利権を独り占めすることで、独裁体制を敷こうとしているのです。
 21世紀の世にこんなことをやっていて、経済がよくなるはずがない」

■借金は300兆円

 民主国家ならば、政府がこのような「暴挙」に出れば、メディアが警鐘を鳴らし、国民も政府を支持しなくなるだろう。
 ところが社会主義国の中国では、そうはならない。

 「習近平主席は2月19日、中国中央テレビ(CCTV)、国営新華社通信、党中央機関紙『人民日報』の3大メディア本社を回り、『メディアは軍と並ぶ党を守る両剣だ』と説いて回ったのです。
 この言葉に、記者たちはいきり立っていますが、メディア業界にも粛清の嵐が吹き荒れていて、批判記事を出せば即刻逮捕されます。
 少し前に『人民日報』が、
 『PM2・5(大気汚染)が深刻化して分かったのは、われわれ庶民も習近平主席も同じ空気を吸う最高の平等社会が到来したことだ』
と書きました。
 こんな意見が『公式見解』と化しているのです。
 いまでは記者たちは、中国のことを自虐的に『西朝鮮』と呼んでいるほどです」(前出・李氏)

 2月28日、「中国のトランプ」というニックネームの不動産王・任志強氏のブログが、「違法情報を流した」として閉鎖された。
 任氏は歯に衣着せぬ発言で知られ、ブログのフォロアーは3700万人(!)と、ケタ違いの人気を誇っていた。
 同日夜、
 〈人民政府は一体いつから党政府になり変わったのだ?〉
 〈メディアが党に服従し、人民の利益を代表しないのなら、人民は捨て去られ遺棄されるだろう(悲)〉
と書いたところで、当局の手入れが入ったのだった。

 3月7日、中央銀行にあたる中国人民銀行は、中国の2月の外貨準備が3・2兆ドルで、前月よりも285・72億ドル減ったと発表した。
 昨年11月から今年1月にかけて、毎月平均1000億ドル近く減っていたのに較べればマシだが、それでも減少が止まらなかったことで、市場はショックを受けた。

 そんな中、人民代表大会で3月7日、注目された楼継偉財政部長(財務相)の記者会見が行われ、内外の記者数百人が集結した。

記者:
 「今年の政府債務予定額は17兆1800万元(約300兆円)にも上り、これは昨年末時点の政府債務16兆元よりかなり多い。こんなに借金を増やして、そのリスクをどう考えているのか?」

楼部長:
 「赤字が拡大すれば国債を発行するのは国際常識ではないか。
 経済が回復して赤字が減れば、国債の発行も減らしていくだけのことだ。
 中国の財政収入はGDPの約3割で、政府債務はGDPの約4割だ。
 いずれも他国に較べて、健全財政を保っている」

 元経産省北東アジア課長で、中国経済の専門家である津上俊哉氏が解説する。

 「中国の財務省にあたる財政部の大臣の発言とは思えないような内容です。
 普通なら、『財政赤字は増やせない』と発言するのが財政部長のはずだからです。
 国民の不満増大に怯える中国は、景気の下支えを手厚く行いたいが、その余地は限られている。
 しかも下支えを行えば行うほど、過剰債務解消や景気の底打ちが先に延びてしまうのです」

■次々と粛清されていく

 翌3月8日、中国税関総署が、
 「2月の輸出額は前年同期比25・4%減、輸入額は13・8%減だった」
と、深刻な統計を発表すると、全人代の会場にも、ため息が広がった。

 北京市代表の一人である方新・元中国科学院党委副書記は、
 「サーキット・ブレーカーなどという非科学的なやり方で経済を運営しているからだ」
と、勇気ある発言で政府を批判した。
 サーキット・ブレーカーというのは、証券用語で、平均株価にあたる上海総合指数が前日比で5%下落したら、市場を閉鎖するという新制度だ。
 今年1月4日の年初から導入したが、この制度自体が株式暴落を誘発し、わずか4日で取りやめとなった。
 その後、証券業界を指導する中国証券監督管理委員会の肖鋼主席が「戦犯」扱いされて、2月19日に電撃解任された。

 戦犯と言えば、国家統計局の王保安前局長も同様だ。
 王局長は1月19日、「昨年のGDPの伸びは6・9%だった」と胸を張った。
 だが中国メディアからも、「本当は5%以下では?」と突っ込まれ、1週間後に「重大な嫌疑により」失脚してしまったのである。

 「6・9%という数字は、昨年3月の全人代で李克強首相が『7%前後の成長』を確約してしまったため、やむなく国家統計局が〝能力を発揮した〟のです。
 実際には4%台後半だったというのが、多くの専門家たちの分析です」(同・李記者)

 王局長はその時、
 「昨年末時点での売れ残り不動産面積は、7億1853万m2で、前年比で1億m2近く増加した」
と発表。
 恐るべき「鬼城」(ゴーストタウン)の実態を明らかにした。

 この事実に青ざめた習近平政権は、マンションの在庫を減らすため、「頭金ゼロ」でもマンションを売るよう指導を開始した。
 すると今度はこの1ヵ月で、大都市のマンション価格が急騰する事態に陥ってしまった。

 少額の資金で多額のマンションを買う、いわゆるレバレッジが急増している現象は、'08年のリーマンショック前のアメリカでサブプライムローンが隆盛したのと瓜二つである。
 前出の田代氏が続ける。

 「習近平政権は、構造改革を一気呵成に成し遂げようとしています。
 しかしそれによって中国経済は、極めて不安定になります。
 そして中国経済が不安定になれば、世界経済全体が不安定になる。
 中国は1950年代に、拙速な経済発展を目指した『大躍進』に失敗し、3年飢饉を招いた。
 そしてそれが伏線となって、文化大革命という内乱が10年も続いた。
 当時の中国は世界経済とは隔絶されていたので、ただの中国問題でしたが、いまや世界第2の経済大国であり、世界に及ぼす影響は甚大です」

 まさに世界経済をぶっ壊しかねない中国経済。
 この巨大な風船が膨張して割れる前に、世界がこの困った巨竜を、何とかしないといけない。

「週刊現代」2016年3月26日・4月2日号より


ロイター  2016年 04月 14日 08:23 JST
http://jp.reuters.com/article/china-steel-idJPKCN0XA0A2?sp=true

アングル:中国の鉄鋼過剰生産、解消までの長い道のり

[北京 13日 ロイター] -
 中国の鉄鋼メーカーが国内の需要低迷を背景に安い鉄鋼を大量に輸出、海外メーカーを脅かしている。

 国際社会は中国政府に余剰生産能力の削減を求めているが、
  共産党は社会不安を恐れて対策に及び腰で、削減には長年を要する可能性がある。
 共産党指導部に近い筋は
 「(製鉄所の)閉鎖は一日にして成らず。(社会の)安定が最優先課題だ」
と述べた。

 景気減速で多くの鉄鋼メーカーが多額の赤字を出し、輸出に活路を見出している。
 2015年の鉄鋼輸出は過去最大に上り、世界の鉄鋼価格が数十年ぶりの安値に下落する主因となった。

 インド鉄鋼大手タタ・スチール(TISC.NS)は、中国製を含む安い輸入品の大量流入が原因で、英事業の一部売却を決めた。
 ドイツでは4万人を超える鉄鋼労働者が11日、中国からの輸入製品安売りなどに抗議する街頭デモを行った。

 クリントン前米国務長官は同日、
 「中国がわが国の市場に安い製品をダンピング(不当廉売)してルールを破るなら、責めを負わせる」
と、批判の声を強めた。

■<悪循環>

 公式データによると中国の鉄鋼生産能力は年間11億トンだが、アナリストの推計では、あと1億トンが違法生産されている。
 公式統計では、余剰生産能力は年間3億─4億トンに上り、
 昨年の輸出は過去最大の1億1000万トンと、英国の年間鉄鋼生産量の約10倍に達した。

 余剰生産能力の大半は、2009年に政府が実施した景気対策で鉄鋼需要が急増した結果、生まれたものだ。
 中国は2月、5年以内に1億─1億5000万トン分の古い生産施設を閉鎖すると宣言。
 しかし政府は失業と社会不安を最低限に抑えたい意向で、生産能力は高止まりしそうだ。
 現在も新たな工場が稼働を始めているのが現状で、中国鉄鋼工業協会(CISA)は、生産能力はことしさらに増えると予想している。

 CISAの幹部は、既存の製鉄所は価格が少しでも上がると生産を増やすという「悪循環」にはまっていると指摘。
 生産増加、価格切り下げによってライバルを蹴落とす競争が繰り広げられていると説明した。

 政府は大手10社に生産能力の60%を集中させる目標を掲げたが、これも裏目に出ている。
 中規模の製鉄所は他社に飲み込まれるのを避けようと、事業拡張に精を出すようになったからだ。

■<地方政府の抵抗>

 李克強首相は11日、余剰生産に切り込む意向をあらためて示した。
 しかし中央政府の計画は、地方政府の強い抵抗に遭っている。
 地方政府は大量の失業者が出る可能性と、膨張を続ける鉄鋼メーカーの債務に脅えて「ゾンビ」製鉄所を支援し続けているのが実情だ。

 中国労工通信のコミュニケーション・ディレクター、ジェフリー・クロサール氏は、
 「製鉄施設の閉鎖は地域全体の閉鎖を意味する。
 だから政府としては、廃業に追いやって終しまい、というわけにはいかない」
と述べた。

(David Stanway記者)



Record china 配信日時:2016年4月14日(木) 19時20分
http://www.recordchina.co.jp/a133217.html

欧州鉄鋼業の危機は中国が原因?
=ドイツで4万人規模のデモも、
中国駐英大使は「中国の方が危機は大きい」と因果関係を否定

 2016年4月13日、欧州の鉄鋼業が中国の影響で苦境に立たされているとの論調に、環球時報は、
 「欧州鉄鋼危機は中国が原因?
 中国駐英大使は『中国はさらに大きな苦境に見舞われている』と発言」
と題し伝えた。

 中国の低価格な鉄鋼製品が自国の鉄鋼業を苦境に立たせているとして、11日にはドイツ・デュースブルクで1万7000人近い鉄鋼業従事者がデモを行った。
 デモはドイツの金属産業労働組合(IG Metall)が組織したもので、規模はドイツ全体で4万5000人に達するという。
 主催者側は中国の低価格商品に対し自国政府に対応策を講じるよう求めている。

 英国でも同様の見方があり、中国の低価格な鉄鋼製品が自国の鉄鋼業を窮地に追いやっているとの声が少なくない。

 こうした声に劉暁明(リウ・シアオミン)中国駐英大使は英紙デイリー・テレグラフに寄稿した11日の文章で、
 「英国鉄鋼業の低迷と中国の鉄鋼製品輸出に因果関係はない」
と述べた。
 劉大使は、
 「英国が中国から輸入している鉄鋼製品は、数量や金額共に輸入全体のほんの一部に過ぎない。
 中国は近年鉄鋼の生産を縮小しており、今後も縮小傾向が続く。
 これにより100万人規模の雇用問題が生じる。
 中国鉄鋼業の危機は英国より大きい」
と語っている。

 劉大使の文章は欧州全体に向けたものと捉えられており、一部で理解を示す声も聞かれたが、英国では依然として
 「中国が鉄鋼製品を過剰に生産したため輸出が激増し、世界全体の鉄鋼製品価格を引き下げた」
と世界の鉄鋼業に大きな影響を与えたと指摘する報道が見られている。


サーチナニュース 2016-04-06 10:05
http://news.searchina.net/id/1606635?page=1

減少を続ける日本の対中投資、
中国に危機感はあるのか

 中国が中低速ながらも安定した成長を目指す「新常態(ニューノーマル)」の時代を迎え、経済成長が鈍化するなかで、日本の対中直接投資が減少を続けている。

 中国商務部によれば2015年における日本の対中直接投資は前年比25.2%減となり、日本の対中直接投資は3年連続での減少となったが、
 日本からの投資が減少している中国には危機感はあるのだろうか。

 中国メディアの新華社はこのほど、中国社会科学院の関係者の話として、
 「日本の対中投資の変化を多角的かつ客観的に見るべきだ」
と伝え、中国が経済構造の転換に成功すれば、日本の対中投資は再び伸びるはずだと論じた。

 記事は、日本の対中投資が減少している背景には、中国国内における人件費の上昇や経済成長率の鈍化、さらには円安といった要素があることを指摘。
 また、日本は投資先や対象を変化させており、現在は北米に積極的に投資していると主張したほか、投資対象としても製造業よりもむしろ金融や資源に積極的に投資していると伝えた。

 中国に一極集中で事業や投資を展開するのではなく、中国のカントリーリスクを回避することを目的に、中国以外の国にも投資を行う戦略は「チャイナ・プラス・ワン」と呼ぶが、中国はコスト優位を失ったことで日本企業が「チャイナ・プラス・ワン」を進めていると指摘。一方で、中国が現在、製造業や投資が成長をけん引する構造から、サービス業や消費がけん引する構造へと転換を進めていることを指摘したうえで、
 「中国経済の転換が成功し、外資への市場開放が進めば、日本企業の対中投資は再び増加する見込み」
と期待を示した。

 対中投資を減少させているのは日本だけでなく、韓国も同様だ。
 中国の地方政府の関係者は日本企業からの投資を呼びこむために訪日しているとの報道もあり、地方においては経済成長や雇用の確保のためには、まだ外資の力が必要としていることが見て取れる。


サーチナニュース 2016-04-23 06:32
http://biz.searchina.net/id/1608139?page=1

日本のみならず韓国まで
・・・対中投資が減少、その理由は=韓国華字紙

 中国商務部によると、日本の対中投資が近年、大幅に減少を続けている。
 2014年における日本の対中投資は前年比「38.8%減」、
 15年は「25.8%減」だった。
 日本企業が中国から他国へのシフトを進めていることが分かる。

 韓国メディアの亜洲経済の中国語電子版はこのほど、韓国銀行が21日に発表した報告書を引用し、韓国の15年における対外直接投資は増加したものの、対中投資は減少したと指摘し、
 「世界金融危機のぼっ発後としては初の減少となった」
と報じた。

 韓国の対外直接投資が増加するなかで、対中投資が減少していることは韓国企業も中国から他国へのシフトを進めていると言えそうだ。
 15年における韓国の直接投資のうち、米国や東南アジアやEU、日本、中南米などへの投資も増加したものの、対中投資については大きく減少した。

 韓国の対中投資が前年割れとなるのは世界金融危機が発生した08年以降、7年ぶりとなった。
 中国はこれまで外資を積極的に導入することで成長を続けてきたが、日本のみならず、韓国の投資も減少していることが明確となった。

 記事は、LG経済研究院の関係者の話として、対中投資は全体的に減速傾向にあると指摘したうえで、
 「中国は人件費が上昇したことで、かつてのコスト優位が失われている」
と伝えている。

 中国がこれまでのコスト優位という強みを失うと同時に、東南アジア諸国がコスト優位を確立するなかで、中国政府が目指す製造業の高度化は果たして間に合うのだろうか。
 中国ではすでに労働集約型の製品を作っていた工場を中心に淘汰が始まっており、残された時間は決して多くはない。



【2016 異態の国家:明日への展望】


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