中国の外交は「押し」一辺倒のスタイルを持つ。
外交とは「ここは押して、ここは引いて」という駆け引きで落とし所を探る作業である。
ということは、
「中国は外交を知らない」
ということになる。
自らを中心に考える中華外交では周辺国はすべて朝貢国になる。
盟主は常に中国で、他者はすべて中国に従う臣下にすぎない。
この考えの基本には
圧倒的武力によって周囲を従える
という明快な思想がある。
よって、いま
「引くことを知らない中国」
という表現があてはまるなら、
今の中国は圧倒的武力を保持していている、ということになる。
その自信が、「引かない中国」を演出しているのだろう。
ただ、そういう中華的な考えが通じるのは地政学的には周辺国のみであり、グローバル化した世界ではアナクロニズムになってしまう。
中国を塞ぐように立っている日本は中国の軍事力にほとんど脅威を感じていない。
人は日本の後ろにアメリカがいるから日本は強気だと見ている。
しかし、日本は中国でタイマンで自衛できるだけのものを持っているという自信がある。
だから、中国に強力に対峙している。
そのあたりに中国外交の限界があるように思える。
日本すら抑えられないのに、中華外交が聞いて呆れるということになってしまう。
この辺が中国のジレンマであろう。
「ナゼ、日本は中国に屈っしないのか?」
というのが、中国の永遠の疑問になってしまう。
中国観光客が世界で場違いな行動をとって顰蹙を買うように
中国政府の外交も顰蹙を買う程度のレベルにしかない、
ということになる。
まだ、中国は国際外交を演じるにはキャリアが足りないということなのだろう。
相手も立場を考慮しながらゲームを進めるという、国際外交の基本が理解されていないということなのだろう。
成金の懐を狙って周囲の国は揉み手で中国に擦り寄ってくる。
それを自らを盟主とする中華外交と見間違えている。
「金の切れ目が縁の切れ目」
になる可能性が大きい。
その時は皆がソッポを向く。
中国は「金の切れ目」をつくらないようにすることが強いられている。
重い荷物を背負ってしまっている。
『
JB Press 2016.3.8(火) 川島 博之
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/46239
引くことをまったく知らない中国の残念な行く末
食料生産の歴史から見た中国政府の“気質”とは
個々の中国人はそれほど悪い人ではない。
付き合いやすい人も多い。
中国人を友人として持つ人も多いだろう。
しかし、中国政府を見るとその発言や行動は途端におかしくなる。
自分に都合のよい理由だけを並べ立てて非を認めない。
一度言い出したら絶対に譲らない。
現在、南シナ海で生じていることを思い浮かべれば、その異常さはすぐに納得できる。
個人はよいのだが、政府となると極めて付き合い難い相手に変身する。
なぜ、こんなことになるのだろう。
不思議に思う人も多いはずだ。
ちょっと穿った見方になるかも知れないが、筆者が専門とする食料生産の観点からこのことを考えてみたい。
■中国の特異性
人類が食料を生産する方法は大きく3つに分類できる。
遊牧、畑作、コメ作である。
日本はコメ作の国である。
一方、モンゴルなど中央アジアの国々は遊牧によって食料を生産してきた。
南ヨーロッパでは畑作が盛んだった。
一方、寒冷で畑作だけでは十分な食料を確保できなかった北ヨーロッパでは、畑作と遊牧がまじりあった有畜農業が発達した。
中国には2つの食料生産方式が併存する。
黄河流域を中心とした華北は畑作。
長江流域を中心とした華南はコメ作。
インドでもガンジス川流域と南部の東側がコメ作、その他は畑作と2つのタイプの農業行われている。
だが、インドがその歴史において現在のような1つの国であったことはない。
常にいくつかの国に分かれていた。
そのような目で見ると、長い歴史を持つ国で、同じ国の中に2つのタイプの農業が存在したのは中国だけである。
中国の政権は常に北にあった。
主な王朝の都は、
秦が咸陽、前
漢と唐は長安、
北宋は開封、
明(当初は南京)、
清、中華人民共和国は北京
である。
全て黄河流域。
長江流域に都を置いたのは南宋(臨安)、中華民国(南京)だが、そのいずれも弱い政府であり、短期間で滅びた。
中国を統治する王朝は黄河流域に都を置く。
第1には中国の北には遊牧民が暮らしており、度々その襲撃を受けたからであろう。
襲撃を防ぐために万里の長城を作った。
都を北に置いて国を守る気概を示さなければ国を保てない。
そんな理由もあったと思う。
だが、もっと重要な理由があった。
それは「南船北馬」という言葉に言い表されている。
北は乾燥しており馬が交通手段になる。
一方、南は河川や水路が多いから船での移動。
ここで、鉄砲が発明されるまで騎馬軍団が最強の軍隊であったことを忘れてはならない。
中国は西域やモンゴルからやって来る騎馬軍団に苦しんだ。
華北に住む人々は度々騎馬軍団と対峙してきた。
そのために、自分でも騎馬軍団を操れるようになった。
中国を最初に統一した王朝は秦であるが、秦は当時の中国のテリトリーの西端に位置しており、騎馬戦にもっとも慣れ親しんでいた国であった。
畑作地帯に住む人々が騎馬民族の軍事技術を取り入れて強くなった。
その結果、中国を統一することができた。
■2300年間、力で支配し続けてきた
畑作地帯に住む人々と水田地帯に住む人々は気質が異なる。
水田地帯では水管理が重要になるが、河川から水田に水を引く作業は1人ではできない。
村人との協力が必須になる。
そして、河川や水路が堀の役割を果たすから外敵に襲われる危険性が少ない。
また水田は生産性が高いから食料に困ることもない。
そんなわけで、水田地帯の人々の意識は村の中に集中する。
他の地域を征服しようとは思わない。
一法、畑作地帯では水は雨によってもたらされるから、水管理において隣人と協力する必要はない。
だから自分勝手が許される。
そしてどこまでも地続きだから、突然、馬に乗った軍団が押し寄せてくる可能性がある。
また水田に比べて生産性が低いから、食料が不足することも多い。
中国の政権はそんな畑作地帯に作られた。
政権を作った人々は南の水田地帯から食料を収奪した。
中国ではこのようなことが秦の始皇帝以来2300年間にわたり行われてきた。
同じような食料生産方式を持っている人々なら、少々の違いはあっても、その気質は似ている。
だから、率直に内情を語り合って妥協も可能になる。
一方、中国では長い期間にわたって、畑作地帯に拠点を構えた政府が南の水田地帯をあたかも植民地のように扱い、食料を収奪するシステムが続いてきた。
そんな中国では、北に作られた政府が一度出した命令を撤回することはない。
話し合いによって妥協点を探ることもない。
強引に支配するだけである。
これが中国政府の習い性となった。
いくら厚顔無恥と言われても、たとえ間違っていても訂正などしない。
全ては力によって解決する。
「由らしむべし知らしむべからず」に代表される儒教は畑作文化の影響を強く受けている。
■妥協することを知らない
そんな中国である。
政府が高圧的、厚顔無恥であることには長い歴史がある。
昨日今日始まったことでない。
共産党が悪いからあのような態度に出るわけではない。
共産党政府が瓦解して新たな政権が出現しても、その政権が力を持てば相変わらず高圧的かつ厚顔無恥な態度を貫くであろう。
中国の行動様式は2300年の歴史が規定している。
だから、あれこれ言っても始まらない。
中国政府が自分の行動様式を恥じて、そのやり方を改めることはない。
隣人である日本はそのつもりで付き合って行くしかない。
常に高圧的姿勢で国内を統治してきた中国は、外国との交渉でも強硬姿勢を崩さない。
周辺の小国に朝貢を迫るときはよいが、18世紀の終わりから19世紀かけてイギリスと対峙した時には、高圧的な姿勢を貫いたために失敗してしまった。
それは中国の近代化が遅れた理由の1つである。
今また南シナ海の問題などで米国と対立し始めたが、
妥協を知らない中国政府のやり方は、
相手が強い時には裏目に出る可能性が高い。
巨大な中国を見る時には、一つひとつのことに目くじらを立てて怒るより、より長期的な視野を持つことが大切である。
イギリス人は妥協の天才と言われる。
だから小さな島国に住みながら世界を制覇することができた。
それを考えれば、中国が世界を支配できないことは明らかであろう。
妥協を知らない強硬な態度を貫けば必ず失敗する。
織田信長ではないが、“高ころび“するに決まっている。
』
『
JB Press 2016.3.8(火) 横地 光明
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/46221
習近平がヒトラーに変貌する日への備えは万全か
「ミュンヘンの宥和」が大惨事に発展したことを忘れるな
●成長し成熟するサイバー犯罪の世界、ランド研究所が報告
仏パリ(Paris)西部のムードン(Meudon)で行われたハッキングのコンテスト「ステリア・ハッキング・チャレンジ(Steria Hacking Challenge)」に参加する学生〔AFPBB News〕
■米紙の衝撃的報道
JBpressは最近立て続けに尖閣諸島をめぐる日中交戦に関し、
「衝撃のシミュレーション『中国は5日で日本に勝利』」(1.27部谷直亮氏)、
「オバマ政権最期の今年、中国は尖閣を攻撃する」(2.3古森義久氏)
なる驚くべき記事を報じた。
前者は米ランド研究所のデヴィッド・シラパク氏の尖閣事態シミュレ―ション公開リポートの紹介である。
「日本の右翼が尖閣に上陸すると中国海警が逮捕し海警と海保が衝突、
日中の艦艇・軍用機が展開し中国艦の空自機への発砲から日中交戦が始まり、
米潜水艦が中国艦を撃沈すると中国は米国西部をサイバー攻撃、また対艦ミサイルで海自艦艇を撃沈、
中距離ミサイルで日本本土を攻撃。
米国は日本の空母参戦と中国本土基地攻撃要請を拒否し、中国は5日間で尖閣を占領」
とその内容を伝えた。
後者は28.1.25付ウォール・ストリート・ジャーナルに掲載された米ハドソン研究所のルイス・リビー氏らの論文『北京の次の先制行動は東シナ海だ』(Beijing’s Next Gambit, the East China Sea ;By Arthur Herman and Lewis Libby)に関するもの。
「中国は日本と密接な関係を持ちながらも
突然尖閣に軍事行動を開始し両国の軍事衝突になる。
オバマ政権は日米安保発動の日本の強い要請を抑え日本は引き下がり外交的解決を求めるが、国際調停で中国の主張がより支持され尖閣領有権主張が日中対等に扱われることになる」
との主張とそれへのコメント記事。
これに対し、元航空自衛隊空将の織田邦男氏は、ランド研究所のリポートについて「あまりにも稚拙なシミュレーション」と批判(本誌2.4)する。
「そんな前提はあり得ない。
米が潜水艦を参戦さても中国が軍事行動を停止せず、米国がサイバー攻撃で大きな社会混乱を起こされても参戦しないはずがない。
近代戦を支配する航空戦に少しの配慮もなく話にならない。
これらは米政府にあまり深入りするなとの警告を促すものであり、あるいは中国の思惑を入れての仕業(コミットメント・パラドックス)である」
と主張し大方の賛同を得ているようだ。
確かにその可能性も高い。
しかし、中国が米空母2隻の行動でミサイル発射を中止(1996年:台湾総統選挙)したのはまだ対艦ミサイルを十分保有しなかった時代のことで、現在の米中の相対的力関係とは著しく違っている。
中国の軍事力を少しでも過小評価するようなことは危険である。
前者が海自の撤退収容で終わるのは、あたかもベトナム戦争の最期を見るようだし、後者には、アドルフ・ヒトラーによるチェコスロバキアのズデーテン地方割譲要求を認めた「ミュヘン宥和」の歴史的愚挙を想起させられた。
こうした歴史を振り返れば、中国が日本と通常の関係を保ちながらも突然短期局部的軍事行動を仕かけることは十分考えられる。
米国はその尖閣攻撃事態発生に対し、大統領を含む政府高官が「尖閣は安保5条の適用範囲で米国は日本を必ず護る」としばしば公約している。
しかし、実際にはミュンヘン宥和のような事態が発生する恐れはないだろうか。
もし、尖閣諸島が中国から攻撃された場合、米国は自らの国際的信頼性が一気に地に落ちることを承知で、日本の要請を抑えて中立を守り、日本本土が中国の中距離ミサイルで大被害を受けても、空母を大西洋に逃がしたり、国際調停で中国の尖閣領有権の主張を認めたりする可能性は否定できない。
現実問題として、中国が尖閣諸島に対して本格的侵攻を行う危険性はそれほど高くはないかもしれない。しかし、前者のシミュレーションは地位の確立した専門家のものであり、後者の論文はブッシュ政権の国防次官補らによる論文で「最善を期待し最悪に備える」べき安全保障の原則からして軽々しく扱ったり無視していいものではない。
米国は尖閣諸島防衛を公約していても軍事支援を発動しないことがある。
国家防衛に強い意志と能力を欠くものは見捨てられるという国際政治の非情さを忘れてはならない。
政府も国民も等しく短期的局部的な中国の軍事行動はいつでもあり得ることを覚悟し「自分の国は自分で守らなければならない」現実に目覚め、その指摘する日本の安全保障上の根本的欠陥是正の警鐘を真剣に受け止め、すみやかにこれらを改善しなければならない。
■尖閣防衛には何が必要か、彼らの警告
政府は尖閣事態に対する米国の公約履行の確証を高めるべく施策するとともに、防衛省・自衛隊は尖閣事態に対しこれを抑止・対処するため、南西方面を防衛努力の焦点としてその対応を急いでいる。
例えば
陸上自衛隊では、島嶼奪還部隊のための水陸両用部隊の整備、
与那国島への沿岸監視隊、
石垣島への対艦・対空ミサイル部隊と警備部隊の配置、
奄美大島への対艦・対空部隊配置、
「オスプレイ」の導入、
作戦部隊の軽快な輸送展開のための師団・旅団の軽量化
を進めている。
海上自衛隊はイージス艦2隻の迎撃ミサイル「SM-3」の装備化と2隻の新造、
潜水艦6隻の増加を図る計画
である。
また航空自衛隊は既に九州から1個飛行群を那覇に移し第82航空隊の部隊と合わせ第9航空団を新設し「F-15」を倍増し40機体制とした。
海上保安庁も保安官・巡視船を増加し石垣島に尖閣海域監視専任部隊を設けた。
しかし彼らが指摘しているのは、そのような戦術レベル次元を超えて戦略レベルあるいは国家安全保障レベルの欠陥なのである。
すなわちこの論文とシミュレーションが指摘する
最大の問題は、再言するが中国は予期しない時に突然軍事攻撃を仕かける
ことがあり、その場合米国は予ての国家公約(オバマ大統領や国防長官や軍高官の発言)にもかかわらず尖閣事態に軍事支援を避けることがありうるという深刻な問題だ。
第2次世界大戦を誘発してしまった「ミュンヘン宥和」が尖閣諸島を舞台に再現されないと誰が断言できるだろうか。
中国の習近平国家主席がヒトラーのような野望を抱いていないと確信できるのだろうか。
日本がもっぱら米軍に期待している抑止力を欠き、我が国本土までが一方的に中国のミサイル攻撃に晒され、またそのサイバー攻撃によって社会インフラ、政官軍経のシステムが機能を失う危険性は常に念頭に置いておかなければならない。
またこれらのリポートは、作戦部隊の作戦輸送展開と戦力発揮のためこれ支援さるための兵站的支援確保に信頼性が乏しく、加えて航空基地などに掩体(えんたい=敵の砲弾から身を守る土嚢などの装備)が全くなく甚だ脆弱であることも指摘している。
中国が容易に兵を動かすのは、国境における短期的攻撃がインド(1959、62)、ソ連(69)とベトナム(79)の例でも知られる。
インドとソ連の両国は敢然と戦いこれを阻止したが、ベトナムは海上戦力が弱く西沙諸島では固有領土の島嶼を軍事占領された。
中国は核大国のソ連とさえダマンスキー島で戦い半分を領有化(1969)した。
決して油断できる相手ではない。
日本が尖閣諸島を絶対に守り抜く強い意志と現実的態勢を示し中国に乗ずる隙を与えず、またいかに日米安全保障条約の信憑性を確立するかが問題である。
しかし今日までの施策ではその保証は薄弱で抜本的見直しが必要である。
そして諸々の形骸的防衛政策を刷新することも不可避である。
■日米安保条約信憑性の確立
中国が尖閣に武力攻撃をすれば、米国は日本の救援に必ず必要な武力を行使する姿勢が確信されれば、核大国同志の米中の戦いは最終的には核戦にも繋がる恐れがあり、ともに国家の存非のリスクを懸ける決意しなければならないので、両者の武力対決は強く抑止されよう。
したがって平素からいかに米国が日本に対する中国の武力使用に対して、不退転の決意で日本防衛に参戦する不動の意図をコミットするばかりでなく、日米の現実の関係と軍の態勢と活動を示すことによって中国に誤解を生じさせないかが肝要になる。
しかし、この論文などが示すように日米は、いまだ真の運命共同体ではない。
一般米国民の世論のみならず政権当事者も、無人の岩礁の日中の争いになぜ米国の青年の血を流さなければならないかと考えるのは当然だ。
そして、仮に中国がアジア・西太平洋を支配しても、ハワイ以東を支配できれば米国の安全は保障され経済繁栄に支障はないとの意見もある。
米国の国力の相対的衰退と現在進行中の大統領予備選挙からも米国政治の内向き傾向がさらに強まることが容易に観察できる。
日米同盟信憑性の確立は容易でない。
しかしやらなければならない。
第1は尖閣諸島の持つ日本・ASEAN(東南アジア諸国連合)・米国にとっての至高な戦略的価値と安全保障上の象徴性を米国政府と国民に一層認識させる努力だ。
第2には日本自身が米国にとって失い得ない国際戦略上の大きな価値を持つことだ。
強い経済力・外交力に加え強い防衛力を構築し、アジア・太平洋の安全保障にしぶしぶ関与するのではなく、覚悟を持って積極的に先導し、米国を巻き込みASEAN・豪・ニュージー-ランド・印と共に中国の国際法侵害対処に行動しなければならない。
これはちょうどヒトラーの修正主義の領土拡大の野望を前にし、英国が米国を巻き込み現状維持派の諸国に訴え国際情勢を指導したのに似ている。
■抑止目的達成のための政策の刷新
我が国の防衛政策の第1はもちろん抑止である。
しかしながらその実態は抑止のための能力を整備しないばかりか愚かにもそれを機能しないような政策ばかりを進めている。
具体的に示そう。
古くは鳩山一郎総理の時代から
「我が国に対して誘導弾等による攻撃が行われた場合、
座して自滅を待つべしというのが憲法の趣旨とは考えられない。
――(したがってその)誘導弾等の基地を叩くことは法理的に自衛の範囲に含まれる」(衆院内閣委S31.2.29)
との一貫した立場を取りながら、
「我が国防衛力は周辺諸国に脅威を与えてならない」とし「専守防衛」を政策の基本にしている。
この「専守防衛」なる軍事用語は世界にないが、
「侵攻を受けたら立ち上がり、防衛力の行使を発動し日本を防衛するとするものである」
とされる。
このため戦闘機の行動半径を抑えるため態々その空中給油装置を外したたり、対地攻撃能力の保有を禁止し、ミサイルの射程を厳しく制限してきた。
このため、日本への侵略を考える周辺国は日本の持つ防衛力に脅威を感ずれば感ずるだけその企図が封ぜられ即ち抑止されるのに、その脅威をなくし、加えて不意急襲的第一撃で自衛隊の各基地の航空機、護衛艦が一挙に壊滅させられる公算を大きくし、かえって相手を侵攻の誘惑に駆り立てる危険性を高めている。
したがって、抑止を政策の基本とするならば、
敵に乗ぜられない隙のない強靭な防衛力を備え
周辺に無言に厳然たる脅威を与え、
特に強力なサイバー能力を整備するとともに、
我が国を攻撃する基地を破壊できるよう航空機の對地攻撃能力を整備し、
かつ中国や北朝鮮の中距離弾道弾攻撃基地を叩き得る誘導弾を整備
しなければならない。
こうした論議に対して、日本が中距離誘導弾(弾道あるいは巡航)を持っても、奥地からさらに長い射程のミサイルで国家中枢を狙われ、その攻撃の意図を封ずることはできない。
したがって中国の中距離ミサイルに対抗せんとするのは誤りであるとする説がある。
しかしその考え方は、戦争はいつどんな場合でも無限界に全面戦争に拡大するとして、戦争にあるラダ―(ladder:堺域)の存在を無視するものである。
また中国はミサイルの射程を増大すればするだけ、ますます日・米・豪・インドなどが結束してその対抗施策を講ずることを危惧しし、中国が最近、ミサイル開発を抑えようとしているとする主張がある。
しかしそれは自説の合理性を裏づけようとする一方的理屈ではないのか?
それが事実であれば、中国のアジア西太平洋から米国勢力を駆逐せんとする意図を放棄した明確な証左や、南シナ海における領有権争いのある岩礁を埋め立てて造成した軍事基地を放棄するなどの確たる事実でこれが証明されなければならない。
しかもリスクが高い侵害ほど発生の蓋然性は少なく、その大きい蓋然性のあるリスクに備えることに合理性が有り、日本が中距離ミサイルを保有する大きなメリットを忘れてはならない。
この中距離ミサイルを、我が国で独自に開発国産化するには、相当の期間と経費を投入しなければならない。
しかるに幸にも、米海軍にはトマホーク巡航ミサイル(射程1250、1650、2500、3000キロの各種、価格1億円前後)があり、海自艦はその発射装置VLS(MK41)を既に装備しておりミサイルの購入と計画飛行制御装置の導入だけで済む。
仮に対中国用に1000発、北朝鮮用に200発の計1200発を整備したとしても費用は1200億円程度であり、これはいずも級大型護衛艦の建造費に相当するが、何年間かに分けて整備すれば何隻かの耐用艦齢の延長によって、費用の捻出が可能でありその防衛効果は絶大である。
■サイバーセキリティ能力の抜本的強化
サイバー戦争は第5の戦いの空間として、平戦両時に、しかも瞬時に、国家・軍事機能が全面的に麻痺混乱喪失させ得る特殊な脅威を有する。
サイバー攻撃は兵器開発の詳細な図面も容易に知らない間に盗み取られ、その危険性は往時の暗号文傍受解読の比ではない。
ロシアは世界最強のサイバー戦能力を有すると言われるが、中国が絶えず米国日本に陰に陽にサイバー攻撃を仕掛けていることは公然たる事実だ。
そのため中国が強力な該軍事組織(61398部隊等)を持ち、加えて民間に膨大(800万人とも)な専門家集団を養成していることはよく知られているところである。
中国が開発中といわれる第5世代ステルス戦闘機「J-20」が米国などが開発し、空自が導入を図っている「F-35」と外形がそっくりであるが、これもサイバー戦の重大な一面として認識しなければならないであろう。
このため、米軍は大将を長とする数千人規模の統合軍を設け、韓国もサイバーコマンドを保有(公表6800人)し国防費の3%を振り当てていると言われる。
翻って、我が防衛省・自衛隊のそれを見ると地位と名は立派な統合部隊だが前者に比べれば真に貧弱な憐れな憂うべき存在でしかない。
防衛省は速やかに民間のホワイトハッカーを急募し、少なくとも現情報本部位の態勢を整備しサイバー戦の攻防兼備の能力のある部隊に画期的に強化し、政府も特命大臣を置きサイバーセキリティに国を挙げて取り組まなくてはならない。
■自衛隊を戦い得る体制への緊急措置
自衛隊は形は何とか揃っているが、よく観察すれば実戦能力に乏しく瞬発力を発揮できても、人的物的に縦深性を欠いていることを認めざるを得ない。
陸上自衛隊の部隊は米国が32万10個師団の整備を求めたのに18万で13個師団を編成したから、師団と称しても人員も装備も少なく、国内戦を理由に兵站機能を極端に絞り、戦闘員も多くの任を兼務するから少しの損害発生で全部隊の機能が大きく失われる宿命的脆弱性を持っている。
しかも財務省は、定員に対してさらに充足率を課しているから初めから本来の能力を発揮できない。
もとより自衛隊の装備・弾薬・燃料・部品の備蓄は甚だ乏しいうえ、これを必要方面に移動する十分な手段が準備されていない。
陸上自衛隊は南西方面の事態に対応するため、1個機甲師団、3個機動師団、4個機動旅団を整備しようとしているが、これらの南西諸島への部隊・装備の緊急輸送も陸自および空自の航空輸送力は大きな限界があり、海上自衛隊も輸送艦は僅か3隻しか持たず、民間ヘリーなどの庸船を前提としている。
だが、果たして業務に就いている船の緊急確保が可能なのか、何より危険な業務につく多くの船員の協力が得られるかの保証は全くなく、それには国家的な法的準備がなければ不可能である。
参考に記しておくが、1個作戦師団の必要輸送所要は40万トンとされるのが常識である。陸自の師団は規模が小さく軽いからその4分の1、旅団は規模が師団の2分の1であるから8分の1、機甲師団を2分の1として計算しても所要合計は実に70万トンにも上る。
この所要を容易に確保可能できるだろうか。
最近北朝鮮のミサイル発射実験に備え、イージス艦(SM-3Aは射高300キロ・射程数100キロ位)とPAC-3部隊(射程20キロ程度)が展開したが、日本のBMD (弾道ミサイル防衛)は層が薄く、防護空域が限定され過ぎる。
PAC―3は本来陸軍の野戦の拠点防空用のものだ。
したがって速やかにSM-3B(射程、射高は1000キロが期待される)を開発装備化するとともに空自各高射隊はそれぞれPAC-3の半分をTHAAD(射高約150キロほど)に換装することが必要だ。
陸・海自使用の対艦ミサイルの射程は短か過ぎるし、中国海警にはフリゲート艦の転用船があり更に軍艦仕様の超大型巡視船を建造中と報ぜられるが、そんな船に体当たりされては商船仕様の海保の巡視船はひとたまりもない。
戦時所要の大きく拡大が予想される予備役自衛官は、我が国の社会制度と特殊な社会環境から質量ともに致命的な欠陥を持っている。
新しい防衛計画では統合機動防衛力整備の名の下に、北海道以外の師団・旅団から戦闘力の骨幹である戦車と火砲を外すそうであるが、これでは作戦部隊でなく、警備師団(旧陸軍の後方警備にに任じた独立混成旅団)に過ぎなくなる。
「国防力の相対的優劣は国際関係に影響を及ぼす」(「国際政治」モーゲンソー)と言われるが、最近力信奉のロシアが対日姿勢を強硬にしているのは、これが反映しているのかもしれない。
■まとめ
ある高名な国際政治学者は、国際情勢が不安定になったのは、
「米国が弱くなり中露が強くなったのでもなく、
中露が地域覇権を模索しながらもバラク・オバマ政権が軍事介入に消極的になったからだ。
しかし次の政権が戦う姿勢になれば世界の不安定さは加速するだろう」
と言っている。
立派な国際政治学者の御託宣であればそういう公算が高いのであろう。
しかし核大国の米ソが対立した冷戦時代は安定し、その終焉とともに世界は一挙に不安定不確実の情勢に陥り、世界の誰もが不安に悩ませられたのも否定し難いものがある。
したがって、米国の次期政権がその第一流の国力と軍事力を背景に、国際秩序を侵すことは軍事力使用してもこれを許さないとの厳然たる政策を採用すれば、かえって世界情勢は安定するのではなかろうか。
思うに、日本が世界最大の長期負債を抱え、少子化で人口問題が危機的状態に陥り、自国の防衛が形骸化の姿にあるのは「環境に適応できない種は生き残れない」(ダーウィン)のに世界の情勢変化に目をつぶる国民におもねり、政権がその維持にまた政治家が票を求めることを優先し、国家の長期的基本問題を放棄してきたからである。
万一の場合に備え、国防の象徴尖閣防衛を事態的に確実にするためには早急に警察官僚が警察原理で作った国防政策と自衛隊を軍事原理で刷新することが現下日本の国家的緊急課題である。
』
『
読売新聞 3月9日(水)8時36分配信
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20160309-00050009-yom-int
南シナ海・米・朝鮮半島
…中国外交、誤算続き
【北京=竹腰雅彦】
中国の王毅(ワンイー)外相は8日、北京で開会中の全国人民代表大会(全人代=国会)に合わせて記者会見し、
「中国は特色のある大国外交の道を歩んでおり、新しいタイプの国際関係の構築を目指す」
と述べて、中国主導の新たな国際秩序形成に意欲を示した。
だが、習近平(シージンピン)政権の対外政策は「失敗と誤算続き」(外交筋)が実情で、仕切り直しを迫られている。
「三年有成(3年にして成果あり)」――。
王氏は会見で「論語」の記述を引用し、習政権の大国外交を評価した。
だが、実際の対外環境は
「南シナ海、対米、朝鮮半島の三方面で揺さぶりを受けている」(複数の中国筋)
のが現状だ。
王氏は、中国が南シナ海で進めている軍事拠点化について、「自衛権の行使に過ぎない」と改めて正当化した。
だが、習国家主席は昨年の訪米で「軍事拠点化の意図はない」と発言しており、関係国から「言行不一致」を追及される事態となっている。
その発言は「軍内で不満が出るなど内部でも一時的に問題化した」(中国筋)とされる。
』
『
サーチナニュース 2016-03-09 07:09
http://news.searchina.net/id/1604338?page=1
中国外相がフィリピンを非難 領土問題で国際法廷に訴えたのは
「不法、裏切り、理屈なし」だ=中国メディア
中国メディアの中国新聞社によると、中国政府・外交部の王毅部長(外相)は4日、フィリピンが領土問題を巡って中国を相手に国際法廷に提訴したことは
「1に不合法(不法)、2に不守信(信義を守らない)、3に不講理(理屈をわきまえない)」
と批判した。
全国人民代表大会(全人代)にともなう記者会見で、米国人記者が「フィリピンに有利な判決が出たの場合」について尋ねると、王部長は
「あなたがそのような質問をする権利は十分に尊重しよう。
ただし私は、いわゆる法廷判決について、あなたがそのような予断を持つことを、決して望まない」、
「あなたは今、結果を知っているのですか?」
と不快感をにじませた。
王外相はさらに、2006年に国連海洋条約を締結した際、国際法廷の判決に従わないと宣言した国が、中国以外に30カ国以上存在し、同宣言が海洋条約298条が定めた権利だと主張。
したがって、中国が法廷の判決を受け入れないのは、完全に合法的な行為だと論じた。
また、東南アジア諸国連合(ASEAN)各国と中国が2002年い締結した「南シナ海行動宣言」でも、領土や海についての権利を巡る争いは「直接関係する主権国家による友好的協議と交渉を通じて、武力の行使や威嚇に頼ることなしに平和的な手段でその領土及び管轄権紛争を解決することに同意する」と定められていることから、フィリピンの提訴は、信義を守らず、理屈をわきまえないものだと批判した。
なお、「南シナ海行動宣言」には、
「紛争を複雑化し、エスカレートし、平和と安定に影響を与える活動――その中には現在住民が居住していない島、岩礁、砂州、小島やその他の個所への居住行為を止めることを含――の実施において自制する」
との条文も盛り込まれている。
中国は、南沙諸島で完了し、西沙諸島でも新たな大規模な埋め立てを進めているが、王外相はその点については触れなかった
』
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JB Press 2016年3月10日(木)17時00分 アンキット・パンダ(ディプロマット誌編集者)
http://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2016/03/post-4668.php
中国を牽制したい米国の切り札は「 同盟国」のインド
南シナ海で進む多国間の連携
米日印海上合同演習の狙いは?
先週、南シナ海で注目すべき動きがあった。
中国軍がスプラトリー(南沙)諸島のジャクソン環礁(五方礁)に海洋警備艇を配備してフィリピンの漁船を締め出し、実質的に同海域の領海権を主張したのだ。
これに先立ち、中国は西沙(パラセル)諸島のウッディー(永興)島へ紅旗9地対空ミサイル発射台と殲11戦闘機を再配備していた。
その数日前にはアメリカでASEAN首脳会議が開かれ、バラク・オバマ米大統領も出席したばかりだった。
【参考記事】中国が西沙諸島に配備するミサイルの意味
今月に入って、気になる報道が相次いでいる。
南シナ海における領有権を強引に主張する中国に対抗して、アジア諸国の新たな連携が進んでいることを伝える報道だ。
これらはいずれも、
インドで行われた安全保障関連の会議におけるハリー・ハリス米太平洋軍司令官の発言や観測をベースにしていた。
ある報道は、フィリピン北方の海域で予定されるインドとアメリカ、日本の合同軍事演習を取り上げていた。
具体的な場所は明らかにされていないが、演習はかつて米海軍の巨大基地があり、今はアメリカとフィリピンとの間で14年に締結された防衛協力強化協定(EDCA)の下で基地利用権が認められているスビック湾内外で行われるものと推測される。
■中国が直面する「現実」
ハリスは、インドが国際法を遵守してきた実績と同国の領海問題への対処に触れ、インドを演習に参加させる意義をこう説明した。
「威嚇や抑圧で小国いじめを行おうとする国もあるが、
インド洋における近隣諸国との領海権問題を平和的に解決してきたインドは立派だ」
別の報道が伝えるのは、アジアの安全保障問題で提案されたものの10年近く行われていない日米豪印戦略対話(QSD)を始めるべきだというハリスの発言だ。
QSDは日本の第1次安倍内閣が提案したものだから、安倍はもちろん歓迎するだろう。
昨年10月に南シナ海で初の日米合同演習が実施され、先週にはインドも加えた海上合同演習を発表。
QSD再開も提起されたのは、日米が地域大国インドの役割を重視している表れだろう。
米印海軍の合同演習マラバールに海上自衛隊が正式参加することも、既に決まっている。
アメリカ政府がインドを南シナ海での作戦行動に組み込もうとするのは、海洋安全保障上の問題や航行の自由、ひいては人道支援の面において、今やインドは事実上の同盟国だという位置づけがあるからだ。
【参考記事】米爆撃機が中国の人工島上空を飛んだことの意味
QSDが南シナ海や西太平洋、場合によってはインド洋での協力体制や巡視の強化につながれば、アジア太平洋における地域秩序の現状維持を保障する真の「民主主義の連携」が誕生するかもしれない。
だが中国側から見れば、長年の懸念が具体化する格好となる。
懸念されるのは、QSD再開や南シナ海での3カ国合同演習のタイミングだ。
ハリスは明言を避けているが、どうやらアメリカは、南シナ海における中国の横暴に多国間連携で強硬に対処する体制固めを急いでいるようだ。
フィリピンの提訴を受けて中国との領有権争いを審理していた
ハーグの国際仲裁裁判所は、近くフィリピンに有利な裁定を下すものとみられる。
アメリカが動くのはその後だろう。
問題は中国政府の反応だ。
アメリカをはじめとする諸外国が南シナ海を軍事化し、不安定化していると声高に非難するのは目に見えている。
だが中国は厳しい現実を受け入れなければならない。
日米印、日米豪、日米比の3国間関係と、アメリカとASEANおよび日米印豪の4カ国関係はかつてないほど強化されている。
それに
南シナ海周辺で多国間の軍事的連携が進んでいるのは、
中国自身がこの海域の軍事化を進めてきた結果
なのだ。
要するに、アメリカは南シナ海における中国の動きに「反応」してきただけ。
先に行動を起こして南シナ海に人工島を建設し他国の漁民を追い出し、民間の船舶に体当たりしたのは中国だ。
アメリカはこれまで、「航行の自由作戦」などで戦術的に対抗してきたが、今後は戦略的な対応が前面に出るだろう。
つまり、アジアの海で秩序と国際法を守るという大義名分を掲げた同盟づくりである。
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JB Press 2016.3.19(土) 古森 義久
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/46381
中国のアジア戦略が失速、
日本への態度も軟化?
強硬な戦略がもたらした「不都合な結果」とは
中国の南シナ海開発は「平和損ねる」、ASEAN首脳会議で声明
●フィリピン・マニラの中国領事館前で、南シナ海の南沙諸島で中国が進める開発工事に抗議する人々(2015年4月17日撮影、資料写真)。(c)AFP/Jay DIRECTO〔AFPBB News〕
中国の習近平政権は、米国への挑戦的な戦略を進めるとともにアジアでの勢力拡大にも努めてきた。
しかし、ここに来てアジア戦略は壁にぶつかり、修正を試みるようになった。
日本に対しても、この1年半ほど続けてきた安倍晋三首相「悪魔化」キャンペーンを減速させ、態度を軟化させる戦術を見せ始めた――。
米国のベテラン中国研究者から、中国の対アジア戦略の現状がこのように明らかにされた。
■アジアでの影響力発揮を最大限に試みてきた
前回の当コラム(「中国の『欺瞞』外交にオバマもいよいよ我慢の限界」)で、ジョージ・ワシントン大学のロバート・サター教授による3月9日の講演の内容を紹介した。
サター教授は米国務省、中央情報局(CIA)、国家情報会議などの中国専門官として30年以上を過ごし、中国の対外戦略研究では米国で有数の権威とされている。
サター教授によると、表と裏を使い分ける中国の対米戦略に対して、オバマ大統領がついに正面から批判を表明するようになったという。
サター教授はこの講演で、米中関係だけでなく、日本にとっても重要な意味を持つ中国のアジア戦略についても見解を語っていた。
まず中国にとってアジアでの活動はどれほど重要なのか。
サター教授は次の諸点を挙げる。
★・中国の対外政策は、これまで一貫してアジア地域に主要な注意を向け、アジアでの影響力の行使を最大限に試みてきた。
★・中国はアジアで安全保障と主権に関する様々な問題を抱えてきた。
なかでも台湾問題を最も重視してきた。
★・アジアでの経済活動は、中国の経済全体のなかで最大の比重を占めてきた。
★・中国自身は、アジアで確固たる力の基盤を築いていないと他の地域でリーダーの役割を果たせないと判断している。
■強引な戦略によって立場はかえって不利に
サター教授は、以上のような中国のアジア戦略の特徴を挙げた上で、戦略の大きな目標は、米国に対抗し、アジアでの米国の力を後退させる「パワーシフト」だと説明する。
そして、その戦略がこの2年ほどの間にどのような結果をもたらしたのかについて、以下の諸点を挙げていた。
★・中国の強引な領有権主張、国内のナショナリズム、軍事力増強、一党独裁体制、一方通行の投資規制などが、アジア諸国のネガティブな反応を強めた。
★・習近平主席の「新シルクロード構想」は計画どおりに進まず、パキスタンやインドネシアでの鉱山事業が失敗した。
中東と北アフリカへの投資も莫大な損失を生じた。
★・東南アジア諸国連合(ASEAN)各国との貿易と投資が伸び悩んでいる。
★・韓国、オーストラリア、ミャンマー、台湾との貿易や投資は高い水準にあるが、中国の影響力の増大にはつながっていない。
★・アジア諸国の多くが中国との有事を想定した軍事面での「ヘッジ(防御)」作戦を開始し、中国の影響力拡大にとってさらなる障害となってきた。
★・オバマ政権の対アジア政策は欠陥もあるが、
米国の開かれた国際経済システムやアジア諸国との軍事協力の強化が、
中国の立場を不利にしつつある。
■安倍首相「悪魔化」計画は頓挫?
サター教授の見解によると、中国のアジア戦略には以上のような障害が立ち塞がっている。
習近平政権は、アジア戦略のこうした「不都合な結果」を修正する必要があると判断し、これまでの大胆な政策や攻勢的な姿勢をある程度緩和させることを最近目指すようになったという。
習政権がアジア戦略をどの程度まで修正するのかは不明だが、中国がアジアでパワーシフトを遂行する能力は決して十分ではないことが、ほぼ立証されたというわけだ。
そのうえでサター教授は、習近平政権が現在アジアで着手していると思われる修復措置を次のように列挙する。
★・日本との距離を縮める。
★・ベトナムとの緊張を緩める。
★・北朝鮮との緊張の緩和を試みる。
★・南シナ海での米国やその他の紛争当事国との緊張緩和を試みる。
サター教授は、とくに中国の対日戦略について、
「習政権はここ1年半ほど対日姿勢を硬化させ、とくに安倍首相に極端にネガティブなレッテルを貼る『悪魔化』キャンペーンを展開してきた。
しかし、その効果があまりないとみてか、安倍非難を減速させてきたようだ」
と述べた。
習近平主席の大胆で野心的な姿勢にもかかわらず、
現在、中国の対アジア戦略はいくつもの壁にぶつかっている、
というのがサター教授による総括である。
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【2016 異態の国家:明日への展望】
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