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WEDGE Infinity 日本をもっと、考える 2016年03月30日(Wed) 岡崎研究所
http://wedge.ismedia.jp/articles/-/6422
米国のハイテクすぎる近未来戦の全容
要旨は次の通り。
■先進的“超強力兵士”製作に奔走する米国
ほとんど注目されていないが、
米国防総省は、ロシアや中国を抑止し得る、新奇な武器を追求している。
国防総省の当局者は、
ロボット兵器、
ヒューマン・マシン・チーム、
先進的「超強力兵士」
を作るための、
人工知能や機械学習の最新ツールの利用を公然と語り始めている。
当局者たちは、こうしたハイテクシステムがロシア軍や中国軍の急速な発展に対抗する最善策であると言う。
ワーク国防副長官とセルヴァ統合参謀本部副議長へのインタビューで、これらの革命的な米兵器システムについて説明を受けた。
数か月前までは軍の最高度の秘密研究だった内容である。
ワークは
「ハイテクは我々の戦闘ネットワークを強化する。
ロシアと中国に十分な不確実性を与え、両国が米軍と戦うことになった場合に、核を使わずに打ち負かすことができるだろう」
と言っている。
■超ハイテク技術が対中露抑止力回復に資する
国防総省内では、このアプローチは、「第三の相殺戦略」として知られている。
それは冷戦中にソ連の軍事的進歩に対抗した
二つの相殺戦略(第一は戦術核、第二は精密誘導通常兵器)に倣うものである。
同省は、
第三の相殺戦略は、高性能のロボット兵器が、ロシアと中国の技術発展により損なわれている抑止の回復に資する、
としている。
国防総省の2017年度予算には、
★.米海軍への中国の長距離攻撃に対抗する先進的兵器に30億ドル、
★.潜水システムの向上に30億ドル、
★.ヒューマン・マシン・チーム及びドローンの「群れ」による作戦に30億ドル、
★.人工知能を用いるサイバー及び電子システムに17億ドル、
★.ウォーゲームその他の新たなコンセプトに基づく実験に5000万ドル
などが含まれている。
オバマ政権は、
米国の最善の戦略は技術という最大の長所を用いることだと結論付けたようである。
ロシアと中国にメッセージを送る意味もある。
ワークは
★.ロシアを「甦る大国」
★.中国を「長い戦略的チャレンジとなり得る潜在的な技術力を持った台頭国」
と表現している。
カーター国防長官は、予算教書において、「戦略的戦力室」による、小型カメラとセンサーを用いたスマート兵器、超高速発射体を用いたミサイル防衛システム、高速で抗堪性の高いドローンの群れ、などの研究を紹介した。
ワークは、インタビューで、長さ1フィートに満たないマイクロ・ドローンPerdixを見せてくれた。
ペンタゴンは、将来はこうしたドローンを組織的に用いる戦闘を考えている。
ウクライナとシリアの戦場で、ロシアの能力が明らかになっている。
今回のインタビューやその他の公開の発言で、ワークは、自動化された戦闘ネットワーク、先進的センサー、ドローン、対人兵器、電波妨害機器を含む、ロシアの軍事的前進ぶりを挙げている。
ワークは
「我々の敵は高度なヒューマン・オペレーションを追求しており、それは我々を大いに震いあがらせる」
と警告している。
出典:David Ignatius,‘The exotic new weapons the Pentagon wants to deter Russia and China’(Washington Post, February 23, 2016)
https://www.washingtonpost.com/opinions/the-exotic-new-weapons-the-pentagon-wants-to-deter-russia-and-china/2016/02/23/b2621602-da7a-11e5-925f-1d10062cc82d_story.html
* * *
第二次大戦後の米国の軍事的優位を支えたのは、米国の技術の優位でした。
技術の優位は競争相手国の努力により、次第に弱まります。
近年ロシアの軍事技術が著しく高まり、また、中国は20年にわたる軍事予算の大幅な拡大により軍事力を飛躍的に高めました。
このように米国の軍事的優位が脅かされるに至ったので、「第三の相殺戦略」でその優位を再確立しようとしているのです。
■最先端のハイテク技術でも技術優位には限界
「第三の相殺戦略」の柱はハイテクです。
ハイテクは湾岸戦争で明らかなように「第二の相殺戦略」の柱でもありましたが、さらに最先端のハイテクを駆使しようというのが「第三の相殺戦略」です。
具体的には、
★.統制された多数のロボットの編隊(陸上及び海上)、
★.小型レールガン(電磁誘導により音速の7倍で弾丸を発射)、
★.より小型の高性能爆弾、
などです。
レールガンは従来の高価な迎撃ミサイルに代わって、敵のミサイルの迎撃にも有効とされます。
「第三の相殺戦略」は、中国に関しては、A2/ADに対抗するものとしても考えられているといいます。
「第三の相殺戦略」は、中ロに対する米国の軍事的優位を再確立する重要な戦略であり、米国にとってのみならず、日本を含め同盟国の安全保障にとっても肝要です。
しかし、「第三の相殺戦略」による米国の軍事的優位がどのくらい続くかという問題があります。
中ロはこれに対抗するため必死の努力をするでしょう。
技術優位はいずれ弱まるものですが、とりわけ、最近ではサイバー攻撃による技術の窃取があります。
特に「第三の相殺戦略」の柱である最先端のハイテク技術の一部は軍・民両用のいわゆるデュアル・テクノロジーであると言われます。
米国は国防省のみならず、民間企業もサイバー攻撃に対する備えを万全にする必要があります。
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ニューズウイーク 2016年4月10日(日)14時37分
http://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2016/04/post-4871.php
自動運転の米「ロボット軍艦」が試験運航へ、
中ロに対抗
5年以内には西太平洋やペルシャ湾で無人艦隊が活動か
●4月7日、米軍は、敵の潜水艦を探知する目的で試作された自動運転による軍艦の進水式を行った。米オレゴン州で撮影(2016年 ロイター/Steve Dipaola)
米軍は7日、敵の潜水艦を探知する目的で試作された自動運転による軍艦の進水式を行った。
中国とロシアの海軍増強に対抗する米軍戦略の中核である無人戦の大きな進歩を示すものだ。
「シーハンター」と呼ばれるこのプロトタイプは、全長約40メートルで武器は装備していない。
グーグルの自動運転車の軍艦バージョンのようなもので、
搭乗員や遠隔操作なしで1度に数カ月間、海上を巡航できるよう設計されている。
有人の艦船にかかる費用の何分の1かで、このような運航期間と自律性を備えた潜水艦探知の軍艦を造れるというのはかなり効率的である。
「これは転換点となる」とワーク米国防副長官はインタビューで述べ、
「われわれが初めて建造した完全なロボットによる、海洋横断可能な艦船だ」
と語った。
また、5年以内にこのような軍艦を西太平洋に派遣できることを期待していると述べた。
ワーク副長官のような国防総省の政策立案者にとって、シーハンターは、ますます自律性の高まる無人機を、従来の陸海空軍力に組み込むという戦略と合致するものだ。
米政府内ではちょうどこの時期、潜水艦隊を含む中国の海軍増強をめぐり、西太平洋で米軍の優位を保つうえで決定的に重要な空母戦闘群と潜水艦の脆弱(ぜいじゃく)性に関する懸念が高まっていた。
「対潜水艦(技術)に取り組んでいるのは、中国とロシアがこの分野で進歩を遂げていることを大いに懸念しているからだ」
と、米シンクタンク、ニューアメリカ財団の無人戦専門家で作家のピーター・シンガー氏は指摘する。
ワーク副長官は、シーハンターが安全だと証明されれば、日本に駐留する米海軍第7艦隊に派遣し、試験を続ける可能性に触れた。
ワーク副長官の目標は、人による監視を制限した状況下で、シーハンターのような艦船を対地雷作戦のような任務をも含むさまざまな作戦につかせることだという。
「5年以内に、西太平洋やペルシャ湾で無人艦隊が活動するのを見たい」
と同副長官は語った。
シーハンターの価格は約2000万ドル(約21億7600万円)で、
1日当たりのコストは1万5000─2万ドルとなる見通しだが、これは米軍にとっては比較的安い水準だという。
「有人の場合にかかる費用のほんのわずかな額で、このような資産を今では持つことができる」
と、米海軍の無人戦システムの責任者であるロバート・ギリア少将は語った。
■交通ルール
米国防総省高等研究計画局(DARPA)が開発したシーハンターは、海上における国際的な基準を安全に守ることができるかを確認するなど2年にわたり試験される。
何よりもまず、他の艦船を避けるためにレーダーとカメラを確実に使えるかをチェックする。
2つのディーゼルエンジンを搭載したシーハンターは、最高速度27ノット(時速50キロ)のスピードを出すことが可能だという。
自律性の高まる艦船や航空機の出現によって、一部の専門家や活動家の間では、人を脅威と認識し殺害しかねない武装したロボットシステムについて懸念する声が高まっている。
オレゴン州ポートランドで行われたシーハンターの進水式で、ワーク国防副長官は今後、同艦に兵器を搭載する可能性について明らかにした。
ただし、たとえ米国がシーハンターのような海軍ロボットシステムに武器を配置する決定を下したとしても、殺傷力の高い攻撃の決定は人が行うと強調した。
「このような艦船を恐れる理由は何もない」
と、ワーク副長官は記者団に語った。
(Phil Stewart記者 翻訳:伊藤典子 編集:下郡美紀)
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東洋経済オンライン Reuters 2016年04月14日
http://toyokeizai.net/articles/-/113473
米軍「歩兵ハイテク化戦略」の気になる中身
失敗続きの情報武装、三度目の正直なるか
米軍は最前線の兵士に最新装備を支給する新戦略「スクワッドX」を発動した。
陸軍や海兵隊の部隊を、電子制御された新兵器やスマートフォン式の通信機器、簡単に使えるロボットで支援しようというものだ。
国防総省の国防高等研究計画局(DARPA)でスクワッドXを担当しているクリストファー・オルロウスキー陸軍少佐によると、このプログラムは索敵の強化や、迅速かつ正確な反撃を可能にするのが目的だ。
スクワッドは12人前後で構成される最小単位の部隊を指す。
徒歩で移動する際はライフルや手榴弾のほか、機関銃や無線機を携行。
複数が集まって大部隊になると、輸送車両や重火器、長距離の通信機などを装備する。
■巨費をつぎ込んで2度失敗
2013年発動のスクワッドXは現在、構想の段階であり、具体的にどういった技術や機器を使うかは今後決める。
米軍が1990年代以降に数十億ドルもの税金をつぎ込んだ
歩兵のハイテク化は、技術的な問題から2度にわたり失敗
した。
DARPAは過去との違いを強調しているが、今回成功するかどうかについて、米国民は懐疑的にならざるを得ない。
★.第1弾として1993年に発動された陸軍の「ランドウォーリアー」プログラムの装備は、
無線機やウェアラブルコンピューター、そして頭部に装着するディスプレイなどで構成されていた。
ディスプレイが表示する位置情報は、地上や空中だけでなく、宇宙にまで展開している敵と味方の戦力をリアルタイムで教えてくれるため、兵士は戦闘の状況を完全に把握できる、はずだった。
陸軍はランドウォーリアーの装備を数セット開発するのに15年の月日と約5億ドルを費やした。
そして2007年、この装備を支給された歩兵部隊が、戦闘でのテスト運用目的でイラクに派遣された。
しかし、この装備は不評だった。16ポンド(約7.3キロ)の重量があったのに加え、1990年代に開発されたプロセッサーとソフトウエアは、2007年時点の水準からすると処理が遅すぎたのだ。
「こんなものをつけたら動きが鈍くなり、格好の的になる」との声も出た。
国防総省は2007年になってようやくランドウォーリアーを事実上撤回して
★.「ネットウォーリアー」というプログラムを2010年に発動。
ウェアラブルコンピューターなどをスマホに切り替えた。
今度はスマホ画面に各人の位置が表示され、戦友にテキストメッセージも送れるというものだった。
しかし、ランドウォーリアー同様、無線通信の遅延により戦友などの位置は正しく表示されなかった。
それは耐え難いレベルだった。
この装備の調達に数百万ドルを費やした陸軍は今もなお、ネットウォーリアーの欠陥を修正する努力を続けている。
国防総省がスクワッドXで使用する機器などは未定だが、同省公表のコンセプトを見れば、どのような装備を求めているのか推測はできる。
想像図では、兵士が従来と変わらないように見える自動小銃から、目的を追尾する小型の誘導弾を発射している。
自動運転の軍用車や低空で監視を行うドローン、
兵士の前方を偵察するヒト型ロボットなども登場する。
ただ、これらの兵器は実験が始まったばかり。
戦場への配備が可能になるには、あと数年はかかりそうだ。
こうした想像図はまるでSFのようだが、まったく非現実的というわけでもない。
★.第一の課題は装備の軽量化だが、民生用の電話やカメラや無線機やドローンの小型軽量化は日々進んでいるので、少なくともこの点は解決可能だろう。
★.次の課題はネットウォーリアーでも改善されなかったデータ通信遅延の回避だ。
この点については、カバー範囲は狭いものの電力消費は少ないなどの長所を持つ通信機器を採用する方針だ。
■ドローンを衛星の代わりに
スクワッドXは、従来とは違い、全地球測位システム(GPS)使用を前提としていない。
ロシアや中国、イランなどの各国がすでに、GPSの電波を妨害する技術を持っているため、戦場で無効になる可能性があるからだ。
その代わり、ドローンに無線の中継機能を持たせることで兵士やロボットの間の局地的な通信を可能にして、部隊内の連携を強化するとしている。
歩兵のハイテク化で失敗の悲運を重ねた国防総省が「3度目の正直」を望んでいるのは明白だ。
DARPAは4月下旬にバージニア州で、スクワッドX向け機器を製造する企業を選定するための会合を開く。
前線の部隊に実用性のある新技術を今度こそ配備できるかどうかは、そのうち明らかになる。
デービッド・アックス氏:
軍事関連メディア「War Is Boring」の編集者で、ニュースメデイアの「Daily Beast」にも定期的に寄稿している。この記事は同氏個人の見解に基づいている。
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ロイター 2016年 05月 11日 11:53 David Axe
http://jp.reuters.com/article/pentagon-aircraft-idJPKCN0Y202I?sp=true
コラム:米国は「Xプレーン計画」で空の覇者に返り咲くか
●5月6日、米国防総省の国防高等研究計画局(DARPA)のアーティストが考案した新たな垂直離着陸機(VTOL)Xプレーン・フェイズ2のデザイン。DARPA提供(2016年 ロイター)
[6日 ロイター] -
あたかも空中で何十年も行方不明の状態だった米政府は、ようやく最新鋭の実験航空機を建造するビジネスに復帰した。
これは最先端航空機の境界線を広げるものだ。
これにより、米国はハイテク航空宇宙開発において長らく輝いてきた世界のリーダーとしての称号を取り戻すことができる。
この肩書きをめぐっては、ロシアと中国が現在、猛烈に競り合っている。
次世代の実験航空機「Xプレーン」は、民間と軍の航空技術を大きく進展させる可能性があり、ひいては米国の軍事力だけでなく、米経済を押し上げるものとなるだろう。
これは航空宇宙分野での科学実験に相当する。
新たなアイデアやハードウエアを試すための「Xプレーン」飛行が多ければ多いほど、軍と業界は、より早く量産型の航空機についての詳細な計画を練ることができる。
また、「プログラム・オブ・レコード」として知られる、軍や民間の大きな飛行機計画と関連する必要さえない。
「それはもっと柔軟だ。
所定のシステムや成果にこだわる必要なく、実験によって様々な状況を調査することができる」
と米空軍の退役空軍中佐のダン・ワード氏は指摘する。
「独立した試作機には大きな計画に必要となる諸経費が要らないため、より安上がりで、納期までの必要時間を短縮できる」
と語る。
ワード氏は「The Simplify Cycle: A Field Guide to Making Things Better Without Making Them Worse(原題)」の著者でもある。
Xプレーン計画で主導的な役割を担うのが、米航空宇宙局(NASA)と米国防総省の国防高等研究計画局(DARPA)だ。
共通する目標は、早急に比較的安価な実験機を多く製作することと、それらをテストして、軍や民間航空セクターが採用すべきを新技術を決めることだ。
米航空大手ノースロップ・グラマンのケビン・ミッキー副社長は1月、「パラダイム・シフトについて聞いている」と米防衛専門誌ナショナル・ディフェンスに語った。
「DARPAがXプレーンについて話し、米海軍が緊急能力について話しているのを聞いたことがある」
DARPAだけで、少なくとも2機のXプレーンに従事している。
★.1つは「ライトニングストライク」と呼ばれるハイブリッド機で、回転翼と、太くて特大の翼内部に搭載した24の小型エンジンによって、ヘリコプターのように離着陸し、飛行機のように巡航することができる。
★.もう1機は、XS─1「スペースプレーン」で、強力なエンジンと先端的な構造材料によって、少なくとも音速の5倍の速さで飛行できる。
小型人工衛星を軌道に載せるため、大気圏上層部の端にまで上昇することも可能だ。
これらのXプレーンはどちらも軍事用に転換できる。
米国防総省は、滑走路を必要としない、
垂直離着陸が可能な新型の回転翼機を求めている。
通常機同様に敏速で長い飛行が必須となる一方で、耐久性や操縦の安全性も必要だ。
国防総省が現在保有している唯一のハイブリッド機は、
ティルトローター機「V─22オスプレイ」
で、ヘリコプターと飛行機の要素を兼ねる。
しかし同機は過去30年の開発期間中、信頼性と安全性の問題で悩まされてきた。
例えば昨年5月、V22が着陸する際に、エンジンが砂を吸引したため、ハワイで墜落事故を起こしている。
乗員2人が死亡し、20人が負傷した。
DARPAは最近「ライトニングストライク」Xプレーンの小型ロボット版を建造するため、バージニア州の航空宇宙会社オーロラ・フライト・サイエンシズと契約した。
機体の長さが13.4メートルとなる試作機は、2018年に初飛行が予定されている。
DARPAの航空部門を率いるアシシュ・バガイ氏は、設計者にとって、実験機は困難だがやりがいのあるものになると予想する。
「その他にも重要なリスクがある。
統合された翼や小型ロケットエンジン、電子飛行、回転翼、過作動コントロールシステムのそれぞれのパフォーマンスなど、これらはすべて、新技術が新たな能力を発揮するために極めて重要だ」
と同氏は語る。
「私たちは、すでにある飛行機の焼き直しを設計・開発するためにいるのではない」
遠隔操作のXS─1「スペースプレーン」によって、軍は多くの人工衛星を速く、そして安く打ち上げることが可能となる。
各機を何度も宇宙に飛ばすことができるので、宇宙船を軌道に載せるために使用する一回限りのロケットにかかる法外な費用を削減することができる。
DARPAは4月、ボーイング、ノースロップ・グラマン、マステン・スペース・システムズという業界大手がそれぞれ主導する3つの業界チームに声を掛けて、「技術的な実現可能性と方法を評価」した。
DARPAは少なくとも1つのチームを選定して、試作機を製作し、2020年までに試験飛行をする予定だ。
NASAのXプレーンは、さらに幅広い用途を対象にしている。
こうした新型機向けの年間予算が10億ドル(1090億円)増えることを期待して、NASAは2月、Xプレーンを少なくとも3機建造する10カ年計画を提案した。
その1つが「ブレンデッドウィング」の設計で、米空軍のB─2ステルス戦略爆撃機によく似た「空飛ぶ翼」だ。
NASAは、従来機よりも、その翼が静かで燃費が良いと推定。
商業用旅客機向けに提案されたジェット機は、航空業界にとって年間何億ドルもの燃料費削減を可能とする一方で、二酸化炭素排出量や騒音も大幅に削減できる。
NASAはまた、超低燃費の亜音速機をテストするためのXプレーン1機を設計している。
つまり、音速よりも遅く飛行するが、現在の機よりも低コストで低排出だ。
開発中の3機目のXプレーンは、超音速の商業用ジェット機で、現在の社用ジェット機と同じ大きさと快適さを誇り、速さは2倍になる可能性がある。
「航空の変革を加速するこの10カ年計画によって、米国は今後何年間も航空分野で世界のリーダーとしてのステータスを維持できる」
とNASA航空部門のジャイウォン・シン副長官は声明で述べた。
ある意味では、こうしたXプレーンは、米国がかつて放棄した、航空界での支配的な立場を回復するのに役立つ可能性がある。
Xプレーンの専門家で、「The Big Book of X-Bombers and X-Fighters(原題)」を執筆したスティーブ・ペース氏は、こうした動きの背景を説明する。
「1950年から53年の朝鮮戦争は、米空軍のリソースを枯渇させた。
そして大規模な補給が重要となった。
この空白状態を埋めるために、多くの新たな最先端の軍用機が設計され、建造されなくてはいけなくなった」
とペース氏は述べた。
冷戦時代に国防総省とNASAは、数多くのXプレーンを建造。
それらは、ロケットエンジンを搭載した超高速機や、数え切れぬほどの小さな違いを有する従来型ジェット戦闘機や爆撃機、そして1950年代に進められた事実上の空飛ぶ円盤、つまり、垂直離着陸式の「プロジェクト1974」もあった。
しかし、1990年代初頭のソ連崩壊と冷戦終結が、米政府を安全保障に関する誤った意識へと導いたようにみえる。
Xプレーン開発はほとんど急停止に追い込まれた。
NASAはいくつかの実験用の宇宙飛行機の応用研究をしたが、最後の試みは、1980年代に開発された、珍しい前進翼のデザインを持ったX─29だった。
先端技術の翼設計は、より強力な操縦可能性をもたらすものだったが、安定性に欠けていた。
NASAは飛行制御を改良したが、1991年に試験を止めた。
一方、米軍はB─2やF─22、F─35などのステルス戦闘機を含む、少数の実戦用軍用機を、大量生産をにらんで選択し、Xプレーン計画をほぼ放棄した。
その間、ロシアと中国は独自の先端的な宇宙航空計画を進めていた。
ロシアは、独自のステルス戦闘機を生産し、B─22に似たレーダー回避型爆撃機の開発を始めた。
そして、極超音速に資金を投入した。
中国は過去5年にわたり、2つの新型ステルス戦闘機の試作機をデビューさせ、少なくとも、もう1つの試作機開発にも取り組んでいると報じられている。
中国もまた、DARPAの宇宙往還機に似た、少なくとも2つの極超音速機の実験を行っている。
中国製J─20戦闘機の試作機が西側に公開された数週間後の2011年1月、当時の米海軍中将で、海軍情報局局長だったデビッド・ドーセット氏は、中国の開発は特に米国防総省を驚かせたと認めている。
前述のペース氏は
「2000年代初頭から、中国とロシアの航空機メーカーがもたらした進歩は、文字通り、米軍機構を覚醒させた」
と語る。
「非友好的な空軍に対処するには、新型で先端的な戦闘機を急いで築かないといけない。
それは、そう遠くない未来に必要になるだろう」
しかし、米政府は現在のXプレーン計画を、ただ単にロシアと中国の開発に対する直接的な反撃とはとらえていない。
むしろそれは、米国の宇宙航空業全体に新たな息吹を注入する、幅広い試みの一環と考えられている。
過去に起きたように、より革新的な宇宙航空セクターが、必然的により先端的な旅客機や戦闘機へとつながることを、米政府は期待している。
米政府の視点からみれば、ロシアと中国に先んじることは、1つの副作用だ。
それがたとえ重要なことであっても。
*筆者は軍事情報サイト「War Is Boring」の編集者で、ニュースサイト「Daily Beast」に定期的に寄稿。またWIREDのウェブサイト「Danger Room」や雑誌「Popular Science」にも執筆している。最新のグラフィックノベルは「Army of God: Joseph Kony’s War in Central Africa(原題)」。
*本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています。
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【2016 異態の国家:明日への展望】
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